どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
1日遅れのハッピーバレンタイン。3話に分けた後、割と早めに本編に移行するつもりです。本編に行くのはガチです。本当に遅れてるし、早いとこ過去編終わらせたい。
バレンタイン。
それは、男女の仲をより深める上では欠かすことのできないイベントであるのと同時に、世の男性諸君にとっては希望の光にも絶望の闇とも化す奇っ怪なものである。
異性から贈られるプレゼント。その有無により、男達は希望の光と絶望の闇を行き来する。例えば、本命だと思っていたのが実は義理だったり。本命だと思っていたら市販のココア系クッキーだったり。
逆に、友のために贈ってきたものが実は本命だったりする逆転劇もあるのだから、バレンタインというものは非常に忙しく、面倒で、世の男性諸君の心を弄びやすい──まあ、つまり男の子のメンタルがブレブレになりやすいイベントなのだ。
その一方で、そういったものは経験を踏むことによって慣れを覚える。その内、心に決めた大切な人が現れればその人のプレゼントにしか興味がいかなくなるし、プレゼントを贈ってくれるであろうという一種の信頼が芽生える。その人からプレゼントを貰えなかったらそりゃガッカリするだろうけど、大切な人にはその気持ちを伝えられる。伝えれば、『あ、そうだったね!』みたいな雰囲気になって、改めてプレゼントを貰えるかもしれない。その内、バレンタインのプレゼントのことなんて気にならなくなる可能性もある。
そういったことを鑑みれば、バレンタインで特別な気持ちになれたり気持ちの浮き沈みを経験できるのは学生や若人の特権なのかもしれない。
しかし、例外はいる。
例えば、昔っからその人にしか興味がない女の子とか。
はたまた、そんな子から特大の矢印を向けられているくせにそれに気付かない男の子とか。
まあ、要するに──今、とある国を散策中の2人のことである。
彼等は昔からバレンタインという特別な日に物を贈りあっていた。消耗品からアクセサリー、実用品などはお手の物。とある日には物とはまた違った事をしたり、そういったことを積み重ねることにより、お互いの絆を深め続けた。
その結果による『慣れ』である。ちなみに2人は揃って今年で20代前半である。この年齢なら本来はもう少しバレンタインに対して恥じらいやら何やらがあってもいい筈なのだが、この2人には一切赤面がない。
「お昼どーするー?」
「パンです」
「……10日間連続でお昼パンですよ?」
「パンです」
あろうことか、今日のお昼ご飯に思いを馳せている迄あるのだ。最早、バレンタインに特別な感情なんてないのだろう。そう思わせてしまう程の何かが、2人にはあった。
それはそうと、彼等は本日で10日間連続でお昼にパンを食べることになる。そろそろ気が狂いそうだと旅の魔導士は思ったが、昼飯くらいで波風立てる気にはなれず、今日も今日とてパン生活に甘んじる。
「無慈悲ですよね……」という言葉に、旅の魔女が天使のような笑みで返す。
男は戦慄した。
「……悪魔の皮を被った天使がいる」
赤面しながら、戦慄した。
閑話休題。
「それはそうと、歩き方がやけに優雅だね」
「はあ、そうですか」
「どしたのレナさん。なんか嬉しいことでもあった?」
「あるにはありますけど歩き方で判断します?」
「本人じゃ気付かないことってあるらしいぜ。例えば……表情が心做しか穏やか、とかな」
「歩き方関係ないじゃないですか」
「ヒューヒュー!くっそかーわいー!」
「えぇ……」
さて。
