ガンダムビルドダイバーズ divers ensemble   作:千葉ネリモン

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ダイバーズシリーズの資料を色々探していると、詳しい時系列が欲しくなる今日このごろです。
では13話になります。



第13話 フェイス・トゥ・フェイス

 明くる日の日曜、ガドは早朝からGBNへとダイブした。

 ガドは家庭用の端末を保有している。加えて今日は日曜日という事もあり、気兼ね無く朝から入り浸れるという訳でもある。

 休日とはいえ、朝方のロビーの人だかりは土曜の夜と比べるとまばらだ。いてもソロで動いているダイバーたちのようだ。

 ガドも今日はソロで軽く流すつもりだが、その前にELバースセンター立ち寄ろうと向かっているところだった。

 コサギとは遅くまで語り合っていたにも関わらず、今朝は早く目が覚めてしまった。ずっと残っていた憂いが少し晴れたのもあるが、酒を入れなかったからというのもあるだろう。

 コサギとリアルで出会い、一緒に酒を飲む機会があればきっといい酒が飲める。そんな事を考えながら、ガドは上機嫌な足取りでセンターのエントランスをくぐる。

 日曜の早朝ということで在室しているか分からないが、ボックスがいたら挨拶をして、そしてルメの様子も見るつもりだった。

 それに昨日のコーヤとの会話から考えるに、ガンプラの声を介せば会話の目も出てくれそうだ。ハンガーにでも同行してもらえれば、話す切っ掛けを得られるかもしれない。

 些か楽観的ではある皮算用をしながガドは、ボックスの担当する部屋と向かい、途中の廊下を歩いていた時だ。

 通路の先に白衣を羽織った赤髪の青年の姿が見えた。

 ボックスだ。幸先がいい。そう思うガドは表情をほころばせる。

 

「早いな、もういたのか。せんせ──」

 

 だが、掛けようとした言葉をガドは途中で飲み込んだ。

 白衣の青年がボックスだったのは間違いない。だがそこに居るのは彼一人ではなかった。

 傍らには小柄な少女がいて、ボックスは彼女の手を引いている。

 ぼさぼさの翡翠色の髪、全身を覆うようなボロボロの茶色のマントをした少女、ルメ。二人の姿を認めた途端、ガドは表情をしかめた。ELバースセンターの職員が、ELダイバーの少女を連れて歩いている。それだけならなんら不自然ではない。

 だがルメは怯えと恐怖の表情でボックスに縋るような視線を向けている。まるで捨てられそうになっている子供の顔だ。

 こうなっては話が別だ。さらに無理に歩かされているのは明らかであり、今にもたたらを踏んで倒れそうな小さな体を、ボックスは力任せに引き上げているのがガドには見えている。

 そしてボックスの顔は、ガドの知る穏和な好青年のそれではない。温度のない無表情でルメを見ようともしていない。まるで、荷物の運搬作業だ。

 

「先生! コイツはどういう了見だ!」

 

 極力抑た怒声で、ガドはボックスへ呼び掛ける。と、ボックスはようやく気付いた様にガドの方を向く。振り向いた時にはガドも知る柔和な表情になっているが、最早取り繕った様にしか見えず、ガドはより一層警戒を強めた。

 

「ガドさん、おはようございます。お早いですね。けどすみません。今は急ぎの用事があるんで、後にしてもらってもいいですか?」

「出来ない相談だ。怖がってる子を無理に連れ回すのが急用なら尚更な」

「ああこれですか……ええ。些か強引になってしまったのは僕としても本意ではないんですよ」

「本意でないなら理由くらい説明しろよ」

 

 はあ、仕方ない。と、ボックスは億劫そうにガドと話そうと体を向ける。

 

「……端的に言ってしまいますと、彼女の保護者になりたいと申し出てくれる人が現れたんです」

「……なんだと?」

 

 淡々と切り出されたのは聞いたこともない話だった。脈絡の無さにガドは苛立ちを顕に眉根を寄せ、ライオンの表情が一層険しくなる。

 その威圧感にルメは顔を背けたが、ボックスは眉ひとつ動かさず、自分の話を続ける。

 

「その人……僕の知り合いなんですけど、身寄りの無いお年寄りで、頭や体はしっかりしてるんですけど、何分一人暮らしのせいか長いこと寂しい思いをしてるそうなんですよ」

「その子を、可哀想なご老人の話し相手にでもしようってのか」

「はい、そんなところです。そのためにもすぐビルドデカールの登録をして、リアルへの転送を行います。勿論、彼女がこの調子という事も伝えてあります」

「聞くと見るとじゃ話が違う」

「分かっています。だからそのケアも含めて、リアルでも彼女たちの面倒を見ていくつもりです」

 

 もっともらしい言い分ではあった。頷けなくもないが、ボックスの言葉は粗だらけだ。

 まずルメの手を無理に引いてまで登録を急ぐ理由の説明が全くされていない。

 事前説明があったとしても、話し相手としてコミュニケーションを自ら断っているルメが適任とは思えない。

 雑だ。ガドにはボックスの言葉はどう捉えても、とって付けた様な言い訳以下にしか聞こえない。

 

