TS転生美少女俺「もっと平和に暮らしたかった」 作:(ノ≧▽≦)ノ
【再起せし英雄譚】
英雄譚として言い伝えられている、勇者やその仲間たち。
彼ら彼女らをこの現代に復活させ、魔物どもの息の根をとめてやろう──。
【再起せし英雄譚】という組織は、その理念の元に活動している。
死者蘇生、召喚、時間超越、憑依など……様々な手法で悲願を果たそうとするも、そのことごとくが失敗に終わった。
しかし、彼らは諦めなかった。
なにが彼らをそこまでさせるのか……その執念とも呼ぶべき努力の末、ついに彼らは一つの答えを導きだした。
【英雄再現】
英雄そのものの復活が無理なら、その英雄を再現してしまえばいい。
バカみたいな話だ。
しかし、彼らはそれを実現した……してしまったんだ。
人としての尊厳を投げ捨てた、猟奇的で、冒涜的な方法で、英雄たちが誕生した。
……もっとも、そのようなやり方でまともな生命が産まれてくるはずがない。
ほとんどが『人ではないなにか』として誕生してしまい、産まれた瞬間に組織によって殺された。
人として誕生できても、英雄としての素質があるかの確認として、組織の実験を受けることになる。その結果、実験に耐えられず命を落としたり、廃人になる子もいた。
実験を耐えたものの、英雄の素質はないと判断される者たちもいる。その子たちは、組織のことや実験のことを思いださないよう洗脳を受けてから、解放される。
……解放先のほとんどは、奴隷市場だ。
組織は、常に資金難に喘いでいた。だからこそ、英雄になれない『ゴミ』も無駄にしない。
英雄の力を持つ者は稀だ。
しかし、その外見は別で、人として生を受けることができた時点で、外見は英雄のものを引き継いでいる。
そして、天は二物を与える、とでも言うのだろうか。英雄たちの見目は例外なくすばらしく、全員が美男美女である──それは、幼少のときも変わりない。
だから、奴隷として売られるのだ。
そして、俺もいずれ売りにだされる予定だった。
けれど、そうはならなかった。
────英雄が…………俺の
◇
「………………雨か」
額に落ちた水滴をぬぐい、空を見上げる。
先ほどまでぬるい陽光を覗かせていた天は、その逆、涙のようにしとしとと雨を流していた。
「……チッ」
舌打ちを一つついてから、適当な魔法を使って雨避けをする。
「はぁ……。さっさと済ませてしまおう」
深呼吸をし、とめていた歩みを再開した。
──ポツ、ポツ。
『ほら、こっち! 早く逃げるよ!』
──ポツ、ポツ、ポツ。
『いつかあなたも、この力が使えるようになるわよ! ……だから、元気だしなさい!』
──ポツ、ポツ、ポツ、ポツ。
『私の力を、あなたに、託す……わ…………』
「──っ。……うるさいッ!」
やまない雨音を消すため、消音の魔法を行使する。
「はぁ、はぁ、はぁ…………。くそっ」
不安のような、怒りのようなこの気持ちを紛らわすように、歩みを速めた。
「…………雨は、嫌いだ」
起きているのに、動いているのに、意識ははっきりとしているのに。
あのときの光景が…………あの悪夢が、目の前に広がっているように思えて────
「────本当に、大嫌い」
◇
「────遅かったじゃないか」
雨の中を歩くこと、数十分。
ようやく、目的の店にたどりついた。
少し前まで雷を落としていた空からは、太陽が顔をだしている。陽光が、眼前の女性の顔を照らした…………といっても、いつも通り『仮面』をつけているのだが。
仮面をつけフードをかぶる背高の彼女に、俺は会いにきたんだ。
「お前が店の場所を変えなきゃ、もっと早くこれたんだがな」
「こちとら商売柄、恨みを買いやすいんでね。私も自分の身がかわいいのさ」
仕方ないだろう? と、彼女が笑う。
俺は、肩をすくめて返答した。
そんな俺を見て、彼女は「おや?」と、首をかしげる。
「雨が降ったのにそこまで機嫌が悪くないとは、珍しいね」
「……別になにも? ほら、今は晴れているからな」
「ふーん? ……あぁ、なるほど。むかついているところに賊がきたから、発散もかねてボコボコにしてやった、という感じかねぇ」
そこまで言い当てられると気持ち悪いを通り越して、いっそ清々しい気分になるな。
……俺の顔は、しかめっ面になっているだろうけど。
「…………相変わらずだな」
「職業病ってやつさ。そんな顔をしないでおくれよ」
くつくつと、彼女は笑う。
からかわれるのが嫌なので、話題を変えることにした。
「あー……。しっかしまぁ、こんな平和な街でも賊がいるのは変わらねぇなぁ」
いくら平和な街といっても、所詮、この世界の基準による評価だ。俺の前世である『日本』基準では、この街も充分に危険といえるだろう。
「そこはしょうがないさ。あいつらだって、好きで賊に身を落としているわけではないんだ。……それ以外の生き方を知らないし、教えてくれる人もいない、ってやつがほとんどだよ」