そのような笑みを浮かべ、優雅に歩く旅の魔女を『レナ』と呼んだ1人の青年は欠伸をしながら、魔女の隣を歩き、いつものように魔女を煽てる。その煽て方は最早熟練のそれ。本人にすら知り得ない表情の変化を敏感に悟った旅の魔導士『ノル』は、彼女を煽て続けることによって得られる一種の快楽を噛み締め、2人の友人に対してのささやかな優越感に浸っていた。
そんな旅の魔導士の表情は満足という言葉を絵に描いたような笑顔。思うところがあるものの、そんな彼の笑顔をぶっ壊す気にもなれなかった彼女は、ため息を吐き──自分の歩き方を賞賛し、胸を張る。
「まあ、あなたの評価基準は兎も角……今も昔も、私は全てにおいて優雅です。今更当たり前のことを言われても素直に喜べませんね」
「全てにおいて最初っから優雅な奴は噴水の水飲まねーよ。はいワロス」
「抓っていいですか?」
そして己の手を使い、山吹の馬鹿野郎の頬を引っ張った。スキンシップすら厭わないそのコミュニケーションは最早友人や親友の類のそれ。先程の波風立てないという鋼の意思はどこへやら、まるで遠慮のない一撃で隣の魔導士を攻め立てる。
そのような美男美女で繰り広げられるお腹いっぱいの光景に、周囲の老若男女は生暖かい視線を送りながらその光景について話を始める。
その会話の内容は、まあ……なんというか……うん、というような内容であり、その内容が聞こえていた耳のいい山吹の魔導士は、頬を抓られながら苦笑していた。
「お前らが言うような関係なら俺達こんなことよりもっとすげーことしてるわ」と。
そんなことを考えながら、山吹の魔導士は優雅に歩く彼女の歩調に合わせ、足音を刻むのであった。
「おっ……贈り物をくださぁぁぁぁい!!!!」
「きゃああああ!!!!」
周囲のヒソヒソ話が聞こえなくなるのと同時に聞こえた大声は、旅の魔女と魔導士の痴話喧嘩を止めるには十分であった。
入国する前からこの街の『贈り物に関してのただならぬ執念』に異変を感じていた2人。贈り物であるのなら饅頭の下に金が入っていても喜んで受け取る住民の鋼の意思は、異質そのもの。
その一方で特徴的なこの国を面白く感じる旅人特有の精神も持ち合わせており──それらを纏めた2人の意見が『観光』という結果に落ち着いたのは、最早言うまでもない、この状況が示していた。
「贈り物、か」
「ええ、贈り物です」
「旅の魔女さんは友達に贈り物はしないのかな?」
「2人きりの時は旅の魔女さんじゃなくて渾名で呼んでください。ぶっ飛ばされたいんですか?」
「あ、やっべ」
そんなファニーな2人の間には、いくつもの契約もとい約束がある。例を挙げるなら今のこの瞬間、他の女の子に目移りしてキモイ言葉を連発しないだとか。更に言うのなら、直ぐに百合に走ろうとするなとか。
今のように、2人きりの時は渾名で呼ぶとか。
やべー約束から可愛らしい約束までなんでもござれである。*1
仮に約束を破ろうとするものなら、そりゃあもう大変。数秒後には頬をふくらませた旅の魔女様が完成し、しばらくの間「拗ねました」やら「遊びだったんですね、私との関係は」やらの辛辣な言葉しか返ってこなくなる。
まあ、それが可愛いのだが──と旅の魔導士は思案し、「まあ拗ねんなよ」と彼女のご機嫌取りに勤しもうとするが。
「それから言っておきますけど、「この期に乗じてプレゼント!チキチキプレゼント五番勝負ー!」──とか思ってたら問答無用でぶっ飛ばしますから」
「エスパーかな?」
「エスパーです。何年来の付き合いだと思ってんすか」
「6歳の頃から出逢って……かれこれ15年かな。愛してるぜ、レ──ナ゛ッ゛!?」
ご機嫌取りのファーストチョイス、『チキチキプレゼント五番勝負*2』を見破られ、旅の魔導士のご機嫌取り作戦は窮地に立たされてしまう。
それ故に発せられた不用意な言葉を、旅の魔女は見逃さず魔力の塊で応える。
