どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
ファーストコンタクトは、それなりの成功を遂げることができたと感じている。
どうやら俺はイレイナさんで言うところの『直ぐに存在を忘れたい位に嫌な者』のリストには入ってなかったらしく、イレイナさんは俺の名前をちゃんと覚えてくれていた。よって、その後も円滑なコミュニケーションを取ることが出来るようになった。
やったぜ。
そして、嬉しい悲鳴はそれだけでなく。
普段は1人で魔法の本を読んでいたり魔法の練習をしているイレイナさんはどういう訳か、たまに平原まで来て俺に対して話しかけてくれたり、逆に俺の話を聴いてくれたりする。
その関係は、まさに友達と言えるものであった。
俺はイレイナさんと友達になることができたのだ。
まあ、なんだか第三者に仕組まれた感も否めないのだが、どちらにせよイレイナさんと友達になれたことには感謝しなければならない。
これも勇気を出したのかは知らんが歩み寄ってくれたイレイナさんのおかげである。神様仏様イレイナ様──なんて馬鹿げたことを考えていた俺は、ぶっちゃけ浮かれていた。
「他にやることないんですか」
「え、酷い」
故に俺は、イレイナさんと出会った際に必ず罵倒される。因みに今回は、イレイナが本を無言で読んでいたことに痺れを切らした俺が氷魔法で作ったでっかい氷をガスバーナーくらいの威力の炎魔法で溶かしていた所をイレイナに咎められたのが原因だ。
「馬鹿ですね」と言って嘲笑ったイレイナさんの表情を俺は一生忘れないだろう。あの冷ややかな目は後世に語り継いで良いレベルの怖さだと思う。
「俺は本も何もない。やってることって言ったら魔法をぶっ放す位だし」
「薬草作りとか、地理の勉強とか、色々やることがあると思うんですけど」
「俺は魔女になれないし。そもそも魔法使いになるのかも分からないし」
「浅はかですよね、オリバーって」
ただし。
いい加減その声色で罵倒したところで可愛いしか取り柄のないことをイレイナは知るべきだと思う。その目と罵倒のギャップがえげつないからあなたは現地妻を大量生産しているんですよ──と声を大にして言いたかったのだが、流石にそんなネタバレじみたことを言える筈もなく、俺は乾いた笑いを浮かべるのみに留まる。
すると、こちらに小さくため息を吐き、右手の人差し指を上に向け──俗に言う説教ポーズを取ったイレイナ。
‥‥‥ほんと、俺を尊死させるのやめてもらっていいですか?
「良いですか、いくら魔女になれずとも一般常識位は学んで然るべきです。読み終わった本を貸しますので、しっかり勉強してください」
「い、イレイナ‥‥‥ちょっと抱き締めて良いか?」
「頭ぶっ飛ばされたいんですか?」
ないない。
俺まだ生きてたい。
「けど、無償とはいかないだろ」
「無償じゃない‥‥‥ということは何かくれるんですか?」
「え、そういうの前提じゃなかったの?」
「あなたが言うまでは別に考えていませんでしたが、気が変わりました。で、何をくれるんですか?」
と、ここで若干期待に顔を染めたイレイナ。
しかし、俺には返せるものが何も無い。あると言えば命くらいだが、そんなものを渡してもイレイナに蔑まれるどころか1発魔力の塊を撃ち込まれるのは明白。つまり返せるものは俺にはない。
お手上げだ。
俺は両手を上げて、降参の意を示す。
「出世払いでお願い致します」
途端、『がっかりですね』とでも言いたげな表情でため息を吐くイレイナ。
ううむ、己の経済力の無さが恨まれる。
「軽いですね」
「まあそう言うな。誓約書もきっちり書くから」
「え、重い」
途端に俺から距離を1人分空けるために、横に動くイレイナ。とはいえ、俺のその言葉にガン無視という選択肢はなかったらしく、イレイナは俺を見ると呆れたような笑みを見せた。
「はぁ。まあ‥‥‥それじゃあ、期待せずに待ってますね」
「おう、ありがとなイレイナ」
「構いませんよ」
そして、またしても穏やかな雰囲気が構築されて今度は2人で本を読む。
俺とイレイナのお喋りタイムは、平時は穏やかな時が流れ、たまに刺激的な出来事が起こる──そんな楽しい日々であると言える。
「それにしても、お前は他にやることないの?」
「魔法の勉強ですかね」
「なんだ、俺と同じぼっちか‥‥‥仕方ない。ここは俺も気合い入れて魔法の勉強を──」
「あ、すいません。足が勝手に」
「いったぁぁぁぁぁ!!!!」
ははっ!例えばこんなふうにね!!
