ど う し て 間 違 え た
東雲
1951年3月
──第二次世界大戦から戦勝してから5年
──NSDAPが独裁を固めてから18年
──我々の先駆たるファシスト党が結成されてから30年
………そしてドイツの経済が行き詰まりを見せてから1年
総統あってのドイツ、総統無くして成立しえないドイツとなった。
親衛隊、帝政以来の保守派、NSDAP……多くの政治勢力が乱立し、抗争し、癒着と腐敗を進めていった。
そして1950年、地価の大暴落や民需企業の倒産が相次ぐようになった。
この年、ドイツ通貨は世界有数の影響力を持ちながら世界最低レベルの価値となった。
民主主義、無政府主義、帝政支持、社会主義……
彼らは非合法でありながら多くの議員を脅迫し、癒着し、影響力を取り戻していく。
我々は対照的に支持率を低下、先の大戦での英雄的勢力として辛うじて生き永らえている。
ただ、それも総統ありきであるし、その総統ありきの構図も終わりつつある。
黒いオーケストラ──彼らはやはり滅んでおらず、自由主義や民主主義、帝政支持派など、広義的な保守勢力を取り込み拡大している。
NSDAP内部でも権力闘争は悪化しており、彼らの調整役として大臣は常に手を打ち続けた。
ただそれでも自分自身まで思考が及ばず、黒いオーケストラとの繋がりが在るのではないか、として二度ほど不明な人物からのでっち上げを受けていたりもする。
これら全てが嘘八百である、と言うのはもはや周知の事実なのだが、それでも大臣は外務省での立場を手放すなどの選択を取らざるを得なくなった。
政界は混迷の一途を辿るが、技術面では宇宙や新兵器、電気家具など多岐に渡って世界で優勢を誇り続けていた。
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──動機が何であれ、必ずその動機に足を掬われる事になる──オーレンドルフ
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経済的な行き詰まりは東方生存圏での反乱や秘密結社急増を意味していた。
ソビエトや帝政期の頃から貧しい生活を送っていたロシアなどでは、諸々のサービスや一定の自治権などによって生活が向上していたから反乱などは起きなかった。
ただ生活が一定の水準に達し、かつ支配国家が弱体化している現状においてはさらなる権利、完全独立を求める動きが加速していった。
知識人階級がロシアで財を成そうと移民し、それらが政治的関心を引き起こす遠因にもなった。
被征服民の反乱は支配民族の被害の拡大につながり、更にはドイツ本土では未だにゲルマン民族至上主義が蔓延している。
もっと言ってしまえば戦勝によってゲルマン民族優等説は留まるところを知らず、それらが圧力となって穏健的な統治方法からの方針転換を決断せざるを得なくなっていった。
貧困に苦しんでいた生存圏の人々は満たされ、さらに政治への活動を希求するようになっていった、この現象は洋の東西を問わず起こりえる事だ、ただそれを予期できなかった、或いは予期していてそういう決断をしたのか、それは誰にも分からない。
地元住民で構成された憲兵部隊や情報発信の一元化、文化や芸術面での交流など出来うる限りの手段を持って対処したが、結局それは時間稼ぎに他ならなかった。
時間を稼げば稼ぐほど、抵抗運動は激化していく。
たびたびドイツは親衛隊の大規模演習と称し、徹底的な鎮圧運動を行うことも何度もあった。
欧州にテロ行為は増加してゆく、もう時代は変わったのだ。
騎士が銃の前には無力だったように、原爆は戦争を大きく変えた。
総力戦を過去のものにし、ナショナリズムやイデオロギーによる徹底したテロ、ゲリラに戦争は大きく変わった。
ただ誰もそれには気付かなかった。
ちょうど、武士が幕藩体制の終焉に気付かなかったように。
明確に時代が変わりつつあった、彼らは日本やイタリアと違った。
彼らは国力の基盤は強固で、整えられていた。
だから日本やイタリア以上に厳しいラインを妥協とできた。
日本やイタリアは国力が脆弱故に、諸民族に経済的優越を取ることに焦点を当てる事が出来た。
だがドイツは違った、悲劇であり、幸運でもあった。
国力を1933年から整え続けた、そしてそれが東方生存圏を緩やかな経済組織と言う発想を薄れさせた、してしまった。
その為だろう、親衛隊やアインザッツグルッペンを使った大規模調査、並びに公開処刑や賊狩りは回数を重ねれば重ねるほど残虐にあってゆく。
従うものには僅かな餌を、逆らうものは劣等であるから根絶してやるべきである、そう言う国家になった。
反対に日本やイタリアは民主化運動によって民主化を果たすなど、思想的な意味での孤立を強めていっている。
ただ自由と民主主義の砦を自称しているアメリカは日本やイタリアもドイツ同様に敵視しており、旧連合国すら敵対的な外交を取っている。
日本やイタリアも経済や化学分野、軍事など多岐に渡り、対立し、相手国を越えようとしている。
日本とドイツの干渉国家として再興したロシア帝国では右翼思想と左翼思想を結びつけるような学問が非常に栄えており、彼らは生存圏に住むロシア人を惹き付けて止まない。
そしてロシア帝国は事実上の独立国のような立場すら獲得している、生存圏の不安定化が原因である。
