千年帝国の幻想   作:ベルリン=モスクワ枢軸

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墓標と汚染の島

綿密な爆撃、超密度の砲撃、化学兵器、生物兵器、そして核兵器。

 

マダガスカルに排外されたユダヤ人の最期に見たのはそれらの破壊力だった。

 

母親が子供を庇う、父親がSS隊員に懇願する。

 

SS隊員は泣きもせず、笑いもせず、淡々と引き金を引く。

 

SS隊員は言う「仕事だから」。

 

機械的な、政治的な、感情的な地獄絵図がそこにあった。

 

昇進を競う為、思想の為、理由は何であれ機械的な殺戮を続けてる。

 

そうしてマダガスカルは時が止まった島になった。

 

アンタナナリボの被災を免れた各病院に大量の被爆症のカルテが確認され、これらはドイツが極秘裏に回収。

 

ただし、黒い雨などの投下後の被爆の可能性を示唆する記述は確認できなかった。

恐らく投下後の混乱、マダガスカルの大虐殺での病床逼迫にが原因であるとされている。

日記などの記述も存在していたが、それらはカルテや役所の書類ほど重視されていなかった故に焚書された。

 

マダガスカルの一連の虐殺で死亡した人数の正確な統計は依然不明であり、行方不明者も多数存在する。

当然、被爆症の資料には違う資料も混在しており、当時の被曝に関係する資料は正確性に欠ける、とも言われている。

 

同じようなことを親衛隊上層部も考えていたようで、ザイフェルト大臣が発起人として『原子爆弾実験委員会』を設立。

 

戦術核兵器の研究

被曝に関わる正確な調査

 

を目的とした対連合国投下実験を提案、

以降から政府・国防軍・親衛隊の核兵器使用の調整機関として活動する。

原子爆弾運用に関わる重大な機関として、総統から北欧神話から名を与えられている。(大臣はその名前を好まなかったとも言われている)

 

核兵器と言う兵器は総力戦を人類の破滅と等価交換させるモノになるだろう。

 

戦争が終わる期待と、人類滅亡を更に現実化させた恐怖、それら二つに挟まれたグーゼンバウアーは後にそう回顧する。

 

──────────

 

──対等な愛からザイフェルト大臣は無縁だった、必ず上下の関係の愛だった。

家族愛から自分を遠ざけ、養子には養父としての義務を優先した。

友人は暗殺され、嘗ての友人は敵に。

それでも指導者だった、強い心を持っていた

 

──────────

 

骨も金属も一瞬で蒸発させ、強烈な熱と爆風、そして光で、何もかも吹き飛ばし、炭化させる。

 

爆心地の近くでは、生きていた時の影をコンクリートに映し即死。

 

離れていても窓ガラスが衝撃波で榴弾と化す。

 

熱で服の模様が火傷として皮膚に貼り付く。

 

べろり、と皮膚が指先から垂れ下がる。

 

たったの一発で何万の命を奪い、それ以上の人生を放射能で侵し続けた。

 

泥と涙と血の三色が被曝者の人生を彩った。

 

大臣は眉一つ動かさずにアンタナナリボを視察。

大臣の頭の中には新たな終戦への航海図が描かれていく。

 

──────────

 

イギリス

 

「首相、ドイツが原爆を開発しました」

情報の有用性を理解する彼らは、早くも察知していた。

急遽、召集された閣議では誰もが黙り込んだ、否、そうせざるを得なかった。

 

──アメリカに続いてドイツが原爆を手に入れた

 

連合国が想定していた幕引きはこうだ。

 

──生産力で辛うじて優勢な今、ドイツ、または日本に核を投下し、僅かでも有利な講和を獲得する。

 

しかし、ドイツが核を持つと言うことは報復される可能性が浮かび上がる。

 

ここで連合国の一撃講和論は脆くも崩れ去ることに。

 

思想云々の話では無い、一人の精神、路上の雑草全てを注ぎ込む総力戦だからこその当然の可能性だった。

 

だが核開発を知ってから講和、とはならない。

 

国民は何処の国も徹底抗戦を求めていたから、敗戦直前であれば猶更。

 

イギリスでも資本家の積極的なロビー活動や愛国心を煽る報道が日に日に増していく。

 

退けなくなった連合国や枢軸国首脳の見解は偶然にも一致していた。

 

──核兵器を使用せよ

 

──凄まじい一撃を与え、それを持って講和せよ

 

だがここで連合も枢軸も理性が危険性を思い出す。

 

どこかの国にさえ投下すれば終わる、しかし生半可な爆撃だと報復される。

 

しかしここでチャーチルを打ちのめす事実がある。

 

──連合国には打開する術が無い。

多くを失い過ぎたし、敵を引き付けてくれる肉壁はもう居ない。

つまり英国として、連合国としてはこの膠着状態しか選択肢がない。

 

──国民世論を敵に回すか、このまま戦争を続けるか。

 

苦々しく、溺れるような苦しさがチャーチルを締め上げていく。

 

──────────

 

──いったい何を躊躇う必要があるというのですか!?

