ガンダムビルドダイバーズ divers ensemble 作:千葉ネリモン
理解もしている。割り切ってもいる。それでも心の底からは納得できていない。
称賛と喝采。
最初は興味も薄かった。好きなものを好きなように作れれば満足できたはずなのに、いつの間にか分不相応にも証明が欲しくてたまらなくなっていた。
そんな浅ましさに自己嫌悪を覚えながらも、今日もこうして自分の作品を展示している。
誰かから評価を受けたいと思ってる。
何をしてんだろ。
今日何度目かの溜め息をついていると、だ。
視界の端。不思議なダイバーがいた。まだ幼い少女の姿をしているダイバーだった。
多くの人と同じく、自分のガンプラの前を通り過ぎる様に見えたが、ダイバーの少女は急に立ち止まる。
翡翠色の髪を靡かせて、褐色の肌をした少女は振り返り自分の作ったガンプラを見る。
まるで呼び止められて、振り返るように見えた。
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乾いた熱砂の風が、キナの青い髪を撫でる。何となく頭の狼の耳に砂がたまった気がして違和感を感じて、手櫛で髪をすくように耳を手入れしていると、コーヤが買ってきた飲み物を手渡したくれた。
「ありがとコーヤ」
「どうも。バーチャルなのに暑く感じるし、味も分かるのって、改めて思うと凄いですよね、GBN」
キンキンに冷えた容器の感触を確かめながら、二人は揃ってドリンクを啜り始める。
現在、二人がいるのはペリシア・エリアだ。
ビルダー達の聖地として名高い砂漠の街へとコーヤとキナは訪れていた。
コーヤもキナも、このエリアに来たのは久しぶりの事だった。相変わらず多くダイバーが行き交い、創意工夫を凝らしたガンプラ達が町中に聳え立っている。
「件の人も出展してるんでしたっけ?」
「良くも悪くも目立つの作るから、すぐに分かると思うよ。時間はきっちりしてる相手だから、ちゃんと来てるはず」
探索ミッションをこなして以来、二人でダイブする事が増えた事もあってか、コーヤもいくらか砕けた口調でキナと会話が出来るようになっていた。
リアルでの関係も、今までよりも近くなっている。まだ固さはあるが、キナの友人らと昼休みを共にする事もあり、少しずつではあるが懸念していたよりも良い方向に進展している様だった。
そして今回二人がペリシアに来たのはある目的があった。コーヤの言った件の人が、どうやら先のミッションで遭遇した正体不明の少女を見た事がある、らしい。
その人物とはキナのフレンドの一人で、雑談中にコーヤが出会った少女の話題を上げたところ、似た容姿のアバターを見たと言うのでる。
探索ミッションで遭遇した彼女がただのバグで現れたNPDなのか、それとも本当にELダイバーなのか。あるいはもっと別の何者か。少なからず気にかかっていたコーヤは、キナの中継ぎをお願いし、その人物と落ち合って話を聞くために呼ばれたのが、ここペリシアだった。
「普通に会うだけならロビーでいいのに」
「作品展示してるから、あんまり動きたくないんだってさ」
「ここに展示してるってくらいだから、すごいビルダーさんなんですか?」
「う、うーん……スゴいと言えばスゴいけど……まあ見れば分かるよ」
微妙な顔をしたキナが少し気にはなったが、ひとまず意識から外す事とする。今は友人と一緒に聖地の姿を楽しもうと、コーヤとキナはガンプラの立ち並ぶ街道を歩く。
以前も来たことはあるが、ここの賑わいはコーヤも好むところだった。
いや、コーヤに限らず、ガンプラというコンテンツを好んでいるなら、誰もが等しく楽しめるだろう。
右手に緻密なディテールを凝らし、極限までクオリティを求めたサザビーがあれば、左手にはジムカスタムをベースに、既存パーツや自作パーツの増設で、装備大盛りのロマンを体現した作品もある。
中東風の屋台の並ぶ道の曲がり角には、旧キットのガンダムアスクレプオスを素体にしながら、稼働とプロポーションの両立を目指し、ダイナミックなポージングで展示されていて、さらに変形のパフォーマンスを見せてくれた。
そして、シャイニングガンダムを抱き抱えるゴッドガンダムの展示を見たキナは大興奮。布施と称し、自分のビルドコインを制作者に向けて送付したりもしていた。
目を奪われるほどの大作もあれば、確かな情熱を感じさせる粗削りな一品もある。
そしてそんな作品達を背にして記念撮影をする者たち。
