千年帝国の幻想   作:ベルリン=モスクワ枢軸

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2023年も宜しくお願いします~


ドニエプル

スロバキア政府は第三帝国を酷く恐れ、そして臨時政府を侮っていた。

 

食料や軍需並びに民需物資の給与や、経済活動の継続を率先して行う事を決め、それらを何よりも優先して、実行していた。

 

臨時政府からすれば、これを見逃せば第三国の介入を強く招くようになる、それだけは何としても阻止せねばならなかった。

 

第三国が介入すれば臨時政府の瓦解は必至だから、ならばどうするか?

 

単純にして明快な解決策がある、先例を作り、相手を自制させるのだ。

 

 

 

 

 

──その先例として、恐怖と油断に支配されたスロバキア政府が選ばれた。

 

国力的にも敗北することは万に一つもない、ならば──?

 

 

 

 

開戦から2か月後、数度に渡る内戦への不干渉の勧告を無視した事を理由に、スロバキア政府は突如として臨時政府に宣戦を布告された。

 

戦闘自体は、制空権を確保した臨時政府側の猛烈な空襲と整備と補給が済んだ機甲師団の投入、そして各地への空挺降下によって、13日で終結した。

 

──周辺国にとって自制心を働かせ、第三帝国にとって更に戦況を苦しくさせる事件はその後の戦後処理であった。

 

 

まず、スロバキア政府や彼ら与党と、その私兵集団の幹部、そして家族を──

 

問答無用で処刑した。

 

民衆から嫌われていた幾人かの政治家は、見せしめに広場に引き摺り出され、民衆によって虐殺された。

──民衆に憎まれていた政治家の家族は、その光景をたっぷり見せつけられ、熱狂しきった民衆の大海に吞み込まれた。性的な暴行や、目の前で家族を血祭りに挙げられ、心を殺され、尊厳を踏み躙られて死んでいった。*1

 

特に民衆からの反感を買っていなかった政治家は銃殺刑に処され、それら家族らもひっそりと処刑された。

 

そしてこの戦後処理のやり方は、主に虐殺された事実がたちまち全世界を駆け巡り、第三帝国の傀儡国を自制させる結果を齎した。

 

誰だって家族や友人を虐殺されるのは、激しい嫌悪感を経て、強い自制に繋がる物で──第三帝国の傀儡と言う事もあって、独裁的な周辺諸国は特にその傾向が強かった。

 

臨時政府は手段を選ばなかったが、これはスロバキア国民の留飲を下げる事も狙われており、すぐに民主的な政府の樹立がスロバキアでは成された。

 

結果、核の抑止力と親類縁者への加害が及ぶ恐怖心が、第三帝国への過度な協力を制限させた。

 

すべてはスロバキア政府の恐怖心による短慮によって臨時政府の感知される処になり、それが国力的に劣勢な第三帝国をより苦しい立場にした。

 

 

 

──ただでさえ劣勢であったのに、今回の件で国力が苦しくなった第三帝国は、生存圏の産業の強引な育成と稼働にひた走ることになる。

 

大臣の精神的疲弊が著しく悪化していた時期に、NSDAPは帰るべき母国と勝てるだけの切り札を殆ど全く喪ってしまった。

 

絶滅戦争綱領を代表に、多くの戦争継続の為の政策が制定され、これらは現地の対ドイツ・対NSDAP感情を著しく損なうのと引き換えに、彼らの工業化と農業の効率化の基礎となった。

 

 

 

 

 

──────────

 

──民主主義とは、終わりなき闘病生活だと考えております。無関心という厄介極まりない病との闘病、それを治すのが、我々NSDAPの使命だと、考えております──ザイフェルト 野党時代

 

──────────

 

 

 

 

 

「まさか、あの当時の」

 

──ドニエプル川を防衛する側になるなんて。

 

「時の流れとは不思議なものですね」

 

そう或る参謀が言った。

 

