「イタタタタ……あーもぉ……」
「どうしたの?魅ぃちゃん。なんか辛そうだね」
「昨日ばっちゃに頼まれて蔵の荷物を運び出してさぁ。親戚のおじさん達と一緒に重たい荷物運ばされたんだよ。お陰で筋肉痛で……詩音のやつは上手いことサボるし……」
と、二の腕を揉む魅音。
そこで圭一が
「そりゃ大変だったなぁ。教えてくれりゃあ手伝いに行ったぞ?」
「いやー。流石にそんな風にこき使うのは気が引けるって。それに、圭ちゃんの細腕じゃあ、大した荷物も運べないんじゃないかねー」
「なんだとー!」
くっくっ、と笑う魅音に圭一が大袈裟に怒りを露わにする。
それを見て仲間達から笑いが起きた。
そこで羽入が心配そうに呟く。
「でも、本当に辛そうなのです」
「そうなんだよ〜。詩音のやつが上手く逃げたせいであたしの方に労力が集中しちゃってさ〜」
詩音のやつ〜、と恨めしげな声を出す魅音に陸人が首を傾げた。
「詩音って誰だい?」
この場で詩音に会ったことのない陸人の疑問に魅音が返した。
「あぁ。陸人は会ったことなかったっけ?園崎詩音。あたしの双子の妹だよ」
「簡単に説明すると、女の子らしい魅音だ」
「圭一くん、その説明は酷いんじゃないかな?かな?」
圭一のデリカシーがない発言にレナが笑顔で威圧する。
それに気づいた圭一が僅かに後ずさった。
「僕も魅音は女の子らしいと思うけどなぁ」
ポロッとそんな事を漏らす陸人。
一人称がおじさんなどと使う時はあるが、周囲への気遣いが出来る女の子だ。
圭一もちゃんと理解しているのだろうが、どうにも彼は魅音を同性と異性の両方から友達と思っている節がある。
魅音自身もその遠慮のない関係が心地良いのか、多少心に引っかかりを覚えても流してるところがある。
「あはは。ありがと。陸人は圭ちゃんと違って良い子だねぇ」
「おい」
「先程あのようなセリフを吐いた圭一さんには反論する資格はございませんわよ?」
「圭一はひどいヤツなのですー」
沙都子と梨花に言われて項垂れる圭一。
そこで陸人が疑問を口にする。
「でも僕、一度もこの学校で詩音って人に会ったことないよ?もしかして興宮の方に通ってるの?」
陸人の質問に魅音が、あ〜っと言いづらそうに頬を掻く。
「実は詩音、1年ちょっと前まで厳しい全寮制のお嬢様学校に通ってたんだけど、肌が合わなくて脱走してこっちに戻ってきたんだよ。そっから色々とあって、今は興宮の学校に通ってる」
「でも最近は本当にこちらへは来なくなりましたわね。以前は毎日と言っていいくらいにこっちへ遊びに来てましたのに」
「あ〜。こっちにばかり来てるのがばっちゃにバレちゃってね。しばらくは大人しく興宮の方に通うんじゃない?」
「沙都子は詩ぃに会えなくて淋しいのですよー」
「違いますわ梨花!詩音さんにしばらくかぼちゃを食べさせられなくてすむと安心しただけですのよ!」
梨花の指摘に両手を振って否定するが、その顔は明らかに寂しそうなのが丸分かりで、皆が笑みを浮かべる。
「なんなんですのー!」
「はう〜。拗ねてる沙都子ちゃんもかぁいいよー!」
頬を膨らませて拗ねる沙都子にレナが抱きついたりした。
そこで片目を瞑って魅音が話を締め括った。
「ま。そのうちに会うだろうから、仲良くしてやってよ」
「あ〜重い〜!葛西に連れてきてもらえば良かったぁ」
パンパンに詰められたスーパーの買い物袋を両手に引っ提げながら園崎詩音は空に向かって愚痴る。
季節的にも時刻的にも涼しいのだが、重たい荷物のせいで額から汗が流れた。
文句を言ってると、知らない声で姉の名前で呼ばれた。
「あれ?魅音だ。どうしたの?そんなに買い物して」
近づいてくる少年。
