悩める乙女の心情と対抗馬たちの戦力分析。
「…………どの服着ていこう」
まさか、こんな日がまた来るなんて。そうなれば良いなと思っていたがあまりに突然だった。準備不足だ。
「うぅ、またメッセージが来てる」
知ってる人はごく少ないはずなのに、なんで皆にバレてるんだろう。端末には「がんばれ」「応援してる」「ここで決めろ」「仕留めろ」といったメッセージがひっきりなしに着信している。激励してくれるのは嬉しいんだけど。……これ、激励なのかな?特に最後のは過激すぎないかな?
「でも、たぶんそういうのじゃないんだよね?」
歓喜と疑念と諦観。渦巻いてる感情が複雑すぎて自分でもよく分からない状態だけど、きっと期待をしすぎている。そんなつもりじゃないはずだ。歌川君と菊地原君が何か知っていそうだったから、理由はご機嫌取りとかその辺りだと思う。でも、今の彼が機嫌を取ろうとする相手なんてそうはいない。少しでも特別扱いされているのだろうかと考えると嬉しくなる。小さい子たちには相変わらず優しいんだけどね。
「私、現金な女の子だなぁ」
かなり怒っていたはずなのだ。最近の彼の行動は目に余る。節操なしに女の子に告白して、全敗しているはずなのに告白を断られた女の子との距離は近くなっているのだ。理由は分かる。彼はバカになってしまったが、学習するバカだ。驚くような行動を度々取るが、理由を説明すれば次からは改善してくる。元のスペックの高さと学習能力。そしてボーダー女性陣による英才教育の成果は着実に出始めている。事情を知っている人たちは協力してくれているけれど、それに甘えてばかりじゃいられない。彼の本当の魅力に気付いてしまう人もいつか出てくるだろう。でも、大丈夫、今のあんな突拍子もない人に付いていけるのは限られている。まだ慌てるような時間じゃない。
「……はぁ、なんで私には告白してくれないのかなぁ」
お出掛けが待ち遠しくて嬉し悩ましいひと時だったのに、考え込んでいると涙が出そうになった。なんだか躁鬱みたいになってる気がする。理由が胸だったらどうしよう。夢、詰め込めないもんね。桐絵ちゃんが買ってたあの飴玉。私も買おうかな……。
「駅前で待ち合わせて、一緒にランチして。その後、街を散歩しながら買い物。……何を話そう」
楽しみなのは間違いないのだけど、いざ二人でとなると何を話せばいいだろうか。自分たちだけの共通の話題は話し辛いことばかりだ。過去のこと。隊のこと。……告白のことにしようか。
「探りを入れてみる? 頻度が多いし、状況を選ばなさすぎるから把握できてないのも多そう」
朝の早い時間に藍ちゃんと二人で訓練室から出てきたのを見た時には目の前が真っ暗になった。しかも、藍ちゃんは足元がおぼつかない状態で、彼は……支えるように腰に手を回していた。脳が沸騰するというのはああいう感覚なのだろう。
「藍ちゃんにも悪いことしちゃったな。今度、ちゃんとお詫びしないと」
彼は藍ちゃんを置いて逃走してしまったため、残された藍ちゃんにその場で事情聴取を開始したのだが、随分と怯えさせてしまった。近くの壁に罅が入っているのを驚愕した目で見ていたが、アレどうしたんだろうね。危ないから、基地の耐久性について上層部へ提言しておかないと。
……それにしても、藍ちゃんはもしかしたら強敵かもしれない。素直に言葉を受け取ってしまうこともあって、語調が強い人は苦手な彼だけど、どうにも藍ちゃんとは一緒に居る時間が多い。弟子じゃないって言ってるし、彼は弧月使いだけど、スコーピオンとの対戦経験の豊富さは太刀川さんと並ぶ。その多くを伝えているのだろう。今の藍ちゃんはA級ランク戦でも十分に役割を持てるレベルに成長している。
「顔立ちは綺麗。スタイルはいい。当たりは強い。家庭的かは分からないけど、行動力はある……。だ、大丈夫。負けてない、はず」