アッパーカットの要領で顎を撃ち抜いた魔力の塊に男は悶絶するも、既に何度も潜り抜けてきた修羅場に屈服する程軟弱でもない。「くっくっく……」と笑みを零すと、口元から零れた血をペロリと舐めて旅の魔女に笑いかけるのだった。
「ご褒美だな」
「頭おかしいんじゃないですか」
「いや、だってさ。今の威力の魔力の塊は……キミが大抵照れ隠しに使う一撃じゃないか?」
「だったらなんですか」
「つまり、今のキミは俺の言葉に照れた。何が琴線に触れたのかはこの際どうでもいい。キミのその『照れ』という感情を己の魔力で誤魔化すいじらしさ。それを俺に見せてくれることが最早ご褒美であるわけであってだな……」
「本当に頭おかしいんじゃないですか」
そんな男を、魔女はげんなりとした様子で見ていた。
100年の恋は醒めずとも、そろそろ思わせぶりな発言は止めて、ハッキリさせて欲しい──そう切に思う彼女は、嘆息を漏らした後に続ける。
「貴方は私が何故、魔力の塊で貴方の一言に応えたのかを考察し、行動を修正するべきです」
「あ……ふーん」
「わかったふりとか論外です。別れましょう」
「答え合わせもしてないのに早急すぎる」
その言葉に「する必要もありません」と続け、両の手で魔女帽を目深に被り直す。依然として魔女帽の鍔を掴み、表情を帽子の中の闇に埋めた旅の魔女の表情は魔導士には見えない。しかし、『今までの経験上』こうした時に見せる旅の魔女の表情に心当たりがある魔導士は、吹き出しそうになる口を抑えて、続ける。
「ごめん、考えたけど分からないから教えて欲しい」
「……最低です。この期に及んでまだ鈍感さんを演じるつもりですか」
「ごめん、ちょっと分かってはいるんだけど知ったかぶりは止せって言われたし……あと、そういうのはレナの口からちゃんと聞かせて欲しい」
「直すから」と。
最後にそう言った山吹の魔導士の表情を見た旅の魔女は、小さく舌打ちをする。そもそもの話、旅の魔導士の「直す」という言葉に対する信憑性等とうの昔に消え失せているのだ。未だに「さん」付けは直っておらず、変なこともべらべらと口走るし、行為だって直ったためしがない。
要するに、この魔導士は『直す』という言葉に関して口だけなのだ。世間一般では、こういった人を卑怯とも言うし、嘘つきとも言う。正直な所、そのような人間は忌み嫌われることが多く、それこそ旅の魔女が先程言った『別れ』に至ってしまう可能性すらある。
──それでも、旅の魔女はその男を嫌いになれなかった。
その理由というのは、こうした側面以外に見せる彼の全面。
約束を確約と宣い、必ず叶える真摯さは言わずもがな。過去から現在まで、旅の魔女の親友であり、対等な関係であり続けた努力。何より、今の彼がその職業に就くきっかけとなった憧れを、憧れのままで終わらせない根気強さ。
そうした面を1人の女性として、既に気に入ってしまっている彼女はひとつやふたつの卑怯や嘘を『いつもの事』だと呆れながら受け流し、許してしまうのだ。
今だってそう。
卑怯という言葉が脳内を埋めつくし、その言葉を発しようとして──結局、答えを言ってしまう。
最近はそういうことが増えましたね、と旅の魔女は己の弱さに呆れ、笑い、そして言葉を紡いでしまう。
「──そういうのは場所を選んで言ってください、ということです」
「え、つまり夜景?」
「いつ、何処で、どのタイミングで私が夜景と言ったんですか。アホなんですか?」
最大限の敬意と、親愛と、過半数を占める『ごにょごにょ』した気持ちを添えて。
そんな彼女は、きっと山吹の魔導士のことが──多分。
「丁度良いや、今日はバレンタインだし夜景見に行こう……表出ろや、レナ」
「だから夜景は要らないと言っていますよね、なんですかあなた人の話聞かないんですか」
やっぱ違うかもしれない。
続く