ガンダムビルドダイバーズ divers ensemble 作:千葉ネリモン
新作の水星の魔女、プラモもアニメも楽しみです。
物音と瞼越しに眩しさを感じて、ルメは目を開いた。
目を覚ますと、そこには見知らぬ大きな男がライトを向けて自分を見ている。
筋肉で盛り上がった体格に作業着のような衣服を纏い、場所が場所だけに鉱夫の様に見えると思った。頭髪の無い男の大きな顔が、ぬっと覗き込むように徐々に近づいている、と認識した瞬間ルメは弾けた様に飛び起きた。
「ひゃぁぁっ!」
情けない声を上げ、ルメはカヅノから距離を取ろうと立ち上り、
「ふぎゃ!」
足元の出っ張った石に躓き、勢いよくその場にすっ転んだ。
真っ暗な視界の中で頭の中に火花が飛ぶ。額がじんじんと痛み、顔面から全身に浸透して瞳には薄っすらと涙が滲んできた。
「うっ、ううう……」
痛みとストレスでぐちゃぐちゃになった感情は涙に変わり、額を押さえて蹲ったルメの瞳から溢れ始める。
しかしながらこの状況に困惑したのはルメだけではない。
「……あーその、大丈夫か?」
カヅノは腰を落として石床に突っ伏したままのルメに手を差し伸べた。
カヅノにしてみれば、洞窟で寝ていた女の子が自分の顔を見て驚いたはずみで転倒した、という意味不明な状況だ。居た堪れなくなるのも仕方ない。
「驚かせるつもりはなかったんだが……いや、それはいい。とにかく、今はあんまり物音を立てない方がいい。あんたを探している奴らがいる」
肩を震わせていたルメの全身がびくりと揺れる。そしておずおずと顔を上げると、真っ暗なままの周囲を見回し始める。石床に打ち付けて赤くなった額と、赤銅色の肌の整った顔が見えたが、涙と砂埃ですっかりぐしゃぐしゃになっている。
「結構あっちの方に行ったから、大きな音出さなけりゃ大丈夫だろ、たぶん」
カヅノが二人の向かった先を指で示しながらそう言うと、ルメは少しだけ安堵した表情になって、その場にぺたんと座り込む。そしてカヅノへ振り返る表情に涙を浮かべているが、少しは落ち着きを取り戻した様に見えた。
「誰、ですか?」
「……カヅノ。あんたは?」
「ルメ、です……。なにをしてるんですか? こんなところで」
「……ELダイバー探しの手伝いをさせられている」
「……っ!」
「待てって、話終わってない。それにまた転ぶぞ」
飛び退る様に逃げようとするルメを、カヅノは極力声を抑えながら制止する。
ルメも額の痛みを思い出してか、渋々という風だがカヅノに従い、改めて向き直る。
「あんた、ELダイバーなのか?」
「……」
ルメは無言で首肯した。
「最近追われてる自覚はあったか?」
首肯。
「何でそうなったか分かるか?」
否定。ルメは小さく首を振り、悲しげにうつむく。
ELダイバー。GBNの電子生命体。リアルの体を持たないダイバー。
耳にしただけでは、なにか凄いAI程度の認識でしか無かったが、こうして出会った実物は泣いている女の子の姿をしていた。
何も知らない女の子を、寄ってたかって追い回してる。それがELダイバー狩りと呼ばれる非合法イベントの実態なのだろう。
そして彼女の怯えきった反応を見ているだけでも、どんな目に遭ってきたかカヅノにもおおよその見当はついた。
「……正直なところ、俺はELダイバー狩りの話を気に入ってない」
この吐露はカヅノの本音だった。
GBNはガンプラで戦うことを楽しむための空間。どれだけルールとマナーに背いても、負けっぱなしで腐っても、それだけはカヅノの中で揺るがなかった。
だからこそ、GBNで金儲けをするのは明確に嫌だと言えた。
「むしろ、あいつらの邪魔をしたいと思っている。今は」
自分は今、虫のいいことを言っている。
胸が痛んだ。最低と言った、あの女ダイバーの顔がちらついた。
元マスダイバーで初心者狩り。弱いものいじめを散々肯定してきた人間が、今更過去を棚上げしていじめを止めようと言ってるも同然だ。
