千年帝国の幻想   作:ベルリン=モスクワ枢軸

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誰かに愛を叫ぶ事はしないけど、国に愛を叫ぶ主人公がいても良いじゃない。()

更新期間が週2ペースから月1ペースに大暴落してるけど仕方ないね


二つのドイツ、二人の指導者、二人の大臣

──愛国心は自分の故郷や家族を何よりも優先するのと変わらん。むやみやたらに守る物は増やすべきじゃない──ザイフェルト

 

──────────

 

前線の人的資源の損耗が著しく、後方で治安維持任務に就いている戦力を此方に回して欲しい──臨時政府が早期の終戦を求め、苛立ちを覚えていた頃に第三帝国は人的資源に四苦八苦していた。

 

 

 

『──少しでも前線に将兵が欲しい、と言う要求が軍部側から送られているようだ。そこで総統閣下の身辺警護、主要施設の防衛を何処の部隊が担うか、これを決めようではないか』

 

『武装親衛隊も余裕が無いだろう?新編された三個空軍野戦師団に任せて貰えれば、万事上手く行く』

 

『臨時編成とは言え、ユーゲント師団は居るのだ。治安維持は我々の仕事──』

 

 

 

──今日は一段と疲れた。主要施設や総統の身辺警護が課題に上がる程なんて。

ゲーリング大臣とヒムラー閣下が一歩も譲らないのはやっぱり……

 

「いざという時に確保しやすくする為、ですよねぇ」

 

でも彼らが互いに私兵集団の配置で揉めてくれて助かった──調停者面してアインザッツグルッペンを捻込ませる事が出来て、本当に良かった。代わりに非都市部は現地の警察機構にかなり依存せざるを得ないが、まぁ仕方無い、旧ソビエト政府の警察出身者でも集めよう。

 

更にアインザッツグルッペンの拡大の約束も取り付けて、本当に、良かった。そう、凄く有り難い好機となった。

 

「ふふ、ふふふふふふ」

 

笑い声が溢れ出て止まらない。

 

「あはっ、あはははははっ!」

 

途方もない背信感と、果ての見えない安心感が全身を覆う。

自分自身の際限を知らない野心が活力を漲らせる。

裂ける様に吊り上がる口角を手で覆って隠す。

 

──ヴァルトフォーゲル、これで私とお前は対等だ。

 

今まで政治家を志してから、それ以前からの喜怒哀楽、様々な感情が私の心に波の様に去来し、包み込んでいた。

──きっと私が総統に従うのも宿命だったのだろう。

──きっと私がかつての同級生と対峙する為だけに野心という重油で鋼鉄艦(こころ)を始動させているのも、そうだ。

 

これこそ私が今までやりたい事──最後の一瞬でもいいから、ドイツに愛国の花を咲かせたい──そう言う願い。敗戦と戦勝、どちらも私から望みを奪うだけの結果だった。だからこそ、せめて最後は。

 

──自分がくたばるその前に、たった一輪の花を咲き誇らせたい。

私の、私たちの、そして僕だった頃の夢、小さい愛国の夢。

 

「あはっ、あはははっ、くふっ、ふふふふふっ」

 

堪らない、そう言わんばかりに己の膝に手を何度も叩きつけて

──大臣は背信感と悦びに笑い続ける。狂った様に。荒れ狂う感情の奔流を吐き出す様に。

 

自分自身が満足する為に、大臣は動く決意をした。

 

愛国心であり、野心であり、責任感を併せ持った決意だった。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

『──ニーダーハウゼン。順調か?』

 

『そうかそうか、ふふっ……くくく…では完成まで待つよ』

 

カチャン、通話が切れた受話器があるべき場所に収まる。

 

あのザイフェルトが笑った──大変嫌な事に、あの『嗤い』方を知っている。

 

とんでもなく碌でも無い、そして遠大で、容赦なく達成可能に出来る自信のある『策謀を張り巡らす』時の笑い方だった。

 

