TS転生美少女俺「もっと平和に暮らしたかった」   作:(ノ≧▽≦)ノ

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結(後編)

 

 

 

 

「──俺たちが発見したときには、もう、あっちの嬢ちゃんは……。ほんと、なんて言ったらいいか……」

 

「…………いえ、大丈夫、です」

 

 

 なにが大丈夫なのだろう。

 

 鬱屈とした感情が込みあげる。

 

 

 彼ら(自警団)はなにも悪くないのに、『どうして、カーナも助けてくれなかったんだっ!』と、叫びたくなる。

 

 それがひどいことだとわかっているのに、モヤモヤとしたこの気持ちを吐きだしたくてたまらないのだ。

 

 

 でも、そんなことをしてしまったら、俺は『英雄』ではなくなってしまうだろう。

 

 

 …………いや、そもそも、一番悪いのは俺なのだから、こんなことを考えてしまった時点で、英雄失格か。

 

 

 

「────マーナを救っていただき、ありがとうございました」

 

「あっ…………」

 

 一方的にお礼を叩きつけた俺は、マーナを背負い、彼らに背を向け走りだした。

 

 

 

 

 どれくらい走ったのだろうか。

 

 

 気がつくと、自分の家の前にいた。

 

 魔物の仕業だろう──半壊した、とても人が住めるとは思えない家に対し、修復の魔法をかける。

 

 

 みるみると、元の姿を取り戻していく我が家を眺め──

 

 

 

 

 ──脳裏に浮かぶのは、三人で過ごした日常。

 

 

 

 笑って、怒って、泣いて、楽しんで……。

 

 

 

 

 そんな日は、もう決して訪れない。

 

 

 

 

 

 この思い出の日々に戻ることは、できないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ふぅ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を書き終えた俺は、背を伸ばして一つ息をつく。

 

 伸ばした手を、自分の髪を結ぶリボンにそえる。髪色よりも少し濃い目の青色が、視界を掠めた。

 

 

「………………っ」

 

 わきあがりそうになる激情を抑え、自身を対象に鏡写しの魔法を行使する。

 

 これは、俺が【カーナ】に成りきれていることを確認するための魔法。

 

 

 マーナに勘づかれてしまうリスクを少しでも減らすため、魔術で投影された自分の姿に意識を向けた。

 

 

 

 

「あ────」

 

 

 そこには……

 

 

「カー……ナ…………」

 

 

 そこに、いたのは……

 

 

「………………カーナッ!」

 

 

 彼女を抱きしめようと、体が勝手に動き──

 

 

 

 

「あっ………………」

 

 

 ──彼女の体をすり抜けた。

 

 

「は…………ははっ」

 

 

 当然だ。これは、魔術で作られた実体のない幻影なのだから。ましてやこいつは、カーナでもなんでもない──俺自身だ。

 

 

 

 

 そう、あり得るわけがないんだ。

 

 

 

 カーナが生きている、なんて。

 

 

 

 俺に抱擁を返してくれる、なんて。

 

 

 

 

「なに……やってんだろ…………」

 

 震える膝に力を入れて立ちあがり、改めて『自分』を確認する。

 

 髪の長さ、リボンの位置、服のきこなし等々を、記憶の中のカーナと見比べ調整する作業。年齢差による背の違いや骨格のズレといった物理的修正が難しい箇所は、魔法に頼り解決した。そうしてできあがったのが──

 

 

「完璧、だな」

 

 俺とカーナは、同じ英雄から作られた存在だ。

 だから、似せることは難しくなかった。

 

 そもそも、第三者から見て俺たちの区別がつく人なんてほとんどいなかったのだ。ここまでそっくりにしてしまえば、マーナでさえ、こいつを【マスター】とは認識できないだろう。

 

 

「………………っ」

 

 せっかくうまくできたというのに、不安ばかりが込みあげる。

 

「…………くそっ」

 

 その気持ちを振り払うように、頭を振った。

 

 マーナが起きる前に全てを終わらせなければいけないのだ。こんなところで立ちどまっている暇などない。

 

 

 幻影を消し、先ほど書いた手紙を手に持つ。

 その後、カバンから薬瓶を取りだして、その中身をあおった。

 

 無味無臭の言わんとし難い不味さを、むりやり胃の中に流し込む。耐え難い吐き気を口を結んでやり過ごした後、適当な魔法で薬瓶を消し去った。

 

 

 

 後は、自分自身に洗脳術を使うだけ────

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 ──手紙を持つ手が、魔法を使う手が、震えていた。

 

 なぜ震えるのか、わからない。まさか、俺は迷っているのだろうか?

