千年帝国の幻想   作:ベルリン=モスクワ枢軸

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同級生

──また大臣の道楽か

 

 

 

──大臣も趣味が悪いな

 

 

 

──ギムナジウムの国外亡命した同級生を片っ端から処分するなんて

 

 

 

新型核兵器の開発経過をアイツにしに行った時、ちょうどオーレンドルフさんと入れ違いになった時にその噂は聞こえた。

 

流石に本人に聞く訳にもいかなかったが、心当たりのある噂だった。

 

今現在、黒いオーケストラは旧連合国の備蓄装備を回収や政権確保後の経済協力や東方生存圏の権益移譲、つまり旧連合国からの政権奪取後に至るまでの支援確立を目的として、英米に賛同者を大勢送り込んだ。

 

連絡の確立どころか、接触すら出来ないのはそう言うことか。

 

……余りにも死者が多すぎる、独力しか道は無いのだろう。

 

大方それを感付いたのではないだろうか、正直そうであれば直ぐにでも姿を眩ませたい。

 

ああ、逃げたい。どうしてあの化け物と会話をしないといけないんだ。

 

黒いオーケストラの情報や実態をどこまで掴んでいるのか知りたい節もあるが、恐ろしい、そしてそれは暴挙だという事も理解している。

 

まだ死にたくない。

 

政治の世界に踏み入ったのは自身の判断だけど、それで人生を潰えさせたくない────

 

 

 

──────────

 

 

 

──悪趣味ねぇ、確かにそうだ

 

──大臣も私怨で人を抹殺するなんてしなければ良いんですよ

 

 

仕方ないじゃないか、私の口から黒いオーケストラ最大の情報源(グーゼンバウアー)の名を暴露する訳にもいかないのだから。

 

それに、国外で怪しい挙動をしている馬鹿が、実は元同級生で、更には黒いオーケストラ関係者だった。

 

こんな偶然があれば疑いたくもなる、どうせ国外に逃げる様なアイツらだ。

 

才有る側の癖に逃げたクズどもだ、国内の発展の替えは幾らでもきく。

 

──私怨?そうだ、そうだとも。

 

実際効果が出ている、国外に逃れて何をするつもりだ。

 

しかし残念な事に、どうも連中。大して重要な立場にいないらしい。使えない。

 

家族を拷問でもすれば黒いオーケストラとの関係性以外吐いてくれないものか。

 

──────────

 

──私は当時国防軍を信頼できていなかった、それ故旧連合国と結ぶ、という愚かな結論に至ってしまったのです。その愚かさが1951年まで活動を停滞させ、僅かな友人の多くを失ったのです──反ナチスの経済学者

 

──────────

 

益々核の重要度が上がりつつある、それは理解している。

 

同時にミサイル兵器やジェットエンジン、電算機の研究は私も携わるほど巨大なモノになっている。

 

この核兵器は恐らく初めてV兵器に搭載されることになる物だろう。

 

向かいに座る度し難い狂人は、それを嬉々として聞いている。

 

今この部屋には護衛は誰も居ない、奴自身が核の情報を秘匿する為に下がらせたから。

 

「では何か質問などはありますか?」

 

「無いね、パーフェクトだグーゼンバウアー」

 

……今なら殺れるかも知れない、この瘦せっぽちの男の首に手をかければ。

 

そんな度胸も無いのに馬鹿げた発想をする自分が愚かで嫌になる。

 

こっちが何を考えているか露知らずの素振りで大臣は口を開く。

 

「素晴らしい、敵制空権下の都市にこれを使えると。

これで益々、我が国は報復なんて受けなくなるだろう」

 

引き攣った様な笑い声が木霊する、化物のような思想家が目の前で笑っている。

 

こんな人間を生み出したのは第二帝国とワイマールに違いない。

 

こんな人間に確固たる立場を与えたのは他ならぬ国民で、こんな人間の本心が最も露呈していた我々は止めずに逃げた。

 

「どうだ、素晴らしいとは思わんか?グーゼンバウアー。

これは貴様が作り上げた傑作だぞ」

 

何より逃げた代償が、結果として協力する事になった私には辛い。

 

どうして止めれなかったのだろうか。

 

止めれなかった私への罰だろう、核兵器とは。

 

「そうですね、大臣」

 

私はただ茫然と彼との受け答えに終始していた。

 

暫くして解放され、私はただぼんやりとした気持ちで職場に戻った。

 

──一人称が変わったな、『私』に。

 

そう大臣に指摘されたことに気付きもせず、私は戻った。

 

──────────

 

大臣は何処まで知っているのか、何処まで理解していて、どんな役を演じようと言うのか。

 

1945年までの大臣は、ただの忠臣で満足していた。

 

では、今の大臣は?

