ゲンソウロンパ   作:こえ

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真贋見抜く心眼

 天子の部屋を出て次の組、天子の部屋とは反対側に私の部屋があった。

 今まで見てきた扉と変わってるところは何一つない。強いて言うならば、ドアノブに「HAKUREI」と彫ってあることだけだ。

「私の部屋には人形、天子の部屋には剣、星の部屋には槍があったわね。霊夢の部屋には何があるのかなぁ」

 メディスンが何気なく呟く。

 確かに気になる。あの女、八雲紫が言ってたことから考えるに、各人の部屋にあったモノは記憶があったころの各々に深く関係しているはずだ。例えば、メディスンだったら人形屋の娘さん、だとか。しかしながら、天子や星の場合は予想しにくい。鍛冶職人の娘さんとかだろうか。

 そして、この部屋には以前の私に関連しているモノのはずだ。触れれば記憶もほんの一部だけ甦る。それが、少し怖いようであり、楽しみのようである。

 何にせよ、見ないわけにはいかないのだ。あの女に一泡吹かせるためには何だってやると決めたのだから。たとえ殺しでも。

 

 開けるわよ、と一声かけて返事を聞かないうちに私は扉を開けた。

 瞬間、私の目を一際引くモノが部屋の中央に安置されていたのが見えた。思わず目を見開く。

 幣だ。部屋の雰囲気とは全く合っていない。

 しかし、それを見ると私の頭の中がグルグルとする。そして今度はもっと近づいて見てみたい、触ってみたいという欲求が湧いてくる。

 私は欲求のままに幣に向かって走る。腹を空かせた猛獣のような勢いで。

 後ろで誰かが何かを言っていたようだが、内容が耳に入ってこない。それ程までに私はあの幣に釘付けだった。

 幣を拾い上げて、私の目線の高さまで持ち上げてみる。紙垂が顔にかかって少しくすぐったい。

 私は今、穴が開くほど幣を見つめている。その光景は異常だということは自覚さえ出来る。だけど、視線を外すことが出来ない。未来永劫このまま見続けたいとまで思ってしまうほどに。

 見つめていると、私の頭の中がグルグルしていたが次第に何か形になっていく。文字になっていく。

 

「神社……」

 私の意思に全く関係なく口から零れた。途端に、私の頭のモヤモヤが消え、幣に対するある種の狂気的な興味も失せてしまった。

「霊夢は『神社』かぁ……。これまた意外ね」

 部屋の外からメディスンが驚嘆交じりに言った。

 

 私に関連するモノが幣、そして出てきた言葉も『神社』と。私は記憶を失う前まではどこかの神社で巫女さんをやっていたということだろうか?

 人形屋、鍛冶職人、そして巫女……全く関連性が見出すことが出来ない。一体、私たちはどのような理由で集められたのだろうか?ただ無作為に抽出されただけなのだろうか?

 

 星は小さく唸った後、不思議そうにつぶやいた。

「それにしても、この記憶を甦らせる不思議なモノは一体何なのでしょう。すこぶる気になりますね」

「用意したのは八雲紫のはずです。確実にあの女は只者じゃありませんね」さとりが答える。

 メディスンは困ったような表情でため息を吐く。

「それにモノを見た時に湧くあの恐ろしい気持ちは何なんだろうね。正直なところ、自分が怖くなっちゃった」

 確かに、その通りだ。自分でも抑えきれない欲求が渾々沌々と湧き上がってくるあの衝動。はっきり言って、二度と味わいたくない。

「あんな気持ちに駆られるなら、誰か言ってくれれば良かったのに」私はわざとらしく言った。

「私は既にメディスンさんが教えていると思ってました」

「そもそもまだ部屋を見つけてません」

「面白そうだったから黙ってました。ごめんね」

 文字通り三者三様に答えられてしまった。メディスンの言い分には呆れざるを得ない。

 私は先程のメディスン以上に大きくため息を吐く。

「……もういいわよ。次はさとりの部屋に行きましょう。それでここにいる4人の部屋の探索が終わるでしょう?」

「ええ、その通りです。私も一刻も早く自分の記憶を一部だけでも取り戻したいので早く行きましょう」

 さとりが微笑を浮かべてそう言った。初めてさとりの笑顔を見たような気がする。彼女に対する第一印象は『暗い少女』だったので、正直かなり驚いている。私が思っているより、さとりは暗い少女ではないのかもしれない。

「霊夢さんはこれ以上自分の部屋の探索しなくていいんですか?」星が私に訊ねた。

「ええ。多分全員の部屋の間取りは一緒だから大丈夫。もうメディスンと天子の部屋を見たからね」

「それもそうですね。では、さとりさんの部屋に行きましょうか」

 私たちは部屋を出た。幣はしっかりベッドの上に安置させておいた。

 

 

 

 私の部屋を出た後、一番最初に口を開いたのはメディスンだった。

「なーんか雰囲気が重苦しいわよねぇ、ここは」

 彼女が言った「ここ」とは、おそらくこの廊下のことだろう。

「確かにこの施設の中でも、より閉塞感がありますね……。『個室』というプライベートな空間の集まりだからでしょうか」

 星の言うことには合点がいく。閉塞的にしておくことで各々の個人と集団のボーダーラインを張っている、という風に考えることも出来る。八雲紫の、私たちへの配慮なのだろうか。私たちに命を懸けろ、と言ってるわりには、私たちの個人生活には介入しない体勢をとるようだ。あくまで、ゲームの完遂が目的、ということなのだろう。