全くそうだな、そう多くの将校が賛同していた。

 

「攻略した我々にとっては何処をより重点的に防御すれば良いのかがより明確になっているのが良いところですな」

 

 

 

訓練を受け、質が一定の国防軍と、一般親衛隊隊員を数の上では主力としていた武装親衛隊では、明らかに後者が不利であった。

 

結果、ユダヤ人や反体制運動の指導者を抹殺した証拠の処分をした後は、本土を放棄せざるを得ず、その後も激しい戦闘を繰り広げるも、開戦から辛うじて保っていた戦線は、国防軍の電撃戦によって破綻。

 

時期で言うと、本土を放棄し、スロバキア政府が崩壊した後の話であった。

 

開戦から二か月間は、臨時政府に対しては多くの国家が静観する構えを取っていて、弾薬・燃料の確保は制海権の不安定さから時間を要した。

 

辛うじて補給物資の回収され、機甲師団や空軍の稼働に回せるようになった。

──その時期を見計らってのスロバキア侵攻だった。

 

 

 

二か月という猶予で機甲師団を前線に回せなかった第三帝国にも理由がある。

 

第三帝国は内戦が開始されるまで、多くの機械化装備を、東方生存圏での訓練(パルチザン狩り)に展開していた事で、再編成と移動に時間を要していた。

──更には戦線に移動している間にも、ロシア・パルチザンや臨時政府同調者による妨害で、酷く時間を取られた。

 

そのような理由が重なった事で、臨時政府は第三帝国が本土から撤退し、スロバキア政府を短期間で潰す事を達成した。

 

スロバキア電撃攻略の報を受けた英仏は、反NSDAP感情の世論的高まりに後押しされる形で、この臨時政府に賭ける事にした。

 

つまり、燃料などの戦略資源の供給である。

 

半ば臨時政府は自らの実力を誇示する形となって、虎の子の機甲師団の運用問題を解決した。

 

補給という心配事がなくなった、臨時政府は更に勢いづき、電撃戦によってドニエプル川まで全線を押し広げることとなった。

 

妨害と、そもそもの移動距離によって第三帝国の機甲師団が戦闘に参加したのは、このドニエプル川での戦闘からである。

 

──第三帝国の歩兵部隊は緊急展開した新兵が多く居た空軍と協力して、よく耐えた方である。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

臨時政府も、第三帝国も、互いの全滅まで戦闘を終結する気は無い。

 

──つまり、これは欧州での勢力図の再構築にも繋がった。

 

西欧の民主化は一挙に進み、かつての第三帝国の傀儡国は共産主義や民主主義の反体制運動に神経を尖らしている。

 

それは中東も同じであった。

 

クルド人と他アラブ系の対立──

 

枢軸と協力してイラクやシリア、ヨルダンにイスラエルを抑えたハーシム家と、サウジアラビアを建国したサウード家──

 

彼らは今、これらの対立を抱えている。

 

そして、クルド人との提携を強めているのはロシア帝国、サウード家を支援しているのは日本である。

 

グレートゲームに終わりはないのだ。

 

永遠の友も、永遠の敵も、そこには無いのだ、在るのはただただ利益のみなのだから。

 

全世界に影響を与えうる国家の熾烈な内戦は、世界各地にその戦火を波及させ、憎悪を膨らませて、世界情勢を書き換える原動力となるだろう。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

現代戦車、ジェット戦闘機──これらが投入された戦闘は激しいものであった。

 

正規軍の国防軍と、半ば民兵のような親衛隊──それでも戦闘は防衛側であり、経験豊富な下士官に支えられた親衛隊にあった。

 

そして戦局の安定は、ただでさえ激しかったNSDAP内部の権力闘争の更なる激化に繋がった。

 

総統に対しては誰もが忠誠心を維持していた、が──

 

アドルフ・ヒトラー総統という一個人は象徴と化してしまった。

 

彼の意志は絶対的に重んじられこそするが、総統として彼が発言する機会は減った。

 

