千年帝国の幻想   作:ベルリン=モスクワ枢軸

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時系列は一気に飛んで1952年3月、そろそろ始めます

タイトルの意味は千週帝国
1933年1月30日(NSDAPが政権獲得)から1000週経過した日という意味です(日付計算合っててくれよォッ…)


1952年3月31日

──歴史とは幾つもの条件が複合し合っているある種約束された物語である。

誰かが主演を務めなくとも変わりは幾らでもいる舞台が歴史で、誰がやろうとその劇は全く同じ結果に行きつくだろう。ちょうど、封建制が資本主義に敗北したように──岸信介

 

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1952年の春──大臣が企画していたロシアでの軍事的権威を示す大規模訓練は行われることとなった。

 

ドイツ国民は生活苦から来る娯楽不足、親衛隊のスパルタ的訓練とエリート思想に一種の騎士像を見出していた程であるから、当然ある種の娯楽の様相も呈していた。

 

黒いオーケストラも注目していた、これはNSDAPから政権を奪う絶好の好機であったから。

 

 

 

 

 

 

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元は非ドイツ人で編成されていた武装親衛隊も、枢軸多国籍軍としてロシアでの訓練に合流した。

 

ドイツ空軍や新型ミサイル部隊も多数集められ、その総兵力は百万を優に上回り、国防軍よりやや劣る程度の戦力がロシアに集結しつつあった、これだけの部隊が動員されるのはやはり初のことであり、当然、全世界は新技術や新兵器群に注目していた。

 

大臣は親衛隊大将と生存圏の統治を任されている立場上、既にモスクワに到着していた。

 

「壮観ですね」

 

ユーゲント出身者からなる5個師団の武装親衛隊の行軍を弁務官区庁舎から眺めていた時に思わず零した言葉である。

 

「これだけの青少年らが我々の思想を熱心に信奉し、そしてドイツの発展に死力を尽くしてくれる、素晴らしいですねぇ」

 

大臣の感嘆ともとれる評価の真意をオーレンドルフだけは正確に読み抜いていた。

 

──これだけの青少年がドイツの発展に役立つか、あるいは妨害するかは我々の決断によるもので、真剣に考え抜かねばならない。

 

ドイツの発展と信奉する思想への熱狂具合を比較して、それでもなお発展を重視している大臣の姿勢の表れだった。

ナチズムと言う思想はあくまで私の人生の主要な物であって、政治家としては思想や体制より、国益に適う権威と伝統、そして発展を重んじるべき──そう言い続けていたのをオーレンドルフは知っている。

 

 

 

 

 

大臣にとって、この訓練はただの政権の延命治療の一環でしか無かった。

 

国威を示し、この過程で他幹部同士の緩衝役をより一層確立させる。

 

どう見ても時間がかかり、汚職や腐敗の危険性を多大に孕んでいたのにこの選択肢を取らざるを得なかった。

 

大臣は、政権が総統と言う象徴のみで運営されている事実を、打ちのめされる様な苦痛と認めざるを得なかった。

 

腐敗はどうしようもないほど悪化していたし、自分一人にはそれを除去するだけの立場があるとは信じられなかったのだ。

 

だからこそ大臣は自陣営に自由主義経済を訴える学者を取り込もうとしているし、腐敗を除去する為にゲッベルスやゲーリングをはじめとした政治家と派閥を形成しようとしていた。

 

それらの終着点がこのロシアの大規模訓練であった。

 

不運にも、余りにも運に恵まれない事に、この大規模訓練は黒いオーケストラの内戦の好機であった。

 

今それを大臣は自覚していないが、オーレンドルフにこう語っている。

 

──もし黒いオーケストラが事を始めるなら、このロシアの訓練が最大で最後の好機だろう。

 

予想は当たっていた。

 

ただ、親衛隊の爆発的な拡大を抑える事が政府側の手数を制限した。

 

 

 

 

 

「オーレンドルフ」

 

「なんでしょうか?」

 

「これが終わればドイツを治療できる、そう思うか?」

 

オーレンドルフは呵々と笑った。

 

大臣は静かに言葉を待った。

 

「大臣。貴方についていきますよ」

 

──何があっても

 

嬉しそうに顔を歪めて大臣は言う。

 

「なんだ、いつもの事じゃないか」

 

今度は大臣が呵々と笑う番であった。

 

 

 

 

 

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──政策や思想は商品だ。顧客は国と国民。そして商品が不要になれば生産者は破産する──ザイフェルト

 

