ゲンソウロンパ   作:こえ

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存在した幻想の秩序

「さっき霊夢が言ってたわよね。『私たち全員の命はあの女の手中にある』って」 

 左手で金色の髪を静かにかき上げながら、女は言った。質問の応答代わりに、私は首を一回浅く縦に振った。

「そう、その通り。確かに、貴方たちの命は今、危機に瀕している。けれども、私の手中にあるわけじゃないのです」

 理解が追いつかない。しかし、女は話し続ける。

「ここに貴方たちを連れて来て、閉じ込めたのも私の仕業。記憶が殆ど残ってないのも私の仕業。だけどね、貴方たちの運命を握ってるのは私じゃない。貴方たち自身なのです」

 ここまで聞いても、まだ理解しきれない。

 今までのおかしいことは全部あの女のせいなのに、私たちの運命を握ってるのは私たち自身? こんなことまでのことができる人物が、何故私たちを泳がせるのか。そもそも、記憶を欠落させるなんてどうすれば出来るのか、全く分からない。

 何にせよ、分かることは「あの女は只者ではない」ということだけだ。

「おい、お前。何言ってるんだ? もっと分かりやすく言わなきゃ伝わらないぞ?」

 生意気に、ステージ上の女に負けないほどにニヤニヤしながら「鬼人正邪(きじんせいじゃ)」が噛み付いた。

 尚も、女の顔からは依然として不気味な笑顔が消えない。

「あら、まだ分からない?ならもっと平たく言ってあげますわ。貴方たちには――」

 一瞬、体育館から一切の音が消え去った。恐らく、ほんの一秒もかかってない間だったはずだが、私には何故かそれが長く感じられた。

 

 

 ついに、女は口を開いた。

 

 

 

「殺し合ってもらいますわ」

 時が止まった。あまりに唐突で残忍すぎる言葉だった。

 私も、魔理沙も、先ほどまでステージ上の女に噛み付いていたチルノや正邪も、その言葉に動けなかった。

 女の声が体育館中を反響し、完全にその声が消えた後に残ったのは長い、長い沈黙だった。痛いほどの沈黙だった。あまりに、あまりに、長く感じられた。

 その沈黙を破ったのは、魔理沙に近くにいた、金髪に黒髪交じりのショートヘア、それに蓮のような物があしらわれた飾りを乗せている「寅丸星(とらまるしょう)」だった。

「今のは冗談ですよね? 有り得ないですよ、殺し合いなんて」

 焦りながら確認してきた星に対して、ステージ上の女は意味あり気な笑みを返す。

「いいえ、本当よ。貴方たちにはしっかりと殺し合いしてもらいますわ。」

「おい、ふざけるなよ! そんなの私たちに何のメリットもないじゃないか!! 誰か殺したらここから出られても何にも嬉しくないぜ!」

 

 

 

「いつ私が、『誰かを殺したらここから出られる』って言ったかしら?」

 

 魔理沙の言葉の数瞬間後、またしても衝撃的な言葉が発せられた。

「な……!おい、まさか全員殺せって言うのかよ!」魔理沙は驚きすぎて、声が少し裏返っていた。

 女はその様子を見下ろしながら、静かに語り始めた。

「いいえ、そうでもない。……この殺し合いは、言わば『ゲーム』。そして、『ゲーム』には守らなくてはならない『ルール』がある。この殺し合いは、決してルール無用のサバイバルなモノじゃない。この殺し合いは、貴方たちの各々が『ルール』に乗っ取り、私と貴方たちのどっちが勝つかを決める。つまり、この殺し合いは『勝負』なのです」

 

 

 

 にわかに信じ難かった。今まで以上に、言っている意味が理解できなかった。

『殺し合い』が『ゲーム』であり『勝負』?あの女は、人の命を何だと思っているのだ。あの女は本当に『人間』か?そんな疑問を抱かざるを得ないほどに、命を軽く、そして薄く見ている。

「ということは、貴方も私たちと一緒に殺し合いをするのね? そうなら、真っ先に貴方を殺して差し上げますわ」

 銀髪の、先端に緑色のリボンの付いた揉みあげを結っている「十六夜咲夜(いざよいさくや)」が、軽口をたたくようにステージ上の女にそう言った。

「いいえ。私は参加しない。参加したら、標的は私以外に考えられないでしょうから」

「あら? それじゃあ、私たちと貴方との勝負を付けるのは出来ないんじゃなくて?」

「それに関しては、今からするルールの説明を聞いてもらえるかしら?そうすれば、貴方たちが本当に戦うべき存在がはっきりするわ」すまし顔で、女は言い放った。

 私は、どうしても女に言いたいことがある。言わなければ、気が済まない。

 そう思って、私は思いっきり息を吸う。そして、声に出す。

 

