どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
そして、遅れまくったバレンタインデーの話。
とある国の、とある協会に1人の魔導士がいた。
多くの魔女や魔女見習いが集う組織内では異彩を放つ黒1点──という訳でもないが、女性の比率が圧倒的に多いその協会内では良くも悪くも目立つ黒フード野郎。ある日には凛々しく依頼を解決し、とある日には度数の全くないメガネで知的ぶり、教鞭を執る。またある日には、信頼を置かれている弟子たちに囲まれながら焼き芋をつつき、これまたとある日には色んな女の子達と『イレイナさんのマリアージュ談義』に花を咲かせる。
そのような多くの側面と立場を持ちながらも、一貫して『階級だけが全てではない』ということを行動で語り続ける魔導士は、その姿勢と人当たりの良さから多くの人物に好感を持たれていたのだった。
「……はむ。流石奴さんとこの魔女見習い、この程度の問題ならお茶の子さいさいってワケか」
その一方で、そんな魔導士にも弱点はある。
例えば、今のこの体たらく。今、魔導士は先程まで行われていた激務に耐えかね、広場に併設されたベンチにどかりと座り込み、成績評価をしながらアイスを食い散らかしている。知恵熱によって沸騰した頭をアイスで冷やそうというのが事の始まりであり、今食べているアイスでなんと3個目。アイスジャンキーと言われても仕方ないペースの食べっぷりであり、棒アイスを咥えて生徒の成績に向き合う様は怠惰な喫煙者そのもの。
油断も隙もないという言葉の真逆を往く魔導士は周囲の過大評価と違い、油断し放題の隙ありまくりなぐーたら講師なのだ。
「レベル上げっかな。生徒の平均点が例年より高いし、簡単な問題だともっちゃんとか弟子1号に『講義内容がスイーツより甘いクソフードは講師失格』って言われるし……」
「先輩」
しかし、そんな魔導士の弱点は意外にも人々の周知の事実とは化していない。その理由というものは小難しい理由では無い。ただただ単純に、このぐーたら講師の奇行、愚行、珍プレーを未然に防ぎ、仮にそれらが発生してしまったとしても冷静な判断でそれらを瞬時に注意し、修正させる『優秀』なブレーキ役がいるからである。
今、山吹の魔導士を『先輩』と呼んだ女は、山吹の魔導士の監視役とも言うべきか。はたまた、相棒か。もしくは右腕か。
兎にも角にも、彼女が山吹の魔導士付きの魔女で在るおかげで、周囲が抱く彼のイメージは欠点の欠けらも無いぱーふぇくと魔導士ということになっていた。なってしまっていたのだ。
「小耳に挟んだのですが」
「何を?」
そんな彼女の特徴的な部位は、藤の花を連想させる紫髪に薄く開かれた目付き。過去の、世界線の何処かでは他国の組織にて勤務をしていたが、諸々の事情から
上司にあたる山吹の魔導士に対して心底うざったそうなため息を吐きつつも、なんだかんだで付き従ってしまう──そんな関係が続き、今に至る。
「また仕事を放置して旅をしに行くとか。後輩の方が嘆いていましたよ」
「あはは、嘆いてた?別に俺1人欠けたって組織は機能するよ……ほんと、ちょっと大袈裟だよね」
「笑い事じゃないですし大袈裟でもないと思いますけど」
事実である。
魔女や魔女見習いの階級にある傑物達が集うこの場所では、男の魔導士という立場から存在自体を軽視されがちではあるものの、山吹の魔導士の立場は魔導士以上に重い。
数年前、彼女がこの地に降り立った頃から時たま弟子の指導をサボる魔女のヘルプを行っていた魔導士が、今では格式ある立場として組織の卵を育成する者として活躍しているのだ。教え導く立場にある者のそれが軽いはずもなく、それにも関わらず『自分自身の存在を軽んじる傾向にある』この魔導士の言動に、紫髪の女は呆れ混じりのため息を吐く。
なんとなくではあるが、腹が立ったのだろう。
常に冷静な彼女らしからぬ所作であった。
「殺人事件担当講師。多くの魔女や魔女見習いから信頼され、先輩講師からと一目置かれる指導能力に、哲学」
「一目置かれてるのには理由がある訳よ。具体的には、このローブとか……それに、キミみたいな出来の良い後輩もいたワケだし」
「だとしても『結果』で答えを示したのは先輩自身です。過度な謙遜は嫌味になりますし、自分の残した結果くらい胸を張ってください。そして周囲の人間が嘆くような有給の使い方を行った愚行を悔い改め、計画的な有給取得に勤しんでください」
何より、この時期に有給を取るということに紫髪の女はブチ切れていた。
というのも今のこの時期、成績処理の真っ只中であり多くの生徒達に成績を付け、生徒達の進路や将来の展望に応じて相談を行う。
例えば、彼女の親友のように胸に身分を証明するバッジを身に付け、旅をしながら依頼を解決するか。はたまた、とある分野に特化したエージェントになるか、後進の育成を専門とした人間になるか、もしくは辞めるか、はたまた目の前でアイスをぺろぺろしてた山吹の魔導士のようにこの国を本拠地として、数多くの依頼を解決しながら後進の育成も行うか。
紫髪の女のように、誰か『付き』の職を取ることも可能であるこの組織は、割と融通が利く職務であるということは間違いないだろう。しかし、融通が利きすぎるのも難点であり、これらを生かした長期休暇が多発してしまっていることも忘れてはならない。