イレイナさんのふみふみ足に来ますね!!
そりゃぶどうも悲鳴上げるわァ゛ァ゛ァ゛!!!
※
取り敢えず我がベストフレンド(その人しか友達がいないから)であるところのイレイナとは妄言を控えるという約束だけして、いくつかの本を借りた俺。
奇天烈な転生をしてしまった俺ではあるのだが幸運にも小さい頃から母さんと一緒にこの世界の文字を一応勉強してきたので読めるには読める。
日本語が通用しない、よって文字も最初から学ばなければならないというツラゲに嵌ったことが昨日のことのようだ。
ふははっ、ざまーみろでござる。
「あ、オリバーおかえり──どしたの、その分厚い本達」
「ふっ‥‥‥母さん。俺、本を貸してくれる友達ができたよ」
「今までそんな友達いなかったからね。良かったね」
「‥‥‥」
めちゃくちゃ痛いところを突かれたのでスルー。
そして、母さんが外に出る準備をしていることを悟った俺は話題転換の為に母さんに尋ねる。
「で、母さんはどっか行くの?」
「ああ、うん。それでオリバーに頼み事があるんだよ」
聞こうじゃないか。
「今日ね、私の友達‥‥‥というか、後輩っつーか‥‥‥まあ、そこら辺の人が来るんだけどお茶菓子買ってくるの忘れちゃって」
「ふむふむ」
「これからお茶菓子を街で買ってくるんだ」
抜けてるね、アンタ。お茶菓子くらい前日に用意しておきなさいな。
まあ、大体言いたいことは分かった。
「つまり留守番してれば良いわけね?」
「うん。それから、間に合わない可能性もあるから『金髪ロング』のおねーさんが来たら先に家に上げておいて欲しいんだ」
「うん、まぁそれくらいなら」
「ありがとー、オリバーは賢い可愛い良い子だねー」
母さんはそう言うと、俺の頭を撫でて「怖い人には魔力の塊を撃ち込んどくんだよー」という一言と共に、家を出ていった。
「‥‥‥さて」
その金髪ロングのお友達とやらが来るまでは時間がある。そして、俺の手元には友達から借りた大切な本と、布教用ということで貸してもらったニケの冒険譚。俺は、そのふたつの状況から読書という最適解を見つけると椅子に座り、読書を始める。
と、勿論読書の片手間に安息の時を挟むのも忘れない。優秀な魔法使いは休み時間の質にも気を配るのだよ──と半ば得意気に机に置いてあったコーヒーポットの中身をコップに注いでいる転生者は誰だろうか。
そう、俺だ。
そして、名言を妄想で汚しているということに後から気がついたのも俺だ。
死にたい。
そんな戯言を内心で吐きながら、コーヒーと共に読書に興じて、ひたすら時間を潰していると『トントントン』と規則正しいドアを叩く音が聞こえる。
ふむ、思ったよりずっと早く来たな。
まあ、時間的にもお昼過ぎだしタイミングが良いのでそんなに不審感は感じない。大して警戒もせずに、家のドアを開けると──
「‥‥‥ん?」
あ、アレー‥‥‥と内心で呟き、その人の姿を下から順に眺めていく。
グリーンのジーンズ。
ブラウンのシャツ。
そして、その上に羽織った表が白で、裏地が青の薄いコート‥‥‥同じ色の魔女帽。
「お、写真で見た時より随分デカくなったな」
「お、おお‥‥‥」
そして、その聞き覚えのある声。
金髪をポニテにして、鋭い目という特徴から織り成すその姿に、俺は確信した。
「ここ、センセの家で間違いないよな」
シーラさんやんけ!!
え、なに!?母さんの言ってた金髪の人ってこの人の事なの!?だとしたら本当に母さんって何者!?ヴィクトリカさんとも友好な関係築いてるし、あの人ただのおっちょこちょいじゃないの!?
‥‥‥と、内心で馬鹿なことを考えるのは控えるってイレイナと約束したじゃないか。気持ちを落ち着かせろ、心頭滅却だ。
1度深呼吸して心を落ち着かせた俺は、一応間違いがないように、目の前の金髪をポニテにした女性に尋ねる。
「
「おう、そうだ。色々あって最近来れなかったんだけど顔を見せに来た‥‥‥お前の母さん、セシリアさんだよな?」
「はい」
俺がそう言うと「なら良かったよ」とカッコよく笑うシーラさん。と、同時に表情を渋いそれに変えたのは、俺が呼び出しに応じたことで母さんが外に出ているということを察したからなのだろう。
しかし、心配は要らない。俺は母さんにこの人──金髪の女の人を家に上げろという指令を受けているのだから。
半開きにしていたドアをしっかり開くと、シーラさんを見上げる。
そして俺は兼ねてから考えていた言葉をハッキリと口にした。
「母さんは今買い物に行ってますが、どうぞ入ってください。歓迎します」
「──うっ」
「え?」
途端、片手で両目を隠して顔を逸らすシーラさん。
何か不味いことでも口走ったか。っべー、っべー‥‥‥と考えていると、目を伏せていたシーラさんが今一度俺を見据える。
その瞳は、いくらか細められており、表情も幾分柔らかなそれになっていた。
え、何で?