この一発をブリテン島にくれてやるだけで戦争は必ず終わる!

戦争に勝って終わるのです!属国のような真似なんかしなくて良いんです!

イギリス市民の命?だったら海兵隊にでも良い!誰かの人生を叩き潰せば全て終わるんですよ!

これは戦争です!これで30年の平和は確約されるんです!

今更、人道だの人権だの自由に拘って何になる!?勝てば良いんですよ!──ザイフェルト

 

──────────

 

1946年8月 ローマ

 

第二次バトル・オブ・ブリテンの枢軸の優勢は確実なものとなった。

 

決戦らしい決戦は無かった、ずるずると消耗戦を続けたようなものだった。

 

ロイヤルファミリーはカナダに亡命した。

 

ロイヤルネイビーは被害が拡大、戦艦や重巡洋艦、航空母艦の修理の為にドーバー海峡から離れた。

 

そしてそれはドイツ空軍からは筒抜けだった。

 

だが足りない、ゼ―レーヴェ(アシカ)作戦実行には海軍が足りない。

 

現状拡大してるとは言え、付け焼刃に過ぎない!

 

ではジブラルタルもスエズも制圧した今、何も障害は無いイタリア王国から支援を依頼しよう。

 

イタリア王国は気前よく要望に応えた。

 

助られるだけではメンツが丸つぶれだったのだろう。

 

戦艦ヴィットリオ・ヴェネトを旗艦とした主力海軍が海峡を制圧しにくる。

 

アシカ(ゼ―レーヴェ)は多くの航空機に護られるだろう。

 

そしてゼ―レーヴェは大洋を渡り丘へと登るだろう。

 

それでもなお悪足搔きを続けるなら核が使われるだろう。

 

──────────

 

──善人や正義ぶる人間ほど悪意にあふれている──ザイフェルト

 

──────────

 

──政治家とは、愛国者とはこうあるべき、そう定義した。

 

──社会にでるために一人称も変えた。

 

──大嫌いな勉強も取り組んだ。

 

──醜い発想に染まって、損得勘定で動いた。

 

──全て変えた。

 

同級生は不可能だと言った。

 

腹立たしい現状から逃げたくて、恨めしい敗戦を変えたくて。

 

私は私になった。

 

否定させない、逃がさない、許さない──

 

──人生も、性格、夢も捧げた。

 

ここまで来た、来てしまった。

 

長いナイフ、リガ、アンタナナリボ──。

 

理由はどうであれ、屍山血河を築き上げた、自分の手で。

 

なのに

 

なのにどうしてここまで

 

足掻いて

足掻いて

足掻き続けても、

 

私の前にいつも奴ら(昔の知り合い)*1は居るんだ!

 

 

どれだけ苦労して、どれだけ苦悶しても必ず奴らは私より上に来る。

 

性格も時間も倫理も道徳も、全部全部後回しにして足掻くのに勝てない。

 

どうしてそこまで当然の顔して、私の努力を越え続けられる。

 

それだけの才能があって何故政治に加わらない。

 

でももうここまで来た、誰にも止めさせん。

 

やっと勝てる、やっと復讐できる。

 

誰もが否定した復讐を。

 

負けて負けて負け続けた、でも夢は果たせる、でも私の勝ちだ。

 

「──……そうか、これが勝ちか」

 

歪んだ、とは言わせない。

 

これだけ人に恨まれることをしてでも勝つべきだから。

 

きっとそれが私の義務だから。

 

仕方のない代償なのだ。

 

孤独も、疑心も、虐殺も、きっと代償なのだ。

 

このゼーレーヴェ作戦でナチズムとドイツは不動のものになるだろう。

 

「私は勝ったぞ、私はきっと、きっと間違って無い筈だ」

だが

 

だが、代償と言うならこの悲しさは何だ、この苦しさは何だ。

 

NSDAPやSSと現実との乖離は何なんだ。

 

戦勝後の青写真が全く描けない、破滅的予測は何だ。

 

 

 

 

 

 

ナチズムはここまでなのか?

 

──────────

 

──誰よりも(心を)醜くしてまで、誰よりも思想と現実を考え続けたのは間違いなくザイフェルトだ。

彼が調停役を引き受け続けてくれたおかげで、我々は円滑に進めることができた。

私にとって彼は信頼と尊敬に足る人物だ、ありがとう──シュペーア

*1
ザイフェルト大臣の周囲には社会的な功績を上げている同級生などが多数居た。

アスリートや研究者、医学、法学など分野は多岐にわたる。

大臣にとっては劣等心を酷く搔き立てられたのだろう

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