 

何かを迎え撃つという決意を感じる。

 

そこから先が見えない、あのハイドリヒ長官のような野心を感じるのは確かなのだ。

 

あの絶対零度の野心──味方を潰し、敵を吊るし、孤独に成り果てて得ようという野心がある。

 

ハイドリヒ長官には唯一の味方が居た、では大臣は?

 

総統やヒムラー長官、私やミュラー、アイヒマンすら見えていない。

 

権力を得よう、迎え撃とう、ドイツを救おう──という確かな覚悟が今の大臣の支えだ。そこまでは私だって分かる。

 

アインザッツグルッペンだってそうだ、最早大臣の私兵集団と成り果てている。

 

今まで補佐してきた大臣と、現在の大臣、そのどちらも知っている私はどうすれば良い?

 

大臣の粛清を提言するか?

 

分厚く作られた仮面のような目と口を持つ大臣の野心を暴くのか?

 

あの人はナチズムとドイツを愛している、人生全てを捧げてまで。

 

あの人はそうでありながら明確に、かつ不明瞭な野心を持っている。

 

これを理解しているのは私しか、居ない。

 

不可解で、不必要な条件(国外にいる大臣の同級生の捕縛)の課された指令。

 

黒いオーケストラ?それとも総統の後継者の地位?

 

思想と権威だけが大臣の視界に辛うじて残ってる、それは確実であろう。

 

ただ、何をすれば良いのか、それだけの事を決めかねている自分が居る。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

──ドイツの弱体化とともに事実上独立したロシアは日本との交渉を終え、沿海州や北樺太の割譲の代わりに投資とシベリアを獲得した。

 

日本が彼らに期待したのはドイツとの緩衝壁であり、シベリアの資源開発の代行であった。

 

彼らロシアがそれらによって安定した時、大衆の政治的欲求は増大し、一応の議会が開かれる事となった。

 

ロシアにおいてファシズムとは、枢軸によって伝わったばかりのモノであり、それは独ソ戦時のプロパガンダが定着する遠因となった。

 

議会の解説は与党の座であったファシズム勢力に変革を招き、共産主義思想を色濃くした思想へ変貌させ、彼らはソビエト連邦へと回帰しつつある。

 

彼らは復讐に捉われる事無く強かに発展を続けており、ドイツの弱体化を待ち続けている。

 

機が熟すまで待ち続けている。

 

完全に気が熟した頃、彼らロシアは東方生存圏の財産を奪い尽くすだろう。

 

生存圏発展の投資に感謝しつつ、平和な時代に感謝しつつ、彼らは鴉のように群がり、喰らい尽くすだろう。

 

まだこの世界では覇権国は現れていないから。

 

 

 

──────────

 

「つくづく私には人望が無い、同級生の一人も私の味方をしない。敵か、中立の弱腰だけだ」

 

そして真に優秀で成果を収める彼らは、我が身可愛さにただの評論家に成り下がり、私の足を引っ張り続ける。

 

絶対に信用に値しない者だけが私の幼少期の交友関係の全てだった。

 

そんな人間に比べ、権力と思想は素晴らしい。

 

権力は人を従わせ、思想は裏切らない駒を齎してくれる。

 

立場さえあれば、私は優秀な人間とも渡り合える、そう確信した。

 

「ヒムラー長官から直々に内務大臣としての推薦もして頂ける事が決まった事であるし」

 

──────ドイツは私が立て直さなくては。

 

大臣はそこまで話して初めてその時、過去の知り合いを見やった。

 

「お前は、貴様は実に優秀だ」

 

──だからこそ、今生かしている。

 

──だからこそ、私に協力しろ。

 

 

 

ニーダーハウゼンは、敗戦によって大臣の鋭角化された部分を、良く知り、そして逃げようとした人間で

 

逃げきれず、生来の性格故に大臣は彼を引き摺り込んだ。

 

 

 

「貴様がドイツを愛していなくても、貴様には黒いオーケストラとの闘争(ギムナジウムの続き)に加担して貰おう」

 

