ガンダムビルドダイバーズ divers ensemble   作:千葉ネリモン

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創傑伝やヒーローズのキットの出来栄えに喜んでいる今日この頃です。
そして12話となります。





第12話 それぞれは夜に思う

 

 

『確保したELダイバーの転送はいつ行う?』

 

 無味乾燥とした一文。それを読んだ彼も淡々と返答する。

 

『素体は既に準備してある。手続きが済み次第速やかに実施する』

『承知した。転送のやり方はそちらに任せる。転送と現物の確認次第振り込みをする』

『承知した』

『念を入れて緊急事態のプランも送付するため、目を通しておけ。急場をしのぐためのモノも届けておく』

『承知した』

 

 数行のやりとりを経て、ログを消去。連絡を終える。

 随分な念の入りようだが、振り込まれる額を考えればそれも頷ける。

 その特異性、希少性は十分に理解できている。だが、本当にそれほどの価値があるのか?

 依頼を申し出された時、そう問わずにはいられなかった。相手は間髪置かずに首肯したのが忘れられない。

 ELダイバーとは……。そう考えた時、部屋のドアからノックが聞こえた。

 

「兄さん、まだGBN? 母さんがご飯できたってよ」

 

 扉越しに妹の声がする。

 端末の時刻を見れば、既に19時を過ぎている。確かに夕飯にはいい時間だった、

 

「すぐ行くよ」

 

 端末を手に机の前から立ち上がり、のびをする。

 家庭用のGBN筐体のおかげで大型店舗に行かなくてもいいが、同じ姿勢を続けているので体が痛む。

 軽く首をひねりながら、自室のドアを開ける。

 扉の前には車椅子に乗る妹がいた。肩口で切り揃えた髪に、薄くそばかすが残る見慣れた顔が、不満げに口を尖らせていた。帰宅してからだいぶ経っているはずだが、通っている中学の制服のままだ。長いスカートの裾には包帯が巻かれた足首が覗いている。

 

「いくら暇だからって、遊び呆けてていいのかな大学生?」

「いいんだよ中学生。話したろ、GBNでバイトしてるって」

 話ながら車椅子の手押しハンドルを取り、居間に向けて歩き始める。

 

「それ前も言ってたけどさ、本当に仕事してるの? ていうかどんな仕事?」

「一応、エンジニア系? あと接客」

「エンジニアは分かるけど、接客とか大丈夫? ちゃんとスマイルできてる?」

「安心しろ。塩対応なのはお前に対してのみの限定サービスだ」

「うっわ、要らないよそんなサービス。もっと質の向上を要求する!」

「現在妥協点を模索中。しばらくこのままでお待ち下さい」

「妥協すんなし!」

 

 頬を膨らませている妹を見ていると、ふと先日話したことを思い出す。

 

「そういや、前から作ってたアッシマー完成したのか?」

「うん。ちょうど今日ね。だからまたGBN入らせてよ。変形ってどうするのか興味あったんだ」

「はいよ。けど、最初っからアッシマーで本当にいいのか? SD系とかベアッガイとか、もっと可愛い系のガンプラもあっただろうに」

「いいの。人形があんなマカロンやどら焼きみたいな形になるの面白いじゃん。てか普通に可愛いよアッシマー」

「……お前やっぱ変わってるわ。アッシマーをマカロンって言った人間初めて見たぞ」

 

 確かにあのUFOの様な形態は、見ようによってはそう見えなくもないがマカロンを持ってくる妹のセンスはやはり独特だ。せいぜい最中か月餅だろう。

 

「私にはそう見えたんだからそれでいいの! ピンクにしたら絶対マカロンっぽいし!」

「ああうん。そうだね……まあとにかく。飯食って体洗ったら筐体お前の部家に持ってってやるよ」

 

 気のない返事に妹は頬を膨らませたが、無視して居間へと足を向けた。

 数ヵ月前に起きた世界規模での通信障害の折りに、妹は交通事故に遭遇し足の自由が効かなくなった。

 上半身はほぼ無傷で無事だったのが救いだった。最近になりようやく学校へも復帰し、今は時折GBNにログインして、自分の足で立つ感触を思い出している。それが妹の心のケアにもなっているが、現実と差が埋まっているわけではない。

 根本的な解決が必要なんだ。そして高額になるが海外で高度な手術を受ければ、また歩ける見込みはあると医者は言っている。

 だから今は、金が必要なのだ。

 どんな事をしてでも。

 

 

///

 

 

