千年帝国の幻想   作:ベルリン=モスクワ枢軸

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本当は2022年の年末に書き上がってた物なんですが、
まぁ展開とか色々あるし?ということで、投稿が遅れたんです。
パロ入れるの楽しい(小声)

《注意》閑話ではありますが、時系列的に1952年の章に到達していない方にとってはネタバレになる部分があります。


寒空と陽光(閑話)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザイフェルトか、元気そうで何よりだ」

 

これは内戦が始まる少し前の話。ただの日常でしかない話。

 

「ゲーリング大臣ですか、お久しぶりですね」

 

ゲーリングという男にとって、大臣はどこか信用できる人間だった。

 

ゲーリングが財閥や政界へのコネを作り上げたのならば、大臣は同僚の揉め事の調停や様々な状況での補助に尽力したような人間であった。

 

それ故に信頼している。

 

 

 

 

ただそれでも

──久々に会った同僚との会話の内容は

 

「──そうだ、ザイフェルト。あの呪文を教えてくれないか?日本で聞いたとかいう」

 

ザイフェルトを面食らわせるには十分だった。

 

「じゅ、呪文ですか?」

 

「そうだ、あの幸福が訪れるとか言うあの呪文だ。

──つい先日、総統が日本から帰国したザイフェルトに聞いた、と雑談のネタにしていてな」

 

自分がそんなことを言ったか?と真剣に悩んでいた大臣に気付かず、ゲーリング大臣は続ける。

 

「──確か総統が『オンベレブンビンバ』と言い出してな。

それに対して、ゲッベルスとかがそれは違います、と言い出して誰が正しいか思い出そうということになった訳だ。」

 

終始、困惑していた大臣は諦め半分で言った。

「帰って良いですか」

 

だが現実は無常である。

「ゲッベルスはクソ真面目な顔で『ウンダラホンダラゲー』と言うわ。

ヒムラーなんて自信たっぷりに『ビンダラボンチンガー』等と言い出すわ。

ああ思い出した、と言わんばかりに、ボルマンが『プルップ...』と言いかけて、周囲にお前は黙ってろ!、と言われててな。

それを思い出した以上は、こうして答えを聞きたくなった訳だ」

 

──ゲーリング大臣は、大臣の発言を黙殺。というか気づいていない。

 

進退窮した大臣はどうにか記憶の戸を抉じ開け、その呪文はカマクラ出身の市民に聞いたことを思い出し、連鎖的に答えに行き着いた。

 

──ボンタラクワソカではないか、とゲーリングに告げた。

 

これを聞いたゲーリング大臣は満足したのかそのまま帰ってしまい、後日答えは閣僚らに共有された。

 

なお本当の答えは、オンタラクソワカであり、本当は誰もあって居ないのである。

 

更に余談だが、この話は何をトチ狂ったのか内戦中の臨時政府によってばら撒かれる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

──どこから聞いたのか知りたい、臨時政府は私が憎いんじゃなかろうか──ザイフェルト

 

──今更気付いたんですか──オーレンドルフ

 

──でも失敗談を全部羅列する?──ザイフェルト

 

──ウソでしょ……そこまでしないと思うのですが──オーレンドルフ

 

──────────

 

 

 

 

──ザイフェルト大臣、講和条約締結、お疲れさまでした。

 

ベルリンに戻った時に、大勢の記者に囲まれてそう言われた。

 

その時、私はどう答えたかはすぐに忘れてしまった。

 

ただ、その時の気分は雨が過ぎ去った後の塹壕の中に居る様なものであった。

 

彼らは知らないのだ、或いは忘れているのだ。

 

 

 

──占領地の子供たちの目の奥を

 

──凱旋門を潜り抜けた我々を見ていた老人の表情を

 

──レジスタンスやパルチザン活動の最中に捕縛され、拷問を受け、病死していった者の全てを

 

 

 

欧州全土の不安や屈辱感、そして憎悪が、ドイツとNSDAPに向けられている事に。

 

一次大戦の屈辱と踏み躙られた愛国心の怒りを、眼前に居るドイツ国民は忘れてしまったのだ。

 

復讐を掲げた我々は、今まさに復讐の標的になっている。

 

これで良かったのか、他に道は無かったのか──どうしてもそう考えたくなる。

 

 

 

────今の自分が何を言っても無駄なのは如何しようも無い事実で、だからこそ過去を回顧したくなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ザイフェルト、お前は何て書いたんだ?』

 

『……何の話』

 

『将来の職業なり夢の話だよ、もう少しで卒業だから』

 

『ああ、あれか。決まっているとも』

 

売国奴を政界から追放して、私が政界に参加して国家を良くする。

──そうして、敗戦の汚名を雪ぐ。

 

『何時もと変わらないとも』

 

『まだ諦めて無かったのか』

 

『説得でもしてみるか?復讐などせずに幸福な家庭を築け、とでも』

 

その時のグーゼンバウアーらの表情は今でも覚えている。

 

呆れと、私の道が途中で終わると言う楽観。

 