 

 

「………………迷う? 俺が?」

 

 

 迷うことなど許されない。

 

 なにも救えなかった俺だけど、せめて、二人を結ぶ姉妹の絆は守りたい。…………俺が、守らなければいけないのだ。

 

 

 

 そのためだったら、俺は──

 

 

 

 

 俺は………………

 

 

 

 

 

 俺は、洗脳術を行使した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────暗い、暗い場所。

 

 

 ここはいったいどこだろう?

 

 

「ぐっ……!」

 

 地震と錯覚するほどの目眩を感じ、思わずうめき声をあげる。

 

 足場が崩れていくような感覚に襲われるのと同時、まるで太陽かというような強い光に照らされた。そのおかげか、徐々に暗闇が晴れていく。

 

 

 

 そこには──

 

 

「────海?」

 

 

 ──視界一面に、『海』が広がっていた。

 

 

 

「…………って、一面!?」

 

 その瞬間、なにかに足を捕まれ、下へ下へと海の底に引きずり込まれる。

 

 痛い! 苦しい! と叫ぼうとするも、口からは声の代わりに泡がでるばかり。

 

 

「──ッ! ────ッ!」

 

 

 助けを求め、無我夢中に手を上に伸ばした。

 

 

 

 ──ガシッ!

 

 

 誰かに、手を捕まれる。

 

 

「引っ張るよ!」

 

 

 温かく、懐かしさを覚える感触に引かれ──

 

 

 

「────姉、さん?」

 

 

 

 英雄と、対面した。

 

 

 

 

「ふぅ……。なんとか間に合ったわね」

 

 

 

 

 

 先ほどまで俺が溺れていた海は、いつの間にか消滅していた。代わりに、太陽以外なにもない、真っ白な空間が広がっている。

 

 

「──久しぶりね」

 

 

 疑問だらけの俺とは違い、あのときと変わらない様子を見せる姉さんに、俺の混乱はますます深まった。

 

「ひ、久しぶりって…………いや、なんで姉さんが生きて……そもそも、この場所はなんなんだ?」

 

 姉さんとの再開を喜ぶ暇もないほどに混迷を極める頭の中で、言葉を紡ぐ。

 

「いろいろと疑問はあるだろうし、私も君と話したいことがたくさんある。……でも、時間がないんだ。だから、これだけは言わせて」

 

 

 そう言うと、姉さんは俺の近くまできて──

 

 

 

「────ごめんなさい」

 

 

 

 謝罪の言葉を口にした。

 

 

 

「…………は?」

 

 

 姉さんがなにを言っているのか、わからない。これは一体、なんに対する謝罪だ?

 

 

「君に重荷を背負わせてしまって、ごめんなさい」

 

 

 …………待て。

 

 

「姉さん? な、なにを──」

 

「私は、君の生き方を……人生を縛る『呪い』をかけしまった」

 

 

 やめて。

 

 

「なにを、言って──」

 

「どちらにしても消えるなら、せめて、私の手で清算したい」

 

 

 やめろ。

 

 

「や、め──」

 

「それが……私にできる、唯一の贖罪だから」

 

 

 

 

「────やめろっ!」

 

 

 

 その叫びを皮切りに──

 

 ──自分の中から、なにかが漏れでていった。

 

 

 漆黒に染まった、うごめく『()()』のような()()は、通常であれば嫌悪感を抱く代物だろう。

 だが、()()を見た俺は、嫌悪とは真逆の感情──『情愛』を感じていた。

 

 

 

「うぁ…………嫌だ、嫌だ、嫌だっ! 消えないで! とめてくれ!」

 

 

 愛しく思う()()に腕を伸ばすが、実体がないのか、つかむことができない。()()が体から抜けていくにつれ、四肢がバラバラにされるような錯覚に陥った。

 

 

「そんなもの、君の人生には必要なかったのよ?」

 

 

 慈母のような表情を浮かべる姉さんが、泣きそうな声色で語りかける。

 

 

 

「だから、忘れましょう?」

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

「……う…………て」

 

「え?」

 