 ルメとの出会い。ジンガを交えての共同ミッション。新しい愛機の仕上がりの確認と……暴走。

 目まぐるしかった一日を思い出しながら、タケウチ・ミヒロは自宅の湯船に浸かっていた。ほっそりした体を張った湯の中に肩まで沈め、普段三つ編みにしている髪はヘアクリップでまとめている。

 最後のバイクの暴走はユキナにも申し訳ない事をしたと反省をしつつ、今日あった出来事を何度も反芻していた。

 

「ジンガくん、上手くなってたなあ」

 

 そうぽつりとつぶやく程に、始めて間もないジンガの成長には、目覚ましいものがあった。

 先のミッションでジンガの援軍として向かったコーヤとキナが目にしたのは、怪獣の様な姿のダナジン数機をたった一人で制圧したマックスターの姿だった。

 厄介な高火力ビームをステップで軽やかに躱し、シールドボードで市街地を疾駆してはダナジンを翻弄。二丁拳銃で牽制しながら死角や背後に潜り込み、マックスター得意のハードパンチで胴体を抉り飛ばす。

 ダナジンはその姿もあって、威圧感が他の機体とは異なる印象があり、コーヤも一度接近戦を仕掛けたが正直恐怖しかなかった。だからこそ余計に、果敢に挑みチームを勝利へ導いた年下のダイバーの腕前は素直に称賛したいと思った。

 GBNのハイランカーでMFを使うダイバーは意外と少ない。格闘系で一番に名が上るタイガーウルフも、MSベースの機体を使用している。ZA-∀Zのシャイニングブレイクは有名だが、あれをMFと定義するのは些か無理もある。

 飛び道具の少なさが不人気の原因とも考えられるが、そんな環境でもMFを選択した姉弟の好きという想いが気持ちいい。

 ルメがあの二人のガンプラと話したら、どれだけ自分が愛されてるかを語ってくれるだろう。

 そしてまた同じ結論が頭の中に浮かび上がる。

 

「……やっぱり、この手が一番可能性あるよね」

 

 天井に昇る湯気を眺めながら、ミヒロは脱力した声で呟く。

 ミッション中も、帰ってきてから夕飯を食べ、風呂に入り浸かっていた間も。ルメともっと話す方法が何かないかと、ずっと頭の隅にあった。

 コミュニケーションを絶っていたルメが、自分と話した理由は一つしか考えられない。即ち、ガンプラと話したか否か。

 と、ここまで考えてミヒロは大きくため息を吐き出す。

 有効とは思っても、とても口に出せないむず痒さがある。いくらなんでもガンプラとお話しに行こうなどと、

 

「相談していいものだろうか……」

 

 ルメとはもっと話したい。そのためなら、何でも試したいという心は対面する前と何も変わっていない。

 みんなのガンプラと引き合わせて色々と語り合ってもらう。特にニトラの話が正しいなら、彼のレギルスはルメと話した可能性が高い。例え相手がガンプラでも心を開ける相手が居れば、差はきっと歴然だ。ミヒロ自身それを痛感している。

 どうにか連れ出せないだろうか。あとはみんなが集まれる日を調整して。

 そうして思考を巡らせていると、浴室の外から声がした。

 

「ミヒロ~? 寝ちゃってないか~い?」

 

 祖母の声が浴室の向こうから聞こえてきた。そういえば結構な長湯をしていたのだった。

 

「起きてるー。今でるよー」

 

 風呂場にミヒロの声が反響する。温くなっていた湯船から上がり、体を拭きながら脱衣徐へ。頭のクリップを外し、水を吸って重くなっていた長い黒髪をまとめながらドライヤーをかけていると、鏡台前に置いていたスマホのランプが点滅している事に気付いて手に取る。

 ユキナからメッセージが届いていた。

 

『今度ルメちゃんに会う時、私らのガンプラも一緒に会わせてあげられないかな? 本当にガンプラと話せるみたいだし......笑われるかもしれない提案だけど』

 

 ドライヤーを一旦止めて、ミヒロは返信を打つ。

 

『笑わないよ。同じこと考えてた』

 

 そう返信するミヒロの表情は、とても嬉しそうな笑顔をしていた。

 

 

///

 

 

 夜空に散らばる星の輝きを、澄んだ湖の水面は静謐に映し出している。

 ここはGBNのエリアだったが、この場にはしのぎを削るダイバー達の姿はない。

 今はただ穏やかな風が吹き抜ける、ただの湖のほとりだ。ほんの数分前から、そうなったところではあるが。

 この静かな湖畔に、ひっそり佇む巨影がある。深い濃紺と白色で塗装された、ZZガンダムベースの機体。ガドのヘヴィーゼータだ。全身の装甲には至るところに損傷があり、片腕も失った痛々しい姿は先程まで激しい戦闘をしていた事を物語っている。