「まずは彼女の不安を取り除こう。段階をちゃんと踏んで、それからリアルと繋がれるようにしていこう」

「ええ……そう言ったのは僕です」

 

 ボックスの表情が変化した。心から無念そうに、端正な顔を俯かせる。が、それも僅かな一瞬だった。すぐ様元の無表情になり、抑揚のない声になり。

 

「一足飛びになってしまったのは、貴方にも彼女にもすまないと思っています。ですから……」

「さすがにもう苦しいぜ。やめようや」

 

 これ以上は時間の無駄。そう判断したガドは断ち切るように言葉を放つ。

 

「あんたの言い分は、やらかしたヘマを必死に取り繕う新入社員の言い訳そっくりなんだよ。第一、見も知らぬ相手の所にたらい回しするのが本当に彼女のためになるのか、本気で考えたのか?」

「彼女のため、ですか.?」

 

 ボックスの表情が、歪んだ。他者を嘲る冷笑を浮かべボックスは言う。

 

「だからさ、食い下がらないで下さいよ。そんな熱くなる必要ないでしょう? いくら電子生命体なんて言ったて所詮はゲームの中のデータ。そんな本気になる必要ないじゃないですか?」

 

 これまで聴いたこともない口調でボックスがまくし立てる。豹変とも言うべき変化に、ガドは面食らうよりも苛立ちが勝った。

 共にルメを一人の人間と扱い、彼女がGBNで過ごせるように尽力しようと話した相手の本性がこんなものだとは信じたはない。だが。

 

「そいつは、本音と受け取っていいんだな?」

「ご自由にどうぞ。けどすみません。時間がないんですよ、本当に」

 

 ボックスが冷笑を消し、メニューウインドウを開く。

 手早い操作でボックスは筒状のアイテムを手に取ると、それをガドの前へと放り投げた。

 ガドはその動きに対応できず、立ち尽くした。ボックスが投げた筒が何か分からなかったからだ。

 そして、すくむガドの目の前で筒は大量の煙を吹き出し廊下一面を灰色の煙で覆い尽くした。

 筒の正体は、発煙筒。もしくは煙幕と呼ぶ道具。通常非戦闘エリアでは使用する事の出来ない、違法アイテムだった。

 

 

 ///

 

 

 ガドとボックスが対峙する少し前だった。

 コーヤとキナも早朝からELバースセンターへと向かっていた。

 コーヤは懇意にしている模型店に早朝から赴いて筐体を使わせてもらっている。

 キナは部活の休みを利用し、彼女の父が持っている筐体を借りることでいつもより早い時間帯から行動ができたのだった。

 

「楽しみ過ぎて夕べは何度も起きちゃったよ!」

「遠足前じゃないんだか。でも、そんなに楽しみにしてたのは意外かな」

 

 青い髪と狼耳のキナはコニコした顔で、尻尾を楽しげに揺らして体いっぱいで喜びを表しながら歩いている。今日はいつもの赤いマントはオフにしており、中に着ているキャミソールとスキニーパンツにサンダル履きという軽装だ。

 隣を歩く長身のコーヤは先日披露したマゼンタのライダースジャケット姿だ。キナのはしゃぎ様に微苦笑をしているが、短い黒髪の合間から覗く彼女の目も十分に楽しげだった。

 

「うん! 私自身そう思う。勿論試してみたかったのは本当に本音だけど、コーヤも同じ事考えてくれてたのが嬉いいんだよきっと」

「あの状況見てたら結構思い付くと思うけどね」

「それでも嬉しいの。シンクロニシティってやつよ」

 

 こんな感じでキナは朝から上機嫌だ。

 些細な事ではあるが、彼女には一大事なのかと思うと少し微笑ましい。

 加えて、社交的なキナが乗り気なのはコーヤにも嬉しい。たまに強引な時もあるが、彼女のそんなところが進展をもたらしてくれる事を期待しつつ、センターへと向かっていると、だ。

 二人は周囲の異変に気付く。病院然とした施設内を駆け回るダイバー達が見えた。傍目にも伝わってくる慌ただしい空気に二人はどちらともなく足を止めた。

 

「何だろう? こんな騒ぎになる様な場所じゃないのに」

「っていうか、なんかうっすら煙くない? 気のせいかな」

 

 言われて、コーヤも周囲を見るがキナの言う通り辺りに煙が漂っている。

 何が起きているのか。異変を窺いながら足を止めた二人のもとにセンターの方から走ってくるダイバーの姿が見えた。

 エルフの様な長い耳をしたメガネの青年ダイバーはひどく焦った様子で、センターに入れないことを説明すると、踵を返してまだ煙が立ち上るセンターへと駆け戻っていく。

 

