翌日の早朝に大神潤香は目を覚ます...その表情は何か目覚めが悪そうにしており苛立ちを隠していられないようだ...
彼女は布団から身を起こし額に手を当てる...
side潤香
...何故か最悪の目覚めです
昨日は私の任務の失敗が大神家に泥を塗ったことを知り精神的にキテしまいました...いつの間にか胸の傷が開いていたし、とりあえず休むようにと境奈お姉様から言われましたが正直休むに休めません...
「頭が痛い...あら?」
顔が濡れている?汗でもかいたのでしょうか?昨日の気温はそこまで高くなかったはずですが...
そして私は忌々しい腕輪を見る...これのせいで私は半獣の姿でいることを余儀なくされた...実に腹立たしい...
「...気晴らしに外の空気でも吸いに行きますか」
私は立ち上がり外の方へと向かう...
「...あら?」
尻尾が何かに引っかかったのか入り口前で動けなくなる...何でしょう?
「何でしょう?...」
「すぅ...すぅ」
私の尾を掴んでいたのは聖白蓮だった...寝息をたてて私の尾を抱き枕のように抱いて眠っている...何故こんなことを?
私は尾を引っ張るがびくともしない!
「ぐぐ...このっ!」
メキッ!
何か嫌な音がしました...このまま引っ張ったらちぎれるかもしれません...別にどうでもいいが朝から血しぶきは見たくはありませんね...
「...はぁ」
今日でこの寺に来て2日目ですか...寺の住民の顔は大体覚えましたが如何せん私はまだ警戒されているようです...
まず...寅丸星...毘沙門天代理...元は寅の妖怪だったようだが仏の道に進んだという変わった経歴を持っている...本人はのんびり屋で警戒心が薄いがこういうタイプこそ頭が切れそうだ...この前庭で何か探し物をしていたようだが...
鼠の妖怪ナズーリン...彼女は寅丸星の部下のようだ私の正体が狐と分かってか私に近づこうとしません...別に鼠の肉など食いはしないのに
雲居一輪...彼女は元人間らしい...入道雲の雲山といつも一緒に行動しているようだ...入道雲というのは初めて見たが言っている言葉が理解不能...どうやら彼の言っていることは一輪本人しか分からないらしい...私のことをどう思っているのか不明...
「そして」
「すぅ...むにゅ...」
聖白蓮...この寺の住職...まさか私とやりあって勝つとは人間を止めているだけはあるか...こうなるんなら最初から本気でいけばよかった...
「ふみゅ...」
「っ!」
白蓮が私の尾の付け根を思いっきり抱きしめる...何でしょう?変な感覚が体の中をめぐる...待って!色々と駄目!幾らなんでもこれは!
彼女から尾を解放しようとするが全く抜けない!能力も使えないからすり抜けられない!!
「~!!!」
side白蓮
「...くしゅん!」
...くしゃみをし私は目を覚ます...何でしょう?花がムズムズします。
目を開けると目の前には大きな黒い尾...ああ...潤香の尾のようですね...抱き着いたまま眠ってしまいました...
尾を辿って潤香の方を見ると彼女は頭に黒い雲を漂わせてハイライトの籠っていない目で私を見つめる...
「...お...おはようございます潤香...どうしました?」
「...別に何でも...厠行きたいので離してください」
私が尾から手をはなすと潤香はよろよろと廊下を歩き角を曲がり消える...一体何があったのでしょうか?
「...とりあえず朝食ですね!」
私は朝食を用意するために自室を後にする...
30分後...
朝食をつくりいつも通りに皆で朝ごはんをとる...
潤香の方は元気がないようです...先ほどから梅干を箸でつかんではお椀に落としており一向に食事が進んでいないようです...
私が見守っていると一輪が私に耳打ちをする...
「...姐さん...一体彼女どうしたんですか?」
「...わかりませんとりあえず様子を見ましょう」
私はお椀を置き近辺の情報が書かれた書状を見る...
(海にて船幽霊が船乗りを襲う...漁業に深刻な影響が)
...最近海では溺死する人が増えているようね...次はこれに行こう
「...一輪ここは任せたわね」
私は潤香を彼女に任せて寺の裏にある滝へ向かう...
ザー!!
...今日もすごい勢いで流れ落ちています健康な体・精神をつくるには日々の鍛錬が欠かせません...本日はどのくらいにしましょうか?
「...いざ」
私は冷たい滝の中に入る...
身も凍るような寒さ・痛さ...でもこれが生きていると実感しますね...人をやめたとはいえこの感覚が分かるとほっとしますね...
「...生きていますね」
「...何がです?」
「う?」
目を開けるとそこには潤香がいた...何で滝の真ん前に?
「どうしてそこに?」
「...いえ...ここのほうが涼しそうだったので...寺にいると見張られているので」
潤香は私の隣に座り一緒に滝に当たり始める...
「...体はもう大丈夫ですか?」
「...ええ何とか...おかげで致命傷前の健康な体に戻りましたよ」
...表情には出さないがやはり怒っていますかね?昨日は仕事の失敗の叱責があったようですし...
