──(貴方の思想とは何か、と聞かれて)愛です、愛ですよ──ザイフェルト
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戦列を並べた砲兵を思い出す。
一糸乱れぬ姿で行進する親衛隊の姿を脳裏で再生する。
美しい飛行編隊、縦隊を組んで悪路を踏破する戦車群。
ニュルンベルクで行われる党大会時のプロパガンダ用の撮影で、武装親衛隊の強さに魅せられた。
これ程統制され、団結され、勇ましい。
素晴らしい、美しい。
我々の思想の結晶であり、我々の最後にして徹底した武装装置。
長いナイフ以降の関わりで、当初はあまり良い感情は無かった。
今は私にとって数少ない落ち着く場所だ。
ゲッベルス大臣のプロパガンダ映画にこれを勧めて良かった。
「君が勧めてきたのを採用して良かったと思う」
「えぇそうですね、こんなにも武装親衛隊が美しく見えるとは」
「武装親衛隊と言えば、君は近々大規模な訓練をすると言っていたな」
「今回は全武装親衛隊と空軍からも半数近く参加がありますし、締めは最新型の原子爆弾の試験ですね。
本音で言うと今回限りにして欲しいものですが」
視線が交差した後、ゲッベルス大臣はこう断じた。
「無理だろうな。専門外の私でも分かる。
我々は失敗してしまった、戦勝の酔いと驕りに呑まれて、な」
──よく今まで耐えてくれたよ、他の奴がやっていたらすぐに御破算だ。
ゲッベルス大臣は視線でそう付け加えて、語りかけてくる。
「このベルリ…ゲルマニアは彼らから奪った資産の象徴ですね」
「ゲルマニアじゃない、ドイツ全土がそうだろう。
嘗てのイギリスやフランスと同じだ、収奪して発展していく」
「彼らと同じなら、たった数年で何故こんな有り様に」
君が言うのか、ゲッベルス大臣は苦笑した。
暫くそうしてから
「時代が変わったのだろうよ、野党時代の君の言葉だ」
覚えが無い、そんな思考をしていた事があったなんて覚えが無い。
私の違う思考の存在を否定するする為に私はこう言った、苦々しさを押し潰して。
「ゲッベルス大臣は変わりませんね」
ゲッベルス大臣は映写機に近付く足を止めて、言った。
「……君もな」
私にその表情は見えなかった。
ただ苦々しさから逃れたい一心で言葉を漏らした。
「ゲッベルス大臣、裏切らないで下さいよ」
なぜこんな言葉が出たのかは私にも分からない。
ゲッベルス大臣がこちらに振り向いた、その目は驚愕と憐憫に静かに呑まれていた。
「君が信じる物は何だ」
ゲッベルス大臣の唇は僅かながら震えていた、ただ当時の私は気付いていなかった。
「私の信じる物は愛国心とナチズム、それと立場だけです」
「そうか、君には感謝してる。これからもよろしく」
暫しの沈黙の後、ゲッベルス大臣はそう言って退出した。
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──権力が人を呑み込む?周りが変わるのだ、きっとそうに違いない──ザイフェルト
──仮に歴史を操ろうとする人が居れば、その精神は神によって破壊されるだろう──ゲッベルス
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旧連合国、殆どの指導者が公職から追放されるも現体制の維持は約束された国々。
彼らは比較的寛大な処分であったものの、それが戦争経済からの脱出を容易ならざる物にして、国内では社会主義と保守派の対立が発生した。
学生運動など様々な方法でそれらの抗争は続き、学生による第五インターナショナルの誕生に繋がった。
この第五インターナショナル、学生と労働者が主体であり、殆どの思想家が大戦期の混乱で喪われた結果として、国際的で穏健的な機関にならざるを得なかった。
この社会主義運動はソビエト連邦が存在しない為、世界を席巻すること自体なかったが、俄かに旧連合国の政治史は新たな段階に突入してゆく。
強力な理論家も指導者もいない、ある種平等なインターナショナルは強大な勢力にもならなかった、ただ社会主義をより議会制に適した路線として存続させることに繋がった。
徐々に変わってゆく旧連合国の政治だったが、嘗ての自由主義の盟主、民主主義の最後の砦たるアメリカとの関係は険悪極まるモノだった。
戦後、悪化し続けたアメリカにとって、嘗ての同盟国の穏やかな状態は反感を買ったものであり、戦前の評価とは逆行する形でアメリカではポピュリズム政治家や大統領令の乱発が常になった。
敗戦という怒りを枢軸にぶつけるにも、枢軸の課した要求によって有色人種と白人の国内対立は日に日に悪化。
南部では州法によって有色人種を強制隔離したりするなどであり、これを嫌って移民するアメリカ市民も多数生まれた。
戦後復興の為には多くの勢力を納得させねばならなかった為、復興の予算は等分され、微々たるものになり、経済成長は低迷した。
海を挟んだ同盟国たちは、ドイツやイタリア経済圏に組み込まれながらも復興を始めており、強制的にとはいえ植民地だったアジア・アフリカ圏も独立。
有色人種層の支持を取り込んだ枢軸は民主化の傾向を強め、特に日本、イタリアでは投資が活発化。
有色人種との和解を成立させた旧連合国もその兆しを見せつつある。
では我々、合衆国は一体何なのだ?