「ねえコーヤ。これって、かなりまずかったりするんじゃない?」

「うん。ルメちゃん、大丈夫かな」

 

 電脳世界で起きた小火騒ぎ、という意味不明な事態に困惑するキナと、不安げに表情を曇らせるコーヤの二人が顔を見合わせていると、背中の方から声をかけられた。

 

「あの、何かあったんですか?」

 

 コーヤ達が振り替えると、初めて見る少女のダイバーがいた。

 ブレザーにチェック柄のスカートという学生服の様な姿で、きれいなオレンジ色の頭髪に被る大きなベレー帽の下、大きな瞳が困惑気味に二人を見ている。

 

「私たちも今来たばかりで分からないんですよ」

「そうですか。あのじゃあ、ボックスって人見かけませんでしたか?」

 

 ボックスの名に、コーヤとキナが反応する。

 

「ボックスさんのお知り合いですか?」

「兄です。ここでバイトしているって聞いたんですけど」

「ボックスさんの、妹さん?」

 

 奇妙な縁に、キナが目を丸くしていると、巡り合わせの妙が連続して起きた。

 コーヤとキナへ同時に連絡が来る。送り主は、昨日この場所で会ったライオン姿のダイバー、ガドからだ。

 

 先日交換したフレンドコードへと早速来た連絡は、短い文章にディメンションの場所が添えられているだけの簡易なものだった。

 たった一文、こう書かれている。

 

『ボックスがルメを連れ出した。可能ならすぐここに来てほしい』

 

 

 ///

 

 

 GBN内の宇宙。電脳の中に作られた無重力の世界へとガドは愛機、ヘヴィゼータと共に転移した。

 目視できる範囲にスペースコロニーの巨大な姿が視界いっぱいに存在し、コロニー近辺の宙域だと分かる。近隣に隕石は無いが、廃棄された宇宙船。撃沈され、艦体の割れたボロボロのサラミス級などが集まり、デブリ帯を形成して漂っている。

 そのデブリ帯を背にして、一機のガンプラが待ち構えるように佇んでいるのが見え、ガドは移動する。

 そして間もなく対峙した相手を確認する。筒状になった肩を持つ黄色い機体色のガンプラ。

 VGMMーSc02。Gのレコンギスタで活躍したジャスティマだ。

 機体への大掛かりな増設は見えないが、デカールや丁寧な仕上げと作り込みが見える。

 ガンプラに限らず、本気で模型を作り上げる時に生ずる苦労については、ガドもよく知っている。それを知る人間が、GBNに反旗する様なバカな真似をしたとは今も信じたくはない。

 信じたくはなかった。

 ジャスティマの傍らに浮かぶ物体があり、それが人の入ったカプセルと知った瞬間、ガドはジャスティマを明確な敵意をもって睨み付ける。

 カプセルはZガンダムの劇中で主人公カミーユの母親を閉じ込めていたものと同型のもの。その中に閉じ込められているのは、ルメだ。

 

「先生よ、いくら何でも悪趣味が過ぎやしないか」

 

 ボックスは答えない。

 返答代わりにボックスから連絡が来る。フリーバトルの申し込みだ。

 

「何のつもりだ?」

「GBNらしくバトルで決めましょうか、ガドさん」

「バトルだと? ふざけるのも大概に」

「ガドさんが勝てば、ルメちゃんをお返しします。けど僕が勝ったなら……」

 

 ボックスは意を決した様に、言葉を発する。

 

「ルメちゃんを渡した金で、妹の足を治します」

 

 その真剣な声音は、確かに普段の穏やかなボックスのものだった。

 

「お前さん、それがこの悪ふざけの動機か?」

「そういう事なんです。ELダイバーって存在は希少なんで、大枚はたいても欲しいって人は意外といるんですよ」

「だが明らかに違法だろ。よくは知らんが、この手の売買は黒だ、間違いなく」

「承知の上です。けどGBNとリアルを天秤に掛けたらどっちが重いかなんて明白でしょう?  妹の未来のためにも、出来れば戦わずに、何も見なかった事にしては頂けないですか?」

 

 誘う様に、ジャスティマがその右手を差し出す。共犯者になろう、と。

 ボックスの言葉は、ELバースセンターで言い合った時よりも余程筋は通っている。

 ゲームと現実どちらが大切か、当然後者だ。ここでガドが目を瞑れば、ボックスの妹から大きな不自由を取り除く事は出来るかもしれない。

 それを理解し、踏まえた上で、ガドは言う。

 

「悪いな先生。やっぱ乗れない相談だ」

 

 返答と同時にバトル申請の了承をする。

 ガドのへヴィゼータが臨戦態勢になった事を確かめると、ボックスはため息と共に差しのべた腕を引く。

 

「やっぱり泣き落としは無理ですよね」

 

 自嘲気味に笑うと、ジャスティマの腕でルメのカプセルを弾く。

 回転するカプセルの中。慌てふためくルメの瞳が、ガンプラのぶつかり合う姿を見た。

 

 

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