 GBNの黎明期を共に駆け抜けた相棒をここまでボロボロにするのも、そして肩に乗るのも久しぶりのこと。ガドは鬣を撫でる穏やかな風を感じながら、どこか懐かしそうに目を細めていると、ほどよい冷たさの風が心地よく鬣を撫で、ディメンションの彼方へと去っていく。

 

「腕を上げたな、コサギ」

「そういうお前は腕が落ちたな。二年のブランクがもろに出てるぞ」

 

 ガドは傍らに腰かけるダイバー、コサギへと親しげに呼び掛ける。対して傍らに立つコサギと呼ばれたフクロウの姿のダイバーは、大きな目を半開きにして、どこか面白く無さそうに答えた。

 コサギもガドと同じく、動物タイプのダイバールックをしている。ベースは茶色の羽毛のミミズク。140センチほどの小柄な体に服装は濃紺色の和装で、十六角形の頭巾に結袈裟、一本歯の下駄と修験者の様な格好をしている。

 

「二年……いやもっとか。たったそんだけなのに、GBNは大部変わってたんだな。久々にステージに入った時は驚きで声が出なかったぜ」

「二年ははたったじゃねえよ。それに驚いたのはこっちの方だ全く」

 

 目を細め、感慨深く感想を告げるガドと対象的に、コサギは憮然としたまま言葉を返す。デフォルメされたフクロウの顔が見せる、拗ねた様な表情にはある種の愛らしさがあったが、それを本人に言えば本当にへそを曲げてしまうだろう。

 

「年単位で音沙汰無かった奴が、急に連絡寄越しやがって。しかもよりによってこの場所によ。何があった?」

「……ちょっとした心境の変化。今はそういう事にしといてくれねえかな?」

 

 コサギの質問に曖昧に答えを返すと、ガドは鬣をいじりながら言葉を続ける。

 

「何ていうか、そう。けじめみたいなものだ。本格的にGBNを再開する気になれたから、憂いを少しでも無くしたくなった、というか……あれだ」

「要するに、お前がすっきりしたかったんだろ?」

「……すまん。つまらん事に時間を割かせてしまって」

 

 ガドが耳を倒して心底申し訳無さそうな声で謝る。と、コサギは今度こそ呆れた顔でため息をつき、

 

「気にすんなよ。俺も久々にお前と戦えて嬉しかったんだ」

 

 よく戻ってきた。そう言って、コサギは右手側の翼を丸めて器用に拳を作ると、ガドへと突き出す。

 ガドも応じて拳を握り、コサギの拳と突き合わせた。

 

「ありがとうコサギ。そして、すまなかった」

「だからいいって言っただろう」

「違う。さっきのバトルの事じゃない」

 

 拳を下げたガドは、また静かな湖を見る。その目は注ぐ月光よりも哀しげな色に変わっていた。

 

「こうして、俺達のフォースをダメにしちまった事。ずっと謝りたかったんだ」

 

 ガド達の立つこの湖畔には、かつて二人の所属していたフォースの拠点があった。

 湖の中央には浮き家として作られたネストがあり、岸から伸びる桟橋を渡ってメンバーたちはネストを訪れた。扉を開ければ、中には気心の知れた仲間たちがいて、最新のミッションや面白かったバトルの動画、最近作ったガンプラの話など、様々な話を和気藹々と飽くこと無くいつまでも語り合えた。

 もうその時の光景は、二人の記憶の中にしか無い。

 木造のフローティングハウスの本拠地も、そこに続く長い桟橋も、そしてメンバーの姿も。痕跡と呼べるものはこのディメンションから綺麗に消え、美しく何もない湖だけが、最後の面影として残っている。

 そして、解散となった経緯の一部始終にガドは関わっていた事を、コサギはよく知っていた。

 知っていたからこそ、べちん、と翼の手でガドの頭を叩いたのだった。

 

「だから! お前だけのせいじゃないってんだろうが!」

「いやだが、俺がもっと上手く立ち回れれば……」

「のぼせんな。あそこまで拗れちまった人間関係をテメェ一人で取り持てるはずねぇだろ。それに結局はこうしてほとんど引退しちまったんだ。お前がGBNを出ていく理由なんて、端から無かったんだよ」

 

 コサギはガドの言葉を遮る様に厳しい表情で強く言い放つ。一瞬、ガドはまだ何か言いたげな顔をしたが、観念したように言葉を飲み込んだ。コサギがその場に胡坐をかいて座り込んだのを見たからだ。

 頑として言葉を曲げたくない時に見せるコサギの癖。これは一緒にフォースを組んでいたころから変わらない。

 

