あとあれですね、感動的なまでに停滞し始めてるぞ(ドーバー海峡なんて要らんのです)
1945年 春
『マンシュタイン元帥、少々お時間を頂いて宜しいでしょうか』
一言で言うなら、マンシュタインはザイフェルトの言葉に引っかかった。
オーレンドルフなど部下や同僚が聞いたなら、この妙にへりくだる言い方をする時の上司は危険だ、とすぐに察しがついただろうが、酒の場に稀に連行されるような比較的付き合いが薄い国防軍上層部は気付かなかった。
『シベリア鉄道や、その周辺の制空権は確保出来ていますか?』
気付かなかったから、これにも軍人の矜持として胸を張って事実を言う。
オーレンドルフなら、ワザと濁すところだ。
何故なら思いつきで振り回されたことが幾度とあるからだ。
ザイフェルトという『突発的な行動家』は満足そうに頷き、思い付きの形をした爆弾を投下する。
──これなら、大日本帝国に行けそうだ
そして、被害者代表マンシュタイン元帥はこう回顧した。
──妙にへりくだるザイフェルト大臣からは逃げろ
と。
当然、いつもの暴挙に総統は居ない大臣について気付かなかったり、笑顔で送り出した関係各所を怒鳴り散らし、
大臣が戦争継続に最低限の指示を部下に与え、新たな生産ラインを稼働させていることを確認した後、
「ザイフェルトに対日外交指導者としての権限を認める」として事態を追認し、こう続けた。
──ザイフェルトの事だ。必ずいつも結果を持ち帰るから強くは言えないし、それにもう……慣れた。
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──私が学生だった時のザイフェルトは指導者としての資質に欠けるように見えたものです。ですから、あいつが政界で暴れ回っている、と聞いたときは仰天したものです。
あいつは努力で学生の頃から誓っていた事を達成したのです、今思えば、あいつが片っ端から同級生を抹殺していたのは同門への恐怖と、正しい評価の裏返しだったのかもしれませんね。
膨大な時間と努力で成り上がったのを、才能と努力上手で蹂躙されるのを理解していたんでしょう──グーゼンバウアー
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──大臣が大日本帝国に渡航する前のこと──
「ご苦労!グーゼンバウアー」
チェスを指しながら、学生時代の頃に戻ったような口調で大臣は話しかける。
雑談が興に乗り、チェスも終盤に差し掛かった頃。
大臣としての顔を覗かせ、新型兵器についての話題を出した。
グーゼンバウアーは現状解明済みの理論を分かり易く、かみ砕いて説明をし、その殺戮兵器の破壊力、恐らくは都市を灰に出来る事も付け加えた。
ただし、実戦、または試験投入の時期が終戦までに間に合うか、これが怪しい、どうにかしてくれないか、と既に放射能の新しい可能性に捕らわれていたグーゼンバウアーは口にした。
奇妙なことにグーゼンバウアーには大量殺戮の発想がなかった、可能性は承知していたが実行されるとは思ってもいなかった。
初めはそこまでの熱心さは無かったが、次第に性なのか惹かれていき、新技術開拓に熱中していた。
だからなのか、新型爆弾の投入については、沿岸での起爆など人道的な手段しか選択肢は存在しない、と思っていた。
逆にザイフェルトは、マダガスカルに実験目的で投下、英国本土攻略に使用し、アメリカ世論を講話に引き摺りだす、と言った発想であった、好奇心や戦後社会での地位確立など、説明を聞いている間に既に考えを巡らせていた。
職業上の食い違いとは思え無いほど発想が乖離していた。──こう、グーゼンバウアーは回顧している。
途方もないほどの努力と時間でザイフェルトは自分を政治家と定義して、政治家という型に彼自身を変質させていた。
──新型爆弾こそが世界大戦終結のカギとなり、大国間の戦争すら防げる──ザイフェルトはこの技術こそ戦勝国が独占すべき、と考えている。
──────────
同日 褐色館で
「大臣、少し良いでしょうか」
「どうしたの、オーレンドルフ?」
少々言い辛そうに沈黙をした後、部下は口を開いた。
「黒いオーケストラのリストですが」
「うん」
「彼らは反NSDAPだけを目標として動いていた複合組織なんでしょうか」
「と言うと?」
「何が言いたいのかといいますと、
黒いオーケストラメンバーの資料があっさりと手に入った事と、
そのメンバーとされる人が全て何らかの反NSDAP運動や組織に属していたこと、
そしてその別に所属していた組織が学生運動や、共産主義勢力など勢力が極めて限定される、もしくは半ば瓦解しているということです」
そう言ってメンバーとされる資料と他組織に属していた経歴のリストを渡される。
なるほど、不思議なほどに思想信条や支持基盤、既に瓦解していたりと組織の連合体の体すら『成していない』。
これじゃあまるで……
「「本当の黒いオーケストラがあって、あの事件の黒いオーケストラは偽物」」
じゃあ、シュタウフェンベルクは嘘を流している。
この線は疑われたけど他に有力な手掛かりが無いから没になった。
トカゲのしっぽのように役立たずを切り捨てたわけじゃないだろうし……
「つまりさ、オーレンドルフ。
まだ終わってないんだよね?
『まだ』邪魔をしようとする裏切り者が政府中枢に根を張ってる可能性もあるんだよね?」
「そう、ですね」
「これは誰かに言ったかい?」
「いえ、言ってません」
「よろしい、極秘で進めて欲しい。SSの中から信頼できる人を集めてくれ。
君がその総指揮に立ってくれ、最後の処理は私がしよう」
「わかりました」
「功績を全部奪うような真似だろうけど、許してほしい」
──もしかしたら使えるかもしれないんだ
そう続けそうになって話を変えた