わぁ、鳥!   作:ゆーり

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この話が最終話になります(時間軸が一番最後、という意味で)
こっちを先に読んでも、十八話以降を先に読んでも問題ないです。
特にコメディ要素はないです。


終話「迅」

「おー、前途有望な若者たちはエネルギーがあるなー」

 

 今日はボーダーの入隊式だ。ホールの二階から下に集まっている子たちを見ているのだが、これからあの子たちと一緒に戦っていくのだと思うと感無量である。

 

「……それにしても、なんの用事かね。あの人が俺を直接呼び出したのなんて初めてか?」

 

 特段、付き合いがないわけではない。摸擬戦ならかなりの回数やってるしな。でも、確実に避けられているだろう。俺が変わっても、その距離感は保たれたままだった。あるいは、あの人の目には俺が何一つ変わってないと映っているのか。他者には見ることのできないものが見えている人だ。なにを考えているのか、俺にはよく分からない。

 

「よ、清志。悪いねー、待たせちゃって」

 

 飄々とした態度に悪びれた様子もない軽薄な口調。この人も以前はこうじゃなかった気もするが、果たしてどうだったか。

 

「こんにちは、迅さん。気にしてませんよ。新人たちを眺めているのも案外面白かったですから」

 

「そう言ってもらえると助かる。なにせ、実力派エリートは大忙しだからな。あ、ぼんち揚げ食う?」

 

 ぼんち揚げをこっちに差し出しながらそう笑う迅さんは、いつもと同じようにも見える。

 

「いただきます。それにしても、態々呼び出したから真面目な話かと思ったのに、嘘を付くんですね」

 

 迅さんの纏う雰囲気が変わる。この人と話していると色々と気になりすぎて疲れるんだよな。

 

「未来が見えるのに遅れてしまう時間を指定する意味なんてないでしょう。それとも、遅れること自体に意味があったんですか?」

 

「…………」

 

 そこで黙るところが胡散臭いんだよなぁ。

 

「お前に頼みがあって来た。俺に、力を貸してほしい」

 

 ……はぁ、ダメだな。どうにもこの人の視線はムカつく。

 

「別に改まって頼まなくても力は貸しますよ。同じボーダーの仲間でしょう。派閥が違っても、進んで仲違いをするつもりはありません」

 

「いや、ボーダーの任務としてじゃない。玉狛として、あるいは俺個人の意思として、お前に協力してほしいと思っている」

 

 玉狛……。近界民絡みということか。普通に考えて受けるわけがない。それでも。

 

「俺の答えがなにか、もう見えてるんでしょう? 詳細を濁したこのやり取り、なんなんですかね。さっきから不快なんですが」

   

 ……まぁ、この人のことだ。どうせ俺の過去と一方的に未来を見てしまえていることを気にしているんだろう。バカかよ。

 

「……この話の決着がどうなるか、未来は見えてない。見ることを怖いとも思っている。だが、止まるわけにはいかない」

 

「そうですか。なら、先に全部言っておきますね。俺はあんたのこと大嫌いです。けどそれは、三年前にあんたが俺の家族を見殺しにしたからじゃない」

 

 迅さんが驚いたように目を見開く。いかんな。思い出したらますますムカついてきた。この人が俺を見る目にはいつだって怯えと後悔があった。未来を見る力。望ましい未来を選べる力。選んだ未来以外を切り捨ててしまう力。

 

「俺とあんたの関係は被害者と加害者じゃない。望む全てを拾うには力不足な、選んで切り捨ててしまった共犯者だ」

 

 確率だとかの問題じゃないんだ。俺にも家族を救えるかもしれない道を選ぶことはできた。選ばなかったのは俺だ。秀次とは前提が違う。その後のことだって……。

 

「俺が怒りを向けているのは俺自身に対してだけです。勝手にビビって避けるのはやめてください。こっちが悪いことした気分になる」

 

 迅さんは泣いているような笑っているような、考えて損したと思ってるような複雑な顔をしていた。

 

「そうか……。そう、か。はは、未来が見えるはずなのにこの様じゃ、実力派エリートの名も形無しだな」

 

 そう呟くと、幾分すっきりしたような顔でこちらに向き直る。俺は全然すっきりしてないんですが、結局なんの頼みなんですかね。

 

「これから先、大きく未来が動く出来事がいくつも起きる。派閥や近界との境界も超えるようなことだ。俺達のより良い未来を掴むために力を貸してほしい。まだ事の詳細は説明できないが、それでも先に話をしておきたかった」

 

 何も説明できないけど、力を貸してくれるって言質は取っておきたいと?随分と都合のいい話ですね。

 

「いやぁ、被害者にそれを頼むのは流石の俺も気が引けたんだけどな。……共犯者なら、一蓮托生だろ?」

 

 …………まぁ、そうかもしれませんね。いいですよ、力になります。

 

「ありがとう。俺も力を尽くすよ。お前もなにか困ったことがあったら遠慮なく相談してこいよ?」

 

 じゃあ、俺が歌歩を怒らせそうなことする未来見たら止めに来てください。

 

「おーっと、相談には乗るが野暮なことはしないのがデキるエリートってもんだ。それはお断りさせていただこう」

 

 なんも役に立たねーな、おい!

 

「いやいや、陰に日向に色々と裏からサポートしてるんだぞ?……ところで、今日入った新人たち、お前からはどう見える?」

 

「……特にこれと言った意見はないですね。見ただけで戦闘センスを見抜けるような技能は持ち合わせてないので。今後に期待です」

 

「ははっ、そうかそうか。確かに、あそこで緊張して冷や汗流してる子なんて、戦闘員としてやっていけるのかね」

 

 迅さんが目を向けた先には一人の男の子がいた。……うーん。

 

「なんとも冴えない顔してますね。あれは人の心の機微が分かってないバカなタイプですよ」

 

 しかも俺の方が十倍くらいはイケメンだろう。うん、そうに違いない。

 

「……ああ、そうだな。どっかの誰かさんに似て冴えない大馬鹿野郎だけど、芯はありそうだ」

 

 いつの間にか迅さんはこっちに目を向けて、なんとも表現の難しい笑顔を浮かべていた。…………ふむ。

 

「なるほど。ということは、彼は俺たちと同じく…………物語の主人公ですね?」

 

 もう一度、下のホールに目をやる。そこには、メガネをかけた少年が瞳に強い意志を宿し前を向いていた。

 

 




完結宣言から少し時間も経過したのであとがき内容を更新しますね。
終話投稿当時、ネタが浮かばないこともあり一旦完結とした経緯があります。
そのうち挿話位置を一番後ろに変更するかもしれません。

終話投稿時点の所感は活動報告に書いているので興味あれば見てください。
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