「...ごめんなさい...貴女の仕事の邪魔をしてしまって」
「...別に謝らなくても」
潤香は慌てるような顔をする...
「でも...昨日泣いていましたし」
私の言葉に潤香は首をかしげる?
「...私が泣く?...ありえませんね...涙なぞとっくの昔に枯れてしまいましたよ」
...自分が泣いていたことに気づいていない?私は喉まで出かかった言葉を飲み込む...いくらなんでもこの前の彼女の話しを聞くことはできません
「...」
「...私の過去が気になりますか?」
「!?」
私の反応を見て潤香は寂しそうな笑みを浮かべる...
「...長い時を生きていると色んなことがあるんですよ...嬉しかったこと・辛かったこと・悲しいことなどね」
「...この前の主との話ですか?」
潤香は頷き話を続ける...
「...人でも無く妖怪でもない私でしたが人の生活に興味を持ち主に仕えた...あの時は毎日が楽しかったですよ」
徐々に潤香の顔が曇り始める
「...主に私の正体がバレて私は気づいた...人と妖怪の住む世界は全く違うことに人は人の生活・妖怪には妖怪の生活というものがあります...私には立ち入ることなど烏滸がましかったのかもしれませんね」
「それは違います!人も妖怪も平等に接することは自由なのですよ!」
「平等ですか...そんなものありますかね?世の中は不公平なことにあふれていますよ?」
「ええ...確かに...ですがその不公平を平等にすることは私たちが行動すればいつかはできます!」
「行動?」
「そうです...何事も行動しなくては始まりません...私も夢のために前に進んでいくしかないんです」
「夢?もしかして人を止めたのと関係が?」
「...元々私が人を止めた原因は最愛の弟である命連が亡くなったこと...それにより死というものに恐怖が生まれてしまいました...人というのは何と弱く儚いものだと...何故仏は人間と妖怪との強者と弱者の境界を作ってしまったのだと...本当の平等など存在しないのかと...」
「...」
「ですが...長く生きていくうちに気付き始めたのです...弱いのは人間だけではなく妖怪にも弱い者はいるということに...人間に虐げられている妖怪を見たときは驚くと同時に決心をしました」
「...決心?」
「...私は人と妖怪の真なる平等を目指そうと決心したのです...妖怪の中には私の言葉に耳を傾けてくれる者はいます...今はまだ小さいことですがいつかは本当の平等と実現できると私は信じています」
「平等...」
潤香は視線を下に向ける...
「...もちろん貴女も例外ではありませんよ潤香...貴女は自分が人でも妖怪でもない存在と思っているようですが幸せになるのは誰もが平等...貴女も幸せになる権利はあるんです...ですから自分をあまり責めないでください...」
「...幸せですか」
潤香は長い沈黙の後滝から抜け出して寺の方へ歩き始める...
これで前を向いてくれるといいのですが...
1時間後私は滝行を終わらせて海へ行く準備を行う...
「...これで良し」
いつもの服装に錫杖を持ち私は自室を抜けると何かを探している一輪と遭遇する...
「あ!姐さん!」
「そんなに慌ててどうしたのです?」
「...実は潤香の奴がいなくて寺中探しているのですが...」
...潤香が消えた?
でも私の数珠をつけている以上彼女は能力を封じられている...外に出るという危険な行為はしないと思いますが?
「...引き続き捜索をお願いしますね...私は用事があるので少し失礼します」
「承知しました...あ~!もう!!」
一輪と別れ私は寺の門のところまで赴くと寺の門に寄りかかっている潤香を発見する
「潤香?こんなところでどうしました?一輪が探していましたよ?」
潤香は長い髪を振り払い私のところに近づく...
「...自室に置手紙をしたのですが見てないようですね...船幽霊のところへ向かうのですか?」
「!...何故それを?」
潤香は笑みを浮かべて懐から手帳を出す...
「海にて船幽霊が船乗りを襲う...漁業に深刻な影響があるみたいですね...実はその依頼大神家のリストにあったんですよ...それも私が担当...最近忙しすぎて後回しにしていましたが」
...まさか大神家の者の獲物に船幽霊が入っているとは...しかも担当は潤香...今彼女の能力を押さえているとはいえ...
潤香は手帳を閉じ真顔になる...
「安心してください...私は手出ししませんよ...貴女に少し興味が出てきたので少しお手並みを拝見したいと思いましてね...ついて行っても宜しいですか?」
「え?私に?」
...まさかの彼女がこんなことをいうとは...嬉しいです...分かりあえる時が来るとは
「...ええ!ですが?能力を封じていますので危険な真似だけは...」
「承知しています...私は見るだけですよ」
潤香は微笑み私の後ろにつく...
少しずつ彼女が心を開いてくれている...そう思うと今まで私のしてきたことは無駄ではなかったと実感できる...
喜びに高ぶる気持ちを抑えて私たちは目的地である海へ向かう...
徐々に聖と潤香の心も親密になり始めてきました!
ではこれにて