ガンプラは自由だ。その精神をこれでもかと表している。
ガンダムとして見れば、コーヤも王道とは言えない作り方をしているが、この街はそんな自分の方針も肯定してくれている様に思えてくる。
多種多様なガンプラ達を眺めながらストリートを歩いていると、一体のガンプラの前でキナが歩みを止めた。
「新作ってコレか……ニトラさん変わらないな~」
隣のキナがまた微妙な表情をして苦笑している。その様子を訝りながらもコーヤもその作品を見上げ、一言。
「げっ」
混じりけない純粋な感想を一言で見事に表した、と言っていいだろうか。
コーヤの視線の先にあるのは、グーンを改造したガンプラである。
その作りは想像以上に独創的、だった。
まず上半身。グーンの原型を多く残しており、特徴的な三角頭もそのままだ。指先の爪が大きく鋭利になっているが、それほど大きな変化はない。
次いで下半身。ジオングのスカートアーマーが装備されている。幅を詰めてウエストサイズを調整し、裾の延長と細かいディティールが追加されている。これもまだいい。
問題となるのは脚部だ。二本の足ではない。かといってジオングの様なバーニアでもない。
このグーンの足は触手だ。MSの頭が先端に付いている触手だった。Gガンダムに登場するデビルガンダムの眷属ガンダムヘッドよろしく、ジン、シグー、バクゥ、グーン等ザフト系MSの首がある。その数が10本と分かったとき、これはイカの怪物だと理解した。
MSで作られた鋼鉄のイカ。それを彩るカラーリングは毒々しいまでの暗い赤と紫色。
モンスターだ。いきなりキシャ~と雄叫びを上げて、ニョロニョロと動き出しそうな姿に、呆気に取られるコーヤだったが脳裏には懸念が過る。
(コレ作った人と今から会うのか……)
如何に表現の自由と言えど、趣味には好き嫌いはあるのが人の常。この作品一つで作者の人柄が分かる訳ではないが、不安材料としては十分だった。
「心配になるのは分かるけど、大丈夫だよ。基本的にはいい人だから」
「ならせめて基本的って言葉は付けないでよ……」
肩を落とすコーヤを慰めるように、キナはぽんぽんと背中を叩く。
そんな二人へと声をかける者がいた。
「キナちゃーん、やっほー! 久しぶりっすね!」
コーヤとキナが振り替えると、手を振りながら駆けてくるダイバーが見えた。
身長はそんなに高くない。現実で言うところの150センチ丁度くらいだろうか。頭にはゴテゴテとした大きなゴーグルを付け、タンクトップと、長袖を腰で縛ったツナギ姿は機械の整備中に抜けてきた様な格好だった。
そんな服装だけなら少年の様にも見えただろうが、元気に揺れるくすんだ金髪の三つ編みお下げと、身長の割に立派に主張する胸元の隆起が、女性である事を雄弁に示している。
「デニアちゃん! ご無沙汰~!」
キナが笑顔で応じて、駆け寄ってきたデニアと呼んだ女性ダイバーと両手でハイタッチをする。
「いぇーいキナちゃん! 元気してたっすか?」
「元気も元気! 調子も上々で全体的に良いことの方が多いよ! デニアちゃんの方は?」
「ん~まあぼちぼちってとこっすかね。ここのとこ忙しくて久々にログインしたところでして。……で、こちらが話しに出てたコーヤさんっすか?」
デニアがコーヤの方を向く。アバターの身長が170センチあるコーヤが、自然と見下ろす姿勢で初めて会ったデニアを見る。
可愛いアバター、と思った。特に特徴的だったのが、金色の瞳だ。金属質よりも暖かみのある蜂蜜色の瞳がコーヤを見つめている。
「初めまして。私はデニアっす。よろしくっす」
「こちらこそはじめまして、デニアさん。コーヤです。今日はよろしくお願いします」
「お話はキナちゃんから色々と聞いてるっすよ。なんか凄いバイクに乗ってるんすよね? あとで見せて欲しいんすけど、いいっすかね?」
「ありがとうございます。そんな、大したものじゃないですけど……デニアさんのガンプラはその、凄く個性的、ですね」
個性的。言葉に窮した時に出る常套句で作品への感想を述べると、デニアはきょとんとした顔をした。
選びを間違えたか? 内心冷や汗を掻いていると、デニアはコーヤとイカを交互に見やり、やがて……爆笑した。
「……ちが、違う違う! 私のじゃないっすよ! こんなゲテモノ作ろうなんて、ひひひ無理! 無理っすよ! ああお腹痛い」
「……キナさん、どういうことかな?」
温度のない目が、キナを見る。
