もう一度、貴方に出逢えたのなら……   作:赤いUFO

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過去視

「ここは……」

 

 梨花はいつの間にか古手神社の本宅の庭に立っていた。

 何故自分がこんなところに居るのか分からず困惑するが、辺りを見渡すと、古めかしいというか何処かしら違和感がある。

 頭でよく考えられずに1歩踏み出すと、それを合図したように聞き慣れた筈でありながら、聞いたことのない怒声が響いた。

 

 

「いい加減にしろぉおおおおおぉおおおぉおおおおっ!!」

 

 

「ぶげへぇっ!?」

 

 誰かが弾かれたように襖を壊すと飛ばされてきて、地面をゴロンゴロンと勢いよく転がってくる。

 神主服を着た男性を見て梨花は大きく瞬きした。

 

「陸人……?」

 

 転がってきたのは、つい1週間前に転校してきた新谷陸人だった。

 ただ、梨花が知るよりも年上で、二十歳くらいに見えた。

 そして、本宅の奥から現れた人物を見て、梨花は更に目を丸くした。

 

「は、羽入っ!?」

 

 現れたのは、梨花にとって大切な家族。最も長く自分に寄り添ってくれた人。

 しかし、やはりこの陸人と同じように年齢が違い、彼女も二十歳くらいに見える。

 黒い衣服を身に纏った羽入は、見たことのない怒りの形相で声を張り上げた。

 

「毎日毎日毎日毎日毎日っ!! 私はこんなもの着ないと言っているでしょうが! それをいつも勧めてきて! 嫌がらせですか、陸!!」

 

 一気に巻くし立てた羽入に起き上がった男性は心外そうに首を横に振る。

 

「何を言います! 私があなたに嫌がらせをするなど、太陽が西から昇ってもあり得ません!」

 

「しているでしょうが今! こんな巫女服を着せようとして!」

 

 出された衣装は部活の罰ゲームで様々な衣装を着た梨花ですら、うわぁ、と口元をひきつらせる品物だった。

 袴というか、赤いミニスカートくらいに切られた袴。

 袖がなく、胸元が開かれた白衣。

 アレを巫女服とはさすがに言いたくない。

 だってエンジェルモートの制服くらいヤバイし。

 

「それは違いますよ羽入! 異なる文化と遭遇する事には誰しも不安と怖れを抱き、それを嫌悪と錯覚してしまうもの! そして、何かを進歩させるということは、新しい試みが必要不可欠! 大丈夫! それを乗り越えた先に、互いを理解し、歩み寄る事が出来るのです! さぁ、羽入! 私と共に新しい世界を拓きましょう!」

 

「拓けてたまるかぁ!!」

 

「ごぼふっ!?」

 

 よく分からない屁理屈をこねる男性に羽入は渾身のアッパーを喰らわせる。すると男性は足が地面から3メートル程離れて舞い落ちてきた。

 

「フンッ!」

 

 起こった顔のまま羽入は踵を返して本宅の中へと消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、左右には羽入と沙都子がまだ眠っていた。

 時計を見ると時刻はまだ5時を回ったばかり。

 

「あれは……」

 

 羽入の、過去なのだろうか? 

 色々と繋がっている自分達の夢が繋がる。そんな事もあるかもしれない。

 隣で寝息を立てている羽入。

 梨花は取り敢えず、羽入の頬を思いっきりつねって起こす事にした。

 

「いたっ!? 痛いのですよ、梨花~っ!」

 

 ぐにっとつねると羽入が目を覚まして痛みを訴えてくる。

 夢で見た大人の羽入。

 あんなに強かったのなら山狗との戦いももっと楽だったろうに、と思っただけで、男性を殴った時に揺れた乳を見てイラッとした、という理由ではないことを断言しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減、料理を覚えたい……」

 

 昼食のお弁当を食べながら圭一がそんな事を呟く。

 

「どうしたんだい、圭一?」

 

 陸人が圭一の呟きに反応する。歳が同じで同性な為か、2人はよく話しをする。

 

「いや、両親が水曜から土曜日までまた出張でさ。カップラーメンばかりだと飽きるし。かと言って毎日弁当買う予算なんて貰えないし……」

 

「自分で作ったりはしないのかい? うちは父子家庭で、昔から父さんの出張があるからご飯くらいは自分で作るよ」

 

「……前に野菜炒めを作ったら火柱が上がって火事になりそうになってから料理はしてない」

 

 視線を逸らして呟く圭一に沙都子と梨花が続く。

 

「あの時、私達がやってこなかったら圭一さんのお家は火事で無くなってましたのよ」

 

「どうやったらあんなことになるのか、未だに謎なのですよ」

 

 年下2人に言われて項垂れる圭一。

 するとレナが陸人に話しかけた。

 

「よく商店街で買い物してるのを見かけるのはその為なんだね。じゃあ料理だけじゃなくて普段からの家事も陸人君がしてるのかな? かな?」

 

