──最後の闘いに今こそ点呼は鳴り響く
我ら既に闘争準備は万端なり
やがてヒトラーの旗があまねく街路にはためきて
隷属の時代は間もなく終焉を告げん──ホルストヴェッセルの歌 三番
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V1、V2発射基地・部隊が英国上陸支援の為に次から次へと撃ち放つ。
前触れも無く、
あるいは独特なサイレンで自己主張しながら、
瓦礫と悲鳴とを量産する。
満身創痍、傷だらけに違いない被害状況。
生産拠点たるイングランドは夥しい被害を受け、ヒロイズムと愛国心がイギリス国民を煽り立てる。
尋常ならざる熱気がイギリス全土を覆い尽くす。
彼らの目には、
恐らく
満足な組織的抵抗が出来なくなってから、自殺をするかのような戦い方になったイギリス空軍が
時代遅れになりつつあるロイヤルネイビーが
──頼もしく見えた。
今やイギリスに、連合国に挽回できる手段はない。
太平洋ではハワイを制圧した日本が同地を要塞化、更に石油・ゴム資源地域を確保。
ドイツ・イタリアとはオーバーロード作戦、続く第二次バトル・オブ・ブリテンで敗北を喫し、辛うじて維持できたブルターニュ半島で劣悪な補給と突破できない絶望感と戦う米軍の死傷者だけが増えていく。
オーバーロード作戦時、ドイツの反攻によって敵地深くに突出していたイギリス陸軍はアメリカ軍とともに全滅した。
最大の上陸作戦は文字通り乾坤一擲であり、ほぼ主力の部隊を投入した、してしまった。
その後も散発的にフランス北部、ベネルクス、ドイツ沿岸、ノルウェーに上陸攻勢を仕掛けた。
その度に火砲は、戦車は、車両は、銃は消えていく。
ノルウェーは過去二度にわたり30~70近くの師団を投入したが、上陸直後の戦線の脆さを突かれ港を喪失し、なんとか港を奪回してもUボートが護衛艦無しの輸送船団を水底に沈めた。
イギリス国民も流石に愚かではない、徴兵されたばかりの新兵が輸送船に乗り込んで、誰も帰ってこない、輸送艦隊も出港しなければ察しが付く。
イギリス本土は編成途中の僅かな師団とホームガードがアメリカ陸軍を支援する立場になっていた。
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ブルターニュ地方を放棄したい、アメリカ議会はずっとそう考えていた。
軍部の増長を抑えつける事、そして何より
──……アメリカの主権、そして自分の財布を守りたかった。
洋の東西を問わず汚職は当たり前なのだが、
敗戦という現実に耐え切れなくなってきたアメリカでは、
徹底抗戦を叫ぶロビー活動、
無茶苦茶な軍拡、
一部の議員による壮絶な暴露大会、
徹底抗戦派と講和派の街頭での衝突────
端的に言えば収拾がつかない程に混乱が洪水のように埋め尽くしていった。
住む人すべてを巻き込み、例外なく壊していく洪水だった。
それでもアメリカは徹底抗戦を叫ぶことを決める。
何故か?自由主義の盟主たる責務か?