詩音は誰?と首を傾げたが、すぐに魅音が最近圭一と同い年の男の子が転校してきたと話していたのを思い出す。
「もしかして、新谷陸人君……?」
「え?そうだよ。なにいまさ……あっ!?」
なにか思い至ったのか、慌てた様子で確認する。
「園崎詩音さん?魅音の妹の」
「はい。いつもお姉がお世話になってます」
「いえいえ。お世話になってるのはむしろこっちの方だよ」
社交辞令的な挨拶に交わすと、話を最初に戻す。
「それでさ。重そうだから半分持とうか?あ、それとも初対面の人に荷物を預けるのは嫌かな?」
荷物を持つ角度で手を差し出してくる陸人。
その厚意に詩音はお礼を言いつつ片方の買い物袋を渡した。
「そんな事ないですよ。すごく重かったので助かります!」
「わっ!ホントに重い!これ使い切れるの?」
「当然使い切ります!今更やめるってのは無しですよ?」
「言わないけどさ。どれくらい歩くの」
「そうですね〜。三十分くらい?」
陸人は安請け合いしたのを少しだけ後悔した。
翌日。
「筋肉痛ぅ……」
腕を痛そうに押さえる陸人に圭一が呆れた様子で話しかける。
「魅音に続いてどうした陸人?」
「ちょっと、買い物袋が重くて……」
「そんなに買い込んだんですの?」
「いや、僕じゃなくてねー」
笑って誤魔化していると、生徒が揃った教室に人が入ってくる。
「はろろ〜ん。みなさんお久しぶりでーす」
「詩音っ!?」
双子の妹が現れてあからさまに身構える魅音。
「ななななんであんたがっ!?」
「まぁそろそろあの鬼婆の機嫌も直ったでしょうし、遊びに来ましたよ〜お姉。沙都子も好き嫌いしてませんか?」
視線が沙都子に移ると、本人はビクッと肩を小さくした。
それに梨花がフォローに入る。
「詩ぃ。沙都子は好き嫌いを克服しようと頑張っているのですよ」
「梨花ぁ……」
親友のフォローに涙ぐんで感謝する沙都子。
しかしそれが大きな勘違いだとすぐに分かる。
「昨日も、ボクが作ったかぼちゃの甘煮を半分も食べてくれたのですよ?」
「梨花ぁっ!?」
同じ名を呼んでいるのに今度は悲痛な叫びとなったのは何故なのか。
ガクガクと震えだす沙都子の肩に詩音が手を乗せる。
「あらあら〜。梨花ちゃまが作ってくれた料理を残すなんて悪い子ですね〜。これはねーねーとしてしっかりと好き嫌いを治してあげないと〜」
「ヒィッ!?」
なんかもう見ててかわいそうになってくるくらいの怯えっぷりである。
事情を知らない陸人は魅音に小声で質問する。
「ねーねーってなに?」
「あ〜。沙都子には悟史っていう。お兄ちゃんが居てね。今は事情があって、別々に暮らしてるんだけど、詩音は悟史に沙都子のことを頼まれたらしくて。それでお姉ちゃんらしく振る舞おうとしてるところがあんの。ちなみに沙都子は悟史のことをにーにーって呼んでてね」
魅音の説明に陸人はなにか複雑な事情があるのかな?と首を傾げる。
それにしてもいくら頼まれたからと言っても、姉のように振る舞おうとするのはちょっと過剰に感じる。
「もしかして詩音ってその悟史って人のこと……」
「察しが良いね。まぁでも、今は沙都子の事も純粋に気にかけてるよ。そうじゃなかったら、いくら悟史の妹でも詩音が自発的に面倒見ようとするわけないからね」
姉妹だからだろうか。断言する魅音。
沙都子と戯れていた詩音だが、なにかを思い出したように陸人の方を向く。
「そういえば、今日はあなたに用があったんでした。新谷陸人かん?」
「へ?僕?」
「えぇ。昨日のお礼にと思って。荷物持ってもらって助かっちゃいました♪」
「それを言うなら、昨日貰ったコロッケ。帰り道で美味しく頂きました」
と、お礼を返す陸人。