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「ドイツがロシアで凄まじい兵力を集めて大規模訓練を行う事は皆さんご存じですね?」

 

もう一つの戦勝国、極東の解放者、黄色人種の共栄圏──

 

それらを自称する大日本帝国の首都、東京では内務大臣の岸信介が閣議を招集していた。

 

「その事について報告があります」

 

天啓的な官僚政治家であり、戦後、新体制運動が陸軍内閣と共に終了した時、満州の人脈を活用して最大政党の保守連盟の形成に参画した妖怪が言葉を紡ぎ出す。

 

「知日家や穏健派として名高いザイフェルト大臣が動き出しているようです」

 

──全員が資料をめくり、英国と共同して内務省が総力を挙げて導き出した結論に呻く。

 

「彼は国内問題に徹底した治療を施すつもりの様です、どうにもその為の総ての障害を除去する覚悟があるようで」

 

大臣と言う人間が外交に熱心だった事から彼らも大臣がどういう人間かを理解している。

 

勿論それらを加味した結論であった。

 

「日本の今後の事を考慮するなら……ドイツには弱体化して欲しい所だが」

 

「現状のドイツを探ることですら至難の業ですぞ?工作となると」

 

「ザイフェルト大臣が次期総統になっていただければ平和そのものでしょう」

 

「だがそんなに上手くはいくまい」

 

「となると、我が国は我が国で共栄圏の発展に尽力すべきですね」

 

「またいつもの結論ですね」

 

「まぁ少しでも対策方法を確立させておきましょう」

 

 

 

大日本帝国は戦後、民主化を果たすために多少の流血を伴ってきたし、それを誰もが許容した。

 

その民主化の果てに自由経済に移行し、搾取から投資対象として、従属から防衛すべき隣国として、共栄圏への姿勢を改めた。

 

結果、日本という国は独力で、なおかつ徹底した民主改革を達成しつつあった。

 

財閥や軍部、急進化した右翼、多くの勢力を弱体化、解体させたうえでここまで来た。

 

大政翼賛会は解散し、穏健な社会主義勢力を共産主義やファシスト勢力と対抗する形で取り込んだ。

 

保守連盟は全てが再編されゆく社会で設立された政党だ。

 

実態は自由主義と民主主義の皮を被った保守官僚や大物政治家の寄り合い所帯でも、彼らは日本再出発を象徴していた。

 

大日本帝国の北方に位置する国、ロシアでは権威主義・全体主義政治を独自に創始し、急速に軍拡、国民生活の強化を推し進めていた。

 

 

 

第二次世界大戦は白人国家同士の没落と自由主義・民主主義の進展を強化という意義を得つつあった。

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

原爆実験から関係のある国防軍のある将校からヴァルトフォーゲルに、と資料を手渡された。

 

内容は極秘、出来れば黒いオーケストラで共有して欲しい内容として、その紙袋を受け取った。

 

何事も無く、その資料をヴァルトフォーゲルに渡してから一週間。

 

ギムナジウムの連中だけが会議に召集された。

 

『──黒いオーケストラから今度は君主主義者でも排除しようと言うのか?』

 

誰かがそう言った、実際、ヴァルトフォーゲルがギムナジウムを招集するのは他派閥を潰す時ぐらい、そう言う認識が広まっていたからだ。

 

それにつまらなさそうに鼻を鳴らしてから、彼は言った。

 

『ザイフェルトは──』

 

幾度か言葉を濁してから思い切った様に、彼は言った。

 

『──アイツはリバプールで被爆して可能性、いや殆ど確実に被曝している』

 

それだけだった、たったそれだけ。

 

誰もが喜ぶはずだ、それだけであれば。

 

誰もが押し黙った、復讐を忘れていない誰もが。

 

アイツを、ザイフェルトを我々の手で破滅させる為に参加した奴がいたくらいだ。

 

口腔内の唾液の川が干上がっていく。

 

あの生命力の権化のような人間が被曝している事実に脳は拒否反応を起こしている。

 

信じられない、信じられるか、信じて堪るか。

 

結局、誰もが上手く話せなかった。

 

焦りだけが募り、そうしてロシア大規模訓練は始まった。

 

 

 

 

 

 

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──隊伍を組み、毒ガスを大気に敷き詰め、砲爆撃による開拓作業が始まった。

 

ヘリコプターもこの演習で投入され、山岳に逃げるレジスタンスを分断していた。

 