「そうだよ。まぁうちの父さんは食事にあまり興味の無い人だから何を作っても文句を言わないのが助かるかな?」

 

「食事に興味がないって、そんな人いるー?」

 

 魅音が首を傾げながら質問すると思い出しながら陸人は答える。

 

「以前お昼に弁当を買ってくるって言うから、エビフライ弁当を頼んだら海老天丼を買ってきたっていうのは序の口で。麻婆豆腐と麻婆茄子の違いも分からないし、ハンバーグが食べたいって言ったらハンバーガーショップに連れていかれる。カレーとハヤシの区別も当然つかない。極めつけはチョコも餡子も黒くて甘い食べ物だから似たような物って言われた事もあるな」

 

『……』

 

 思い出して疲れたように息を吐く陸人。

 聞いていた部活メンバーも言葉を失う。

 それでも最初口を開いたのは魅音だった。

 

「陸人のお父さん、味覚に何か異常でもあるの?」

 

「味覚オンチなのは事実だろうね。この間、卵スープを味噌汁美味いな、とか言って飲んでたし」

 

「味噌が入ってないのです……みー……」

 

 梨花がそう締め括ると、陸人が苦笑いでやり過ごす。

 そこである事を思い付いて圭一に話した。

 

「なんなら、出張期間は僕の父さんと被るみたいだし、ご飯食べに来る? 泊まりでもいいし」

 

「いいのか!?」

 

「全然構わないよ。父さんも、1人でずっと留守番させるよりも誰かしら行き来してた方が安心するだろうし」

 

 水筒のお茶を飲む陸人。

 よっしゃ、とガッツポーズを取る圭一。

 そこで今まで黙っていた羽入が小さめに手を上げた。

 

「あの、陸人……僕もお邪魔して良いですか?」

 

『!?』

 

 羽入の提案に1人を除いた全員が驚いた表情をする。

 その中で陸人だけはのほほんと。

 

「うん、いいよ。おいで」

 

 あっさりとOKを出す。

 そんな羽入を見ればちょっかいかけたくなる者も居て。

 

「イッーヒッヒッ! 羽入は大胆だねぇ! 男子2人の中に混ざろうだなんて」

 

「あうあうあう! そういう訳じゃ……」

 

 魅音の追及に羽入が視線を逸らしつつ誤魔化す。

 軽く羽入をからかいつつも、少し考える素振りを見せた。

 

「ねぇ、陸人。そっちが良かったらだけど、アタシ達もお邪魔していい? 折角だから、陸人の転入してきたお祝いもしたいし」

 

「お祝い?」

 

「そ。圭ちゃんの時は雛見沢の案内してあげたでしょ? 陸人にはみんなでパーッと遊べないかなって。あたしの家からも取って置きのゲームも幾つか持っていくからさ」

 

 魅音の提案に陸人は特に抵抗なく頷いた。

 

「僕はかまわないよ。皆が来てくれるなら楽しそうだし」

 

 そう答えるとレナが提案する。

 

「なら、その日の夕食は材料を持ち合って皆で作るのはどうかな? かな?」

 

「そうですわね。まぁ、圭一さんは戦力になりませんから、精々食材だけでも奮発してくださいですわ」

 

「うるせー!」

 

 圭一の叫びに皆が笑った。

 魅音がパンと手を叩く。

 

「それじゃあ、今週の金曜日に陸人の家に集合!」

 

『おー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またなのね……」

 

 ここが羽入の過去だと分かったのは、あの夢の2人が立っていたからだ。

 2人はちゃぶ台を挟んで向かい合っていて、大人姿の羽入は物凄い渋い顔をしており、陸人に似た男性の方は頬を掻いて苦笑している。

 2人の死線はちゃぶ台の上に注がれおり、梨花は移動してそれを見ると、思いっきり顔をしかめた。

 ちゃぶ台の上には炭化した野菜に味噌が溶けきれてない味噌汁。

 何かヤバい色の豆料理? らしき物が置かれている。

 米も水を入れすぎたのか、完全にお粥になっている。

 気まずそうに視線を泳がせていた羽入が申し訳無さそうに口を開く。

 

「……すみません。もう少し上手く出来ると思っていたのですが」

 

「いえ! 羽入がこうして心を込めて作ってくれた食事。その気持ちに感謝して食べれば、きっとおいしく感じる筈です!!」

 

「それはつまり、感謝の心が無ければとても食べられた物ではないということですね」

 

 男性のフォローに羽入は俯く。

 その会話を聞いていた梨花も驚いていた。

 目の前の料理を作ったのが羽入という事実に。

 梨花に料理を教えたのは羽入だ。その彼女がこんな失敗をする時期が在った事が意外で。

 

「今度、これをネタに羽入をからかってやるのも面白いかもね」

 

 そんな事を考えていると、2人は黙々と食事をしている。

 食事中に男性が話題を振る。

 

