ガンダムビルドダイバーズ divers ensemble 作:千葉ネリモン
あぐねた二人の続きになります。
前回はガンプラに出番ありませんでしたが、今回はあります(笑)
リアルはリアル。ゲームはゲーム。
そういう折り合いの付け方もあるとは思った。
学校では今まで通り。クラスが一緒というだけの、滅多な事では話もしないただそれだけの関係。
そしてGBNでは同じ趣味を共有して、一緒に仮想世界で遊ぶ友達に。
別にそれも悪くない。むしろ、こういった世界で出会うダイバーの大半はリアルでの顔も本名も知らない間柄だ。区別し、割り切る事は何も悪い事ではない。
そう思った。思ったけど、無理だとも思った。
リアルの顔を知っている以上、アバターの向こうにある本当の顔が浮かんでしまう。
そしてそれはリアルでも、GBNでの姿を見てしまう、という事だ。
友達として一緒に遊んでも、夜が明けて学校で出会えば他人の振るまいを努めなくてはならない。
そんな器用な真似を続けるなんて、とても疲れてしまうに違いない。
連休は今日で終わる。
今の気持ちのままでは、明日からまた顔を合わせた時、どんな顔をすればいいかわからない。
けじめを付けよう。今日GBNで出会えたら、区切りを付けよう。
今日また出会えるか、分からないけど。
そんな逃げる口実の様な条件を課しながら、ダイブしたにも関わらず、だ。
五月の連休の最終日。最後の休日で一層賑わうGBNロビーで。
約束も何もしていなかったコーヤとキナの二人は、まるで示し合わせた様に再び出会った。
出会えてしまった。
コーヤは思う。こんな偶然、あっていいのか、と。
巡り合わせの妙にコーヤが立ち尽くし、言葉を失っていると、
「こんにちは……」
先に声をかけたのはキナの方だった。
普段よりもどこか固い、躊躇うような声音だった
「……こんにちは」
コーヤもぎこちなく挨拶を交わすが、心は急速に萎れていった。
いざ相手と対峙すると、構えていた心は簡単に怯え、竦む。決心した事を果たせないまま消えてしまいたくなって、動けなくなる。
今も周囲には多くの声が飛び交っているのに、二人の間だけが切り取った様に静かに感じられた。
キナも昨日の事を思ってか、無理に話を伸ばそうとはしなかった。少しだけ待って、コーヤが何も話さないと判断すると、キナはすこし寂しそうに笑いながら、軽く会釈をして踵を返す。
赤いマントを羽織る背中が見えた時、コーヤが覚えた感情は、安心だった。
もう話さなくていい。勇気をださなくていい。そんな事を思いながら、キナの背中を見送った。
最初は気になるだろうが、すぐ平気になる。元に戻るだけ。平行線の先には、今まで通りの心の乱されない平穏がある。だから……
──甘えるな!
「っ!」
コーヤは走り出した。
ロビーにいるダイバー達を避けながら、消えたキナの背中を追った。
足踏みをした後悔は追い付けなかった時にとっておく。今は彼女を探すことにだけ集中する。
右を向く。いない。
左を向く。獣耳はいたがずっと背が低い別人。
もう一度、右。丁度コーラ・サワー似のダイバーが横切ったその先。
いた! 赤いマントの狼耳。
間に合え。そう念じながら、走り。そして飛び付くようにその手を掴んだ。
突然手を捕まれて、キナは驚きながら振り返ると、耳まで真っ赤にしたコーヤが息を切らしながら言う。
「あ、あの! み、ミッション! 一緒にいきませんか? か!?」
多い。なぜ言った。自分に突っ込むが、もはや恥ずかしいと思う余裕も無い。
あとは白か黒か。こんないい加減で面倒くさい自分の誘いを受けてくれるか。
「……いいの?」
キナは問う。
「お、お願いします」
深くお辞儀をするコーヤに対し、どういう心境の変化だろうと、野暮な事は考えなかった。
嬉しいのだし。
少しだけはにかみながら、キナは答える。
「よろしく、ね」
///
サルベージミッション。バルチャーワーク。
ガンダムXの世界観を模したトレジャー発掘のミッション。放棄された軍事施設内を舞台に、 ステージ内に隠された換金アイテムや、パーツデータ等の素材を探索して入手するのが目的のミッションである。
障害として、バルチャーの競争相手という設定のNPDモビルスーツが登場するが、さほど強くもなく、アクシデントさえ無ければ手頃な小遣い稼ぎとして使えるため利用するダイバーも多い人気のミッションだ。
コーヤとキナがこのミッションを選びダイブしておよそ十分が経過。
現在二人はより多くのトレジャーを探すため、基地内部を探索していた。基地内だけあって道は入り組み、多くのゴミが散乱していたが、天井は高く道幅もあるためバイクでの移動は苦では無かった。
互いの機体は前回と同じだ。キナはシャイニングガンダム。コーヤはGNアーチャーとミキシングで出来たバイク。以前バイクに装備していた煙幕弾をミサイルポッドに変更し、武装面に手を加えていた。
