仕事を終え、帰還する最中であった次元航行艦アースラは、クリシスより脱出した拓海と合流。
そして拓海によりもたらされた情報を聞き、騒然となった。
「マガオロチにゴーデス細胞………どちらも強力なロストロギアが、どうして………」
苦渋の表情を浮かべるクロノ。
周りにいる局員達も、不安な顔を浮かべている。
マガオロチとゴーデス。
両方共、拓海達のいる地球には現れてはいない。
が、管理局は双方と遭遇し、交戦した事があった。
特にゴーデスの方は、出現した惑星諸共「アルカンシェル」で吹き飛ばす事で、なんとか撃滅できた程の強敵だ。
無論、二つ共がロストロギアとして分類 され、警戒されている。
その二つが再び姿を現したとなれば、緊張が走るのは当然だ。
「でも………変だねクロノ君、ジェラシーマスクにそんな規模の芸当が出来るとは思えない」
「ああ、僕もそう思う」
だがイズミの言う通り、転生者としても次元犯罪者としても三流であるジェラシーマスクが、そんな大それた物を2つも用意出来るとは思えない。
「………まあ、それはさておきだね」
たしかにそれは気になるが、まずは危険に晒されている言葉を助けるのが先だ。
イズミが、空中に立体映像のヴィジョンを映し出す。
そこには、クリシスにばら蒔いたサーチャー………監視カメラ付のドローンのようなもの………によって撮影されたマガオロチの卵。
そして触手により囚われ、ゴーデス細胞の侵食を受けている言葉の姿が映されている。
その映像から、イズミは今の言葉の状況を分析した。
「どういう原理かは解らないけど、あのお嬢ちゃんは自力でゴーデス細胞の侵食を抑えてる」
「なんだとッ!?」
驚くクロノと拓海。
クロノは管理局からの資料で、拓海はウルトラマンGを一度見た事で、ゴーデス細胞の恐ろしさを知っている。
だから、言葉がそれの侵食を抑えていると聞いて、信じられなかった。
「いやはや、何かのレアスキルか………」
イズミもあり得ないと考えているらしく、その表情から驚きが見て取れる。
レアスキル………「リリカルなのは」の世界において、その名の通り、普通の人は持っていない稀少な能力………の類いと考えるのが普通だろう。
「………でも助かる訳じゃない、分析の結果、これが維持できるのは後三日程だ」
「そんな………!」
しかし、それが続くのは三日だけ。
それを過ぎれば、ジェラシーマスクの言った通り、言葉は完全な怪獣となってしまい、二度と元には戻らない。
「………無論、このまま何もしない訳じゃない」
だが、それでも見捨てないのがクロノ・ハラオウンという男。
通信魔法を展開し、ある場所へと繋ぐ。
そこは………。
「こちらはアースラのクロノだ、聞こえるな?無限書庫」
『うん、ばっちり』
通信魔法の先にあるのは、管理局の抱える巨大データベース「無限書庫」。
その名の通り、管理世界の様々な本やデータが納められた、気の遠くなるような巨大な巨大な書庫だ。
が、あまりにも巨大であるが故の弊害として、中身のほぼ全てが未整理のままだ。
本来の「リリカルなのは」において整理が始まるのは、今よりもう少し後の話。
だが、この世界 では今の時点で整理が始まっている。
この世界では犯罪者やロストロギアの他に、巨大怪獣や転生者も驚異として存在する。
それを考えると、まあ当然だろう。
「資料は先程送った、対ゴーデス細胞用の抗体を作る為の資料を探して欲しい」
『………知ってると思うけど、整理自体始まったばかりだから結構かかるよ?時間』
そして、通信魔法の画面で怪訝な顔を浮かべているこの、ハニーブロンドの髪の可愛らしい少年こそが、整理を進めている功労者。
少年の名は「ユーノ・スクライア」。
知らない人からすれば、人間の姿は馴染みが薄い。
が、「なのはの肩に乗っているフェレット」と云えば、解るかも知れない………多分。
スクライア族という、遺跡の発掘調査を生業としている種族の出身。