誰よりも最後まで戦い抜き、誰よりも多くの資産を犠牲にしてきた、我々合衆国の惨めな現状は何なのだ?
元同盟国の連中は我々を忘れたかのように平穏を取り戻しつつある、では我々の狂騒の20年代と今の没落は一体、なんだ?
自由とはかけ離れた合衆国は貧困にあえぎ、暴力を唯一の権力とするかのような無政府状態だった。
だが誰も助けない、それをドイツは認めない。
英仏は戦争で勝って、彼らの栄光を奪い取った。
アメリカは思想の全てを否定せねば気が済まない。
そういうことだった、ナチズムが復讐を果たす為に、日独伊の経済は生存する為に始めた戦争だ。
まだ復讐は為されていない、だからアメリカを引き裂いた。
投資家にとってはそのような有り様のところに投資するわけにはいかない、だから益々資産は逃げる。
戦争で国辱を晴らすか?国力が無い、軍事力が無い、団結が出来ない現状で勝てる筈が無い。
才有る者も、財有る者も、皆逃げたアメリカは、嘗てのワイマールに相違なかった。
でも誰も、それこそNSDAPもアメリカを覚えてなどいない。
終戦と経済発展、それに伴う民主化の20世紀の潮流の対応に皆必死だから。
21世紀は分からない、だが今は分かる。
枢軸にとっては甚だ不本意だろうが、欧米式の自由と民主制こそが発展の要なのだから。
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──権威と自由が争ったのが20世紀、国家と世界の戦争が21世紀の対立軸になるでしょう──ゲッベルス
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シュペーアは盟友とも呼べる関係のゲッベルスと雑談に興じた時に宣伝相の悩みを聞いた。
親衛隊の暴走を抑え、NSDAPの派閥争いを調整し続けたことで疲れ果てたザイフェルトの事だった。
戦勝に近付けば近付く程、戦争で無視できていた小競り合いが目立つようになり、彼は多くの勢力とパイプを持って、多くの秘密を知るようになった。
昔はワイマールを憂いる思想で団結できた仲が崩壊していく、それが酷く大臣を気付付けたのだろう。
結果として彼は人より権力を信じるようになったし、国家と権威の権化のような思想になりつつあった。
悩みや不安を口に出すマネこそしなかったが、言動は正確にそれを示していた。
誰よりも国を愛して、誰よりも思想に忠実でありたいと願うからこそ、恐らく大臣にはこの思想の限界は近いと悟ったのだろう。
思想も現実も、そして黒いオーケストラという見えない敵が猜疑心と孤独感を加速させつつあるのだろう。
思想に染まり果てて、化物になって逃げれるのならそうするだろうがそうしない、仮にもう化け物になってるのであれば剥き出しには出来ないのはそう言うことだろう。
一人で世界を操ろうとした人間が総統なら、一人で20世紀という歴史そのものに戦争を仕掛けたのが大臣なのだろう。
思想も、現実も、生まれ故郷も、家族も、彼にとってはもう助けにならないのかもしれない。
シュペーアにとって数少ない友人であるが、そのシュペーアにも何も出来ないのだろう。
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──大臣はスターリンのような精神に変わっていった──オーレンドルフ