「ほぼ休みのサヤちゃんと比べたら俺なんて立派だと思うんだ。毎日働いてるし、休まずに頑張ったし……」
「私の親友をダシに使わないでください。それからサヤはサボっていません、旅の魔女さんを追いかけながら依頼を解決している高尚な魔女です」
「ははっ、親友をフォローしちゃって。百合カプかな?」
「至極当然の事を言ったまでですが」
「分かってる。ごめんなさい、いい加減なこと言った」
「サヤちゃんはね、俺みたいな魔導士とは比べ物にならないくらい立派な魔女だよ」と。そう言った山吹の魔導士は、身体を伸ばしながら欠伸を敢行。その上で頭の中にあった疑問を解決するために笑顔を見せて言葉を続ける。
「だからこそ、キミがサヤちゃんに臨時講師を要請しなかったのは意外だった。なに、断られたの?」
「……はい」
「あっ……まあ、うん。悪いね、兄妹弟子が。俺が言うのもなんだけど、ウチのイレイナバカが本当に申し訳ない」
「最初から断られることを覚悟してはいたので大丈夫です」
「いや、マジでごめん」
そして薮蛇をつつく。つついてしまうのが山吹の魔導士なのである。常日頃から関係する人物に対して慈愛と愛情と、百合カップル爆誕という一縷の望みを以て向き合う山吹ではあるが、その誠実さがむしろ逆効果であるということを理解していないためか一向に薮蛇をつつく癖、休暇取得のタイミングの悪さ等諸々の悪癖が改善しない。
そして、改善しない悪癖から織り成す負担は塵となり山と化し、後輩共に降りかかる。去年の今頃、あまりのタイミングの悪さにぶちぎれた紫髪の女が無言で山吹の胸倉を掴んだ事件は記憶に新しいのだが、それ以降も治らない有様を見るに山吹の悪癖は一生治らないのだろう。
これはもう、この人の下についた宿命なのだと。
紫髪の女は虚無の精神で現状に向き合った。最近、戻りかけた目のハイライトがまた消えたような、そんな気がした。
「そもそもの話をさせてください」
「お詫びついでに聞こうかな」
「休暇の取り方が下手すぎです。もう少し彼女の方と相談してください。あなたは彼女のお願いごとならなんでも聞いてしまうタチの悪いイエスマンですか」
「彼女じゃないし彼氏でもないしイエスマンでもない。俺達は清らかな関係なんだ。そこら辺、サヤちゃんと一緒にしてもらっちゃ困る」
「サヤと差別化したいのなら尚更、仕事に影響の出る恋慕と逢瀬は不味いと思うのですが」
「おい言葉ー。ワードチョイスもう少し考えろー」
誤解しないで欲しいのは仕事をしている以上、休暇を出すのは自由だということだ。更に言えば纏まった休暇をこの時期に取るということは『それ以外の休みを無駄にして』懸命に働いたということでもある。それが幸いしてか、彼女の生活は公私共に充実しており、この前は親友と久しぶりに会い、話すこともできた。
『サヤ、3ヶ月間旅を中断して協会の講師をするって選択肢は……』
『あ、結構です。というかぼく、イレイナさんリスペクトなんで!』
『意味がわからない……先輩が3ヶ月旅行する間のフォローでいいの。それまで中断してくれれば……』
『はぁーっ!?ぼくがあの人のフォロー!?はーっ!?』
『え』
最早毎年恒例となった上司のランデブーとアバンチュールを足して2で割ったような珍道中。それを事前に察知していた彼女の手際は良く、上司の性癖やら思考やらをある程度汲んでくれるであろう人物──つまるところ、兄妹弟子である炭の魔女に臨時講師の要請をした。
しかし、予想外の出来事というものは唐突に起こるものであり。
先程まで和気あいあいとしていた雰囲気は一気に殺伐としたものと化し、更には怒号が響き渡る始末。
なおも大声を上げようとした炭の魔女に、紫髪の女は誠意のイレイナさん写真集で対抗する。「いざという時にはこれを渡してサヤちゃんの機嫌を取るんだ!それはそうと布教用にもう1冊どうかな、かな!?」という上司の言葉を忠実に守り、いざという時の奥の手を使用した紫髪の女は、先程まで地にめり込んでいた上司の評価を一定数まで上昇させた。
やはり上司はいざという時に頼りになると、再認識したのだ。
「もう誕生日に貰ってます!舐めないでください!」と炭の魔女の怒りのボルテージが急上昇した。
「控えめに言って死に晒せ」と紫髪の女は無表情で思い、再び上司の評価を地にめり込ませた。
『絶対いやです!断固拒否します!どーしてぼくがあんな百合カプ強要ゴリ押しくそ先輩の言うこと聞かなきゃいけないんですか!はーっ!?』
『あんなに仲良かったのに。何があったの』
『あの人はどっちつかずのくそやろうなんです!女性の敵です……イレイナさん大好きクラブの風上にも置けねー人なんです!』
『そう。で、退会手続きは?』
『謹慎処分です!』
『してなかったけど』
上司から授かった激おこサッヤ対策が散々であったのと同様に、彼女の『親友を臨時講師にして少しでも一緒にいる時間を増やそう』作戦も散々なものとなってしまった。
