ガンダムビルドダイバーズ divers ensemble 作:千葉ネリモン
PENGUIN RESEARCHを知るきっかけになった曲は決闘でした。
14話よろしくお願いします。
ただの考え過ぎ。きっとそうに違いないはずだった。
今日は日曜だと言うのに兄は起こされること無く起きていた。さらに明け方から出掛けたというのもただの偶然。
いつも土曜の夜は遅くまでGBNにダイブしているのが習慣だと言うのに、昨夜は筐体を貸してくれたのは兄の気まぐれな優しさ。
そして家に筐体があるのに。わざわざ自分のガンプラを持って外出したのも、きっと大した理由はない。
ただの考えすぎ。そうに違いないと思いつつ、部屋に残されていた筐体で私はGBNにダイブした。
向かう先は兄が話していた施設。ELバースセンター。もしかしたら、急なバイトか何かかもしれない。そこで忙しくしている兄を見れば安心できる。こんなつまらない不安は消せる。
そう期待しながら訪れたELバースセンターは黒い煙が立ち込め、まるで火事現場だった。
騒然とした現場に居合わせてしまった。離れたいと思う一方でせめて兄の所在を確かめられないか、見た目自分と歳の近そうな二人のダイバーに話かけた。
青い髪に耳とふさふさ尻尾をつけた少女と、背の高い綺麗な感じの女性ダイバー。
二人が兄を、ボックスを知っていたのは本当に驚いた。
けれどそれ以上に二人が受け取ったメッセージ。その真意を二人から教わった時、私は打ちのめされた。
兄が不正に関与しているかもしれない。
アバターの体なのに、心臓が嫌な脈を打った気がした。
///
ガドとボックスが決闘を開始した時、同じディメンションに三体のガンプラが転移してきた。
コーヤのバイクを駆るGNアーチャーと、キナのシャイニングガンダム。そしてボックスの妹、コルムの作ったアッシマーだ。
ゲートを抜けたGNアーチャーとシャイニングガンダムは飛び出した先が宇宙空間と分かると、すぐ様制動をかけて機体を制御するが、アッシマーは出て来た勢いのまま真空空間をじたばたともがきながら流れていってしまう。
「わっ、この何これ!?」
「コルムさん、掴まって」
差し伸べられたシャイニングガンダムの手を必死に手繰り、ようやくアッシマーが止まる。
安定を取り戻した事を確認すると、コーヤはバイクの姿勢制御用のスラスターを操り、組み合った二機の傍へと機体を寄せる。
動きからコルムはほぼ初心者と分かった。加えて機体が機体だ。コーヤもガンダムに詳しい方ではないが、GBNをプレイしているうちにある程度の知識は得ている。
黄色の丸っこい装甲とドムのようなモノアイフェイスをしたこの機体の特性は、幸い覚えがあった。
「アッシマーって、確か宇宙得意じゃないはずだから、気を付けて下さい」
「は、はい!」
コルムの返事とともにアッシマーがバイクの後方にしがみ着くのを確認すると、視界の隅で光が走るのが見えた。
遠い。そして何度も光の線が瞬いている。戦闘の光だ。
レーダーとマップで確認すると、光の方角にはデブリ帯が広がっている様だ。コーヤの機体の索敵能力ではそこに誰がいるかまでは判明しないが、おそらく……。
「ガドさんとボックスさん、戦ってる?」
キナが呟くと、コーヤもモニター越しに首肯で返す。
「かもしれない。とにかく急ごう。キナも掴まって」
「分かった……って、そのバイク宇宙でも走れるの?」
バイクの装甲にしがみつくキナから、ある意味もっともな質問が来る。その時ふと、コーヤはこれが二人での初めての無重力エリアだと気付く。
「大丈夫。伊達に太陽炉を積んでる訳じゃないわ」
コーヤ機のバイクの下部、GNドライヴから緑色の輝きが溢れ出す。
GN粒子を緑の風の様に棚引かせ、三体のガンプラを乗せた巨大な二輪車は無重力の空を走り出した。
///
火線が闇の中で閃く。爆炎が真空で咲き、瞬く間に消える。
近接戦を得意とするジャスティマと、距離を開けての撃ち合いを主とするへヴィーゼータは一進一退で攻防を……否。互いに決め手を欠いたまま、何度も牽制を繰り返し機動戦闘を繰り広げていた。
以前ガドはボックスへと自機のコンセプトを語っていた。ZZ版ヘビーガンダムという装甲と火力に比重を於いた機体であると。
両肩に長砲身のビームキャノン。両腕に固定されたビームガトリング。ダブルキャノンは背中から脚部ふくらはぎへ移され、正面への射角を確保している。さらに脛や胸部をAGE3等から流用した装甲で厚くした機体は、確かに重量級。