「どうして、そんなものだなんて、呪いだなんて、忘れてなんて言うんだよ……。そんなこと言わないでくれよっ! 俺は…………ずっと、それを道標にしてっ──

 

 

 

 

「────ごめんね」

 

 

 姉さんが、俺の胸に手をかざす。

 

 

 ──ドクン。

 

 

 心臓が一つ、鐘を鳴らした。

 

 

「あっ……」

 

 

 それはまるで、祝福を告げるかのように、これは喜ばしいことなんだ、というように──

 

 

「あぁ…………」

 

 

 俺の体を浄化していき………………

 

 

 

 

『────ガチャリ』

 

 

 

 

 ────鍵の開く音がした。

 

 

 

 

 

 

「────んあ?」

 

 

 …………ここはどこだ?

 

 目に映るのは、烈火の如き太陽と、なにも映さない白い床。

 

「……洗脳術を行使して、それからいったいなにが──」

 

 

 

「────ねぇ、■■■■」

 

「ッ!」

 

 背後から、()()()()()()()女性の声がした。

 

 自分以外の声を聞くなど想定していなかった俺は、突然のことに驚きながらも、音がした方向にすばやく振り向いた。

 

「…………あんた、何者だ? どうしてその名前を知っている?」

 

 この世界では俺しか知らないはずの、()()()()()()()()()()()を知っている女性を警戒し、彼女から一歩、距離を取る。

 

 

 …………女性、でいいんだよな?

 

 

 認識阻害でもされているのか、彼女の姿に違和感を覚える。

 

 

 

「……そうか、忘れることができたんだねぇ」

 

 ニヤリと笑った女性は、こちらに向けて手を振った。

 

 

「──ッ、────」

 

 

 女性がなにかを呟くのと同時、彼女の体から黒いモヤが漏出しはじめる。

 

 

「む!? ……チィッ!」

 

 

 その明らかな異常性と生理的嫌悪感から、警戒をしつつ、迎撃の構えを取った。

 

 

 

「────バイバイ」

 

 

 …………くるか!

 

 

 どんな攻撃をされても対処できるよう、女性とモヤを注視する。

 

 

 集中と緊張が高まっていく中、事態は動く。

 

 

 

 黒いモヤが矛となり、女性の腹部を貫いたのだ。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 女性の体から致死量と判断できるほどの血が流れ、彼女を中心に赤い水たまりができあがる。

 

 警戒のために距離を取っていたこともあり、こちらが介入する暇もなく、一人の女性が自分の目の前で亡くなってしまった。

 

 

「む…………」

 

 不愉快な思いをしながらも警戒を続ける。女性は動かなくなったが、黒いモヤの脅威は依然としてそのままなのだから。

 

 

 しばらく、モヤに注意を向けていると……

 

 

「…………小さくなっている?」

 

 その言葉の後、モヤは急速に小さくなっていき、女性の体とともに消滅した。

 

 

 

 

「いったいなんだったんだ? …………って、あれ?」

 

 

 ──頬を伝う、水滴の感触。

 

 

 雨かと思い天を仰ぐ。

 

 目に入るのは、やけにぼやけた太陽で……

 

 

「…………目?」

 

 

 目元を指でぬぐうと、視界は明瞭になり、指が濡れた。

 

 

「涙だ……」

 

 

 どうして、涙が?

 

 

「ぐっ……。く、くるしい…………」

 

 

 

 胸がしめつけられるような痛みが、とまらない。

 

 

 

「うぅ………………」

 

 

 

 その苦痛に比例するように、涙の量が増えていった。

 

 

 

 

 

 落涙とともに、体から力が抜けていく。

 

 脱力感に身を任せるしかない己に、嫌気がさす。

 

 なぜ、()は泣いているのだろう。

 

 あれ、さっきも同じことを考えたような。

 

 わからない、わからない。

 

 私はなんの目的でここにきた?

 

 私はどうやってここにきた?

 

 そもそもここはどこなんだ?

 

 

 ──私は、いったい誰なんだ?

 

 

 

『弱い』

 

『死んじゃえ』

 

 

 

 ついに、幻聴まで聞こえはじめた。

 

 本格的に、頭がおかしくなってしまったのかもしれない。

 

 

 

『ゴミ』

 

『クズ』

 

『死ね』

 

『死ねよ』

 

『失敗作が』

 

『必要ない』

 

 

 

 ……あぁ、そうか。

 

 誰からも必要とされていないというのなら──

 

 

 

『お前は誰も救えない』

 

 

 

 ──死んでも、いいよね?