イレイナさんだかレナさんだか知らねーが、協会での仕事以外はその人との未来、つまり彼女とのイチャイチャラブラブ新婚生活のことで頭がいっぱいなことで有名な炭の魔女は、今日も今日とて彼女に会うために旅をしながら炭の魔女として依頼を解決する。その様は言っちゃ悪いが自由奔放そのもので、彼女の師に良くも悪くも似たスタイル。そして、自身の兄弟子に位置する魔導士とも似てしまった──皮肉にも似てしまったのだ。
炭の魔女だけではない。彼女の師匠に関連する人々の休暇の取り方はとにかく異常なのだ。師へのリスペクトかどうかは知らないが、親友は旅をしながら依頼を解決することを中心に生活が回っており、この場所に帰ってくるのは時たま。休暇はイレイナさん関連の出来事に費やし、時には×××を××××××*1することまでお手の物。先輩と呼ばれている魔導士も、ご覧のような体たらくをキメる上に定期的に旅とか旅行で気分を紛らわせる始末。
その魔導士の弟子1号2号もそれぞれの思うが儘の暮らしをしており、山吹の魔導士がセーブをかけなければ糸の切れた凧のように自由人と化してしまう始末なのだが、そもそもの話で肝心の先輩魔導士がセーブをかけない。
まあ、要するに不安定なのである。
規則性と計画性が欠片もない彼等の休息方法に、彼女は何よりもストレスを感じていたのだ。
しかし、そんな事情を知らない山吹の魔導士は「ちっちっ」と指を振りながら不敵な笑みを見せて、続ける。
「分かってくれよ、俺にとって旅の魔女さんは第一に優先したい存在なんだ」
「優先順位間違えてますよ」
「プライオリティなんだ。仕事より家族を優先する人々がいるのと同じく、俺はいざという時に仕事より旅の魔女さんを優先する。それはお前とて分かっていることだろう、もっちゃ──ぶっほぁ!!」
「2人は家族じゃないですよね……後もっちゃん言うのやめてください、嬲り殺しますよ」
もう諭すのも面倒だと紫髪の女は思い、その杖で塊を穿った。
いっその事、もう一生虚無の精神で応対した方が精神衛生上幾らかマシになるのではないのかと、組織内随一の苦労人は嘆息を漏らす。
常にこんな気持ちになる訳ではない。むしろ、この魔導士の下に就いているということを誇りに感じている節もあるにはあるのだが、このように意味不明な言動をされた時は割とガチで後悔してしまう紫髪の女。
されども、なまじ人の心が読めてしまう彼女なりの苦労も一入にあるのだ。ぶっちゃけ、苦労の方が多い紫髪の女は、「どうして先輩ってこんなに変態で意味不明なのだろう」としみじみ思いつつ、有給を取った先輩に内心で悪態を吐いた。
「で、仕事の埋め合わせは誰に任すつもりですか?」
「弟子1号と相棒に任せるわ。弟子1号がゲロ吐かないように見張ってて」
「見張り程度じゃどうにもならないです。見張ってても見張ってなくても飲んでしまうんですから」
「……せめて書類にぶちまけないように見張っておいてくれ」
「だから無理です。彼女はぶちまけます」
ぶちまけることが半ば確定している似非ハードボイルドに書類関連の仕事を任せるな、と暗に指摘するものの山吹の魔導士は「ダメです。将来のためにあの子に任せます」と断固として譲らない。お前ほんとは早いとこ似非ハードボイルドにポスト譲って隠居生活したいだけだろ──とは流石に思わないが、あまりの人選センスのなさに、紫髪の女が本日何度目か分からない嘆息を漏らす。
そもそも書類仕事は自分のテリトリーでもある。1人いなくなったくらいでヘルプを寄越すな、と感じてしまう所もあったのは彼女の性分か。もしくは、ヘルプがマイナスになってしまう可能性を危惧した防衛反応か。
「2人で仕事、回せる?」
「厳しいですけど、回せない量ではないです」
「ごめん」
「3ヶ月間、仕事より旅の魔女さんを優先するんでしょう。メリとハリは付けて然るべきかと」
「辛辣ぅー」
そんな彼女の嫌味のような、気遣いのような何かを受けた魔導士は「さて、そろそろ行こうかね」という言葉と共に立ち上がる。既に引き継ぎや、自身のやらなければいけないこと──成績処理に、それらを鑑みての各生徒に対してのコメントシートを書く仕事を終えた彼は、アイスの棒を
「差し出がましいのを承知の上で、好きなのならハッキリさせるべきだと」
「え」
唐突に発せられたその一言に、山吹の魔導士が素っ頓狂な声を上げる。傍目から見ても驚いているということが分かるその声は、彼女にはしっかりと伝わっていた。それらを承知した上で、彼女は上司に一考する機会を与えるために言葉を続ける。
迷いなどは、何もなかった。
「私はそうしたものを明瞭にしないまま、父を失いました。あの時、伝えたかったことがいくつかあって。あったのにも関わらず父の言われるがままに国を飛び出して、そのまま──父の死に目に会うこともなく」
ルーツは、己の過去。
決まっていたはずの伝える言葉は、自らの頭の中で今も燻ったまま。なんの手立てもないまま父を失ってしまったことを、彼女は悔いていた。時として、その自責の念で夜を眠れずに過ごすこともある。その度に、彼女は世界で誰よりも大切な親友に抱き締められ、多くを語らい合い、支えられ、不眠を克服してきた。その事象に行き着くまでは多くの苦労があり、出来れば避けなければならないものも多くあった。
人の心が読めるということは、他人の感情に聡いということでもある。