少しばかり悲哀な声色で告げる彼女を見やるが、そこには仮面をつけた読めない女性がいるだけだ。
「──ま、だからって、あいつらのすることを肯定する気はないがね。というか、あんたは襲われても問題ないだろう?」
「確かに、俺は問題ない。だけど、賊のせいであいつらを外に連れだしてやれないのがな」
「あぁ、例の……」
「戦闘スキルのない二人にとって、罠で侵入者対策をした家にいてもらうのと、俺と一緒に外出するのと、どちらが安全といえるのか……」
実際、どちらが良いのか真剣に悩んだものだ。最終的には、家で作業をしてもらうことにしたが……どうするのが良かったのか、俺には判断がつかない。
「そんなの、神様でもないとわからないさ。結局は、可能性を模索し、それらの利点と欠点を勘定したうえで、天秤にかける。私ら人様にできるのはそれくらいさ。──英雄様でも、それは変わらんよ」
「む……まさか、あんたに励まされるとは……」
良くも悪くもビジネスライクなつき合いだと思っていたから、彼女の言葉は少し意外に感じた。
「どういう意味さね……。ま、あんたは上客だからね。甘言を盛るくらいはするさ」
「その発言がなければ、素直に受け取ったんだがな」
「おや、それはもったいないことをした。でも、これが私なりの誠意というやつさ」
くつくつと笑う彼女の真意は読めない。
しかし、どんな理由があったとしても、励ましてくれたのは事実だ。……だから、お礼を言わないと。
「そう、か……。まぁ、でも、その………………ありがとう」
「! ほぅほぅ、これはなかなか、破壊力があるねぇ」
案の定、からかってきた。
だから、素直にお礼を言いたくなかったんだ!
「はぁ……。それよりも、本題だ。────例の物は?」
「ご注文通り。…………ほい、これ」
彼女が取りだしたのは、液体で満たされた二つの薬瓶──【再起せし英雄譚】が開発したという【
「本当に薬だったとは……」
「なんだ? 信じていなかったのかい?」
「いや、疑っていたわけじゃないんだ。気分を害したなら謝る。……ただ、『魔法』と噂されていたからな」
「『噂』なんてそんなものさ。勝手に独り歩きする厄介な怪物……。私らにとっちゃあ、神様でもあり、天敵でもある」
話が長くなりそうな気配を感じたため、強引に話をさえぎることにした。
「素人は黙っとれ、ってことだな。……それで、使い方は?」
「うん? あぁ、なに、簡単だ。洗脳したい相手にそれを飲ませてから、洗脳術をかけるだけさ。あんたには容易いだろう?」
「……そうだな。…………よし、購入しよう」
その言葉とともにお金を払おうとして──
「ちょっと待った」
「あん?」
──仮面の向こうから発せられるピリッとした空気に当てられ、剣呑な声をだしてしまう。
しかし、彼女はそんなことを意にも介さず、言葉を続けた。
「なに、どういう用途でこれを使うつもりなのか、教えてもらおうかと思ってね」
「『客の事情に踏み込みすぎるのは良くない』とは、お前の
「これは店としてではなく、友人としての問いかけだ」
冗談めかしてみるも彼女はそれにのってくれず、ますます声色を強めるだけだった。仮面をつけているというのに、鋭く睨まれている気がして言葉に詰まる。
二の句が継げずにいると、痺れを切らしたのか再び彼女が口を開いた。
「…………もう一度、聞くぞ? こんなもの、なんに使うつもりだ?」
「………………」
──別に、隠す必要もないか。
この場の空気に引きずられて黙ってしまったが、日本での倫理や道徳観ではともかく、こちらの世界では……いや、非難はされるだろうが、『売らない』と対応される謂れはない…………はずだ。
「──英雄たちが奴隷として売られる手筈については、前に話したよな?」
「ん? あぁ、洗脳術をかけてから奴隷商に渡すんだろう? ……それが?」
「お前も知っているだろうが、洗脳術は完璧ではない。ふとした拍子に洗脳が解けてしまう危険性を孕んでいるんだ」
「…………なるほど。あの子たちのためかい」
「そうだ」
得心がいったのか、彼女の雰囲気が和らいだ。
せっかく、心の傷が癒えてきているんだ。そんな状態で洗脳が解けて、『実験』のことを思いだしてしまったらどうなるのか…………考えたくもない。
『ずっと一緒だよ! お姉ちゃん!』
いつの日か見た、尊くある、姉妹の絆──。
それが消えてしまうことが、本当に恐ろしいのだ。
「まぁ、やつらが開発したものに頼らないといけないのが癪ではあるが。……効能のほどは大丈夫なんだろうな?」
「おいおい、私を誰だと思っているんだい?」
「『商売上、名前を教えられないのは勘弁してほしいねぇ』と言ったのは、お前だろう」
「そういう意味じゃないよ! この私が、効能の確認もできていない代物を人様に売るかってんだ!」