これら不安定極まる緊張関係は核の抑止力と武力均衡でしか現状保たれないだろう。
国際連盟は解体され、各陣営、各勢力の代表が年3度会議をすることが決まったが、現状それも機能を期待できない。
各国の首都に各国の大使が座り、各国の意思を疑念と敵意と軽蔑と利益を見る鍛え抜かれた目と声と耳で世界は辛うじて成り立っている。
誰もが有事の経済圏を持ち、誰もが有事の武力を持ち、誰もが交渉のチェスを指している。
一つ言えるのは、アメリカとソビエト連邦の対立よりはるかに不安定で恐怖溢れる社会でありながら、六つの勢力が世界を分けている現状は進歩し、発展している。
20世紀前半の派遣国はアメリカとイギリスだった。
20世紀後半は、21世紀は誰の所有物か分からない。
──没落しつつある旧連合国、アメリカ
──いくつもの問題を抱えるドイツ
──民主化を選んだイタリアと日本
──新しい思想と制度を求めたロシア
──立ち上がる有色人種の独立国家
──────1951年は第三次世界大戦と言って良い50年代の幕開けだった。
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──養父の両親…新しい祖父母は私達を快く迎え入れてくれました。
口調の一つ一つ、癖、性格……祖父母はその一つ一つに養父を見たような表情で、すぐに打ち解けました。
1949年の私たちの誕生日の事です。仕事ですぐに帰ってしまった養父の顔は何処か嬉しそうでした。
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「グーゼンバウアー、どうだった?」
聞くまでも無い様だ、オステルマンは旧知の間柄でユンカーだ。
北西部の帝政派と家自体が強い影響力を持っている、欲しい人材だ。
「立場的にも難しいみたいだ、他の名誉指導者に比べザイフェルトやヒムラーとの接触回数が多い。
なぁ、やっぱりあっちの思想に染まっ」
殆ど反射的に机に悲鳴を上げさせていた。
「オステルマンがナチ共に加わる!?」
「悪かった、悪かったって。落ち着いてくれ。
仕方ないじゃないか、もうずいぶんと疑心暗鬼にならざるを得ない状況が続いていたんだ。
恐らく政治に関して無関心でいたいのだろうよ、たぶんな」
ふむ、オステルマンが興味関心を向けていないのはギムナジウムから変わっていなかったな。
「勝手に納得したかのような顔しているがそっちはどうなんだ」
「こちらの掌握は終わったぞ、黒いオーケストラの掌握は終わったぞ。
軍部も財界も司法界も、全ての勢力の人事権を握った。
国防軍の六割は掌握したと言っても良い」
私もストレスでどうにかなりそうなんだ。
「…………はっ?…………そ、うか……なぁ、お前はさ、ザイフェルトの夢を終わらせる覚悟はあるのか?」
「ある、アイツの、第三帝国の幻想を終わらせる。復讐の為に世界を巻き込んだのがアイツなら私はドイツ全部をもう一度巻き込んで清算する」
ナチ共の功績だってある、再びドイツは誇りを取り戻せた。
でももう国は持たない。ナチズムは不要になった。
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ザイフェルトの取る判断には躊躇が無くなった。
親衛隊を言葉巧みに拡大を抑制し続け、NSDAPの派閥調整や売国奴狩りを推し進めている。
中でも占領地で10世帯ずつで相互監視し合う制度を制定する、スパイの更にスパイを派遣するなど徹底した監視をする様になっている。
これらは当時体系化されていない群集心理を上手く扱っており、占領地での反体制運動抑圧に一役買っている。
戦時中、ユダヤの収容に使われていた施設群も再使用。
現在は労働行為をさせる施設とされており、主にロシア開発で民間企業では苦戦するような場所に投入されている。
他にも人体実験や処刑の為の施設も複数建設されている。
新技術が導入されるたびに彼は管理体制を作り上げる。
もはや敵は本土には居ないと言わんばかりに、生存圏と政界だけが彼の敵だと言わんばかりに。
彼は黒いオーケストラも復讐と国家の再生を誓う同級生をすべて忘れていた。
事故に見せかけての処刑や不祥事をばらまいての失脚などで完全に眼中に無かった。
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「大規模な、今までになかったような規模のロシアでの親衛隊や多国籍軍の投入をしましょう」
つい先日大臣は会議でミュラーやアイヒマンにそう言われた。
彼らが作り上げるであろう概要などを熟読し、その上で不明点を説明させ、いつもの様にヒムラー長官に提出する。
虐殺が普通?そうだ普通だ。
何故なら不完全で、不合理で、非情な思想とそれを掲げる国家とそしてそれを常識とした帝国主義の世界だから。
為政者も反対派も気付いていない、総力戦も帝国主義も時代に適していない事を。
これは1951年の話
枢軸が夥しい犠牲の果てに共食い競争を乗り越えた話
時代はそれを無視して
不完全極まるナチズムが、愛と利権故にドイツを守ろうとする話
生き残った勢力が異なるただの史実の話
はい、戦勝から5年?が大体経過した頃からスタートであります。
雑な現状説明です、たぶん