不用心に真正面からは撃ち合いたくない相手だ。かといってジャスティマの肩のビームシールドを張り、強引に接近戦を試みても、ヘヴィゼータは用心深く距離を取り、あるいはデブリ帯に逃げ込んで得意な間合いに近付かせてくれない。その一方で距離が開けば肩のビームキャノンが火を吹き、甘い動きを見せれば容赦なく撃ち抜かれる。その癖、逆に隙を見せたと思えば、それは誘いで両腕にあるビームガトリングガンでカウンターを狙ってくる。
これだけ手慣れた戦い方をして、二年以上ダイブしていなかったというのだ。向かって来るビームと相手の狙いを適切に見分け、回避しながらボックスはつくづく思う。
「ガドさん、上手いじゃないですか」
未だ被弾のないジャスティマの中、ボックスは笑う。一緒に組めたら、きっと楽しかっただろうな。心からの感想を抱きつつ、ジャスティマの右肩先端ハッチを開き、多連装のファンネルミサイルをセット。爆発でデブリ帯に逃げたへヴィゼータをあぶり出そうとミサイルを射出した。
「ELダイバーとか関係なく、ただのガンプラ仲間だったら良かったのに」
撃ち出された多数のミサイルはそれぞれの軌道で器用にデブリを避けながら、規定点に到達と同時に起爆。
広がる爆発が漂うゴミを吹き飛ばすのを見ながらボックスは思う。ただの一人のダイバーでしかなかった自分等が、ELバースセンターの手伝いを始めてから、環境は目まぐるしく変わっていった。
最初はただの興味本位だった。GBN全部を巻き込んで起きた第二次有志連合戦。その結果、ELダイバーとの共存路線に至った時にその中心に居た電子生命体という存在がどういう者か知りたいと思った。
そして都合のいい事に大学で学んでいた事が、ELバースセンターの協力者への募集要項と合致したので、ボックスはELバースセンターの追加職員として彼らとの接点を得た。
彼らを間近で知ることが出来たからこそ、言えることがある。
彼らは人間と変わらない。
仕草や反応、感情といった事だけではない。接している感覚、何気ない対話でさえあまりにも自然で、時にはGBNではなく、リアルに居るのではないかと錯覚さえする。
彼らをデータの集合体と思わなくなるのに、時間はかからなかった。
彼らは尊ぶべき生命であり、個人だ。遊び場だったGBNだったが、今は彼らに寄り添える事を、仕事にしてもいいかもしれない。
そう思い、GBNの正規職員を目指していた頃だ。
全世界規模で電波障害が発生した。
「いい加減にしろ先生!」
ミサイルの爆発から逃れ、デブリの中から姿を現したガンダムがボックスへと急速に接近する。
爆炎の中から抜けてきたヘヴィーゼータだが、損傷は極めて軽微だ。さすがは重装甲と言うべきか。さらに右手には白いビームサーベルの柄が握られている。
接近を避けていたが、ガド機のベースであるZZは接近戦の打点が欠けている訳ではない。ZZの標準装備、ハイパービームサーベルは原典通りであれば隕石すら両断する。そして今、長大な刀身が煌々と形成される。
だが、高出力のビームサーベルなら、ボックスのジャスティマも劣りはしない。
「今さら引けないんですよ!」
ビームライフルを左手に持ち替え、腰から抜いたフォトンバッテリー直結の高出力サーベルが、敵機に劣らぬ輝きを発し、二機はこの戦いで初めて互いの剣を打ち合わせた。
「ガドさん強いじゃないですか。何年もダイブしてないとは思えませんね!」
「あんたもな先生! 勝負でケリを着けようってだけはある!」
「ええ! けど少しは手を抜いて下さいよ、後生ですから!」
「お前がバカを止めるなら考えてやるよ!」
「ごめんなさいねえ!」
高出力のサーベル同士が打ち合うたび、電光と衝撃が鋭く宇宙に迸る。互いの剣の力はほぼ互角。そして機体コンセプトの差で、技にはジャスティマに分があった。
幾重にも打ち重ねた剣だったが、遂にジャスティマのサーベルがヘヴィゼータの肩を捉える。メガ粒子の刀身が砲身を一瞬で切り落とし、返す刃が胴を狙うが、ガンダムのサーベルが斬撃を阻む。さらにジャスティマの右肩の拡散ビーム砲目掛け、空いた左腕に固定されたガトリング砲を押し当て、発射。固定火器を潰されたジャスティマは僅かに怯み一度距離を取るが、ヘヴィーゼータは追い縋るようにサーベルを振り回す。
分かってる、バカな真似だって分かってるよ。
俺だってこんな事を。
あの電波障害が起きなければ。
スマホをカーナビにしていた運転手が、焦ってハンドルを切り間違えなければ。
あの時、あの歩道を、妹が歩いていなければ!
