TS転生美少女俺「もっと平和に暮らしたかった」 作:(ノ≧▽≦)ノ
──秘密結社【再起せし英雄譚】
表の顔は、魔物対策を主とした慈善事業。
裏の顔は、魔物対策のためには人道に背いたことも平気で行う悪徳組織。
そして、ここ……【再起せし英雄譚】本部の幹部室に、仮面をつけた女性が一人──。
「ふふっ」
女は笑う。
先日の出来事を思いだしながら、
『その薬瓶はっ…………確かに、私があいつに売ったやつだ。あんたの推察通り、【
「アッハァッ!」
声に興奮の色をのせ、
『ままならないものだね、ほんと。なに、こちらの話さ。さぁ、注文があるわけでもないんだろう? 帰った、帰った』
「アハハハハハハハァー!」
心底愉快だと言いたげに、お腹を抱えて嘲笑う。
「ハァ、ハァ……。ふふっ、ふふふっ! あー、おっかしー!」
ようやく落ち着いたのか、狂気じみた笑い声は鳴りを潜めた。
──誰もいない部屋で、彼女の独白は続く。
「軟弱な女と、孤独な女と、生意気な女……。アハッ!」
薬瓶を手に取り、カラン、コロンと、手元で遊ばせて──
「裏で糸を引く存在に気づかぬまま、演劇に身を投じていることを知らぬまま、彼女らは道化として最期まで、私を楽しませてくれた────あんたにも見せてやりたかったよ」
──直後、彼女しかいないはずの部屋に「グッ!?」という、男性の短い悲鳴が響く。
しばしの間、男のうめき声が続き──透明人間が透明状態を解除するかのように、彼の体がおぼろげに輪郭を取り戻し、姿形をはっきりとさせていった。
「……なんだ。こそ泥かと思ったが、うちの研究員じゃないか」
その装いから、目の前の男が組織の研究職に就いている人間だと推測した女は、そうつまらなそうに呟いた。
男は混乱から脱していない様で、しどろもどろになりながらも声をだす。
「な、なぜバレたんだ? ま、待て! 殺さないでくれ! 話せばわかる、話し合おうじゃないか! な?」
「ふむ……」
仮面の女は、考える。
杜撰ではあるが、一応、秘匿されているこの場所を暴いたこと。
わざわざ透明化して潜んでいたこと。
ここまでする男の狙いは──。
「……大方、私の行動に疑問を抱き、私を監視することでその疑問を解消しようとした──こんなところだろう?」
「なっなななぬぇっ!? し、舌噛んだー!」
誰が見ても図星と判断するであろう反応を示した男に、女は『ちょうどいい暇潰しができた』と、笑みを深めた。
「ま、いいさね。──知りたいことがあるのだろう? さぁ、
「む…………。では、お言葉に甘えさせてもらおう」
そう言う男の表情は、先ほどまでのうろたえていたものとは違い、その様はまるで、覚悟を決めた狩人のようだった。
…………舌を伸ばした頬の辺りを右手でなでていることを除けば、だが。
「本当は、もっと証拠を集めてから行う予定だったが仕方ない。──単刀直入に聞こう。その薬は、洗脳術を助けるものではないな?」
女の手元を指差しながら、男は聞いた。……いや、断定した。
「ふふっ……。どうして、そう思うんだい?」
「お前が開発したその薬が世に流れてから、英雄の数が激減した。因果関係を疑うのは当然だろう?」
「英雄であることをやめたいがために、使ったのかもしれないねぇ」
女は男の推論に対し、どこ吹く風な様子で適当に答える。
そう返されることが予想できていたのか、男は女の返答に一切の怯みも見せず、持論を畳みかけた。
「それだけではない。魔物の目撃情報が激増したのだ。『英雄の数が減ったぶん、魔物が討伐されなくなった』という単純な話ではない。今まで目撃情報のなかった強力な魔物の個体が、あちこちで出没しているのだ」
男は女を鋭く睨みながら──
「この魔物の出所──お前は知っているのではないか?」
──核心に迫った。
「…………」
女は黙る。
「沈黙は、肯定と受けとるぞ?」
男は、暗に『認めるのか?』と尋ねるが……
「………………」
それでも、女は無言を貫いた。
「っ……! なにか言ったらど──」
「──我が組織の裏の顔はなんだい?」