「今日会う相手が二人いるって……話してなかった……よね?」
キナはばつの悪そうな顔で謝罪をして、目を逸らす。
そして耳まで赤くしたコーヤが、笑いっぱなしのデニアに頭を下げる。
「いいっていいってお構い無く。いや~でもこの手のゲテモノ作るのも、たまに面白いかもしれないっすね」
ニタニタとデニアが笑って見せると、また別の声が三人の輪に割って入る。
男の声だ。
「だったら作ってみるか? そのゲテモノを」
呼び掛けてきた男の声に、三人は同時に振り返る。
そこに居たのは、長身長髪の若い男だった。
細く縦に長い体と肩まで伸びる真っ直ぐな黒髪。左目には大きな眼帯を付けており、露出した右目は異様に鋭い。細い顔付きもあってカマキリを思わせた。さらに砂漠のエリアには似つかわしくない、黒字にグレーのストライプの入ったスーツと無地のネクタイという装いが、反社会的勢力じみた攻撃的な雰囲気を仕立て上げている。
怖い人、とコーヤは思った。例えアバターと分かっていてもお近づきにはなりたくないタイプ。
だが、デニアは嬉しそうにまっしぐらに駆け寄っていった。
「ニトラ久しぶりっす! いい加減普通な方に宗旨変えしてると思ってたから、相も変わらずゲテモノしてて安心したっすよ! ナイス、ゲテモノ!」
「ははは、テメェもだなデニア、ゲテモノゲテモノ連呼するな。これでもカッコいいって思ってんだから、ただでさえ脆い俺の心が本格的に瓦解するからやめて差し上げろだコラ」
言い方こそ剣呑だが、ニトラと呼ばれた男は上機嫌に口角を上げて笑って見せる。口元に異様なほどギザギザした歯がちらりと見えた。
「ニトラさん今日はどうもね。わざわざ時間作ってもらっちゃって」
キナも気安い感じでニトラに挨拶をすると、ニトラも応じる。
「いやむしろ礼を言いたいのはこっちだ。気になる話だったからな。で、そちらの方が例の?」
「そうです。コーヤ、この人がもう一人のニトラさん」
キナが掌を傾けてコーヤを指し示すと、コーヤは背筋を伸ばしてニトラに一礼した。
「ど、どうもコーヤです。今日はご足労頂き、ありがとうございます……」
「こちらこそ、情報を提供して頂けて感謝しています。さっそくで悪いのですが、場所を移して現状の確認をさせて下さい」
「あ、はい……」
デニアの相手の時とは打って代わっての物腰の柔らかさに、コーヤはちょっと意外に思いながら一同は移動を開始する。
///
ペリシアエリア内の茶店へと移動した四人。大きなパラソルを日陰に、木製の丸テーブルを囲んで、コーヤは前回の探索クエストで出会った少女についてニトラに説明をした。
「褐色の肌と翠色の髪。ボロボロのマントを着けた12歳くらいの女の子……容姿を聞く限り、俺が見た子とほぼ一致しますね」
「ニトラさんはあの子と面識があるんですか?」
「いいえ。面識なんて程ではないです。作品展示してる最中、似た感じの子が俺のガンプラを見てて。珍しいな、って思ってたら目が合って、そのまま怯えた様子で逃げていきました」
「それ、単にニトラの顔が怖かっただけじゃないんすか?」
「俺もその時はそう思ったし、それがショックで覚えていた様なものだ。コーヤさんの話をキナから聞いた時は結構驚いたんだぞ」
デニアの茶々にニトラは目を細めながら言う。残念ながら、それはコーヤの望んだものには遠い答えだった。
「あの子って本当にELダイバーなんでしょうか?」
「分かりません。けど、ミッションの話を聞くと、そうではないと断言はできませんね。もし未確認のELダイバーだったら、尚更放ってはおけなくなる」
「ごめん質問なんだけど、ELダイバーってそんな放置したらヤバいって認識なの? ちょっとよく分からないんだけど」
控えめに手を上げるキナの方に三人の視線が向く。
変な事言ったかな? とキナが苦笑を浮かべると、コーヤがシステムウィンドウを開いてみせた。
「利用規約、書いてあるよ」
「そうなの? てか、こういうの同意を押すだけなんじゃないの?」
「キナちゃんってGBN歴一年ってところっすよね。あの大騒ぎを知らないなら、仕方ないんじゃないっすか?」
「大騒ぎってアレだっけ? 第二次有志連合とかいう」
「そうだ。その中心になってたのが、電子生命体ELダイバー。彼女の存在がGBNに深刻な問題を与えていた事が発覚して、処遇についての盛大な一悶着があったわけだ」
あの一戦を知らないダイバーはおそらくいないだろう。