二人は共同でアイテムを探し次々に獲得していったが、その間に業務連絡じみた確認はあっても、会話らしい会話は無い。
その事に一番焦っていたのは、誘った側のコーヤだった。
(考えろ、話題……何か共通の話題、お願い降りてきて……)
思考は神にすがっているが、コーヤは作業を適切に行っている。それらしいアイコン表示を探しては瓦礫を押し退けアイテムを入手。妨害機体と遭遇したらユキナと連携し危なげなく撃退。ミッション自体は上手くいってるのにどうしてこうも沈黙が生まれるか。
自分の引き出しの少なさに自己嫌悪を覚えていると、キナから通信が入った。ウインドウが開き、四角い枠の中にシャイニングガンダムの中のキナの姿が表示される。
「コーヤさんはさ、どうしてGBNを始めようと思ったの? やっぱりガンダムが好きだったから?」
「そうではなかったです。GBN始めるまでガンダム全然知らなかったんです。本当に」
「ならどうして?」
「最初はバイクに乗る気分を味わいたかったとか、それだけだったんです。そんな時にGBNの事を知ったんです」
最初はテレビのCM。次にネットでの噂、配信された動画と移り変わり、その度に興味は強くなっていった。
「自分でバイクに乗るのとは違うけど、自分で作ったものを自分で動かせるのって、楽しそうだなって思って。昔から工作というか、作るのが好きなんですよ」
組み立てる事、作る事は純粋に好きだった。料理に関してもそうだ。自分で手を動かし何かを作り上げることを面白いと感じた延長線の先に、自分が立っている自覚がコーヤにはあった。
もっとも、GBNを始めてからガンダムを見るようになると、アニメの方にも興味を持つようになったのだが。
「へえ。じゃあ前からプラモデルは作ってたんだ」
「いいえ、それも全然で。作ったプラモもこのバイクとアーチャーで二体目なんです」
「それ二体目だったの!?」
「あ、と言っても、最初のころからも色々いじってて、もう原型ほとんどないです。一時期はトライク……三輪だった事もありますし」
「どっちにしろ凄いよ。私はミキシングってやらないから」
どうにも不器用なのよね、とキナは肩を竦めて見せる。
「いえいえそんな……キナさんはどうして始めたんですか?」
「私? 私は完全にお父さんの影響」
「もしかしてお父さん、Gガンダム好きでしたか?」
「そうそうよく分かったね、って弟共々モビルファイターじゃ分かっちゃうよね」
ふふっと楽しげに笑い、キナは語り始める。
「小さい頃から暇があればお父さんが私と弟にガンダム見せてさ……。所謂、英才教育されちゃったのよ。おかげで心の底から大好きになっちゃったけど。空手始めたのも、Gガンがきっかけなんだよね」
「きっかけはなんであれ、行動できるのはすごいですよ」
「我ながらそう思う。けど、同じものを好きだって言ってくれる友達は中々できないんだ。ネットにはこんなにもガンダム好きな女子がいるのにさ」
困ったように笑うキナ。その声には僅かに普段と異なる色を含んでいるように思えた。
「私がガンダムに夢中になってた時、周りの女の子はもうオシャレなんかに目覚めてて全然話が合わなかった……我ながら子供っぽかったかなって悩みもしたんだよ」
笑いを交えたままキナは、自分の昔話をコーヤへと話し始める。
その言葉にはまるで、かさぶたをなぞっている様な危うさを感じた。どうしてそうするのかは、分からない。けれどきっと必要なのだろう。コーヤは静かにキナの声に耳を傾けた。
「自分が浮いてるって気付いたあとは、なんとか追い付こうって努力した。ハブられないように、みんなの輪に入れるように、興味がなくても必死に流行りを調べたりしながら。今じゃそれも自然と出来るようになったけど……やっぱりそれより深いところにあるのはガンダムなんだよね、お恥ずかしながら」
「……恥ずかしくなんて、ないよ」
彼女の言葉を聴き終えたとき、自然と彼女の卑下を否定する言葉がコーヤからこぼれる。
彼女は、変えようと動ける人なんだ。
「だからかな。ずっと、リアルでも話せる友達が欲しかったの。友達が欲しいって、そういうこと」
悪いね、ちっぽけな女で。キナは笑う。
何がちっぽけか。
小さいのは、私の方だ。
「……私もです。みんなと全然馴染めなかった。けど私はスギミさんみたいに努力は出来ませんでした。自分は違うんだ、って諦めるの早かった」
最初は些細な事だった。
「ガンダムとかガキっぽくない?」「バイクが好きとか、やっぱあの子変わってるね」
普段仲良くしていた友達が、自分の居ない場所でそんな風に話しているのを聞いてしまった。それだけだ。
以来好きなものを話題に上げるのがなんとなく怖くなり、解消されないまま時間だけが過ぎてあとはズブズブだ。話す相手はいても親しい友人は作らず、やり過ごすことを覚えて、順当にぼっちになっていった。