「‥‥‥お前本当にセンセの息子か?」
「まあ、戸籍上は」
「だよな。目元とか髪とかそっくりだし‥‥‥けど、まさかあんな破天荒な人からこんな良い子が生まれるなんてなぁ‥‥‥」
あの、感慨に耽っているところ悪いですけどすいません。俺は転生者です。
取り敢えずの一般常識を弁えてるのでこの対応が出来てるだけです。騙してごめんなさい、記憶が転生特典でごめんなさい。後、生きててごめんなさい。
「と、とにかく入ってください!入ってくれないと俺が母さんに怒られるんで」
「や、別に怒られはしないだろ‥‥‥ま、邪魔するぜ」
あまりに予想外の展開。そして雰囲気に、話題を変えた方が良いと思った俺は様々な不確定要素を切り捨てつつ、シーラさんを家に上げる。
靴を脱いでリビングに向かって歩き出すと、後ろから「おー、お前もう足腰しっかりしてんのか」とか言われた。ついでに「リビングまで運んでやろうか」とか言い出しやがった。
あの、俺6歳なんですけど。
シーラさんは6歳児と俺をなんだと思っているんですか。
そんな反抗の言葉が頭の中に浮かんだが、失礼はしたくない為適当な言葉ではぐらかし、俺は近くのお茶っ葉と、コーヒーポットを取り出してシーラさんに尋ねた。
「お茶ですか?それとも、コーヒーですか?」
「淹れられるのか?」
「まあ、用意してくれているので」
「つーか、コーヒー飲んでんのかよ」という一言には乾いた笑い声で応え、母さんが予め用意していたコーヒーをカップに注ぐ。コーヒーの良い香りがリビングに広がり、それと同時に適量を注ぎ終えるとカップをシーラさんに手渡す。
あ、手がつやつや。ずっと触れても飽きなさそう。
「サンキュ」
「はい」
「これ、センセのだろ?使って大丈夫なのか?」
「お茶菓子を忘れた母さんが悪いので大丈夫です」
「遅刻の原因それかよ」
「おっちょこちょいなかーさんですね」
「息子に言われてどうすんだよ、センセ‥‥‥」
と、ここまで会話したところで思ったんだけど俺ってシーラさんのことどうやって呼んだら良いのかな?そもそも母さんとシーラさんの関係性がどのようなものなのか曖昧だし、下手に名前を呼んだら失礼に値するかもしれない。
シーラ先生?シーラさん?ワンチャン呼び捨てでもOK?
そんな疑問符を脳内でふわふわ浮かせていると、俺がシーラさんに対して何て名前を呼べば良いのか分からなくなっていることを悟ったのか、苦笑したシーラさんが言葉を続ける。
「なんて呼んでも怒らねえから安心しろ。お前の名前は‥‥‥オリバーで良いんだよな?」
「あ、はい。オリバーで大丈夫です」
「そっか。じゃ、あたしはこれからオリバーって呼ぶ。だからお前も気軽に何でも呼んでくれ。ねーさんでも、おねーさまでも何でもいいぞ」
「‥‥‥それじゃあ、呼び捨ては俺の心が痛むので。これからよろしくです、シーラさん」
「おう」
元々
「そういえばシーラさん、俺の名前知ってたんですね」
「まあな。色々忙しくて様子を見に行けなかったんだが、最近やっと自由な休みが取れてな。んで、センセと、そのセンセが可愛がってる男の子を見に来たわけだ」
「へぇ‥‥‥」
そこからコーヒーを啜ったシーラさんは、更に言葉を続ける。
「魔法で遊んでいるんだって?」
「はい」
「なら将来的には魔法で生きていくのか?」
そう言うと、シーラさんはニヤリと笑みを見せて俺を見据える。
この世界に生まれてきて間もない頃は魔法を生業とする意欲はなかった。それには色々理由があるが、やはり1番はヴィクトリカさんの言っていた職種がかなり限られてしまうかもという話だ。
「‥‥‥まあ、色々。手広く」
「誤魔化したな」
「秘密が多いってことで、ここはひとつ」
「はっ‥‥‥何処でそんな言葉覚えたんだよ」
故に、俺は質問をはぐらかす。
正直言って迷っているのだ。仮に俺という存在が魔法に携わるとして、何を生業とするのか。
イレイナ同様箒で空を駆け回り、魔道士として旅々するか。もしくは勉強頑張って魔法統括協会に入るか。まあ、魔法統括協会の仕事募集が女性のみってんなら諦める他ないのだが。可能性としては有り得るよな‥‥‥シーラさん、エージェントで言えばサヤさんに、ミナさん。その他にもモニカさんというのも居た筈だ。代表的な人達がその人達だって言うのならば言い訳が利くが、それ即ち『出てくる人間はそういう人間だ』ということ。
