──NSDAPが第一党に躍り出た?
政権を握った?
独裁体制を実現した?
まだ世界秩序に勝利していないだろうが──ザイフェルト
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1945年 東京
「──ありがとうございます、本当に」
対日交渉が完全に終了した時、日本では本格的な夏が到来していた。
この春から夏までの間に、大臣は各地を視察するなど欧米有数の知日家に成長していた。
大政翼賛会と言う諸勢力が合流している政党が日本を率いているからこそ、色々な人に会えて、それが大臣にとっては慣れない環境でも『政治の場に居られて楽しかった』。
どれほど政治家じゃない時代に回帰しようとしても、呪縛の様に政治から離れられなかった。
紆余曲折あって交流を持った石原莞爾等、大臣と交流を持った者は口を揃えて、大臣をこう評した。
──ドイツの為だけに生まれたような人間、と
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新型爆弾開発のナンバー2は机の上の手紙を睨みつけていた。
──まだ、諦めていない。
黒いオーケストラにいる同級生は。
あのザイフェルトから、あのNSDAPからドイツを奪還することを。
でも、今更になって黒いオーケストラへの参加を促す理由が分からない。
確かに壊滅した筈では?
それともまだ、黒いオーケストラは生きているのか?
もし黒いオーケストラに参加すればザイフェルトとはどうする?
SSにこの情報を伝えればあの同級生はどうなる?
纏まらない考えを螺旋状に積み上げる。
じっとりとした汗が全身に不快感をまき散らす。
愉快そうに笑うザイフェルトを思い出す。
手から熱が消えて、細かく震えだす。
いつもなら気にも留めない部屋の隅々に印されているハーケンクロイツを見る。
顔面が蒼白になり、呼吸が荒くなる。
監視されているのでは、と心臓が跳ね回る。
新聞に印刷されている総統の写真が視界にはいる。
視線が定まらなくなり、体から安定感が失われる。
一字一句暗記した招待状をひたすら破る。
破った紙を灰皿に叩きつける。
配給された金メッキのライターで火をつける。
天を仰ぎつつ、自分が歴史の脇役から主要人物として無理矢理、劇に立たされたことを自覚する。
灰皿を見やる。
そこにあった招待状は燃え尽きていた。
答えは決まらない、だが、
一度、
たった一度だけで良いから、
どれほど時間が無くても良いから、
あのどこか遠くの世界の住人に思えた大臣と、これからの話を腹を割って話をしなくてはいけない気がした。
まだ、震えは収まらない。
まだ、汗は止まらない。
まだ、顔色は蒼白のままだ。
だが、彼は立つ。
務めて冷静に。
グーゼンバウアーは耐える。
彼はきっと耐え抜くだろう。
やるべきことはまだ沢山あるのだから。
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──黒いオーケストラも、ザイフェルトも、同じぐらいドイツを愛している、そして勝利を強く求めていたと思います。
勝つために、強くなる為に凄まじい貪欲さで、彼らは歴史の大舞台で争っていたんです。
勝ちたい、勝ちたい、負けたくない、と。
でも、眼前でその正義が奔流として暴れ回るのを知った時は、恐ろしかった──グーゼンバウアー
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自分が此処に居る、人生の大海原の灯台とも言える我が闘争を読み返す。
我が闘争に記されたアーリア人種の優越性や劣等人種の処分など、もはや現状とはまるで違う理想化されたナチズムを突き付けられる。
肥大化した親衛隊、NSDAP幹部の派閥化、その場凌ぎにしかなりえない経済処置
──そして、我が闘争に書かれた事全ての達成を要求する大衆
それらを全て暴発させていないのは、他ならぬアドルフ・ヒトラー総統だ。
ではアドルフ・ヒトラー総統が居なくなれば?
ドイツは地獄を見る、見続ける。
醒めない悪夢が到来する。
だからと言って、我が闘争に書かれた事を一言一句違えずに達成するような事をしていれば、間違いなく敗戦していた。
ナチズムを良いように曲げてきた私だからそう断言できる。
ボロボロのNSDAPの聖書を閉じる。
私達、NSDAPはこれからもナチズムとは離れられない、一蓮托生の関係だ。
でも──欧州とドイツの市民は無関係だ。そうでなくてはならない。
日本に行って分かった事だ、もう硬直化してしまったら戻れない。
あの国は、軍部や右翼が徐々に弱まりつつある。
あの国はまだ変われる。
──だったらどうして我が民族が変われない道理がある?
統一するまで苦難の道を歩み続けたドイツに不可能は無いはずだ。
私の愛して止まないドイツに不可能は無いはずだ。
私のドイツだ、不可能だろうが達成させる。
私が出来ることは『ナチズムを騙し騙し変えていく』事に他ならない。
ザイフェルトは枝垂れ桜とか柳が好き(裏設定にも限度がある)