彼が発掘したロストロギア「ジュエルシード」が、PT事件の首謀者たる「プレシア・テスタロッサ」の手で強奪されかかり、海鳴に散らばる所から「リリカルなのは」の物語が始まる。
ユーノは一人回収を試みるが、ジュエルシードから生まれたモンスターに敗北。
大ダメージを負った彼はフェレットのような姿になり、なのはに助けられる。
そして、協力を申し出たなのはに「レイジングハート」を託し、魔法を教え、共にジュエルシード回収の為に奔走する。
………ようは、それまでの魔法少女モノにおけるマスコットキャラクターの枠である。
そして、それらのマスコットではお約束の、主人の着替えやらお風呂やらに同室してしまうシーンもあり、「淫獣」等という不名誉な渾名をつけられてしまった。
また、放送当時のオタクからはそれでかなりのヘイトを稼いだらしく、クロノ共々言われなき苛烈なバッシングを受けた。
………彼の名誉の為に言っておくが、ユーノは決して性欲狂いの変態ではない。
純朴で心優しい少年である。
「三日以内でやってくれ」
『無茶を言う………』
「人の命がかかってるんだ、無理とは言わせん」
『うう………』
しかしながら、そうしなければ命と次元世界の両方が危なかったとはいえ、
ユーノの行動は「何も知らない少女を戦いに巻き込んだ」事には代わり無い。
クロノにはそれが許せないのか、度々ユーノに辛く当たるシーンがある。
「A´s」でのフェレットもどき呼ばわりや、劇場版のコミカライズで、それが見られる。
『まあまあ、ハラオウン執務官も、そんなにユーノくんをいじめないでくださいな』
「ヘビクラ司書長!」
そんな、ユーノとクロノの間に割って入ったのは、長い金の髪を後ろでまとめ、緑色のタイトスーツ………「StrikerS」のユーノと同じ服装………に身を包んだ、一人の女性。
彼女は「ショーコ・ヘビクラ」。
現時点で、この無限書庫の司書長であり、ユーノと共にこの無限書庫の整理と探索を進めている女性。
「StrikerS」でユーノが司書長になっている事を考えると、彼女はその先代と言える。
まあ司書長と言っても、実質肩書きだけであり、整理探索が始まるまでは技術局に居た科学者でもある。
『資料の方はなんとか揃えてみます、私とユーノくんが一緒ならすぐですよ………ねっ?』
………外見的には、どこぞの騎士王が槍の位で召喚された最の姿に似ている。
その良すぎる顔的にも、その良すぎるスタイル的にも。
『ええ………あ、はい………』
そんな綺麗なお姉さんに近寄られれば、いくらユーノが純朴な少年といえども、頬を赤くする。
スーツに包み切れず、シャツごと外にはみ出た言葉並の乳房を押し付けられているのなら、尚更だ。
………その様を見て、拓海はこの場に居ないなのはに、少しだけ同情した。
君の恋のライバルは、思ってる以上に「デカスゴ」だぞと。
まあ、彼女が多くのファンが望むように「なのフェイ」に走るなら、話は別であるが。
何はともあれ、抗体の開発は無限書庫と技術局に任せるとしよう。
「それと、拓海」
「は、はいっ!」
拓海にも、やる事がある。
いつもの人員不足で拓海しか動かせないのもあるが、今回の事件が拓海が気を抜いたせいという事もあり、拓海自身も落とし前をつけたかった。
だが、今の拓海の実力では言葉を助ける事は出来ない。
そんな拓海に対して、クロノは。
「君には本局の「トレセン」に行ってもらう」
「トレセンというのは………あの、トレセンですか?」
「そう、そのトレセンだ」
トレセン………それは、本局にある武装局員のトレーニングセンターの俗称だ。
様々な設備が揃っており、クロノは勿論、様々な魔導師が、そこで腕を磨くという。
「君には、そこである人物の元で訓練を積んでもらう………まあ安心してくれ、変人だが腕は確かだ」
どうやらクロノは、拓海にそこでマガオロチの触手を切り抜ける位の強さを身につけて来いと言っているようだった。
変人というワードが引っ掛かったが、コーチまでつけて。
「言姉ぇ………必ず強くなって、助けに行くから!」
拓海の心に、決意の炎が宿った。