「私は――」

「私はどんな結果になってもこんな目に合わせたお前を絶対許さない。このゲームに勝って、お前を叩きのめしてやる」

 私と魔理沙の発言が重なった。正確には、私が発言しようとした瞬間に、魔理沙が話し始めたため、私が話すの止めざるを得なかった、と表現する方が正しい。

 しかし、魔理沙は私の言いたいことを全て代弁してくれた。だから、私も話すのを止めた。

 私は、思わず笑みが零れてしまった。この極限の状況にも一筋の光が射した、と感じられた。

 私たちのその様子を見ても、女はただ笑顔を浮かべてるだけだった。一体、いつあの女の笑顔が消えるのだろうか。

「ええ、貴方たちもようやくこの殺し合いを『ゲーム』だって認識してくれたみたいね。嬉しいわ」

「その見てて不愉快になる笑いがいつになったら見られなくなるか、楽しみだわ」

 私は思わず悪態をついた。息を吐くように、自然に口から出た。さっき言えなかった分だ、と思うことにした。

「私もいつ貴方たちが絶望に飲み込まれるか楽しみ。それじゃ、ゲームのルールの説明にでも入らせてもらおうかしら」

 女がフィンガー・スナップをすると、先ほどの気味悪い裂け目から、また女がスルリと出てきた。

 出てきた女は、金髪で、まるで動物の耳のように2本の尖りのある帽子を被り、ゆったりとしたロングスカートを身に纏っている。さらに、青い前掛けまで着ているので、見た目は非常に奇妙な姿だ。そして、何より気になるのは前から見ても分かる、何本もの狐の尻尾。

 今出てきたあの女は『人間』か?コスプレにしては、あまりにリアルすぎる。というよりかは、あの尻尾から造形物のような、言うならば『アンリアリティ』を感じない。

「藍、説明は任せたわ」

 紫色の方の女は、尻尾の生えた女に命令すると、こちらに背を向け、裂け目の方まで歩き始めた。尻尾の生えた女は、黙って軽く頭を下げた。

「待て! 逃げるつもりか!」

 魔理沙は、その女を引き留めようと叫んだ。

「心配しなくてもまた会えるわ。貴方が早々に殺されなければ、ね」

 そう言い残すと、裂け目に消えていった。

 ステージ上に残った尻尾の生えた女は、その後頭を上げてマイクスタンドの方の前に立った。

「それでは、ルールの説明に入らせてもらう。その前に、名を名乗っておこう。私の名前は八雲藍(やくもらん)、先ほどの私の上司、そしてこのゲームの主催である私の主人の名前は八雲紫(やくもゆかり)だ」

 あの紫色の女とこの狐尾の女は意外にも同じ名字だった。しかし、どうもあの2人は親子や姉妹には見えない。ましてや、藍が「上司であり主人」と言ってるので、主従関係が存在することが予想できる。偶然の一致だろうか。

「このゲームは誰かが誰かを殺すことで動き出す。これを『事件』と呼ぶ。ただし、1つの『事件』では1人しか殺してはいけない。さらに、『事件』の加害者のことを『クロ』と呼ぶ。そして、それをお前たち全員が力を合わせて、推理し解決していく。ここまでで何か質問はあるか?」

 八雲藍の言葉に反応して、緑髪でロングヘアー、蛙の髪飾りをしている「東風谷早苗(こちやさなえ)」が手を高々と挙げた。

「はい、質問です。我々が永遠に『事件』を起こさなかった場合、どうなるのでしょうか」

「それについては、後々詳しく説明する。まあしかし、誰も事件を起こさなかったら、誰もここから出ることは出来ないだろうな」

 答えが返ってきた後、早苗は挙げていた手を自身の顎にあて、少し考え込んだ。

「……そうですか、分かりました。続きをお願いします」

「では、続ける。この『事件』で生じた死体を『クロ』以外の4人を発見した時点で、『事件発覚』とする。『事件発覚』してから72時間後に、このゲームのキモである、『ゲンソウサイバン』を行う。……質問は、と言ってもゲンソウサイバンのことだろう。今から説明するから質問は不要だな。『ゲンソウサイバン』とは、生き残っている全員が一堂に会し、証拠や証言、話し合いで『クロ』を探し、処刑する。全員参加型の裁判だ」

「処刑……?処刑ってどうするつもり?他の人達でその『クロ』をリンチするっていうのかい?」

 赤い髪で両サイドに三つ編みを結っている「火焔猫燐(かえんびょうりん)」が小さく呟いた。

「処刑は我々が行う最高のパフォーマンスだ。いくらここが社会から隔絶した空間とはいえ、秩序を乱す者は抹消されなくてはならない。その点に関しては、処刑時に詳しく説明しよう」

 私たちが事件を引き起こすことありきで話を進めている藍に腹が立った。が、ここで反抗しても何も進展しないだろう。今は従うしか、ない。

「そして、お前たちに『事件』を起こす動機を与えよう。この18人の中に1人だけ……『ウラギリモノ』がいる。つまり、私たちの内通者(スパイ)だ。『クロ』はその人物を殺す、という動機で『事件』を起こすことになる」