答えを得ず、求めようともせず、曖昧で重たいモヤモヤの中を納得の上で歩いてきた。
そんな自分と彼女は比べるべくもない。スギミ・ユキナは、タケウチ・ミヒロが諦めたもやつく足枷を払い、走ろうと思う事が出来る人だ。
「だからキナさんは強い、って。そう思います。心から」
それがコーヤが抱いたキナへの率直な評価であり、敬意の言葉だった。
出来ればもっと気の効いた言い回しをしたかったが、シンプルな言葉はしっかりとキナに届いたようだった。
表示されるウインドウの中で、キナは顔を赤くしてそっぽを向くと、必要以上に声を大きくして、
「よ、よし! 変な話はこのくらいにして。残りのアイテム発掘しにいこうか」
仕切り直し、と言うようにユキナのシャイニングガンダムが手の平を合わせてさらに両腕を振り上げる。
コーヤも同意し、頷いた時だった。
『WARNING』
警告を示すアラート音が、コーヤとキナのコックピットに鳴り響いた。
アクシデントの発生だった。
鳴り響くアラートに続き、メッセージウィンドウが表示される。
内容はこうだ。
『軍事施設内の炉心が暴走。三分以内に当該エリアから離脱せよ』
メッセージが閉じると、180と表示されたカウンターが開かれる。眺めている今も179、178とリミットへと近付いていく。
「キナさん!」
「OK! 脱出しよう!」
シャイニングガンダムがスラスターを全開にして飛び立ち、コーヤは後輪を滑らせてターン。退避エリアへ向けスタートする。
放棄された基地内という設定だけあって、整備されていない道は不陸だらけだ。散乱する瓦礫。陥没した路面。二輪が全力を発揮できない条件が多い。
(飛ぶかホバー移動できるようにしておけば良かった)
心中でぼやきながら、瓦礫を巧みに避けクリアへと繋がるゲートを目指す。
残り時間は瞬く間に150秒。基地の外周部はまだ走り易い事を踏まえてもギリギリだ。
集中力は切らせない。そう気合いを入れ直した矢先だった。
「!」
GNアーチャーの駆るバイクがブレーキをかけ、急停止する。
唐突の行動に、キナも思わず足を止めて振り返る。
「どうしたの!? パンク!?」
「違う! 人が……人がいる!」
「人!? 嘘でしょ!?」
ミヒロの操縦室内のウィンドウは、バイクの車輪すぐ傍の映像をアップで表示している。
四角い窓の中には、瓦礫に倒れる一人の少女が映されている。
年は十二、三くらい。褐色の肌と翡翠色の髪と同じ色の瞳が怯えた表情でミヒロの機体を見上げている。羽織るマントはボロボロで、本当に戦場で逃げ惑う子供の様だった。
(NPD? けどこのミッションでNPDなんて聞いた事……けどダイバーならなんで)
「コーヤさん、急いで! そろそろヤバイよ!」
「……キナさん、先に行って! 必ず間に合わせる!」
「……分かった!」
返事をしたシャイニングガンダムは直ぐ様飛び去っていく。そしてコーヤは搭乗を一時解除。乗機を消してアバターの姿で怯える少女へと接触する。
「私の手を掴んでて。ここから逃げるよ」
少女は驚きの表情でコーヤを見る。構わず、コーヤは再度機体を呼び出す。操縦室へと少女が招かれた事を確認すると、バイクを再発進させた。
疑問は切り離した。あとは状況判断だけで行動していた。
アナウンスは炉心の暴走と言っていた。時間になればこの一帯は爆発の炎に焼かれる事になる。
この少女が炎に飲まれる場面をコーヤは想像してしまった。
一も二も無かった。
これはバーチャル。NPDにしろ、ダイバーだったにしろ、命が失われる訳では無い。
だが、こうして人間に見えてしまった時点で、コーヤには作り物と割り切る事は出来なかった。
もう余裕は無い。極力減速せずに飛ばせるだけスピードを出す。
残り時間、60秒を切った。まだゲートは見えない。
「ミサイルポッド、パージ!」
バイクの両サイドから武装が外れ、地面に後方へと飛ぶように転がっていく。
僅かながら、加速が増す。舵も軽くなるが、気を抜けば制御を失う頼りない軽さだ。
「まだ、やれる!」
残り30秒。
集中しろ。念仏の様に唱える。
視界に入っているのは正面の路面とマッピングのみ。ボロマントの少女がコーヤの服の裾を強く握るが、その事には気付いた様子もない。
マップの情報が正しければ、もうじきゴールが見える。
機体が突き当たりに差し掛かった。ここを曲がれば、あとはゲートまで一直線。
後輪を滑らせ、ドリフトでコーナーをクリアする。
見えた。このステージのエリアゲート。
そして、その隣にいるシャイニングガンダムが。
「急げー! 間に合うよー!」
なんでよ。どうしてよ。
待ってる必要無いのに。自分だけでも抜けられれば報酬は受け取れるのに。失敗すればこの時間が無駄になるって分かってるのに、なのに待っててくれるなんて……!