「幸い、部屋に鍵もかけられるし、プライバシーは守られてるわけね」メディスンは安堵の息を漏らした。

「プライバシーと安全、ですね」さとりがそれに付け加えた。

「部屋にいる時に安全が確保されてるのは助かるわね。安心して寝られるもの」

 すると、星が口元に手を置いてクスクスと軽く笑った。

「霊夢さんって案外楽天的ですね」

 丁度そう言われた時に次の扉を見つけた。私の部屋があった方の扉のドアノブを確認すると、「KIRISAME」とあった。ということはここは魔理沙の部屋だろう。

「こっちはさとりの部屋じゃないわよー」私の代わりにメディスンが背後にいるさとりに報告した。

 これで私の部屋の周辺の位置が把握できた。私の隣は魔理沙と…確か燐だった。向かいは咲夜だった気がする。しっかり確認していないので確定は出来ないが、私の記憶はそう言っている。ならば、そうなのだろう。

 位置を確認することは非常に重要だろう。事件が起こった時には位置関係はとてもとても大切だ。

 

「……こっちも私の部屋ではないですね。次の部屋に行ってみましょう」

 魔理沙の部屋の向かいのドアノブを見た後、廊下の奥へゆっくり歩いて行った。

 メディスンはさとりについて行きながら、星に訊ねた。

「ちなみに、そっちは誰のだった?」

「妖夢さんの部屋でしたよ」

「成程ね、ありがとう」

 私はその会話を聞きながら、ふと考えていた。妖夢とはまだ関わっていないなぁ、と。もしかしたら、関わる前に私か妖夢がいなくなってしまうかもしれない。妖夢に限らず、咲夜や布都など他の関わりが未だにない人物にも言える。それを防ぐためにも、他人とのコミュニケーションは積極的に取っていくのが吉だろう。記憶がなくなる以前の私たちに関わりがあったのかもしれないが。

 

「私の部屋がありましたよ」決して大きくないがどこかずっしりと威厳のある声が廊下に響き渡った。

 さとりは妖夢の部屋より1つ奥の扉の前に立っていた。どうやらそこが彼女の部屋らしい。

「先に入ってます」と言い残して足早に自分の部屋に入っていった。

「あ、ちょっと待ってよ!!」メディスンは駆け足でさとりを追いかける。

 星は私に微笑みかけた。

「私たちは歩いて追いつきましょうか」

「星も意外と楽天的ね」

「お互い様ですよ」

 和やかな雰囲気だった。心底、これが只の合宿のような催しだったらと思う。怖いのは1点、星がウラギリモノだったら、ということだ。最初に信用を得させるターゲットを私に定めたまでのことなのかもしれない。現時点では情報が少なすぎる。取り敢えず全員と対等に話すしか他はない。情報を得てから追い詰めていけば良い。

 

 

 

 私と星がさとりの部屋に着いた時には、既にさとりは部屋の中央で、手に持っているなにかをしっと見つめていた。あれは何だ?赤い眼の形をしたオブジェのようだが、名称が全く分からない。

 直後、さとりが力を抜くように息を吐き出した。

「『心』…………。これが、私に関するキーワードのようです」

「さとりさんのキーワードは『心』ですか……。それより気になるのですが、それは一体何なのですか?」

「これですか。私自身にもよく分かりません。名前すら分かりません。ですので、思い出せるときが来るまで私は『サードアイ』と呼ぶことにしました」

「サードアイ、ですか。それはまた何故ですか?」

 さとりは自分のまぶたをトントンと2回軽く指先で叩いた。

「この通り、私には既に2つ、眼があります。ですので、安直ですが第三の眼ということでそう名付けました」

 メディスンが何度も首を縦に振って、興味深そうにそれを聴いていた。

「それいいわね。じゃあ私もあの人形に名前でも付けようかしら。『セカンドミー』とかどう?」

「人形にそんな名前付けるのはどうかと思うわよ……」私はツッコまずにはいられなかった。

「え、そう? わざわざ名前付ける必要もないのかしら、やっぱり」

「さとりみたいにモノに名前付けるなんて稀有なんじゃない?」

すると、さとりは恥ずかしそうに微笑んだ。

「……私にもよく分からないのですが、これを見た瞬間にインスピレーションが湧いたのです。

もしかしたら、過去の私の記憶なのかもしれないですね」

 

 八雲紫は確かに言った。私たちの記憶を蘇らせるためのヒントだと。そしてそれには個人差があるのかもしれない。さとりはインスピレーションが湧いた、と言っているがさとりの記憶の片鱗がそうさせたのかもしれない。変な話、メディスンの『セカンドミー』とやらも合ってるのかもしれない。そうだったら、ネーミングセンスは疑わざるを得ないが。誰か1人でも記憶が戻ってくれればウラギリモノだって分かるかもしれない。したがって、さとりには一種の期待を抱いてしまう。抱かざるを得ないのだ、八雲紫に勝つために。

 

 

「とりあえずここにいる4人の部屋の探索は終わったわね。次はどこに行くんだったっけ?」メディスンが首をかしげる。

「私たちはこれから凶器室に行くつもりだったんだけど……星とさとりは?」

 星はあまり乗り気じゃないようだ。目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。

 さとりはその様子を名前通りに覚ったようだ。

「私たちはこの後は保健室の調査をするつもりでした。どうやら、ここで一旦お別れのようですね」

 私は1度、深く頷いた。

「分かったわ。それじゃ頑張ってね」

 さとりは少しだけ口元を緩めた。

「ええ、勿論。霊夢さんたちも気を付けて」

 




お疲れ様です。
私の活動報告を読んでいただいた方はお分かりになられていたと思いますが、諸事情により投稿を1週間遅らせていただきました。

今回は前回の宣言通り4000字以上を目指してみました。慣れていないので大変でした。
しかし、長いと纏まりがあってスッキリとしますね。これからも同等、むしろこれより多めの字数で投稿したいと思います。
投稿ペースは2~3週間に1話、といった感じになりそうです。
これからも応援よろしくお願いいたします。
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