その聡さ故に、他人と距離を置いた経験。己の過去を晒さなかった過去。それはもしかしたら彼女が避けなければならなかったことなのかもしれない。
その1歩で後悔しなかったかもしれないと考えれば、尚更であった。
「貴方と彼女の関係がそこまで暗いものではないということ、分かります。しかし、旅をしている以上何処かで危険は付き纏う……忘れたんですか?あの時──
「……」
「私と同じ道を歩みたいのなら結構です。けど、その道は決して望むようなものものではない。冗談でも望むようなものじゃない。もしそんなどうしようもないことを考えている人がいるのなら、私は親友が相手でも叩きます」
山吹の魔導士の目が真剣なものに変わる。なんとも彼らしくない、真面目という印象をそのまま顔に写したような凛々しさの残る表情であった。恐らく、直感的に彼女の心情を汲み取ったのだろう。先程の舐め腐ったような笑みはどこへやら、姿勢を正し、彼女の言葉の続きを待った。
「人は簡単に死ぬ。悲しいけど、人には命がある。そして、その命は自然に脆い、簡単に負けてしまう。それを経験しているからこそ、言わせていただきます。伝えたいことは早い内に──と」
「うん」
そして、紫髪の女がそう言い切ると山吹の魔導士は真剣な目つきのまま、閉ざしていた口を開く。その言葉の内容自体は非常にシンプル。一言で済む了解の言葉に、紫髪の女は続ける。
「うん、ですか。先輩らしい適……こほん、正直な返答ですね」
「いや、だって。気遣ってくれたのに、笑えない」
笑えないのだと、山吹の魔導士は言う。
本来なら、この場面。山吹の魔導士の性格上「心配性だな、ははっ!」と笑い飛ばすことができたかもしれない。何せ、元が快活で楽観的な性格だ。多くの言葉を笑い飛ばし、良くも悪くも言葉を疑わないその気質で人と向き合うのであろう。
しかし。その一方で、山吹の魔導士はここぞの場面で目の前の人物に対して真摯になる。笑ってはいけない時。誰かが深刻な表情をしている時。人が当たり前のように読まなければならない雰囲気を読み取り、聞き手に回り、時として対象を魔導士として導いていく。
彼が魔導士という立場でありながら、多くの魔女や魔女見習いから慕われる要因が、この点にある。魔女である前に、魔女見習いである前に、魔導士である前に、人として当たり前のことができる。当たり前のように、人に気を遣える。
それができるからこそ、彼は『人として』信頼されていた。
ただの馬鹿で転ばない
「普段からヘラヘラしてるし、たまに自分でも気付かずに笑っちゃう時もあるけどさ。けど、キミがそういうことを伝えてくれる時に笑うのは失礼だと思うから笑わない」
「勝手にしてください。まあ、いっその事笑ってくれた方が幾分か楽ではあるんですけど」
「えぇ……」
そして、それは紫髪の女とて同じなのだ。
出会った当初は変人という印象を抱きつつ、深く関わらなければ知ることのできない彼のらしさに触れ、決定的な事件があり、今に至ったこの関係。
恐らく山吹の魔導士はこれからも彼女に対してふざけつつも時として真摯に向き合い続ける姿勢を貫くだろうし、紫髪の女はその男に対してなんだかんだ言いつつも付き従ってしまう。
それが2人の関係。信頼から織り成す、2人の友情なのだと言えば──この関係の整合性は取れるのではないかと思う。
「
「言われないです」
「マジかよ」
「本当です」
さて。
この話では徹底して本名を隠し続けることにより本来あるべき『日記の秘匿性』を守ってきたわけではあるのだが、ペラペラと他人の名前を開陳し、更にはうっかり紫髪の女の名前を呼んでしまった馬鹿野郎のせいで秘匿する意味がなくなってしまったため*2、最後に2人の名前を記しておこう。
彼の名前はオリバー。
そして、そんな男の世話を何かと焼く苦労人の名前はモニカ。
『
○
俺にとって、レナさんは特別な存在である。
まあ特別と言っても断じて彼氏彼女の間柄ではないし、実はレナさんがずーっと昔から俺のことが好き的な、そんなラッキーパンチ的な関係でもないのだけど。それでも俺にとっては彼女は特別な存在だし、なんならその特別の為に命を張ったって構わない位の思い入れがある。
では、その『特別』ってのは明確になんなんだド変態ハーレム希望のくそやろう──と問われてしまえば、それはそれで言葉に詰まってしまう。
何故かって?そりゃ当然……
『キミにとっての俺ってなんだ?』
『それ、私に聞きます?』
『あいや、ちょっと分からなくなって……レナに聞いた方が手っ取り早いかなって』
『うんと悩んでください。それで得た答えなら、別にどっちでも……』
『ん?』
『……それは嫌ですね』
『んん?』
俺の頭の中での特別が分からなくなってしまっているからである。
ある日には、親友だと思い。時には悪いことも一緒に楽しむ悪友と信じ。はたまたある日にはサヤちゃんと同じようにズッ友だと思ってたら、その妹のミナちゃんに「姉さんと同じ気持ちにならないで、変態先輩」って言われたり。
ある日には、『ひょっとして俺、レナさんのこと好きなんじゃね?』なんて思いから恋愛対象として見ようとしたこともあった。
だって俺、レナさんのことフツーに好きだし。その感情がもしかしたらラブなのでは?とか思ったりするのは普通のことじゃないか?