 衝撃が私の中を突き抜けた。藍の話だと、仲間だと思っていたこの18人の中に奴らの仲間がいるらしい。言うまでもないが、私ではない。疑いの目を持っているわけではないが、横の魔理沙を見る。魔理沙も私の方を見ていた。疑念と驚嘆が渦巻いている目をしていた。

 私は必死に首を横に振る。この状況だ、疑心暗鬼になってしまうのだ。私も、魔理沙も。他の全員も。

 藍はそんな様子を意に介せず話を続ける。

「何故『ウラギリモノ』を殺害しなければならないか?『事件』が最後の『事件』から432時間、つまり18日間発生しなかった場合、このゲームは『ウラギリモノ』が1人勝ちしてしまうこととなり、他の全員は処刑されてしまうからだ。つまり、このゲームは『クロ』は『ウラギリモノ』を殺害しなくてはならなく、間違って無関係の人物、『シロ』を殺してしまうと裁判での標的になってしまう、という寸法だ。中々よく出来ているだろう?」

 あまりに残酷なルールだ。まず、誰かが誰かを殺すことから始まるルールだ。そして、我々『シロ』が怖がって、いつまでも『事件』を起こさないと私たちは奴らに殺される。どう足掻いても、殺人から始まり殺人に終わるゲームになってしまう。

「さて、ではこれから細部の説明に入る。まず、共犯関係について。この場合、実行犯だけが『クロ』となり、共犯者は『シロ』のままだ。よって、共犯関係というのは生まれにくいだろう。次に、『ウラギリモノ』に関連することを説明しよう。まず、『ウラギリモノ』は絶対に『事件』を起こさない。そして、『ウラギリモノ』の殺害を成功した場合、その瞬間にこのゲームは終了する。終了した時点での生存者全員が脱出することが出来る。だから『クロ』は『ウラギリモノ』を殺害できたかどうかはその瞬間に分かる、ということだ。さらに、話を進めよう。『ゲンソウサイバン』についてだ。もし、『ゲンソウサイバン』で『ウラギリモノ』が処刑された場合、その瞬間にゲームが終了し、その『事件』の『クロ』だけが生きて脱出できる。もし、『ゲンソウサイバン』で『シロ』が処刑された場合、『クロ』は生き残っていることになる。生き残った『クロ』は絶対に次の日に再び事件を起こさなくてはならない。逆に『ゲンソウサイバン』で『クロ』が処刑された場合、次の日は絶対に事件が起こらない。起こしてはいけない。ルール違反は許さないからな」

 

 本当に細かいところまで作り込まれてるルールだ。穴という穴は見つからない。それにしても、残酷だ。『クロ』がその日の『ゲンソウサイバン』を乗り切れたとしても、次の日にはまた『事件』を起こさなくてはならない。だから、よっぽどの自信が無い限り、『クロ』になるのは危険だ。それと同時に、この場に疑心暗鬼をもたらした。自分以外の誰かがもしかしたら『ウラギリモノ』かもしれないのだ。 そう思ったら、他人をそうそう信じられなくなってしまう。今が、まさにその状況だ。

「さて。私の役目はこれまでだな。体育館の扉は開けておくから、自由に校舎を探検してみるといい。それでは、幸運を祈っている」

 藍は裂け目の中に消えていった。その後、裂け目は閉じて、跡形もなく消えた。

 しかし、全員のそれぞれに対する疑惑はこの場に残ったままだ。『ウラギリモノ』がいると判明した以上、誰も信じられないのは無理はない。私も、誰かを完全に信じることが出来ない。

「霊夢、行くぞ。ここで黙っててもウラギリモノの思う壺だぜ」

 魔理沙から話しかけてきた。非常に意外だった。魔理沙は、精神的に私より弱いと思っていたので、この状況に飲み込まれていると思っていた。しかし、自ら打破しようとしていた。私が思っている以上に、魔理沙は強いのかもしれない。

「ええ、そうね。……行きましょう。ウラギリモノを倒すために」

「分かってるさ。お前がウラギリモノじゃないと、信じてるぜ」

 信頼されてる、と実感した。だが、この言葉の返答に困った。安直に「ありがとう」などと言って良いものか。こんな葛藤があるなんて、私は魔理沙より弱い。私も魔理沙のように強い心を持たなくては、この状況で戦えない。

「ありがとう。私も信じてるわ、魔理沙」

 何とか言葉を絞り出した。私も魔理沙を信じたい。魔理沙はニコっと笑うと、「おう、じゃあ探検開始だ。とことん探すぜ」と言って、扉の方に歩き出した。私もそれに続いて、扉に向かった。

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。
今回は少し長めです。前回が少し短めだったので。
今回はゲームのルール説明がメインでしたが、如何だったでしょうか。
長文続きで見苦しい点もあるかもしれないです。これでも、なるべく短めに済ませた方です。次回からは、テンポよく行きたいと思います。
なので、次回も是非見て頂けると嬉しいです。
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