醜悪な矛盾、だとしても。何でもいいから善行を積めば少しでも最低ではなくなる気がして、カヅノは言葉を続ける。
「だからその、こうして会ったばかりで、こう言うのもあれだがよ……」
ゆっくりとした動作でカヅノは腰を落とし、ルメと視線を合わせる。自らエディットした強面の顔に穏やかな笑みを作り、カヅノはルメに手を差し伸べる。
「もしあんたにその気があるなら、一緒に来ないか。あんたを運営まで連れていきたい」
それはあまりに唐突な申し出。カヅノの言葉を受けたルメは、戸惑いを見せる。
信じてもいいのだろうか。その思いが浮かぶが、ルメは以前自分を保護した白衣の青年を思い出し、信じようとする気持ちが沈んでしまう。
今のままではいけない。けれどどうすればいいか分からない。正しい答えを虚空に求めて、ルメの視線は無意味に彷徨い続ける。
無論カヅノはルメの迷う理由など知る由もなかった。ただ何も言わず、ELダイバーの答えを待つ。彼の中に無理矢理にでも連れて行くという選択肢は無かった。この場にいる二人を意識して、急ぎたい気持ちはあったが、彼女を見て湧き上がった思いやりが、本人の意思を尊重したいという気遣いとして顕れていた。
だがやはり、悪手と呼ぶよりなかった。
「カヅノ、誰よそいつ?」
時間切れとでも言う様に、カヅノとルメをスレキのライトが照らし出す。
向かい合っていたカヅノとルメが同時に向いた先には、エスカベとスレキの二人の姿。薄闇の中でも、浮かべている表情がはっきりと分かった。
――ゆっくり探してろよ、もう少し。
胸中で毒づきながらカヅノは顔を顰める。しかし、喜色満面の僚友二人は、カヅノの変化に気付きもしなかった。
「マジかよやべぇぜ、おい。ここには俺達しかいないってのに、このガキ表示も何もねえじゃんよ。これ本当にマジもんの大当たりじゃねぇのか!?」
大袈裟に天を仰ぎ、ウインドウを操作するエスカベは嬉しげに野太い声を上げる。
スレキは薄ら笑いを貼り付けたまま、カヅノとルメを交互に見やり、
「カヅノお前も人が悪いぜ、さっさと教えてくれりゃいいものをよぉ」
スレキが軽薄な笑みと湿った視線でルメを見る。そして思い出したようにカヅノへと視線を移す。
「それとも一人でコイツ捕まえてトンズラするつもりだったのか? 賞金独り占めか?」
「そういやお前、前にもレアドロップを黙って持ってったりしたよな~。またやる気か?」
「バカか! ちげぇ──」
二人の言葉は冗談か本音かは分からなかった。カヅノは反射的に思わず否定を入れるが、ルメの表情はもう変化していた。
瞠目するルメの瞳が失望から、瞬く間に憎悪へ。
違う、そうじゃない、信じてくれ。俺は本当にあんたを──
「うそつき!」
カヅノへ向け言い放つなり、ルメは暗闇へ飛び込むように走り出した。
「くそっ!」
ルメを追ってカヅノも駆け出し、さらにエスカベとスレキも続くように走り出す。
最悪な展開。これでは三人がかりで追いかけているも同然ではないか。
どうする。エスカベとスレキの
対処。ルメへの誤解。どちらも難題。そして避けては通れない。薄暗い闇を物ともせずに走るルメの背を必死に追いながら、カヅノは思考を巡らせ、徐々に狭くなる穴を走る。
そして、先頭のルメが穴を抜け、大きな空洞に出る。直後。
「ひっ!」
何かに驚いたような短い悲鳴を上げ、ルメは足を止めてしまう。
ルメの視線の先に居たのは、カヅノらが乗ってきたガンダムだ。出口に残していた三体のガンダムを目にした瞬間、ルメは竦むように足を止めてその場にへたり込んでしまう。
気になるが、カヅノに理由を考えている暇はなかった。
「ブリッツ!」
コックピットへの転送範囲内に入ると同時、カヅノは自機の名を叫んだ。薄闇の中、黒いガンダムが応じるようにメインカメラを輝かせると、カヅノの視点は岩に覆われた洞窟の風景から、見慣れたガンプラのコックピットへと変化する。
カヅノはコンソールグリップを握り締めると、すぐに視線を今しがた出てき抜け穴の出口に向ける。