けど、結局「そうはならんやろ」ってなった。
というか、させてくれないだろう。レナの周りにはカッコ可愛い女の子も、男の人もいる。何より、俺にはあの人に打ち勝つほどの愛情の強さにも、サヤちゃんやアムネシアに負けず劣らずの美貌もない。
皆無とは言わないが、打ち勝つと自負できるほどの自信がない俺がこの子を好きになり、『結婚しようぜふひひ!』とか言ったところで結果は目に見えている。それならまだサヤちゃんが突貫少女よろしく「結婚しましょう!」って言った方がまだ確率が高いと俺は思う。
「であるからして……あの、ノル」
「んー?」
「あんまりこっちをじーっと見ないでください。なんですか、なにしたいんですか」
「いや?レナは良い嫁さんになるんだろうなーって。そんだけ」
「突拍子なさすぎですね……」
……あぁ、この子もいつか、心の綺麗な男の人と普通の恋愛をして、普通の結婚をして、普通に可愛い娘に物語を語り聞かせるんだろーなー!そして、その女の子が旅に快楽を見出してサヤちゃんあたりが師匠になって、更には3代目として魔女名継承して……!!
あかーん!!こんなの見れたら幸せで死ぬ!!2度目の人生心臓ショックで逝ってまう!!魔女名継承の時点で既に死にそうなのにサヤちゃんが師匠!?
ったく、これだから妄想は最高だぜ!!
という考えに至ってしまう俺は、恐らく一生『特別』の意味が分からないまま第2の人生を終えるのでしょう。歳を取り、魔力が割とあるせいで若さは保ちつつ、とはいえモテモテなラッキースケベなハーレム生活も送れない哀れな魔法使いライフを歩むのだ。
ごめんよ、父さん母さん。多分俺結婚できねーわ。
「さあ、あなたの彼女さんが来ましたよ。私の言った通りにして、プレゼントを貰ってきてください」
「は、はい!が、ががが頑張ります!」
さて、無駄話もそこそこに。
レナからのありがたーいアドバイスを貰った少年が緊張しながらも自らを鼓舞するために大声を出す。アドバイスを送る前に下準備として手紙やら、スイーツやらで釣り出したのが功を奏したのか、指定した待ち合わせ場所──近場の噴水広場には既にターゲットとなる女の子が到着済み。さあ、後はプレゼントを貰うだけだ!と意気込んだ少年は、意気揚々と女の子の元へと向かっていった。
先程まであれやこれやと考えていた俺は、正直レナのアドバイスを寸分たりとも聞いちゃいなかったのだが、まあレナのことだし大丈夫だろう──と考えつつ、なんだかんだ内容が気になったためにひそひそ耳打ち。
若干レナの肩がビクリと動いた気がしたが、気にしないものとする。
「お前なにアドバイスしたの?」
「ごく普通のアドバイスです」
「つまりどういうことだ?」
「アドバイスです」
いや、もちろんそりゃあ分かりますとも。
俺が聞いてんのはそういう事じゃなくて内容なんだよ。レナが少年に対してどのような言葉を用いて解決に導き、金貨5枚を貰うのか……それが知りたいわけであって、何よりそれが分からないキミじゃなかろうてからに。
「内容を教えてくれよ。気になって夜しか眠れない」
「熟睡しているようで何よりです。ちょっとむかついたんでしばらく話しかけてこないでください」
「なるほど、つまり俺に寝るなと。常にキミのことを考えろと。そう言ってるのか?」
「……まあ、はい。それなりに」
「おーい!自分に防音魔法使ってどうするのかなー!まさかキミ、自分で自分をあれこれすることに快楽を見出しちゃったけ──もう許さねぇからなレナァッ!!!!」
抱きしめるぞオラァ!!