 

 

 

 そうだよ。なぜ、こんな拷問じみたことを耐え続けなければいけないのだ。

 

 さっきの人のように、さっさと死んでしまえば……

 

 

 …………あれ? さっきの人ってなんだっけ?

 

 

「まぁ、いっか」

 

 

 覚えていないということは、どうでもいいことだったのだろう。

 

 

 

 

『死ね』

 

 

 

 

 うん、わかったよ。

 

 

 

 今、死ぬからさ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──旅の途中、魔物の襲撃を紙一重で退けた後。

 

 ()()()()をもとに用事を済ませてきた私は、落ち込んでいる様子の妹に声をかけた。

 

 

「カーナ、大丈夫?」

 

「ぅ……うん。大丈夫だよ、お姉ちゃん!」

 

 

 

 ──違う。あなたは、私の妹ではない。

 

 

 私の妹は──

 

 

 

『もう、お姉ちゃんはー!』

 

 

 

 ──私の、妹、は……。

 

 

 

 

「本当に?」

 

「うぅ……。お姉ちゃん、目が怖いよ……」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 ()()を見つめること、約十秒。

 

 ようやく観念したのか、彼女はうつむきながらも口を開いた。

 

 

「──さっきの魔物」

 

「うん?」

 

「あとちょっと、反応が遅れていたら。あとちょっと、あいつが巧妙だったら。お姉ちゃんは…………お、お姉ちゃんは、きっと……」

 

「…………うん」

 

 

 彼女は体を震わせながらも、自分の意思を声にのせる。

 

 

「このままだとダメなんだ。お姉ちゃんと一緒にいられない。私は、お姉ちゃんと()()()()()じゃないと──」

 

 

 彼女の声が大きくなる。

 

 声に熱が帯びていく。

 

 

 それはまるで、自分に言い聞かせているようで──

 

 

 

 

『ずっと一緒だよ! お姉ちゃん!』

 

 

 ──ズキリ。

 

 

 心が、痛む。

 

 心に、ポカリと、穴があく。

 

 

 その痛みに気づかないふりをして、私は彼女を抱きしめた。

 

 

 

「──大丈夫! お姉ちゃんに任せなさい!」

 

 

 

 

『──大丈夫! 姉さんに任せなさい!』

 

 

 ──ズキリ、ズキリ。

 

 

 おさまれ。頼むから、おさまってくれ。

 

 痛みに顔をしかめたら、きっと、彼女は心配するだろう。

 

 

 それは、ダメだ。イヤなんだ。

 

 

 

「任せるって……」

 

「だからっ! 私も魔法を扱えるようになれば、今回のようにはならないでしょう? ということで、魔法を教わることにするわ!」

 

「教わる? 誰に?」

 

「それはもちろん────あなたよ! カーナ!」

 

「え」

 

「よろしくお願いします! カーナ先生!」

 

 

「………………へ?」

 

 

 間抜けな表情を浮かべる彼女を見て、偽りの笑顔を作る。

 

 

 

 あはは、あははと、空虚な思いを声にだす。

 

 

 

 

 ──ズキリ、ズキリ、ズキリ。

 

 

 

 

 …………私は、キレイに笑えているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──私は、最低だ。

 

 

 カーナの姉としても。

 

 マスターの妹としても。

 

 

 

 

「これを………………」

 

 

 

 ──私は、弱い。

 

 

 大切な人を守る、力がない。

 

 大切な人の死に向きあう、覚悟がない。

 

 現実を認めようとせず、理想にすがり、なにもしない……しようともしない。

 

 

 そんな自分に、腹が立って仕方がない。

 

 

 

 

「これを………………使えば」

 

 

 

 ──私は、逃げる。

 

 

 妹から。

 

 マスターから。

 

 

 私から。

 

 

 日に日に大きくなっていく違和感に、心が蝕まれていく。

 

 その違和感に気がつかないようになれば、この胸の痛みも、虚無感に襲われる日々も、なくなるのだろうか。

 

 

 その魅力に、手がのびる。

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 ──私、は……。

 

 

 

 

 ごめんなさい、カーナ──。

 

 

 …………さようなら、マスター──。

 

 

 

 

 

 

 私は、震える手で薬瓶を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
次話、完結。
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