そのあまりにも唐突すぎる問いかけに、男は面食らってしまう。
「…………は?」
「表の顔は、魔物対策を主とした慈善事業。──では、その裏の顔は?」
「…………魔物対策のためには人道に背いたことも平気で行う悪徳組織、といったところか? ……それがいったいなんだというのだ」
自分の発言をさえぎるばかりか意味不明な質問をする女に向けて、若干の苛立ちを見せながら男が答えると、女は肩を震わせて──
「くっ、くくくっ……………………アッハァ! ────アーッハッハッハッハッハッハァー!」
──狂ったように、大声で笑いはじめた。
「ぇ………………」
これには男も驚いたのか、少しばかり固まるものの、すぐに復帰して女に詰め寄った。
「な、なにがおかしいっ!」
「おかしい? あぁ、おかしいねぇ! おかしすぎて、腹が痛いくらいさ!」
男は、くつくつと笑う女の仮面の奥に、三日月の弧を幻視する。
頭を振ってその幻を消した男は、知らず知らずのうちに抱いていた恐怖心を抑え込むように、大声でまくし立てた。
「ぉ…………お前はっ! その薬を使って、英雄と魔物を操った! そうなのだろう!?」
「ふっ、ふふっ、ふふふっ……!」
「わ、笑っていないで答えろ! 我々の理念に反することをしたのか! していないのか!」
「っふぅ…………理念?」
『全て笑ってごまかすつもりか』と懸念していた男は、まともな反応を示した女にひとまず安堵した。
「そ、そうだ。『魔物どもを駆逐する英雄を生みだす』という理念! 人体実験までしている我々は、我々が殺めてしまった生命のためにも、最強の英雄を誕生させる義務がある!」
「ははっ。……いやはやほんと、笑わせてくれるねぇ」
「…………なに?」
男は、女がかもしだす不気味な気配に気圧されて、思わず後ずさる。
「組織の本当の理念も知らずに、そんなことを言うんだからさ」
「本当の理念、だと?」
疑問を示す男に対し、女は答えた。
「──『
その女の回答を、男は鼻で笑う。
「……ふんっ! バカバカしい! 我々は魔物ではなく英雄を再現しているのだぞ? おかしなことを言っていないで──」
「──ちなみに」
男の反論を、女がさえぎった。
「魔物は、人間から変貌するんだけどさ」
「に…………って、はぁ?」
男は目を見開く。
「体内に蓄積された負の激情と、魔力を糧にしてね」
「う、うそを──」
「うそじゃない。それら二つの要素を持ち合わせた個体に、特殊な精神魔法をかけることで、魔物が誕生する……というわけさ。──そんな個体、どこかの組織が作っていたねぇ!」
「………………ま、さか」
喜々とした声色の女とは対称的に、男の声はひどく暗く、小さいものだった。
──体内に蓄積された負の激情……我々が彼らにしてきた実験は、まず間違いなく、膨大な負の感情を生みだしていたことだろう。
──魔力……英雄としての適性を持って産まれた者は、一般人と比較して大量の魔力をその身に宿している。
男は、自分が見たくもないパズルのピースが、頭の中で埋まっていくのを感じた。
────それが、
「……なぜだっ!? 魔物を増やしてなんになる! 自殺するようなものではないか!」
現実を認めずに騒ぎ立てる男を見て、女は呆れのため息をこぼす。
「はぁ、やれやれ。──まだ、わからないのかい?」
「魔物を倒すために、英雄が生まれたのではない」
つまり、女は人間ではなかった。
「──
この女の正体は────
「あ……あぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
狂乱した男が、女を殴ろうと、拳を構え走りだす。
「………………」
これに対し女は、動揺の気配も、避ける意思も見せなかった。何事もなく女の近くまでこられた男は、その勢いのまま拳を振りおろす。
しかし、女のことしか眼中になかったせいか──男は気づけなかった。
──いつの間にか、女のそばに控えていた『二体の化け物』に。
「う…………あぁ?」
男の拳が、化け物の手におさまった。