ボックスは戦いに集中している。かすっただけでも危うい斬撃をいなし、距離を取ろうと目論むなら追撃をかけ、終始勝つために立ち回っている。
集中している。なのに集中している今も頭の隅にちらつくのが収まらない。
まるでガンプラに興味の無かった妹が、作り方を教えて欲しいと言った時。
また歩いてみたいと言った、あの顔がどうしてこうも……!
「くそっ!」
ジャスティマの額が開き、ヘッドキャノンの砲門が開く。至近距離に肉薄していたガドは反射的に止まり避けようとするが、ヘッドキャノンはビームを撃ち出さなかった。
フェイント、とガドが気付いたときには遅い。圧力の消えた敵のサーベルをボックスは自分のサーベルで弾く。虚空にビームサーベルの白い柄が流れ、残光の輪を描きながら暗黒の中に消えていった。
瞬間、ボックスは左手のビームライフルを放り投げ、突きの構えでスラスターの出力を全開。背部のフォトンバランサーを激しく輝かせながら突進し必殺を狙う。
「まだだ!」
迫りくるビームの切っ先に覆いかぶせる様に、ヘヴィーゼータが左手を突き出す。機体を焼き貫く衝撃がガドに伝わるが、装甲の厚さが剣の軌道を逸しヘヴィーゼータは辛うじて致命打から逃れる。
それでもジャスティマの勢いは止まらない。突きが決まらないと判断するや機体全体をガドのガンダムへとぶち当て、そして組み合ったままガンダムをデブリ帯へと押し戻す。
漂うデブリの群れへ、へヴィゼータを盾代わりにジャスティマは突入。大小様々な宇宙のゴミがぶつかる度、雨垂れが金属を叩く様な音が盾にした機体越しにジャスティマにも伝わってくる。そして前方、沈んだ艦の残骸を確認すると、勢いそのままにボックスは敵ガンダムを頑丈過ぎる粗大ゴミへと叩きつけた。
「がっ……!」
衝撃がボックスの全身を揺らす。電子データなのに胃が揺れ、空気を絞り出させるような不快感がある。だが、ガドもこれと同等かそれ以上の苦痛を覚えているはずだ。
手は止めない。畳み掛ける。
左掌底をへヴィーゼータの頭にぶつけ力任せに抑え付ける。相手も抵抗するが、正面に向く事さえ阻止できれば相手の切り札、ハイメガキャノンを封じ切れる。
ボックスは確信した。このままジャスティマのサーベルがへヴィゼータを切り裂けば、勝ちだ。ELダイバーを渡して、金が手に入り、妹の脚が治り、そして──。
ビームサーベルの光が、急激に弱くなった。
「なんだ、どうしたジャスティマ!?」
不自然な出力低下に慌てるボックスだが、コンソールの表示に破損部位が示されていた。破損箇所は腰部。後ろのスカートアーマーにあるフォトンバランサーが破壊されている。
斜め下から突き出るビームサーベルに貫かれているのだ。
理解が追い付かなかった。なぜこんな場所から突然ビームサーベルが生えるのか。
答えは余りにも簡単。最初から相手の脚に装備されていた。それだけだ。
ヘヴィゼータの脛部装甲に使用されていたのはAGE3オービタルの腕部装甲。ビームサーベルを収納し、収納状態で剣としても使えるギミックがある。それを使った変則的な膝蹴りがジャスティマのバランサーを破壊したのだ。
そして一瞬であろうと、パワーダウンした隙をガドは逃さなかった。
ガンダムの頭を掴んでいた手を払い除け、ヘヴィゼータはお返しとばかりにジャスティマの角を掴む。
ヘヴィゼータのバイザーに覆われた顔が、ジャスティマを睨み付けた。額に備え付けられた大砲にはメガ粒子の光がぎらぎらと輝いている。
「ガドさん!」
「負けられないんだよ、お前のためにも!」
ガドは叫び、ハイメガキャノンが雄叫びをあげる。最大出力50メガワット。コロニーレーザーの20%にも匹敵する絶大無比なエネルギーが、至近距離のジャスティマ目掛けて迸った。
登場人物紹介
○ダイバーネーム:コルム
性別:女
年齢:15歳
身長:146m
ボックスのリアルの妹。Re:RISE本編で発生した大規模電波障害の折に交通事故に遭遇し、脚に大怪我を負って車椅子での生活となった。
幸い上半身に異常はなく、またGBNでならば擬似的ながら健常な状態で活動できると知った事を機にガンプラを作りダイバーとなった。
趣味は菓子作り。調理が可能であった事は救いであった。
好きなシリーズは特になし。