あんな笑いがあって堪まるか、あれは嗤いでしかない、そんな嫌な気配を醸す大臣が受話器の向こうにいた。

 

 

 

──自分はつくづく運がない。そして甘すぎる。

 

本当であれば逃げれる程度の警護なのだ。本当であれば大臣に関わらない生き方だって出来た筈なのだ。

 

それなのに好奇心で自分は安全圏を確保しつつ、渦中の動乱に身を置きたがる。

 

──正真正銘の馬鹿だ。誰か彼かに何時も影響される大バカ者だ。

 

自嘲に溺れながら中庭に向かう、最近のストレス発散方法だ。

中庭から天を仰ぎ見る、空はどこまでもオレンジと鈍色だった。ほかの一切の色彩を排除した、残酷過ぎる程までに。

 

残酷すぎるほどに他の色彩を排除したその景色は美しかった。

ザイフェルトが作り上げたドイツはこういう物かもしれない。

 

そして私はその空が、澄み渡る青色に押し流されるのを間近で見ている。

 

──we shall never surrender

 

ザイフェルトは絶望的な戦局でありながらも、この言葉を使った。

 

──私の好きな言葉です。嫌味でも何でも無く、な。

 

鈍色や茜色が、澄み渡った大気に存在しえない事を理解しているあいつが。

 

好奇心に負け続けた私にこんな大役を任せたのも、こんな所まで連れて来たのも、意味があるはずだ。

 

 

 

 

 

──────────

 

──私の国はドイツだ。イタリアでも、ソビエトでもない。彼らの手段を真似る事はあっても、それはドイツの為だ──ザイフェルト

 

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別に国防軍はナチズムが敵視しているのではない、そうヴァルトフォーゲル派の臨時政府首脳部は考える様にしていたし、実際のところ、殆どの黒いオーケストラに所属していた国防軍将校は、ナチズムを敵視したのでは無く──ナチズムの際限なき膨張主義による祖国の崩壊を真剣に恐れていた。

 

国防軍にとって、ドイツとは東方に生存圏を持つ事を否定する気は無かった。

 

黒いオーケストラにとって恐れたのは、ソビエトを打倒した後、英米の大反抗による破滅や、終戦後の経済的行き詰まりによる国家の弱体化──その事を無視して暴走しかねないイデオロギーと化していたナチズムであった。

 

ヴァルトフォーゲルなどの自由主義勢力を迎え入れ、今こうして大義を共にしているのも、すべては嘗ての栄光を取り戻したドイツの存続の為であった。

 

彼らにとって、ドイツ国民と同様に、自尊と勢力圏の二つを提供したナチズムは不必要だった。

 

クーデターも、引き起こした者(シュタウフェンベルク大佐)を除き、生き残った将校にとっては反体制派勢力の中で最大派閥になる為に遅かれ早かれ引き起こす事であった。

 

シュタウフェンベルク大佐本人は、これ以上の戦争継続を自身の思想からして望まなかった──それを利用されたと、言って良い。

 

────黒いオーケストラの総意として、ナチスの暴走を止める為のクーデターではあった。

 

 

 

「──ゲルマニアの町並みは輝いている。我々の手によって」

 

東雲色に染まり始め、時期に透き通る空色に移り変わるであろう大空を見上げ、独り言ちる。

 

 

 

ヴァルトフォーゲルは薄々気付いていた。

 

広がりすぎた格差や政治腐敗、そのどちらもが、第三帝国が抱え、ロシアに渡った事に。

 

プロイセンからドイツ帝国、ワイマール、そして第三帝国──建国当初からの腐敗は、確かにドイツの地から追放されていた。

 

大規模軍事演習、その時、大臣が多くの有力者を招待していた。

きっとそこで大臣が望む何かあった、しかしそれは内戦によって潰え、臨時政府が、主導する改革の障害の除去──という意義だけを齎したのかもしれない。

 

ヴァルトフォーゲルは、大臣の改革を一切知らないが、それでも──

 

ただそれでも、大臣がギムナジウムから変わらずに純粋な愛国心で動いていた、と気付きつつあった。

 

