わぁ、鳥!   作:ゆーり

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小夜子とかいうMVP


第十九話「熊」

「友子ちゃん、これ見てよ」

 

「んー? また変なものだったら、ぶつからね……ぶふっ」

 

 女の子がそんなに唾飛ばすものじゃないよ。あと、暴力反対。

 

「なによこれ! あんたまた、玲に変なことさせて!」

 

 熊谷が覗き込んだ端末の画面には、優に百キロは超えてるだろう重しが付いたバーベルを使い、涼しげな顔でベンチプレスしている那須が映っていた。俺がさせたんじゃないよ、玲ちゃんに頼まれたんだよ。

 

「すげぇシュールだよね。玲ちゃんみたいな細身の女性が、たいして力を入れてるようにも見えない真顔でこれだもん。なんかもう絵面がすごい」

 

 フォームも基本に忠実でとっても綺麗だぁ。

 

「え、本当になんでなの? 隊服だしトリオン体なのは分かるけど、筋トレしても意味ないわよね?」

 

 ないね。体の動かし方を学ぶ意味はあるけど、それならスポーツか格闘技でもしたほうがいい。筋肉や骨による可動域の制限がないトリオン体なら尚更だ。むしろ、自由な機動が売りの那須の場合は、肉体の制限に沿った適切な動きを学んでしまうのは損かもしれない。

 

「だったらこれはなんなのよ。トリオン体の活用実験としても微妙な気がするんだけど」

 

「俺も最初は玲ちゃんにトレーニングマシンの使い方を教えてほしいって頼まれただけなんだけどね。トレーニング中に聞いてみたら、筋トレをしたあとにプロテインをぐびっと飲むの、やってみたかったんだって」

 

 筋トレは一時期かなりのブームになって、テレビ番組やアニメもあったからね。憧れてたんだろう。

 

「はぁ、なによその理由。あんたも頼まれたからって、ほいほい受けるんじゃないわよ。私、最近は玲のことがちょっと分からなくなってきてるんだから……」

 

 この前はスケートボードしたいって言うからやらせてみたら、端っこ踏んづけて跳ね上がったのが顔面に直撃してたもんね。トリオン体だからいいけど、生身だったら大惨事だよ。

 

「やめろとは言わないけどね。普段ベッドに居てばかりで、色んなことに挑戦してみたいのは分かるし。でも、なにかする度に体を張る芸人みたいな結果になるのはどうにかならないかしら。外見とのイメージがズレて困るわ」

 

 本人が楽しそうだし、いいんじゃないかな。俺に頼んでくるのは謎だけど。

 

「頼りになる……って言うと少し違うけど、あんまり理由を聞かずに受けてくれるからでしょうね。普通は『なんで?』ってなるもの」

 

 なにか新しいことをやってみたいのに具体的な理由はいらないと思うけど。『やってみたい』だけで十分だよね。

 

「その辺りは玲に付き合ってくれて感謝してるわ。次、私の知らないところで告白したら許さないけど。……あと、この映像、他の人には見せちゃダメだからね」

 

 端末の画面では、パワーラックから移動した那須がチェストフライを最大重量で楽しそうにガションガションしていた。……熊谷が居るところなら告白していいのか?

 

「ん? ああ、なんかこっそりお願いされたし、やっぱり玲ちゃんも筋トレを他人に見られるのは恥ずかしいのかな。これフォーム確認のために録画してたんだけど、後で玲ちゃんにデータ渡したら、端末からは消しておくね。どっちにしろ最後のは人に見せられるようなもんじゃないし」

 

「最後のってなによ……。恥ずかしいのもあるだろうけど、ちょっと男連中には見せられないわ」

 

 男?なんかあったかな。……あぁ。

 

「なんかこう、マニアックな情熱が込められてるよね。那須隊の隊服」

 

「あんたもうちの隊をそんな目で見てるの。隊服のデザインに変な意図はないって言ってるのに」

 

 いや、だっておかしいじゃん。なんなのこの隊服。がっつり鎖骨周りを開ける必要あるの?肩紐とか付いてるけど、これ見えてないとこもデザインされてるの?視線誘導目的なら弓場隊といい、やり方が姑息なんだけど。

 

「ののさんの視線誘導は戦闘中に影響ないでしょ!」

 

 いや、基地で会ったときに誘導されて困るんだよね。弓場さんがいると竹尾ァ!されるし、帯島が居ると横でしょんぼりされて藤丸さんに俺がぶん殴られる。帯島をガン見したほうがいいのかな。

 

「弓場さんに蜂の巣にされるわよ。ののさんにしておきなさい」

 

 帯島を見るほうがマズいのかよ。男性恐怖症じゃないし、シャイなのか?

 

「……男と間違えるよりはマシな誤解なのかしら。いや、どっちにしろ保護者にシメられるわね」

 

 どうすればいいんだよ。弓場さん見てるとメンチ切ってるみたいになるし、神田さんか視線誘導に乗るしかないのか。

 

「で、最後の映像ってなによ。まさか、いかがわしいのが撮れたんじゃないでしょうね。隠すならこっちも手段は選ばないわよ」

 

 いや、そういうのではないんだけど。那須のプライバシーもあるからね。これはいけない。

 

「……玲のいかがわしい映像を撮ってるって、言うべきところに言うわよ。覚悟しておきなさい」

 

 撮ってないって言ってるだろ!どいつもこいつも歌歩に言いつけやがって。……まぁ、熊谷になら見せても大丈夫か。後でどうなっても知らないけどな!

 

「実はプロテインのフレーバー、色々持ってたから選ばせたんだよ。普通の味をおススメしたんだけどね。どうせならトレーニーの気分を味わいたいって、鶏ささみ卵白味っていう罰ゲームみたいなのにしちゃったんだよね……」

 

 端末の画面では、那須がぐびっと飲んだプロテインを勢いよく噴き出していた。……開発部のジョーク製品なんだけど、液体からささみと卵白の味がして、違和感で喉が拒絶するんだよなぁ。

 

「分かってるならちゃんと最後まで止めなさいよ!」

 

 ぐふっ!……さすが迅さんのセクハラで鍛えられているだけのことはある。オペレーターたちにも負けない、腰の入ったいい拳だ。

 

「それ、おかしくない? あたし攻撃手なんだけど。逆でしょ」

 

 やつらは日々、己の武力を高めているからな。惜しいことだ、彼女たちが戦場に立てればトリオン兵など物の数ではあるまいに。

 

「はぁ、もういいわ。これ消しておくから。次の機会があったら美味しい味にしてあげてよ」

 

 折角なので、そのまま熊谷と模擬戦をした。うーん、あんな話をしたせいかもしれないけど、やっぱりこの隊服は視線誘導性能高いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、熊谷に最後の映像を見せたことで那須からものすごく怒られてバイパーの的にされた。どうやら熊谷にこそ、見せてはいけなかったらしい。人間関係というのは難しいな。




うちの那須ちゃんは運動なんでも試したガールなので体を動かすことなら、とりあえずやります。

これより先に『走れみかみか』ってメロスをパクった番外編書いてたんだけど、自分の正気を疑ったのでお蔵入りにしてたら時間が掛りました。
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