「ははっ。悪い悪い」
なるほど。
組織の連中、相変わらず凄い技術をようしているな。その才能をもっと正しく使えていれば…………そう思わずにはいられない。
でも、やつらにとってはこれが『正しい』のだろう。やっぱり、相容れないな。
──それにしても。
「なにも、言わないんだな」
「ん?」
「非難の一つや二つ、覚悟していたのだが」
別に叱られたいわけではないが、倫理的に言及されないのが不自然に感じ、つい尋ねてしまった。
「……あんたは、あの組織の連中とは違うからね」
「洗脳という、同じ手段を取るつもりだが?」
「手段は同じでも、そこに至るものが違う。あんたはあの子たちのために。やつらは自分たちのために。私には、それを非難することはできないね。……だから、あんたはもう少し肩の力を抜きな」
「そんなことを言われても……」
前世の感覚が抜けていないからか、どうしても、理性にブレーキがかかってしまう。
「逆に聞くが、非難を受けたら、あんたの考えは間違っていることになるのかい? その『間違い』ってやつは誰が判断する? あんたか? 私か? 神様か?」
「そ、それは」
「その選択をした責任を負うな、とは言わないさ。でも、なんでもかんでも抱え込んだところで、体を、心を、壊すだけさ」
「……ずいぶんと、簡単に言ってくれるな……」
「老婆心で一つ助言してやるよ。あんたはもっと、適当に、放漫に生きるべきだ。…………今までいろいろあったんだから」
「────まぁ、努力するよ」
彼女にお礼とお金を渡して、「そろそろ帰る」と告げる。
なんだかんだでつき合いが長いからな。こうして顔を合わせると、ついつい長話をしてしまう。
「やれやれ、難儀な性格だ。……はい、確かにっと。ほれ、薬瓶二つ、持っていきな。────って、ん?」
受け取った薬瓶をバッグにしまうのと同時──彼女は突然、辺りを見回した。
「なんだ? どうかしたか?」
「いや……。なんか、騒がしくないかい?」
そう言われ、周囲に耳をかたむけると──
「──た、大変だ! 結界が壊されて、魔物が…………街の中に!」
────目の前が、真っ黒になった。
「おいおい、冗談だろう? あの結界が破られるなんて……」
隣から、声が聞こえる。
……いや、そんなことは、どうでもいい。
今、重要なのは──。
『『マスター!』』
「……ッ! マーナッ! カーナッ!」
「あっ!? ちょっと!?」
後ろからかかる声を無視し、きた道を戻る。
────走る。走る。走る。
魔法も駆使し、全力で足を動かす。
二人の無事を、祈りながら──。
◇
「くそっ…………どこだ!?」
我が家を中心に探索魔法を使うものの、二人の魔力を見つけることができず、焦燥感に苛まれる。
「────あっ! 見つかった!」
家に向けていた足を、魔力の反応があった方向へと変えた。
しかし、安堵したのも束の間、再び焦りが募る。
「なんで、マーナだけ……?」
見つかった魔力は、マーナのものだけ。
カーナの魔力は…………見当たらない。
「と、とにかく、急いでマーナと合流しないと……」
マーナの元へ、走る。
頭の中に浮かぶ、嫌な可能性に目を背けながら────。
◇
──カーナの反応がないのは、誰かがあの子を保護して、俺の魔法の範囲外に匿ってくれているからだ。
もしくは…………もしくは、きっと、そうだ。俺のミスだ。俺が、二人を家に置いてきたから────
────違う。
違う。違う。違う!
お、俺が………………そう、俺が、探索魔法の設定を間違えたんだ。魔法の行使に集中できていなかったから、マーナの魔力しか探知できなかった。
ほかにも、まだ、可能性はある。
なんらかの原因で、カーナの魔力が尽きていた場合だ。
二人は魔法を使えないが、魔力を持っていないわけではない。むしろ、一般人よりもたくさんの魔力を保有している。魔力があるということは、なにかきっかけがあれば魔法を使えるようになる、ということだ。この土壇場でカーナが魔法を使えるようになる可能性だって、もちろんゼロではない。
そうだ。覚醒したカーナが、魔力を全て使って魔物をやっつけたのかもしれない。それなら、カーナの魔力が見つからず、マーナの周囲に魔物の魔力が感じられないのも納得できる。……ほかにも、可能性はある。あるんだ。あるはずなんだ。きっと、なにか、きっと、きっと、きっと
「──────嘘だ」
探索魔法が示していた場所、そこには──
空色の髪に、空色の瞳、赤いリボンをつけた少女…………マーナが、気絶して倒れていた。
────そして、もう一人。
マーナと同じ髪と瞳を持つ、青いリボンをつけた少女………………カーナの腹部から、おびただしい量の血が流れて────────
「う…………………………うわあぁぁぁぁぁあ!?」
完結まで、後三話。