ヴァルトフォーゲルにとって、ザイフェルトという政治家は敵である事は変わりない。

 

戦争としての勝利を手繰り寄せる事に成功した自信はある──ただそれでも、あの大臣の総てを圧し折るという個人的勝利は遠のいて往くばかりだと、否が応でも実感させられたのだ。

 

大臣の勝利とは首尾一貫して、ドイツの伝統や権威、国民や国家、言語を守る──あまりに単純明快すぎていて、誰にも理解される事の無いであろう事であった。

 

彼に勝つにはドイツそのものを否定する事と理解させられた──幾度となく暗殺やクーデターの危機に晒され、幾度となく熱狂状態の群衆に罵詈雑言と暴力を浴びせられても尚、歪む事の無かった彼の信念に勝つには、それだけせねばならないと、そう思わされた。

 

──もうすでに歪み切って居たのかもしれない、自分も、他人も、国家の単なる踏み台に過ぎない、そうとも解釈のできる大臣の思想は歪みすぎたからこそ純粋でいられるのかも、知れない。

 

それでも私は奴に勝たねばならない──今ドイツに必要なのはあらゆる事由による自発的な活気であると、確信しているから。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

アーリア人のアーリア人によるアーリア人の永久帝国建設を──総統の演説を態々引用してまで大臣は徹底抗戦を謳う。

 

我々はナチズムが駆逐されるまで戦争を続ける──ヴァルトフォーゲルが開戦当日に全世界に向けて告げた宣戦布告。

 

ヴァルトフォーゲルも大臣も、両者は一貫してドイツに未来を勝ち取るための戦争だと、常に言い続けた。

 

そして両者は、敵が総ての悪である──そう言い続け、彼らの絶滅こそが必要である、そう唱え続けた。

 

どちらかの破滅なくしてドイツは前を見れないだろうから。

 

 

──第二次世界大戦で敗北するか、内戦を経験して脱皮するか。ドイツにはその選択肢しかなかった訳だ──21世紀の歴史学者

 

──────────

 

──かつてロシアは偉大なゲルマン民族の母なる大地であった、このロシアの地に千年帝国を建国する良い好機では無いか。

 

──何故、ザイフェルトは核兵器による人種の再編を実行しないのか?

 

「──オーレンドルフ、ヒムラー閣下は我々との協調についてなんと?」

 

「駄目でした。あくまでヒムラー閣下は、親衛隊派の主導する政府の樹立に拘るそうです」

 

ヒムラー閣下は今やナチズムの最右派に位置していると言わざるを得ない、その最右派の支持を求めようとしても中々上手く行かないのは苦しい物だった。

 

「総統への忠誠心、そしてその武力。是非とも味方にしたい物なんだがねぇ」

 

「いまや我々は、総統とナチズムを掲げる連合政権になりつつありますからね、困ったものです」

 

態とらしく腕を組んで、眉を潜め、口元をへの字にして──それでいて一切声の調子を変えずにオーレンドルフも思案を重ねていく。

 

 

 

第三帝国の連合政権化は内戦が開始してから見られた傾向だった。

国民から裏切られた、そう失望した総統は以前にも増して健康を悪化させ、判断力や自信は精彩を明らかに欠き始めていた。それが総統の象徴化、連合政権化という弱体化を齎してしまった。

国民に見捨てられた──第三帝国内部ではこの衝撃が、ナチズムへの絶対的服従や、今や戻れぬドイツへの崇拝を、招いていった。総統も、一般党員も、立場を抜きにして。

 

そして第三帝国の連合政権化(総統の権力の形骸化)は、ナチズムの解釈の暴走、そして派閥抗争という分断を生み、多くの治安や軍事に携わる指導者らは、私兵集団として部下を編成するのは連合政権と化した現状では当然と言えよう。

 

そして多くの文官たちも、武官や治安関係者と手を組み、彼らを出し抜く機会を虎視眈々と窺い続けている。

 

彼らの奇妙な均衡は、戦線の維持とモスクワの総統の存在によって維持されていた。

 

そして、文官と最大の武力組織が融合したのが、ナチズムの最右派に当たる親衛隊であった。

 

 

 

「──今更になって、改革を常々望んでいた大臣が、ヒムラー長官を引き込みたがるのは一体何故ですか?」

 

──今、まさに戦線が破綻しようとしている、外国人武装親衛隊を満足に編成できるかも危うい。

 

これは誰だって分かり切っている事だろう?