危険度で言えば遥ちゃんは超要注意人物だ。協力してくれている側ではあるのだけど、とにかく彼からのアタック回数が多い。二学期が始まってまだ二ヶ月と経っていないのに、既に三回も告白されているらしい。なんでめげないんだろう、早くめげてよ。
「可愛いと綺麗が両立した顔。スタイルよし。優しくて気配り上手。家庭的なことも一通りはこなせると思う。……勝てないかも」
相手はボーダーのマドンナだ。その人気は凄まじい。彼がそんな周りの状況に流されるような人でないことは知っているが、同調効果だって無意味じゃない。というか、三回も、告白されている時点で、既に……。
「ぐすっ……」
中学に上がって以降、どうにも泣き虫でいけない。余計な心配を掛けたくないからちゃんと笑顔でいないと。大丈夫、遥ちゃんは『ペットが覚えた芸を見せにきてるようなもの。そういう意味では可愛いと思ってる』って言っていた。そう、あれは人に向ける感情じゃないから平気のはずだ。『まぁ、芸の質の上がり幅が大きいから驚いてるけどね』とも言ってたけど。やっぱりダメかも。そもそもペットってそれ自分の所有物ってこと?
「とにかく味方を増やさないと。助けて……亜季ちゃん……栞ちゃん!」
そして、最近特に危険度が上昇しているのは桐絵ちゃんだ。玉狛はその思想的に彼からは距離を置いていた。表面的に仲が悪かった訳じゃないんだけど、迅さんなんて露骨に彼と接触するのを避けている。京介くんが玉狛に移籍するって言った時は流石に一悶着あったんだけど、その時にも和解するようなことにはならなかった。なのに……。
「この前のアレはいったいなんなの」
迅さんがS級になり、太刀川さんがやる気を失ってる最中、圧倒的な強さで攻撃手一位に上り詰めた桐絵ちゃん。最近は個人戦の頻度がかなり落ちているけど、その日は本部で摸擬戦をしていた。そこにたまたま彼が参戦したのだが。
「顔を真っ赤にしてすごい早口で何か言って逃げていくなんて、どういうことなの?」
現状、桐絵ちゃんが勝ち越せていないのは迅さんと彼だけだ。手数を増やし辛いアタッカーにとって両者のサイドエフェクトは鬼門だし、仕方のないことだろう。そして勝ち越せていないことと思想・移籍問題が重なって桐絵ちゃんは彼のことを嫌っていたはずだ。だけどあの時の二人には言い争っている感じはなかったし、逃げられたあとの彼もぽかんとしていたけど悲しそうではなかった。桐絵ちゃんも怒っているというより照れ隠しだったような……。
「やはり、玉狛は……敵」
学校でもボーダーでも接点がないから油断していた。京介くんを本部から搔っ攫ったように裏で工作をしてるのかもしれない。あそこはそういったことが得意な人が多い。城戸司令に早期殲滅を進言するべきかもしれない。
……っは!いけない。考えが物騒な方向に行ってしまった。ライバルへの対応を考えるのも大切だけど、今はお出掛けの準備をするのが最優先。次に誘ってもらえるのなんて何時になるか分からない。できるだけのことをしないと。
結局、考えがまとまらず無難な普段通りの恰好で行くことになってしまった……。これはもうダメかもと気落ちして向かったのだが、結論だけ述べると……とても穏やかで、楽しい時間だった。
竹尾 清志PROFILE9
身長:171cm
体重:65kg
容姿:黒髪黒目
対抗馬と表現しましたが、未来は既に確定してるとぼんち揚げが言ってるので、ただのフレーバーテキストです。……くそっ!!結局、迅さんの予知通りか……!
小南が早口で言ったセリフは『こ、この前は有耶無耶になっちゃって悪かったわね! 私もあんたのこと勘違いしてたみたいだし、これからは仲良くしてあげるわ! けど、勘違いしないでよね! No.1攻撃手はあたしだし、派閥問題はまた別なんだからー!』です。