そう考えると『魔女の旅々』の魔法の世界って男の子にキツいっすよね‥‥‥やっぱり魔法は止めて行商人とかの道を往こうかな──と内心涙目になっていると、シーラさんが煙草を吸おうとして、それをやめた。
もしかして遠慮してくれてるのかな?シーラさんと煙草は恋仲みたいなもんだから遠慮しなくても良いのに。
「良いですよ、吸っても」
「‥‥‥いやいや、それはダメだろ」
「気にしないです」
「あたしが気にすんだよ。それに、息子に何吸わせてんだってセンセに怒られる」
オー!シーラサン、イズ、ゴッド!!
否、女神か。ガキに優しいシーラさんマジ尊死。
これで料理も美味いってヴィクトリカさんに言われているのに、どうしてシーラさんは結婚しないのか。
引く手数多だろ、こんなカッコイイ人。
「‥‥‥シーラさん」
「ん?」
「俺みたいなガキに優しくするその様、カッコイイです。まじ尊敬します」
妄言を吐くな──とはイレイナとの約束だが、何も普通の妄言を吐くなという約束はしていない。変でないか、ちゃんと伝わるかという脳内審査を行い、それらを通過した言葉をハッキリと伝える。
すると、今度は上を向いて目を片手で覆うシーラさん。
しまった、怒らせたか。ガバガバ脳内審査、がっとぅーへう。
「あの、なんかすいません」
「‥‥‥いや、謝ることはない。ちょっと眩しくてな」
「あれ、おかしいですね。グリーンカーテン徹底できてなかったかな‥‥‥」
「や、そうじゃなくて」
そうじゃないんですかい。
なら、なんなんだ──とツッコミを入れようとすると、「そういえば」と話題を切り替えたシーラさんが、笑みを見せる。
「オリバーはどれくらい魔法を使えるんだ?」
「あいや、魔法ですか‥‥‥」
魔法に関しては遊びで魔力の塊を撃ち込んだり、それ以外にも手広くやっているため、経験はそれなりにある。
それでも真面目に魔法の勉強をしているイレイナには知識的に及ばない上に、魔女程の力がある俺TUEEEEなチートくんでもない。
まあ並程度かな。それくらいなら盛ってはいないよな。
「まあ、ぼちぼちですね」
「ぼちぼちね‥‥‥じゃあ、箒で空を飛ぶことはできるか?」
「あ、それ試してみたんですけど上手くいかないんですよね‥‥‥」
6歳の誕生日に杖を買ってもらったことは記憶に新しいのだが、実はその同じ日に箒も購入したこともあって、地道に空を飛ぶ練習をしていた。
時には見様見真似で。時には色んな方法を取って。
それでも俺は空を飛ぶことは出来なかった。
最早箒を飛ばす以前の問題だ。
飛べないのだ、俺は。
「‥‥‥へえ」
ともかく、そんな話を聞いたシーラさんは興味深げに俺を見る。その目は、最早吟味にも近いそれであり、ぶっちゃけシーラさんの美貌を見れる分役得ではあったのだが、それも何秒と続くと少しだけ緊張する。
「んー‥‥‥」
「あ、あの。なんすか急に」
吟味が続き、俺の心臓がバクつく。10秒が1分にも感じられそうになったその瞬間、「よし」と立ち上がったシーラさんは笑顔で俺を見下ろすと先程までとは打って変わった悪い笑みを見せて、俺に一言。
「オリバー」
「はい?」
「箒の乗り方、教えてやるよ」
まるでこれから『コンビニにでも行こうぜ』的なノリで、そう言ってのけたのだった。
シーラのおねーさん。
2021/02/18 会話文修正
2章終了後の3章は……?
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魔法統括協会編!(全15話完結予定)
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2人旅編(全30~40話完結予定)
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両方同時並行(がんばる)
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アムネシア編