胡散臭さを全開にした様な声色で、大臣は続ける。

 

「もし、この連合政権の均衡が崩れる様な事があれば、終戦どころか、組織的抵抗すら危うくなってしまう。それだけは、それだけは避けねばならない。

だからこそ、ここで平和的にヒムラー長官に協力して貰わないといけない」

 

──幸いにも私をヒムラー長官はまだ信頼してくれているから。

 

皮肉っぽい笑みでは無く、疲れ果てた笑顔で大臣はそう言う。

 

無駄かもしれない、いやきっと無駄だろう。ヒムラー長官は勝利が絶対であると信じ込んでいるから。大臣は敗北は必至であると思っているから。

 

だから大臣はオーレンドルフ、両者を知り尽くしている部下を送り出した。

そしてその結果が、核戦争を訴えるヒムラーと、組織的抵抗だけを訴えるザイフェルトの思考の乖離の再確認、でしかなかった。

 

「それと大臣、やはり親衛隊内の一部将校の雰囲気が怪しい雰囲気を放っておりました。殺気付いているというかなんと言うか」

 

「やっぱりか、煽っているのは?」

 

「おそらくは大臣の推察通り、ヒムラー長官かと」

 

親衛隊のクーデター──急速に現実味を帯びてきた可能性。

──確かに大臣は決定的な証拠を掴めていない、確かにそれは部下の予感でしかない、それでも親衛隊内部から霧のように立ちこめる不穏さを確かに察知していた。

 

ただ、察知していた大臣は、表情から笑みが抜け落ち、口も目も閉じ、深く椅子に腰掛け、手は意味も無く何度も円を描くように空を切っていた。

──最悪の予想をどうしても信じたくなかったから。

 

「これ程、避けたかった未来は中々無い」

数瞬後、辛うじて大臣が口にした言葉は、これだけだった。

苦虫を噛み潰したような表情であった。

 

親衛隊に叛意あり、大臣は彼らの暴走を必ず御し切らねばならなくなった。

 

 

 

 

 

──────────

 

──皆さん、お元気で──アメリカ最後の組織的な体当たり(特攻)のパイロットの遺言

 

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「要塞都市と化したミンスクの奪取、そしてその余勢を駆ってスモレンスクまで一挙に進出する作戦、ですか」

 

臨時政府内でこの計画が提出されたのは、第三帝国の連合政権化と並行した時期であり──それは開戦から一年近くが経過した春の事だった。

 

 

 

開戦劈頭時に本土から駆逐され、嘗てのソ連邦の様にドニエプル川での防衛陣地を構築。

 

その後、現地の投資による工業化という統治方針を大転換し、命令による強大な国力の確保をザイフェルト大臣は決定。また、前線の戦力確保の為に治安維持機構に旧ソビエトの秘密警察関係者を登用。

 

ドイツに従属した生存圏という構図は、あらゆる点で臨時政府に劣っていた第三帝国にとって現実的ではなく、ドイツに対抗可能な生存圏構築に躍起になっていた。

 

外交的にも、多くの属国への支援が見込めたが、それもスロバキア政府瓦解により頓挫。反対に臨時政府側には英国の支援があった。

 

そして外交面も内政面も特に重大事が起きる事が無いまま、一年が過ぎた時──

臨時政府側によって、第三帝国に止めを刺すような攻撃計画が練られつつあった。

 

第二次バルバロッサ作戦は、ドニエプルに敷かれた鉄のカーテンを打ち破るだろう。

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