「それで昨日の提案は考えてくれましたか?」

 

 男性の質問に羽入は箸の動きを止める。

 

「私の幼馴染みの公由志乃さん。その人が羽入を紹介してくれと頼まれてまして。羽入も同性の友人の方が話やすい事もあるでしょう?」

 

「ですが……」

 

 男性の提案に羽入は押し黙る。

 無意識なのか、その手は頭の角に触れられていた。

 

「角も頭巾を被って、頭に大きな怪我をしていて誰かに見られたくないとでも言えば追求はしません。例え角を見られたとしても、志乃さんがそれを理由に羽入拒絶する事はないと思います」

 

 その志乃という人物を余程信頼しているのだろう。

 目を閉じて考えた羽入は降参するようにその提案を受け入れる。

 

「そうですね。ここにお世話になってそれなりの月日が経っています。村の人達も、私の存在を不審に思っているのでしょう?」

 

 羽入の返しに男性は答えなかったが、その沈黙こそが肯定を意味していた。

 

「では。よろしくお願いしますね、陸」

 

 弱々しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんわー」

 

「はーい。いらっしゃい、みんな。上がって」

 

 学校を終えて帰宅してからそれぞれ食材を用意して陸人の家に向かった部活メンバー。

 快く陸人も家に上げる。

 廊下を見渡した魅音が感心した様子で口を開いた。

 

「お父さんと2人暮らしって聞いたからもっとごちゃごちゃしてると思ったけど、綺麗にしてるもんだねぇ」

 

「いやいや。みんなが来るから急いで掃除と片付けしたよ。普段はもう少しね」

 

 などと言っているが、通路には目立つような汚れや埃はなく、日頃からキチンと掃除をしているのだろう。

 台所と繋がっている居間に置かれたテーブルに持ち込んだ食材を置くと魅音が手を叩いて指示を出す。

 

「それじゃあみんなー。手洗って、早速料理に取りかかるよー」

 

『おー!』

 

 女子達が意気揚々と台所で料理を始めようとすると、陸人が疑問を口にする。

 

「いや、流石に5人同時には料理できないよね?」

 

 普段から陸人1人で使っている台所に5人で料理するのは手狭だろう。調理が被る事もあるだろうし。

 一応それなりの広さはあるので3人くらいなら問題ないだろうが。

 しかしそれはこのメンバーに当てはまらない。

 

「陸人さん。それはわたくし達を甘く見すぎでしてよ?」

 

「みー。みんなで仲良く使うので問題なしなのですよ」

 

 沙都子と梨花に続いてレナも頷く。

 

「家で準備してきた食材もあるし、問題ないかな? かな?」

 

「陸人と圭一は楽しみに待ってて欲しいのですよ」

 

 羽入に締められて、5人が台所に立つ。

 まだ懐疑的な陸人の肩に今日この日の為に買ったエンジェルモートのケーキを冷蔵庫に入れた圭一が手を置く。

 

「まぁ見てろって」

 

 部活メンバーの自信はすぐに思い知る事となる。

 レナが家で味つけしたのであろうタッパーに入った唐揚げ肉を揚げている間に横で魅音がだし巻き卵を焼いている。

 梨花が米を研いでいる最中に沙都子と羽入が野菜を切ったりすりおろしたりしている。

 レナと魅音がコンロを使い終わると別の誰かが入れ替わりで火を使い始めた。

 互いに声を掛け合いながら物凄いスピードで出来上がる料理が皿に盛り付けられていった。

 

「スゴい……」

 

 思わずそんな声が漏れる。

 1時間と待たずに完成した料理の数々を見て圧倒される陸人。

 圭一は料理を見てガッツポーズをした。

 

「2日ぶりのカップラーメン以外の夕食だぜ!」

 

「あはは。圭一君もたくさん食べてね」

 

「それじゃあご飯をよそって食べようか」

 

 魅音の指示に全員が学校で過ごすような雰囲気で食卓に着いた。

 いただきますと食事の挨拶をして食事を始める。

 

「うおっ、うめぇ! いつも弁当とかでおかず交換とかするけど、温かい飯だと更にうめぇ!」

 

 オーバーリアクション気味に感動している圭一に他の子が嬉しそうに頬を弛める。

 そんな中で羽入が小鉢によそわれた筑前煮を手にした。

 

「陸。これ僕が作ったのですよ」

 

「うん。美味しそうだね」

 

 言って中の里芋を箸で取って口にした。

 

「どう、ですか?」

 

「美味しい。それに何だかホッとするね」

 

 陸人から美味しいと言われて微笑む羽入。

 それを見た周りはニヤニヤとする。

 しかし羽入の隣に座っている梨花だけはその甘ったるい空気に内心。

 

(久々にお酒がほしいわ)

 

 この場でお酒を飲んで羽入に茶々を入れたい衝動をグッと堪えた。

 

 

 

 

 

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