違う、出費と結果があまりに不釣り合いだから。
アメリカが、連合国が、もし仮に一発大逆転を果たしたとしても
無条件降伏を枢軸に突きつけるだろう。
ソビエト連邦という強力な敵が居ないから枢軸国を未来永劫従属させるだろう。
いや、そうせざるを得ないだろう。
総力戦は自国にあるモノ全てを注ぎ込まねばならない、アメリカはもう多くを使い過ぎたのだから。
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──諸君、我々は失敗した──ウィンストン・チャーチル
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「大臣はご両親と連絡とられてるんですか?」
ゼーレーヴェ作戦が間近になっていた夏のある日。
オーレンドルフは何時もの様に大臣に話しかけた。
煙草や酒を取る量が徐々に減ってきた、と言うか養子に怒られて減らした、という噂を思い出してなんと無しに聞いてみたのだ。
「………」
どこか逃げるようにぼうっとしていたのか返事はなかった、ちらりとそちらを見やると視線に気づいたのか大臣は簡潔に答えた。
──合わせる顔が無い、親不孝で、絶対に許されないことをしたんだから。
あぁ、大臣でも恐れることはあるんだな、ふとそう思った。
大臣はオーレンドルフからすれば『徹底している人』だ。
物怖じせず、喜々として政界で動き回る、そう言う人だった。
大臣はすでに歩き出していた、慌てて後ろをついて行った時に見た大臣の顔はいつものモノだった。
「さて仕事はまだあるぞ」
無理に繕った様な声色だった。
ハイドリヒを通じて知り合ってからかれこれ数年するが、徐々に大臣は揺らぎと狂気に呑まれて行ってるように思えた。
揺らぎが正気を削り、現実が思想に駆り立てている──結果として大臣は追い詰められつつある、そもそもこれに気付けてる人は殆ど居ないぐらい大臣は繕うのが上手い。
孤独でも、精神的な支柱が無くても、歯を食いしばって、踏ん張って進路は揺らがない。
理性も思想も人生も愛を、もしすべて失っても
正真正銘の狂人になっても
すべて否定されても──大臣は進む道を変えないだろう。
オーレンドルフはそういうところを尊敬と恐怖した。
敗戦直後の自分を裏切らず、人生を国家的復讐に費やす事が、醜悪極まる政界に居続けることが、並大抵の精神力では不可能だろう、オーレンドルフを含めた周囲は口を揃えてそう言う。
信頼してる両親の制止も聞かなかった、同級生も、教師も、皆が制止しても止まらなかったそうだ。
船で言うなら機関が破壊されても、舵が効かなくなっても、武装が尽きるまで抵抗する──勝つ為に、復讐する為に、ナショナリズムの為に。
大臣に滅びの美学があるのか、出来れば部下として、信頼できる人として、そんなことは無い方が良い。
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──誰かがやってくれる、私はそんな甘えは言いたくない。
誰も居ないなら私がやろう、居たとしても私も責任を負おう。それが私の自由と民主主義の解釈だ。
責任を最後まで果たしてこそ人は素晴らしいんだ、だから私は逃げる訳にはいかない。
私は自分自身にだけは、決して、決して嘘を吐かない、他人を利用して捨てるような人間になっても、どんな屑になっても──ザイフェルト
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ゼーレーヴェ作戦は、アメリカ陸軍が救援にくる前に短期間で攻略すること、英国政府・王室を確保し講和会議を始める。*1
この二つが目的とされ、原子爆弾使用は避ける方向性で動き出した。
原子爆弾はアメリカ陸軍によって戦線が膠着した時、そう結論付けられ、報復を防ぐ為にブルターニュ地方、イングランドの空襲を強化した。
攻撃目標は軍港と航空基地、レーダー施設、防空施設が殆どであり、民案空襲は意図して避けるようになった。
つまり民間側の被害を減らした訳だ、ただこれではホームガードやレジスタンに対策出来ない。
その為、示威行動にアインザッツグルッペン、実務的にはポーランドからベテランを教導目的で参加させることが決定し、多くの装備が集められた。
現地において原子爆弾を使う判断は占領統治を主導するザイフェルトに委任され、終戦までの治安維持と原子爆弾実戦使用が目的とされた。
ポーランドのパルチザン対策にミュラー、ロシア・ベネルクス管理にオーレンドルフを指名して大臣はローマに向かった。
イタリアではドーバー海峡制海権を確保すること、歩兵師団40個を派遣する事を要求した。
────そうして八月が来る。
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──全体の為と言って少数派を切り捨てるのが悪だとは思わない、肝心なのは自分が切り捨てられる順番になっても狼狽えない事だ──ザイフェルト