※
プレゼントステークス。天気は晴れ。
そんな冗談みたいな実況プレイを隣の可愛い女の子とやれたらどんなに幸せなんだろうなと、俺は一瞬思った。
心地よい太陽と優しい風に晒され、隣には可愛い女の子。どんな状況になろうが痛くも痒くもない他人の色恋沙汰に「青春だねー」なんてお茶でも啜りながら語り合って、そして最終的には寝る。
そんな日をこの子と過ごせたら──きっと、もう。たまらねえだろうなぁって、そう思ったんだ。
「と、いうわけで秋空が心地良い季節となりました。第1017回、プレゼントステークス。天気は晴れ、水溜まりはなし、絶好の勝負日和でございます」
「…………」
「絶好の勝負日和。そうですよね、セレステリアさん」
まあ、だからといって実行に移すバカが何処にいるんだって話なんだけどな。
あいや、でも仕方ないのよ。だってもう──厳密にはバイトデートを提案した時から俺の胸ははち切れんばかりに暴れ、とにかくレナの色んな姿を見たいという欲望が漏れ出してしまったのだから。
正直魔女服のレナだけでは今は満足できない。
それこそ、お遊び実況プレイをしなければ俺がどうにかなっちまいそうなんだ。見苦しいことこの上ないだろうが、何卒レナには付き合ってもらいたいものである。
「なあ、いい加減機嫌直せってば。話聞いてなかったのと、俺が夜しか眠れないのは謝るから」
「……」
「頼むよ。俺、セレステリアさんとお遊び実況プレイしないと死んじゃう病なんだよ。なんだかんだで数15年の付き合いじゃないか、頼むよー」
「……あなたが」
そのためには、先ずは彼女の機嫌を直す必要があった。
ブチ切れてるとまではいかないが防音魔法を使い、会話を阻害するくらいには怒っているレナさんは、先程から隣でぶつぶつと文句を垂れ流している。
こうした彼女を見るのは初めてではないが、正直なところ『何度も見慣れた光景』にするのもまずいよな──と思った俺は、1歩引いて謝罪を敢行。
俺は引き際は間違えない男なのだ。
「いつまでも友愛と親愛を履き違えているせいです」
「同じようなもんだろ。レナサン、アイシテルー」
「絶対に私は悪くないです。多分、きっと……いえ、絶対に」
「うっひゃっひゃ!」
「コホン」と咳払いをしたレナが呆れたような目付きで隣の俺を見る。
いや、これ『呆れたような』じゃなくてガチで呆れてんな。目が『何が引き際ですか、巫山戯ているんですか』って雄弁に語ってるんだわ。
何処で階段を踏み違えた、俺。
「そもそも
「ですよね、数えてないですし。さて、待ちわび続けた今日というこの日。世の男性諸君が異性からの贈り物を期待し続けるこの季節。あなたの夢は叶うのか、私の夢は叶うのか。因みに私の夢はズバリ、アムネシアさんです。せめてもう一度くらいはお目見えしたかった……あ、ちなみにプライバシー保護のため、セレステリアさんのお名前は仮名としておりますので悪しからずー」
「人のプライバシーを気にする暇があるのなら自分のデリカシー気にしてください」
それは今更だと思う。
とはいえ、徐々にレナが会話のリズムに乗ってきたのは朗報か。俺の求めているお遊び実況プレイには彼女の協力が必要不可欠。言葉が辛辣か優しいかなんて、そんなものは関係ない。俺にとってはどんな言葉でもレナの一言ならご褒美に等しいものがあるのだから。
少しだけ、本当に少しだけレナの横顔を見る。
目が合った。
射殺すような鋭い目つきで睨まれた。
「その先にあるのは成就か、破滅か。好レースが期待されます、プレゼントステークス。実況は私、旅の魔導士兼弟子のゲロ処理担当魔導士、ノルが。解説には数多の女性を文字通り堕としてきたオールラウンダー。灰の魔女、セレステリアさんをお招きしております……セレステリアさん、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
「いやー、セレステリアさんから見て今日の3番勝負はどのような結果になると思われますでしょうか」
「そうですね。まあ……この茶番はなんですか?というのが第1印象ですかね」
「ははっ、手厳しい。照れ隠しかな?」
「その都合の良い思考が羨ましいです」
でへへ!俺の持ち味でーっす!!という冗談もそこそこに、俺は改めて視線の先にある少年の服装を見る。茶髪の少年は先程まで内側から外側までどっぷりド変態色に染まっていたのだが──生まれ変わった少年の姿を見たことで、俺は絶句する。
「お、おお……これ、レナがプロデュースしたのか?」
「はい」
「お前……すげぇよ。将来的にはシャロン様と服屋作れるよ……」
「どうしてそこでシャロンさんが出てくるんですか……というか、どうしてあなたがシャロンさんのこと知ってるんですか」
「……ぐ、偶然?」
「なるほど、後で詳しく」
俺とシャロン様の偶然的邂逅はまた別の機会に話すとして。
先程から視界に収めていた少年の雰囲気はかなり変化している。大人っぽい黒を基調とした服に、落ち着き払った雰囲気。これは俗に言うところの大人の雰囲気とかいう奴であり、多くの女の子が好ましく思うであろう雰囲気の最先端。
これには多くの女性からド変態の烙印を押された俺も見習いたいくらいだ。見事な沈黙具合で彼に内在するド変態要素が隠れている。
恐らく今の彼を見た多くの人たちは、まさか彼が『プレゼントを乞食するド変態』だとは思わないだろう。
流石だよ……レナ。
「さあ、セレステリアさんの指示の通りのお洒落をしてきましたカルミアくん。以前が壊滅的なレースでしたが、ここに来て信頼できるコーチとの出会いがありました。信頼関係による相乗効果が注目されますね」
「清潔な服装で挑めと、一言だけ言いました」
「短くも効果的なアドバイス!今日のレース捌きに期待しましょう!!」
ゲートは開かれないが、勝負は始まった。
勝利の女神は微笑むどころか、ロベッタにてお茶を啜っているであろうこの世界の片隅で、プレゼント乞食少年は先手を打つ!
先駆けならぬ、開幕速攻スライディング土下座で女の子を驚かせるプレゼント乞食少年。
なんと、彼はプレゼントを貰うために必要な挨拶代わりのジャブに土下座を選択したのだ。
「な……なに?」
「え……えっと、その。この前はごめん、色々……キミの迷惑になることばかりやった」
「え、えぇ……別にいいけど」
「ごめん!ごめん!本当にごめん!生きててごめん!生まれてきてごめんッ!」
「いや、そこを謝られても」
その選択肢を使用するためにベットしたのはプライドか否か。
些細なことではあるのだが、プライドの捨て方もバランスが必要だと思うんだ。あまりに高くても尊大なイメージを抱かれかねないし、低すぎても「なんだこいつ」とか思われて話しかけにくくなる。
恐らく彼はプライド全部投げ打って彼女に土下座したのだろうが、彼女は困惑してプレゼントどうこうの雰囲気じゃなくなっている。
これではバレンタインデーどころかアポロジーデーじゃないかと思っていた俺だが、レナの不敵な笑みを見て考えを改める。
「ふふ……青いですね。この程度の土下座で事を達成出来ると思っているのでしょうか」
「……レナ?」
だ、大丈夫なんだよな?