「ああもう……」
残り10秒。
「嬉しくなっちゃうな!」
残り、6秒。
「トランザム!」
GNアーチャーの駆るバイクが、赤く光輝く。解放されたGN粒子がさらなる加速を呼び、機体を一迅の颶風に変える。
こうなるともう制御は効かない。あとは倒れない様に支えるだけ。
ぐんぐんとゲートが近付いてくる。
シャイニングガンダムもゲートに飛び込むのが見えた。
「……間に合ったよ」
コンマ3秒の時間を残し、二人はミッションを成功させた。
///
生きた心地がしなかった。
壊滅する基地から脱出を果たした二人は、ロビーに帰って来るなりどっと疲れた様子でベンチへと座り込む。
「いや~参ったね。あそこでトラップ経験したの初めてだったから焦った! 本気で死ぬかと思った! 加減しろ運営!」
やけくそ気味に言いながらも、満ち足りた顔でキナは笑った。
「本当にそれ……。話には聞いてたけど体験するのじゃ全然違う。私絶対にバルチャーにだけはなりたくないよ」
秒単位での死線を経験したコーヤは憔悴の方が濃いが、声からは固さがとれている。
「そういえばコーヤさんのバイクってトランザム出来たんだね。太陽炉どこに付いてるの?」
「バイクの下の方。縦になってる筒のところ。作り込みが甘いから6秒しか使えないけど」
6秒。自分で言ってて情けない数字と思った。これでも最初は起動しただけでエンストを起こしたので、動くだけマシにはなっている。本当に動くだけだが。
「トランザムを入れるのは難しいって聞くけど、本当なんだね。良かったらその時の苦労話聞かせてよ? お茶でも飲みながらさ」
「……え?」
「えっ、て……この場でも言われるとは思わなかったな」
さすがにちょっと傷つくかも、とキナが口を尖らせるとコーヤは慌てて取り繕う。
「ごめんなさい! いやでもでも、そんなの……楽しいかな?」
「楽しいに決まってるじゃん! 私だって一応ビルダーだよ。弟とよく話しするし、保証するよ」
ミヒロの疑問に満面の笑顔でユキナは即答する。
なんの保証だ、と突っ込みたくなったが、その時ミヒロは思った。
ユキナにとっての得とはこれなのだ。
友達となった相手に何かを提供してもらうのでなく、友達として繋がる事が得になるんだ。
(おばあちゃん。当たり前の事、私もちょっと分かったかも)
ただそれだけが、得になるなら悪くないよね。
「……それならお願いしようかな。お店の方も良いところ教えて」
「かしこまり!」
本当にいい顔で笑うんだな、この子は。
自分もいつか、もっと上手く笑えるといいな。
ミヒロは友達の背に続くように腰を上げた。
「ああそういえば。急に止まってたけど、結局なんだったの? 人が居たって言ってたけど」
「うん。人がいたの。NPDかダイバーか分からなかったけど……」
「NPD? あのステージにそんな設定無いし聞いたことないけど?」
「じゃあダイバーなのかな?」
ミヒロが首を傾げると、ユキナは先のステージのログを確認する。
「……やっぱり私達の記録しかあのステージに残ってないよ?」
「なら私があったあの子は一体……」
ゲートから出た時に居なかったのでステージNPDかと思ったが、そうでは無いらしい。
まるで幽霊との遭遇だった。この電脳の世界の中で一体何を、と思う一方で例外となりえる存在が思い当たる。
「ELダイバー、だったのかな」
登場ミッション 概要紹介
○サルベージミッション・バルチャーワーク
ガンダムXの世界観を模した探索ミッション。
廃棄された軍事施設や戦場跡から換金アイテムやパーツデータを探し出し、入手するのが目的。
小遣い稼ぎに使えるミッションだが、アクシデント要素がある。
軍事施設の動力炉の暴走やバルチャーの大群の乱入。
高難易度のレア演出として、フリーデンのガンダムメンバーやフロスト兄弟の乱入がある。月のある時間帯の場合、サテライトキャノンがぶっぱなされることも。