総統が亡くなれば起きるだろうと言われ続けていた政治内紛は、内戦によって総統を象徴に変えてしまった(殺してしまった)

 

象徴たる総統の同意を如何にして得て、他派閥を圧倒するか──それだけがモスクワでの関心事であった。

 

党の財源を握る最大派閥であるボルマン派とそれ以外の連立派閥による均衡が出来上がっていた。

 

 

 

「──大臣、この情勢下ですが、どう動きますか?」

 

「反ボルマン派に付くのは当然。ただ、ボルマン以外の他閣僚や親衛隊将校の弱みも、全ての情報を握らねばならん」

 

──最悪の場合は捏造をする他無い。

 

「NSDAP随一の忠臣は、この私以外に居ない。それを総統に示して、初めて臨時政府と渡り合える」

 

呆れが混じった部下の視線に気が付いた大臣は、わざとらしく、何も言わずに肩をすくめていた。

 

「大臣、あまり無茶をしないで下さいよ。このままだと、何時の日か、切り捨てられそうですので」

 

「私の末路は中世の貴族か」

 

大臣はからからと笑って、目を細める。

 

──私の末路はどう足掻こうとも真面では無いだろうな。

 

因果応報──日本から帰国した時から、ずうっと忘れることが出来なかった単語である。

 

そんな思案を雷のように穿って、あることを思いつく。

 

「そうだ、良い手段を思いついた」

 

──臨時首都を移転する時、これをやろう。

 

まだまだ考えは巡って、零れ出す。

 

そのいづれもが、きっとドイツとNSDAPの未来に繋がる為の布石だと信じれる。

 

「またどうせ碌でも無い事を思いついたんでしょう?」

 

オーレンドルフはそうは言っても協力をする。

 

なぜなら大臣という人間が、国家と民族、そして思想を守るのに人生を費やせる人物と理解しているから。

大臣が私欲に走る事を全くと言って良い程知らないから。

 

──アドルフ・ヒトラーと言う男が居なければ、大臣は総統に成り得た可能性すら有る人間だったから。

 

 

 

ザイフェルトは確かに、確かに政治の才能は無かった。

 

──もっと言うなら、何にでも成れる野心と覚悟に満ちていた、と言える。

 

アドルフ・ヒトラーが居ないなら、変わりにアドルフ・ヒトラーに成り得る未来も在っただろう。

 

 

 

──────────

 

 

 

ナチズムに民主主義は劇薬であると、大臣は知っていた。

 

だからこそ、大臣は劇薬による内科医でありたいと願っていた。

 

内乱でその願望は破綻した、が。

 

それは、祖国繁栄の為に国家の外科医として、多くの出血を強要させ、発展の原動力とする──という風に大臣は変わった。

 

アドルフ・ヒトラーが民族という概念を支配し、それを以って歴史を見ようとしたのと同じように

──ザイフェルトは思想を信奉こそするが、必要なら多くの血と、思想の否定を必要な経費として見て、それを以ってドイツが歴史の支配者であり続けさせようとした。

 

──彼にナチズムを否定する勇気は無い、彼だけなら。

 

──大臣にドイツを否定する事は出来ない、大臣だけなら。

 

彼であり、大臣──その両方を抱え持つザイフェルトという人間は──

 

──ドイツの為にならないのなら、ハーケンクロイツをドイツから引き剥がす覚悟がある。

 

 

 

 

──────────

 

 

 

──臨時政府は、大臣という人間がナチズム最大の策謀家である事を忘れていた。

 

──臨時政府は、ザイフェルトという人間は、NSDAPの忠臣でしか居られないと誤認した。

 

──臨時政府も第三帝国も、総統に忠誠を誓うまでの大臣を忘れていた。

*1
もう少し先の未来の話だが、この事件を免罪符の様にして、世界各地の独裁政権崩壊時の民衆の暴走が正当化される事にも繋がった。

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