拳をとめられたことで、はじめて化け物を認識した男は、その『赤いリボン』をつけた化け物を無視して、仮面の女を見据える。
「あぁ………………ウガァッ!?」
再び女に殴りかかろうとした男は、突如襲われた足の痛みに、その場でうずくまった。
男は、下手人を確認する。
『青いリボン』をつけた化け物が、赤くぬれた自らの触手をくねらせていた。
「ガ、ア、ァ……」
「ま、透明になっていたのは、あんただけじゃなかった、ってことさね」
「ゥ…………ァ………………」
「目論見通り、いい暇潰しになったよ。…………あぁ、そうだ。お礼をくれてやろうじゃないか」
いいことを思いついたと、女は化け物に指示をだす。
──化け物らが、歩を一つ、
「私からのお礼」
二つ、
「それは、こいつらの血肉になってもらうこと」
三つと進ませて、
「どうだい? あんたが見せてくれた演目にふさわしい──」
大きく口を開き──
「──すばらしい報奨だろう?」
──幹部室に、男の絶叫が響き渡った。
「んー……赤い方はそうでもないけど、青い方はなかなかやるじゃないか」
先ほどまで人だったものがムシャムシャと血肉を貪られている中──女は平然とした様子で、二体の魔物について分析していた。
「妙な魂を持っているからかねぇ? なんにせよ、あのとき多少強引にでも接触したのは正解だったわけだ。……姉さん、姉さんと、うっとうしかったが、耐えたかいがあったねぇ」
女は、青いリボンから赤いリボンの魔物に視線を移し、「それにしても」と呟く。
「こっちは微妙だねぇ。…………いくら私という英雄の再現でも、所詮、紛い物かつ普通の魂ではこんなものか」
その発言とは裏腹に、さして気落ちした様子も見せず──
女をまとう認識阻害の魔法が消え去っていき──彼女の背が縮み、空色の髪と空色の瞳が露になる。
「まぁ、いいさ。使えるものはなんでも使う。昔も今も、それは変わらない」
女は、二体の魔物を見やり、
「いずれ、戦力は整うだろう。そのときが、あいつの末裔や今代の英雄の────」
獰猛な笑みを浮かべ、
「────死ぬときさ!」
そう、高らかと宣言した。
◇
──それは、遥か昔に執筆された英雄のお話。
【■■■の英雄譚】
────────────
──────
──こうして、世界が平和になったのも束の間……■■■の失脚を狙う運動が激化する。
その行動を裏から操り煽動していた、下劣極まりない人物こそ、■■■の相方として有名な■■であった。
魔術師として名高い■■は、精神に働きかける魔法の造詣が深く、その魔術を駆使することで、人と情報を支配していたのだ。
しかし、自身の能力を過信した驕り故か、それとも、■■■を敵に回したことによる必然か……ともあれ、■■に天罰がくだる。
戦士としての才能だけではなく、類い稀な頭脳も持ち合わせていた■■■は、暗躍せし■■の存在に気がつき──事態は急変する。
人間性に優れ人望の厚い■■■と、偽りの信望に彩られた■■では、勝負にすらならなかった。
■■の印象操作により下落していた■■■の評判が回復していくにつれ、■■の敵が増えていく。
追い詰められた■■は、驚くべきことに、自身の体を供物として黒魔術の儀式を行使し、後に『魔物』と呼ばれる化け物をこの世に落とした。
しかし、■■■は、その化け物らを狩りつくし──
────言っただろう?
私は、人と情報を支配するのは得意なのさ。
【■■■と■■の英雄譚】
────────────
──────
──こうして、世界が平和になったのも束の間……後に『魔物』と呼ばれる化け物が、突如として出現しはじめた。
■■■と、その相方である■■は、果敢にも化け物らに立ち向かい──────
拙作【TS転生美少女俺「もっと平和に暮らしたかった」】は、これにて完結となります。
ここまでご愛読ありがとうございました。
長々としたあとがきは、活動報告に掲載しております。よろしければ、下記リンクよりご覧ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=255767&uid=198142