「ともかく、今はこの話は止めよう。これじゃいつまでも平行線だ。今はお前が復帰したことを喜ばせてくれや」

「……分かった」

 

 力づくな笑顔を見せるコサギに、ガドも頷くよりなかった。裏表なく妙に頑固で、答えのない議論になると自分から話を終わらせる。その気性には昔から良し悪し共にあるが、今はそれが懐かしく、心地が良い。

 ここはコサギの言う通りにしよう。それに自分の一方的な懺悔を聞かせるためだけに彼を呼んだのではないのだ。

 

「湿っぽい話はこれで仕舞にしてよ。聞かせてくれよ、ELダイバーを拾った話」

「ああ、いいぜ。俺も話を聞いてもらいたかった」

 

 ガドもその場に座り、コサギにELダイバーと出会った時の顛末、そしてELバースセンターでの出来事を語り始めた。

 久しぶりのレイド戦。圧倒的なデストロイの巨体と、最前線で突き抜けたエクシアの勇姿。そしてダイバーたちの連携の勝利と、最後に出会ったELダイバーの少女。

 そしてELバースセンターという見知らぬ施設が出来ていたことや、そこにいた目つきと口の悪いハロ。担当となった赤い髪の真面目な優男。何も話さないELダイバーの心を開こうと呼び寄せたメンバーのおかげで、ルメと言う名前だけが判明したところまで話すと、コサギは一つため息をする。

 

「相手側がだんまりとはな。難航してるって言ってたが、本当に面倒な状況だ」

「それも仕方ない。だが、なんとかなるような気がしているってのが本音だ。彼らもルメが自由に行動できるようになるまで、いろいろと手伝ってくれるとも言ってくれた。本当にいい子らだよ」

「いい子らってお前……。なに年寄り臭くなってんだよ」

「突っ込むなって。なんとなく言いたかっただけなんだ。それより、さっき言ったダイバー達から聞いたんだが、あの噂お前も知ってるか?」

「噂?」

「ELダイバーはGBNのダイバーたちの好きな気持ちから生まれたって、そんな噂だ。誰が言い始めたんだろうな」

 

 ガドは何でも無く言ってみたが、口元にはまだこそばゆさが残っている。教えてくれた二トラもどこかはにかむ様に言っていたが、その気持ちが分かった。

 コサギの方は別段驚きもせず得心言った風に、ああそれか、と頷き返した。

 

「知っている。確か、流れ始めたのは第二次有志連合戦があった頃だったか」

「ほう……もしかして、ELダイバーはもうそういう認識で結論になってるのか?」

「さあな。だが真偽はどうあれ、そういう考えは俺も嫌いじゃない。それにその有志連合戦もELダイバーを守ろうとした側が勝って、ELダイバーも数を増やしているんだ。あながち核心ついてたりするんじゃないか?」

 

 確かに、とガドも首肯する。その手のロマンはガドも好むところであり、何よりそう願いたい。

 元より、ここが夢のような場所なのだ。ならばロマンの一つくらい許容してくれてもいいだろう。

 

「明日もELダイバーのところ行くのか?」

「そのつもりだ。もう少し落ち着いたらコサギもあの子に会いに来てくれ」

「分かった。こっちもまだ少し忙しいから、そいつが済んだらいってみる。頑張れよ、ライオンさん」

「ああ。やるだけやってみるさ」

 

 そして二人はしばらくの間、互いの近況を語り、思い出話に花を咲かせた。

 どれほど間が開いても、変わらぬ友であることを確かめ合う、ただそれだけの会話。それでも、本当にもう一度やり直すための一歩を踏めた。ガドにはそんな気がしていた。

 

 

 





登場人物紹介

○ダイバーネーム:コサギ
性別:男
年齢:推定20代後半〜30代前半
身長:143cm(下駄含む)
ミミズクをモデルにしたフクロウ姿の獣人ダイバー。和装に頭巾、結袈裟、一本歯の下駄など修験者の様な装いが特徴。
ガドの古い友人でリアルでの面識こさないが、共にGBN黎明期から同じフォースで戦っていた。
裏表なく、言いたいことははっきりという気質で、面倒なところも多々あるが気心が知れれば信じられる相手でもある。
ガドからはフォースの事で相談を受けていた。しかしガドが起こしたトラブルでフォースを脱退するより前に、フォースの変化が肌に合わず自ら抜けており、現在はほぼソロで行動している。
使用機体はSDシスクードを武者風に改造したオリジナルSD。
好きなシリーズはSD戦国伝シリーズ。特に武神輝羅鋼、天星七人衆が好き。
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