居るのは未だ呆然と座り込むルメ、ただ一人。スレキとエスカベはまだ出口を抜けていない。
「間に合えっ!」
祈るように声を発して、カヅノはブリッツの右腕──トリケロスの盾を出口めがけて突き出した。
ガンダムそのものを使い、唯一の出口に蓋をする。カヅノの目論見は間一髪で間に合った。
地面に突き刺すような勢いで伸ばされた盾は、あと一歩で抜けようとしていたスレキ達を出口目前で阻む。盾をカンカンと小突くような小さな力と、微かに聞こえる怒声はスレキらのものだろう。これで厄介は一つ減った。
「あとはあの子を保護して……ってあいつ!」
カヅノが視線を戻した時、竦んでいたはずのルメはいつの間にか立ち直っていた。立ち直り、ブリッツガンダムの眼の前を半べそをかいた少女が一心に足を回して横切っていく。
「大人しくしててくれよ……!」
舌打ちして、カヅノはブリッツガンダムの左手でルメを追いかける。だが、右腕を壁に押し付けた姿勢のままでは思うほど腕は伸びなかった。ルメはブリッツガンダムが精一杯に伸ばした左腕を迂回する様に躱し、手の届かない距離へと走り去っていく。
このままではルメを取り逃してしまう。かといって、ここで動けばスレキたちを開放することになる。そうなれば二人は自分のガンダムに乗り状況はさらにややこしくなる。
右手か左手か。また迫られる判断。ジリジリと脳が焦げる様な不快感がカヅノを苛む。
決断は右手。
壁に密着させていた右腕を離し、機体全体でルメを追う。
迫る巨大な足音に反応し、ルメが振り返る。必死の形相が見えた。
また胸が痛んだ。それでもカヅノはたじろがない。
ブリッツガンダムは大股な一歩を踏み、ルメの頭上を飛び越し、反転。ルメの進路上で片膝を付き、身を屈めながら左腕をルメへと伸ばす。ルメも急転身してガンダムの手から逃れようとするが、今度はブリッツの方が速い。
黒いガンダムの左手は地面を這う様な低空軌道でルメに迫る。その動きは握るでも摘むでもなく、掬い取る動作だった。ルメに近づくにつれて速度を落としながら最小限の衝撃で接触。小さな体を手中に捉えるとゆっくりした動作で機体の胸元まで持ち上げた。
ブリッツの手の平に収まると、少女の体は本当に小さく見えた。まるで生まれたばかりの仔猫の様だった。
ルメはまた震えていた。怯えた目でガンダムを見上げている。自分のした事を顧みれば、この反応は当然のもの。もう謝罪の言葉も浮かばない。
それ以上に、謝罪している暇もないのが実情だった。
ルメの様子を見つつもカヅノの意識はさっきまでいた抜け穴の入り口に向けられている。
そこで今まさに、駐機していた二体のガンダムに火が入ったのを認めたのだ。
「揺れるが我慢してくれ! 絶対に――」
砲声がした。カヅノの声を掻き消し、ブリッツの間近にビームが着弾する。
「っ……!」
ルメを持つ左手に僅かに力を掛け、彼女を固定。そして右腕の盾の内側へ庇うように移しながら、黒いガンダムは飛び退り2発目の実体弾を回避する。
『……何のつもりか知らねえがよ、結論俺らの邪魔したいって事でいいんだよなぁおいカヅノ?』
砲撃の張本人。バスターガンダムからエスカベ
の声が響いた。外部スピーカーから出力された声には容易に分かるほど強い怒気が込められていた。
その傍らスレキのカラミティガンダムが一歩踏み出す。ブリッツガンダムへ向け、背中から伸びるビーム砲を向けた。
『お前の行動意味不明過ぎて下がるんだよ。とりあえず、折角のチャンスを台無しにしようとした落とし前、つけろや』
スレキの声に応じる様に、カラミティガンダムの両肩から光条が放たれる。続くようにバスターも砲撃を再開し、砲撃機二体分の集中砲火がブリッツガンダムに降り注ぐ。
「くそがっ!」
悪態をつき、ブリッツはスラスターを全開噴射。二体のガンダムに背を向けてロストマウンテンの洞窟の奥へと進んでいく。
ロストマウンテンの中は迷宮だ。迷宮の奥へ進む意味をカヅノも分かっていたが、今はこうするよりない。
『逃がしゃしねえよ!』