し、信じるからな!?
「レース序盤、先ずは謝罪から入りました。セレステリアさん、これはどのような狙いなのでしょうか」
「潔さが肝心だとアドバイスしました」
「いや、むしろプライドを捨てろってアドバイスしたんじゃ……あいやぁ!まさに天啓!いつでもどこでもキミは的確なアドバイスを送る!まさに勝利の女神!流石あの人の娘!」
「関係ないと思います」
関係あると思うよ?
だってキミ、本当にあの人にそっくりだもの。なんというか、言語化しにくい根っこの部分とか姿、立ち振る舞いとか、狡猾なとことか、俺的にはめっちゃ似てて好きなのだ……
と、感慨に耽っている間にもプレゼントステークスは中盤戦に入る。先程まで謝罪に入っていた男の子が彼女の肩を掴み、あろうことか迫り始めたのだ。
己はプレゼントにどれだけ必死なんだ……と内心で彼にツッコミを入れたくなったが、恐らく俺が彼の立場でもそうしただろうし、笑わない。
男の子って、誰でも目の前に好きな子がいると少しだけ理性が外れちゃうんよな。その結果、俺だって妄言のオンパレード連発している訳だし。
自分のこと棚上げして馬鹿になんてしないし、むしろ何が悪いだって思う。
情熱をぶつけられる相手がいるんだ、良い事じゃあるまいか──
「で、でも!やっぱり僕、キミのプレゼントが欲しい!キミじゃなきゃダメなんだ!キミのプレゼントじゃなきゃ、満足できないんだ!!」
「え、えぇ……」
「ふぇーん!キミのプレゼントが欲しいよぅ!!」
「引くわ」
ぜ、前言撤回していいっすか?
なんで泣き落とししとんねん。
そもそも本当に泣き落とそうとする奴は『ふぇーん!』なんて言葉にしないし、女の子だって引かせない。
女心と男心は別物だと前から思っていたが、やはりそうだなと俺は確信する。
そして、レナさんは間違いなくそこら辺が分かっていない。というか演技力とか諸々すっ飛ばしている時点で……
「ふふふ……これで仮に失敗したとしても『彼女と話せたこと』があなたにとっての最大の贈り物でしょう?と誤魔化せますね」
「……」
「慈善活動のついでに金貨5枚も貰えるなんて……最高にチョロ……こほん、美味しいお仕事ですよ、本当に……」
あっはい。
そんな感じだと思ってました。
いや、いいんだけどね?ぶっちゃけそういうお金に関しての賢さがなきゃこの子らしくないし。これに関して俺が彼女を咎めなきゃいけないとか、そういうことはないんだけどな……
「レナ、顔。可愛いけどだらしなくなってる」
「セレステリアさんの設定はどうしたんですか?」
「今はお遊び実況プレイよりもキミの緩みきった表情筋の方が大事……つーわけで、ほれ。ちゃんとしろ」
「あなたが直してください」
「バカップルかな?」
何を隠そう、こいつこの前にも同じような手法で人を騙し危うくサツのお世話になった過去を持つ。
そうした過去から、世のため人のために先ずはコイツを何とかした方が良いのではなかろうか。と、何度も思うのだが結局彼女に甘い俺は、小汚いお金稼ぎを黙認してしまっているのだ。傍から見ればレナの行為はこう……あれ、ほら、なんつーか……人としてダメなアレなのだが、俺にとってはいつもの彼女。どう足掻いたって変わりゃしない彼女の姿勢が俺にとっては精神安定剤みたいなもんだったし、何より俺自身がちょっぴりクズっぽい面と、優しくて可愛くていじらしい面もある彼女のギャップを望んでいた。
その思いを今更捨てようなんて思えないし、なんならずっと見ていたい。
だから、うん。
「俺はレナの表情を見る役回りに徹しよう」
「何か言いましたか?」
「ん……まぁ、そう。レナはいつも可愛いなぁって」
「喧嘩売ってるんですか」
そうだよ、難しいことは考えずにレナについて行く。それが1番平和な世界線だよ、間違いない。というわけで頬を両手で優しくマッサージ。目を瞑りながらそれを受けていたレナの顔がいつもの凛々しい表情に戻ったところで、お遊び実況プレイに戻る。
世のため人のためとか抜かしたが、俺も大概である。
「セレステリアさん、これは掛かり気味でしょうか。カルミアくん咽び泣き始めましたよ」
「困った時は情に訴えろ*3とアドバイスしました」
「やる人によりますね!男の咽び泣きとか誰得かな?」
「さあ、そろそろ勝負が決まりますよ。あなたも少しは彼の積極性を見習ってください」
「何だとッ!?」
さて、そんな言い合いをしている間にも舞台はクライマックスへと移行する。ラストスパートの中のラストスパート、最後の末脚を発揮したプレゼント乞食少年は必殺技、懇願を発動する。
実はこれ、意外と強いのだ。それも、しつこければしつこいほどサツの世話になるリスクが高まる代わりに、要求さえ飲めば静かになってくれるだろうかというありもしない願望的思考が高まり、当社比でハイリスクハイリターンの効果を得ることができる。