そして無関心。この無関心は、私ではなく政治に向けられたものだった。

 

『ああ、だってお前。歴史学者とかさ、いろいろ向いてるじゃないか』

 

『どうしてそこまで政治に熱中できるんだよ』

 

『だって、生活が苦しかったのだって政治を改善すれば解決できるじゃないか。それに、お前らは俺より遥かに優秀なのに、誰もやらないんだろ?』

 

『死に急ぐ様なもんだろう。誰にも感謝されんし』

 

『それでもやるのか、損な役割なのに』

 

『当たり前だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

──結局、卒業して、彼らと会わなくなった。

 

それなのに──

 

それなのに、何故今になって──

 

 

「私はアイツを、ザイフェルトとNSDAPを赦しはしない。彼らが死ぬまで、死んだ後も」

 

どうして今になって、武器を取るんだ。

 

私を、私達の総てを、今になって否定するんだ。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「趣味ねぇ」

 

紅茶以外の茶葉を最近収集している大臣は顎に手を当ててしばらく逡巡した後、チェスだと言った。

 

「え、茶葉収集じゃないんじゃないんですか?」

 

「ほら、それは個人的な楽しみだから」

 

世間はそれを趣味という。

 

「……では話題を変えましょう。チェスの腕前はどれ程なんですか」

 

「現在487連敗」

 

「弱すぎません?」

 

「集中してないから仕方ない」

 

自分より下手くそな部下を視察先で見つけるのが楽しみだねぇ、とはこの頃の大臣の言葉である。

 

「政治っていうもっと頭を使う職業についてるから仕方ないし」

 

紅茶を傾けつつ、大臣は供述しており──

 

「……大臣が今でもチェスの指南書を買ってる事って有名なんですよ」

 

──そのまま紅茶をティーカップに吹き戻した。

何故バレている、その一念が眉に皺を寄せさせ、部下の眼を覗き込んだ。

沈黙だけが返ってきた、その沈黙は「自滅では?」というぬるま湯のような視線であった。

 

大臣は、ただただ黙りこくった部下の視線に耐え切れず、そっと目を逸らした。

 

酷く曖昧な口をどうにかしようと躍起になりながら。

それを見たオーレンドルフは数瞬の沈黙の後で噴き出した、どうにも我慢できないおかしさがそこにあったから。

大臣も釣られて笑った、吹き出した紅茶の清掃に手がつかなくなるほど笑った。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

──1943年 アウシュヴィッツ強制収容所

 

「釣り?釣りが好きと。それは良い事を聞きました。今度私にご教授願いたいね」

 

鉛色の空と有刺鉄柵、そして位置を潜めながら警戒する痩せこけた人々に囲まれた異空間の様な気味の悪さに充満している中、大臣はまるで柔らかい日差しを浴びる丘を散策するかの様に喋っていた。

 

大臣は此処がどういう施設で、これから何を見るのか、それを知っている。

それでも大臣は部下が熱心に書類を処理し、整理する光景を見て、それを賞賛し、労った。たとえ虐殺に関する仕事でも。

 

大臣は無視できたのだ、同じ人が人種を理由に怯えながら死んでゆくのを。表情も、互いに賢明に支え合う家族も、叱咤激励しあう友人も、その目を見た上で。

 

殺人行為で凄まじい嫌悪に溺れても。

悲鳴で同情が胸を抉ろうと。

大臣はその不快感と嫌悪感を無視できた。

 

ドイツの為、この一言だけで平然としていた。

必要不可欠の行為であると、受け入れた。

現実を見て、それでも尚改める理由を見出そうとはしなかった。

正しく言うとする資格も、理由もなにも持ち合わせていなかったから。

 

「なぜこんなことをする!?私たちが何をしたというんだ!」

大臣は自分が何を言ったかなど覚えていない。

 

ガス室と飢餓、そして病に苦しんで死んでいった無念を顔に張り付かせた死体。

毒ガスに悶え苦しみながら扉を引っ掻き回す音と怨嗟の呻き声。

 

常に彼らの目を見る大臣はよろめく事も、嘔吐する事もしない。

いつもと変わらぬ対応、幼少期の純粋さを台無しにして作り上げた表情。

余りに機械的で主義に忠実、それは同胞愛の裏返しかもしれない。

 

 

 

大臣の視察の傍らで二百人が死んだ。

 

それは悲劇であり、同時に惨たらしいまでの帝国主義とNSDAPのナショナリズムの発露の一巻に過ぎなかった。

 

大臣は変わりない日常を過ごすかの様に振る舞い、収容所職員の虐殺への無関心さから来る淡々さを評価した。

如何なる職務だろうと揺るが無い事は素晴らしい──大臣は収容所職員らへの挨拶代わりに短く賞賛したとされる。

 

 

 

 

 

──────────

 

──ブルジョワジーとプロレタリアート。貴族と農奴。

何時如何なる時代であろうと、私は相反する階級を結合させようとするだろう。私が愛する集団には対立は不必要だから──ザイフェルト

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