チャンプの率いるフォースアヴァロンを筆頭に団結した大軍勢に、小さなフォースが戦いを挑み勝利を納めた伝説的な戦いだ。コーヤがGBNを始めたのはその直後の時期だったが、あの戦いを語るダイバーは何人も目にした事はある。
「そこまでは知ってる。でも最終的にELダイバーを消さずにパッチが実行できて、大団円じゃなかった?」
「大団円なのは間違いないが、その後もELダイバーが増えてきてる。その辺はお前さんも聞いたことあるだろ?」
「そりゃあね。今は80人くらいいるんだっけ?」
「うん、大体そのくらい。その一人一人がGBNの方で保護されてて、それで新しくELダイバーを見つけたら、ELバースセンターで登録をすることになってるらしいの」
ほらここ、とコーヤが利用規約を指で示す。キナも今気付いたと、うんうんと納得し頷いて見せる。
「今じゃ珍しくもないっすけど、ELダイバーがイレギュラー寄りなところは変わってないっすからね。システムエラーを防ぐ上でも必要って事っすよ」
「そういうわけで、だ。もし彼女がはぐれのELダイバーなら早め目に保護しててやらないと面倒になる。そのためにも確認先決。ELダイバーかどうかもまだ分からないが、既に登録されていないか運営に問い合わせてみる」
ニトラが今後の方針を語る。それを聞いてコーヤは内心少しだけほっとした。
運営に連絡は考えていたが、どう連絡するか悩みどころであったため、この助け船がありがたかった。
「すみません、何からなにまで。ありがとうございます」
「俺としても遊び場が荒れるのは避けたいところですから。運営からの回答次第ですけど、コーヤさんにも例の女の子の捜索協力をお願いしたいと思ってます。もちろん、デニアとキナにも」
「私はOKっすよ。当面はちょくちょくログインできると思うっすから」
「私も意義無し。聞いてる限り、放ってもおけないみたいだし、いつでも言って」
デニアとキナもそれぞれ頷いたり、サムズアップを見せて同意を示す。
「助かる。それじゃあ、運営からの回答が来たら連絡する」
これで今回の集まりは解散となった。進展らしい進展は少なく、肝要な部分がまだふわふわしたままだが、協力者が増えた事は一歩前進だとコーヤは思った。
///
「ね? 言った通り基本的にいい人だったでしょ?」
「……そうだったね」
茶店を離れ、広場のガンプラ達を眺めながらの帰り道。キナの言葉にコーヤは頷く。
いつの間にか話の中心に立ち、方針をまとめてくれたニトラに対し、コーヤも最初に覚えた不安は無くなっている。
「けど、何であんなに積極的だったのかな?」
「GBNを荒らされたくないからって、言ってなかったっけ?」
「うん。まあそうなんだけど」
納得はできるが、それでもこんな不確定な話に乗り、さらに率先して舵を取る事に違和感がある。
何か裏があるのではないか。感謝とともにそんな疑問が浮かんできてしまう。
その数日後。GBN運営から連絡がニトラの元に届けられた。
登場人物紹介
○ダイバーネーム:デニア
性別:女
年齢:外見15~6歳
身長:150cm
くすんだ金髪と蜂蜜色の瞳が特徴の女性ダイバー。
キナが以前、野良でチームを組んだ時以来フレンドとして一緒にミッションをこなす間柄になった。
明朗快活で社交的。明け透けな性分のためキナとはすぐに意気投合した。
語尾に「っす」と付けて話すが、時折ぶれたり不自然な時に使うので、普段はあまり使い慣れていないのかもしれない。
獲得したビルドコインの大半は衣装につぎ込んでいて、今回見せた整備士風の衣装も数あるコレクションのひとつ。
好きなシリーズは鉄血のオルフェンズ。終わり方はアレだったがそれでも好き。
○ダイバーネーム:ニトラ
性別:男
年齢:外見20代前半
身長:180cm
眼帯をつけた強面のダイバー。ギャングの様な外見だが、知り合いにはフランクで初対面には敬語口調と話してみると普通の人。
デニアのフレンドでキナとは彼女のつてで出会う。GPD時代からガンプラバトルをしているが、本格的に始めたのはGBNから。実際に壊れないのがいいらしい。
ビルダーとして様々なものを製作しており、基礎能力は水準以上のものを持っている。が、本気で作るものはかなり特異な外見……言ってしまえばゲテモノ系。本人はネタではなく本気でカッコいいと思って作っているため、一般的な価値観とのギャップは感じている。
好きなシリーズはVガンダム、ガンダムX、ガンダムAGE。メカデザイナー石垣純哉先生のファン