因みに俺はレナに懇願して魔力の塊を2発撃ち込まれた。
何を要求したのかは墓場まで持っていくつもりである。
「た、頼む!1回でいい、プレゼントを──思い出になるプレゼントをくれ!!後生だ!!」
「そ、そこまで言うのなら──」
押しに押し、押されに押され。ようやく彼女の氷の心が溶け始め。
遂にゴール目前となったプレゼント乞食少年はとどめを刺すために一息間を置いて、決め台詞を──
「き、キミからプレゼントを貰えたら……興奮しますよね」
「気持ち悪い」
………勝負が、決まった。
「おい、レナ」
「お遊び実況プレイはどうしたんですか?」
「あれはダメだって」
「決め台詞らしいです。これだけは外したくないと、たっての希望で」
「そこを修正するのもキミの仕事だろ……」
結果はレースをする前から決まっていたらしい。
一見従順そうに見えたプレゼント乞食少年は、とんだ暴れ馬だったらしくレナは途中で匙を投げ。
まあ、ワンチャンスあるかなー的な希望的観測や、どちらにせよ言いくるめて金貨5枚貰えるからいいかー的な小悪魔的思考を抱いてしまった彼女は四つん這いの姿勢になり落ち込むプレゼント乞食少年を一瞥した後に、金貨1枚をコイントスの要領で真上に弾き、それを片手で掴んだ。
結果は、裏。
まあ、それがなんだって話なんだけどな。
「実況なんて馬鹿なことやってないで、とっとと次の街に行きますよ」
「おい、2枚分は?」
「もういいです。掠め取る気を削がれました」
「どういう風の吹き回しっすか」
すました表情で、レナは報酬を諦める。
本当にどういう風の吹き回しかは分からないけど、それでも俺は彼女に報酬のことを追及する気にはなれなかった。
だって、そもそも俺はバイトデートしたかったわけだし。そうじゃなくても、この旅での俺の立場は彼女の付き人。立場とか、そんなのは関係なしに好きで彼女に付いていっている魔導士に、常に行き先を決める少女の決断を強制的に止める権利が何処にあるというのか。
今後もあーだこーだ言いつつ、俺は彼女の判断を尊重するし、彼女の行動を信じて、楽しんでいくのだろう。
だってそれが、今の俺のしたいことだから。
「まあ、キミが良いのなら別にいいけど……あ!それじゃあ金貨3枚分バイトデートしようぜ!!」
「キメ顔でそれ言うのやめてくれませんか?」
「え、今の俺キメ顔してる?かっこいい?」
「いえ、むしろ『キマってる』というか……お薬キメているというか……」
それはそうと、さっきからレナがひどい。
いや、もしかしたら彼女なりの褒め言葉──という可能性も無きにしも非ずだがこの場合悪口の可能性が高いだろう。
何となく今の表情を見ていたら分かるのだ。ゴミを見るような目に、冷たい眼差し。軽蔑のハッピーセットと言っても過言ではないその表情を浮かべられれば、嫌でも俺は察してしまう。
俺はどうやら、またしてもやらかしてしまったようだ。
「変わりませんね、良くも悪くも」
「たはは、ごめんごめん」
と、まあ。
全国の男性諸君が見たら、こんな記念日に何やってんだと言われてぶん殴られるであろう今日の俺。喧嘩する前に肝心のチョコレートを貰えだとか言われ──あ、そうだ。去年も今日みたいにプレゼント貰うの忘れてサヤちゃんに怒りの台パンくらったよなぁ。
曰く、「あの人とデートしている癖にプレゼントイベントを不完全燃焼で終わらせるとかモグリですか!?えーそうですか!さてはぼくへの当てつけですね!?」らしく。誠に恥ずかしいことであるのだが、あれからサヤちゃんと口を利いてないのだ。
ちくせう、後で仲直りしなきゃなあ……
けどさ、仕方ないだろ?
実際のところ、バレンタインプレゼントを俺はもう貰っているのだから。
苦くも甘く、幸せになれるプレゼント。何よりも俺自身がそれを望んでいる、物でも事でもない、最高の贈り物を。
「まあどんな顔されてもバイトデートはしませんけどね。下心見え見えの誘いに乗るほど私は軽くはありませんし」
「ッ……!レナっていつもそうだよな!!そうやって思わせぶりな態度とって!俺のこと何だと思ってるんだ!?」
「きしょいです」
物も事も、『時間』に比べたら些細なものだと。
さっきの報酬の話じゃないけど、チョロい俺は『
「あ、忘れてました」
「……もしや」
「これあげます。味は期待しないでください」
「ッ……!やっぱレナのこと大好きー!!」
なお、今年も美味しいチョコを貰いました!
やったね!
ノル イメージ画像
【挿絵表示】
※詳細は活動報告にて。(自作じゃ)ないです。
9/24日 15:56 地の文と設定の変更。
過去は他国の組織にて勤務をしていたが→『過去の、何処かの世界線では』他国の組織にて勤務をしていたが──
この二次創作内でのモニカは故郷での勤務経験がありません。諸々の事情により、故郷での勤務をする必要が無くなっています。