バスターとカラミティもスラスターを噴かし、ブリッツを追撃。高速移動しながらも絶えず砲撃を続ける。バスターの二丁の砲、カラミティ胸部のスキュラが光り、破壊の火線がブリッツの間近で炸裂する。破裂する炎熱がブリッツの機体を揺らし、カヅノはルメを落とすまいとブリッツの両手で彼女を支えだした。
「ばかすか撃ちやがって……自分たちが何しに来たのか覚えてねえのかよ!」
牽制目的でデタラメに撃ちまくっている様子だったが、時折ロックオン警報が入る。チェックすると、カヅノは現在僚機がいない状態。つまりスレキ達のチームから既に除外されたという事だ。同士討ちを避けるため、味方機はロック対象から除外されるのが常のため、この処置は道理ではある。
不利な条件がまた増えるが、かろうじて洞窟内というステージはカヅノにも利はある。スレキとエスカベのガンダムは筋金入りの砲撃型。頑丈な遮蔽物のおかげで射線はある程度は限定される。またMSが通れる大きな横道も少なくない。
『そのガキ置いて死ねよカヅノ!』
『死ね死ね死ね死ね死ね死ね!』
絶え間ない砲撃に混じってスレキとエスカベの声がするが、カヅノは努めて無視する。
気を逸らすな。まだ勝ち筋はある。目眩がするほど細くとも。スレキ達を撒いて、どうにかしてロストマウンテンの出口に漕ぎ着けさえすれば──
『……もう……だ』
か細い声だった。偶然でも外部集音器が拾わないような声が機体の外から……ブリッツの手の中から聞こえた。
『もうやだ! みんなヤダ! ほっといてよ!』
ブリッツの手の中。ルメの叫びが聞こえた。気味が悪いほどはっきりと。
『もうイヤ! みんなみんなイヤ! 大キラい!』
物理的距離。接触回線。確かな理由はあるだろうが、聴こえている言葉が全てだった。
拙い語彙での悪態は続いてる。ずっと震えていたルメが急に大声を張り上げたのが衝撃的だったからか。
違う。むしろ自然なのかもしれない。
会った時に薄々感づいていた。彼女はもうとっくに限界だったのだ。
孤独な放浪。昨今のELダイバー狩りという非道な追い打ち。ボロボロだった心に、突如始まった砲火の逃走劇が致命的なひびを入れた。それが今になって破られた。ずっと押し込めていた本音が限界を超え、悲鳴となって噴き出している。沢山の涙と一緒に。
『はなしてよ! おろしてよ! もうこわいの……いや……いや……いやああぁぁぁぁぁ!!』
言葉は徐々にぼやけ、叫びはいつしか啜り泣く声と嗚咽に変わっていった。
辛い。苦しい。怖い。悲しい。少女のか細い泣き声を聞いているだけで、ありったけの負の感情が針の様にカヅノの心へ突き刺さる。
──俺達がした事も、結局はこういう事かい……。
何も知らない初心者を後ろから撃ち、それを楽しんだ。
やめてと言われても、笑って撃ち続けていた。
やられた側がどんな思いをしたか、それをこんな形で味わうと思わなかった。
後悔と自分の愚かしさを心底恥じながら、カヅノはブリッツの速度を上げ、逃げるように手近な横穴に機体を滑り込ませた。
侵入した穴──通路はさっきよりも狭くなっていた。加えて棘の様に迫り出した岩が、通路中に点在して、最高速での移動は困難。岩の棘を避けるためブリッツは否応なく速度を落とし、蛇行する様に通路を進む。
好転したのは砲撃の音が止んだことくらい。それも束の間。代わりにルメの声が余計にはっきりと聞こえて、カヅノの表情が一層険しく変化する。
もう聞きたくなかった。友だった二人の怒声も、手の中で泣き続ける少女の悲鳴も。
聞きたくなかった。
『助けてよ……コーヤ』
自分の歯車を狂わせたあの女の名前を、よりによってこんな時に。
「おいあんた……ルメ!」
カヅノは反射的に、先程聞いたELダイバーの名前を呼んでいた。そして続けざまに彼女へ問う。
「あの女の事か、コーヤってのは!?」
カヅノの声は、ルメの悲鳴を止めた。
ぐしゃぐしゃになった泣き声を驚愕の表情に変え、ルメの相貌がブリッツガンダムの顔を見上げる。