──全て終わったら好きなようにすれば良い、それまで生きていればな。

 

 

 

──────────

 

──ニーダーハウゼンは裏切れない、そして優秀だ。何より思想に染まっていない。

だから、奴が潔白であることを知りつつ、捕縛して、責務を課した。奴は仕事からは逃げることは無い、大義から逃げる事はあっても──ザイフェルト

 

──────────

 

不快で非衛生的な大気が鼻腔に突き刺さり、咽頭を跳ね回る。

 

呼吸しているだけでも嘔吐したい衝動に駆られる。

 

不潔で不愉快なこの場から一刻も早く離れたい、そう思い足を速める。

 

時間も、場所も予定通りに到着すると、見覚えのある知り合いが待っていた。

 

「なぁ、ヴァルトフォーゲル。海外の支援を頼むのは止めにしよう。犠牲者だけが増加する一方だし、民主化した後でも投資を募れば良い。

それと、この資料はアイツの最後で最悪の切り札についてだ」

 

そう言われ、分厚く、そして施錠された鞄を手渡される。

 

──国防軍派から実権を取ったお前の実力と、国防軍の武力さえあれば十二分に戦える

 

グーゼンバウアーの目はそう語っていた。

 

「それで?その懐の物は?ただの書類ではなさそうだけど」

 

「国防軍派から出された計画と、その日程。

──リーク先は言えないが、親衛隊がロシアで大規模訓練をするらしい。それに被せて決行する。

今までありがとう、グーゼンバウアー。引き返すなら今だぞ?」

 

「お前とアイツの決戦だ。見届けるに決まってる」

 

そこには、小さく笑って覚悟の済んだ二人の男等だけが居た。

 

 

 

 

 

決行、つまり──

 

           ──内戦である。

 

最初期の頃に相当などの首脳部をとらえる事が出来れば、それはきっと、素晴らしく平和裏に終わるだろう。

 

ただ誰か一人でも逃せばそれは内戦に移行するであろうし、恐らくそうなる。

 

だから、一挙にドイツ本土全域を制圧して、SSをロシアに押し込み、そこで叩き潰す。

 

そう言う概要だった、本来ならもっと他に手段が在ったのかもしれない。

 

ただそれにはあまりに不確実さがあった、親衛隊の極端で徹底された秘密主義が唯一それを妨害したのだ。

 

であれば多少の犠牲は覚悟した上で、内戦に踏み切るしかない。

 

政治闘争の結果として徐々に圧迫を強化され、余り猶予が無い黒いオーケストラにとっての結論だった。

 

親衛隊の不必要な拡大を大臣が抑え続けていたが、それが今ある規模での成果を求めた親衛隊の執念深い捜査に繋がった。

 

大臣は黒いオーケストラを武力で締め上げ、相手を焦らせ、今回の計画に繋がった、失策をしてしまった。

 

自らの手駒が不充分でありながら、戦端を開いてしまったから。

 

 

 

 

 

グーゼンバウアーが渡してきた鞄の中に入っていたのは核発射関連施設と核兵器の種類、そして対処方法などドイツ核兵力の全貌の資料だった。

 

この資料を確保する為にもかなりの労力や損害が出た。

 

その犠牲は必ず成功に繋げる、その為に、可能な限り有利な状況にもつれ込んだ。

 

「首を洗って待っていろよ、ザイフェルト」

 

ワイマールと、その全てに至る事柄を否定したアイツに復讐する事でドイツに夜明けがもたらされる、そう信じて政界に来た。

 

──────────

 

──歴史とは昼と夜なのです。日が昇り、そして沈み、深く暗い静謐な夜が来て、東雲が再び現れる。

循環し、熱量を保持し、消える事も、終わりを迎える事も無い。

ワイマールが閉ざされた闇になり、それを総統が照らし、ナチズムは鬱蒼とした密林の中の孤独になって、また打ち倒される。

循環していき、終わらない悲劇と喜劇を溢れさせ、無力でしか無いのが歴史です──グーゼンバウアー




大臣の悪趣味な行動(他称)自体は終戦後から始めています。
(なんだったら戦時中にも気付かぬうちに始末してる)

ニーダーハウゼンは小説の最後ぐらいにまた出てきます、それ意外はずっと(大臣の)仕事してる。

・大臣の悪趣味
・ニーダーハウゼン
・報復するタイミング

の三本でした
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