レジスタンスが地下深くに潜伏すれば、地中を穿つほどの破壊力で吹き飛ばし、

レジスタンスが家屋に籠れば、毒ガスを流し、

レジスタンスが突撃してくれば爆撃と銃撃で姿をハンバーグに変えさせた。

 

ロシア・レジスタンスは殆どが反体制思想やロマへの迫害を終わらせたい、そう言う人々だ。

 

彼らは純朴で、そして何より善を好むような価値観だった。

 

だから死んだ、ガスで爛れて、炎に包まれて、脳を吹き飛ばされて、飢えに飢えぬいて。

 

彼らはあまりに理想を求め過ぎた、どうしようもない破壊と差別と武力の前に。

 

だから彼らはプロパガンダとして、物語の悪として、利用されている。

 

この大規模訓練はユーゲントも参加している。

 

彼らは緑あふれる草原を荒涼とした大地に塗り替えつつ訓練を続ける。

 

今はまだ空軍が到着していない、ある種の先行訓練だ。

 

プロパガンダも兼ねた大規模な歩兵戦。

 

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「そう言えば、総統や閣僚の皆さんはどうやってロシアに移動する?」

 

総統と言う人間は暗殺を幾度も退けた経験もあって、かなり警戒して動く。

 

ただ、それでももてなす準備の為にも、事前に大臣側に連絡が来る手筈となっている。

 

それが遅延しているからこそ大臣は聞いたのだ。

 

「恐らくベーレンヘーレ*1を経由して鉄道で来られるかと」

 

「という事は、総統専用列車*2を使われるのか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

総統大本営自体は終戦後、その殆どが軍事上の意義を失うこととなった。

 

総統が生存圏や同盟国への訪問・視察の場合の為に使用されることが増加しており、更には閣僚や親衛隊上層部が休憩に使うこともしばしば。

 

総統専用列車、アメリカ号として現代でも有名な専用列車である。

アメリカ号は、アメリカ合衆国が連合国として参戦した後はブランデンブルク号と改名された。

 

ただ、同型の専用列車を閣僚や親衛隊上層部は各自所有していたようであり、それらが動く司令部となって、ドイツの欧州外交を支え続けた。

 

 

 

 

 

「──もし、そうこれは仮定の話だ。もし、今、国防軍が内戦を招き起こしたらどうなると思う?」

 

大臣は今まで浮上しても口にしなかった妄想を、オーレンドルフにぶつけた。

 

自分の同級生がただモノでは無いと、大臣は知っている。

 

「……逆に聞きますが、どう思われているんですか?」

 

内戦が起きれば、生存圏は崩壊する。

 

下手をすれば総統が殺される、もしそうなってしまえばその先は地獄でしかない、例え勝利をしても。

 

何より、大臣が進めている改革の根回しは全て破綻する。

 

──もしそうなってしまうのなら、いっその事。

 

いっその事、全責任と腐敗を道連れに崩壊したほうが、ドイツの未来の為になるのでは無いだろうか?

 

また、悪い方向に思考を引っ張られていく。

 

「ドイツの未来に繋がるのであれば、民主主義勢力と交代すべきなのかもしれない」

 

──断じて認める積りはない。

 

逃げた連中には何も出来ない、私は私の責任を取り続けたい。

 

「だがね、そんな事は認めないし、認めたくない」

 

だからそんな事にならないよう、準備を進めてきた。

 

 

オーレンドルフは暫くこちらをじっと見つめてから言った。

 

「本当に、大臣は大臣のままですね」

 

 

 

 

 

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大臣が帰り、自分自身も仕事が済んだので帰宅しようとして、ふと

 

『もし、今、国防軍が内戦を招き起こしたらどうなると思う?』

 

大臣のこの問いから始まる一連の問答を思い出した。

 

やはり大臣にとって、ドイツの繁栄こそが最大限優先される目標なのだろう。

 

だからこそ思想と現実の狭間に立ち続ける訳だから。

 

大臣はもし内戦が起きれば、あの人はきっとどちらかの絶滅戦争として徹底抗戦するだろう。

 

私はそれに付き従おう、あの人の命令を遂行しよう。

 

ナチズムが不要になった時、我が身と共に墓地に引きずり込む覚悟を持った人の部下として。

 

 

 

 

 

──────────

 

──ザイフェルトほど、国家という組織に隷属した人物はいないだろう。

彼にとっては国家への隷属こそ、多くの人を助ける最良の選択肢と学んだのだから──ニーダーハウゼン

*1
スモレンスクに設置された総統大本営

*2
いわゆるアメリカ号

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