『コーヤを……知ってるの?』
「ああ! 髪が黒くて、背が高くて、それで……でかいバイクのガンプラに乗ってるあのコーヤで合ってるんだな!?」
カヅノの言葉にルメは頷いた。カヅノがコーヤの特徴を口にする度、ルメは大きく何度も頷いた。頷く度、ルメから怯えが消えていく気がした。
──なんだよそれ……。
一体どれだけ巫山戯た巡り合わせだ。
不可解だった点が線で繋がる。
だから、自分を最低呼ばわりした女はELダイバー狩りの話題に食いついたのか。
癪な話だ。ああ、癪な限りだ。
だが、あの女に貸しを作れる。それはそれで面白い。
そんな発想に至る辺り、つくづく自分は小物の様だ。そうカヅノが思うと同時、また後方から砲声が轟いた。
『カヅノおおおおお!』
怒声をがならせて、バスターとカラミティの二機の追撃が再び始まる。
「しつこいんだよお前らも!」
カヅノはスラスターを吹かし、ブリッツを再加速させる。岩の棘をギリギリの距離で避けながら、黒いガンダムはロストマウンテンの迷宮へ飛び込んでいく。
加速を続けながらカヅノは思った。きっとここが分岐点だ。
恥ずべき自分と決別するためのラストチャンス。
不思議と笑みが浮かんだ。渋々付き合っていたお使いは、既に達成すべき命題になっていた。
///
逃げるブリッツ。それを追い、火力を行使するバスターとカラミティ。
三体のガンダムの戦いは、一方的な追走劇へと至ったが、その激しい砲撃はロストマウンテンの洞穴を揺り動かした。
その振動はルメとカヅノ達がいた場所まで響き渡っていた。
ぽっかりと空いた広間の様な空間に、鎮座する巨大ナノスキンの塊。金属とも岩ともつかぬ大きな物体は、バスターとカラミティの砲撃が轟く度に揺れて、破片となって零れていく。
そして一際大きな破裂音が上がった時、ナノスキンの塊から大きな破片がズルりと剥がれ落ちた。
剥がれた場所から顔を覗かせたのは、磨きたての様な白く光る金属。それは機動兵器の装甲。
ナノスキン塊の蠢動は激しさを増していく。グラグラと揺ればがら、ナノスキンは瓦礫となってバラバラと崩れ落ち、やがて覚醒した巨大な力が金属被膜を周囲一帯に吹き飛ばす。
その様は、卵を破って世に生まれる雛鳥のようでもあった。
ただしその雛は、既に巨大な鋼鉄の翼を携えた怪鳥とでも言うべき威容だった。
///
「……んんん?」
そのダイバーは自機のコックピットの中で、今しがた届いたばかりのメッセージを鼻歌交じりに開封していた。
差出人の名称はスレキ。彼も今日送られてきた何十通もの知らないメッセージ同様、顔も知らないダイバーからだ。
「ギリギリになって届く情報も増えたけどぉ。この子のは当たりかな? ハズレかな?」
ダイバーの声は愛らしい少女のそれで出力されていた。
これまでのメッセージは全てハズレ。的外れなダイバーの姿か、あるいは既にGBN側に登録されたELダイバーの情報だった。目標は確かにELダイバーだが、既知の存在ではダメなのだ。
ポチっとウインドウをタップし、メッセージを開封。そして短い文章を読み、さらに添付されていた画像を見て、ダイバーはにまりと笑う。
「ビンゴ」
画像はGBN内のスクリーンショットだ。薄暗い洞窟内。そこに二人の背中が映し出されている。
一人は禿頭をした作業着姿の男。もう一人は砂色のボロマントを纏う、翡翠色の髪の少女の背中。
GBN中のダイバーに向けてばら撒いたあのメッセージが遂に当りを引き当てた。
時間的にもこれがラストチャンス。ならばそう、劇的に演出しなくてはね。
「お兄さーん! ついに当たりを見つけましたよー!」
ダイバーは自機の手を振り上げ、眼下にいる青い機体へと合図を送る。
ここはハードコアディメンション・ヴァルガ。
青い機体──グフ・イグナイテッドの周囲ではスクラップになった機体が、次々と光の粒子に変わり消失していく。
「さあ、ここからがゲームの本番だよ」
ダイバーは心底楽しそうに笑う。
彼女の機体、ハンブラビは大きく手を振り続けている。