羽入が疑問を口にする。
「2人は知り合いだったのですか?」
羽入の質問に陸人がちょっとバツが悪そうに頬を掻く。
「あ〜うん。昨日、魅音と勘違いして話しかけてね」
「いや〜すぐに信じてくれて助かりましたよ〜。圭ちゃんと違って」
「うぐ!?し、仕方ないだろ!2人が揃ってる事が中々なかったんだから!」
いきなり話を振られて言い訳する圭一。
どうやら彼には中々信じてもらえなかったらしい。
「それよりさ、嫌いな好き嫌い克服って何するの?」
「それはもちろん、かぼちゃのフルコースです!かぼちゃの炊き込みご飯から始まりかぼちゃの煮物にサラダ!その他諸々――――」
そんな事を言う詩音に陸人は笑顔で、うわーと引く。
もはや克服どころかトラウマになるレベルの脳筋理論である。
沙都子自身も梨花の背に隠れて震えていた。
その様子に同情した陸人が頬に指を当てて考える。
そしてポンと手を叩くと。
「ねぇ、詩音。今日僕の家に来ない?出来れば泊まりで」
『!?』
陸人のいきなりな申し出に全員が驚いた表情をする。
「もう。私が美人だからってちょっと積極的過ぎません?あ、私は好きな人が居るのでそういうお誘いはノーサンキューです。代わりにお姉でも誘ってあげてください」
「ちょっと詩音〜!」
差し出された事に魅音が抗議するが、その前に陸人が苦笑気味に詩音に近付く。
そこから耳打ちで内緒話を始めた。
話を聞いている内に、詩音が細める。
「それはそれは。自信がお有りのようですねぇ。良いでしょう、そういう事なら……」
と、陸人の家に行く事を了承する。
それに圭一が驚きを表す。
「おいマジかよ。詩音の奴、悟史から陸人に乗り換え――――」
と、そこで詩音の投げたチョークが圭一の頬を掠めた。
「圭ちゃん。あんまりふざけた事を言うと――――
バラしますよ?」
「あ、はい。すんません」
詩音の殺気に圭一は両手を上げて降参のポーズを取る。
しかし疑問は全員に共通していた。
「ちょっとちょっと詩音!あんたが誘いにホイホイ乗るなんて珍しいねぇ!」
「えぇ。ちょっと興味深い提案でしたので。お姉が思ってるような事は一切無いのであしからず」
そんな風に話が纏まりかけていると、羽入が小さく手を上げる。
「あの、陸……僕も行っていいですか?」
羽入の問いに、陸人は梨花と沙都子の方を一瞥して困った様子で断る。
「うん。今回は遠慮して欲しいかな?」
「あう。そう、ですか……」
明らかに落ち込む羽入に陸人はごめんね、と頭を撫でた。
「じゃあレナは?レナもついて行っちゃダメかな?かな?」
「いや。むしろ助かるかも。女の子一人だけ泊まらせるなんて、流石に後ろめたいというか」
おいでおいでとあっさり許可する陸人。
その基準が分からずに羽入はモヤモヤとする。
「両手に花なんて羨ましいな、陸人」
「圭一には言われたくないよ。じゃあ魅音、妹さんは借りるね」
「そりゃあ、いいけど……ホントに変なことしない〜?」
「そんなことしたら、僕の方が返り討ちに遭いそうだ」
苦笑して陸人は肩をすくめた。
「――――入――――羽入さんっ!!」
「あうっ!?」
耳元で突然沙都子に大声で呼ばれて羽入はビックリして飛び跳ねた。
「もう!今日はおでんを作るのでしょうに!大根をみじん切りにしてどうしますの!」
「あう?あうあうっ!?」
心ここに在らずで包丁を握っていた羽入は、おでん用の大根をみじん切りにしていたらしい。
それを一緒に料理していた沙都子が気付いて注意したのだ。
テレビを見ていた梨花が、呆れた様子で近付く。
「考えごとをしながら包丁を握るなんて危ないやつなのですー」
ほら貸して、と羽入から包丁を奪い取る梨花。
「代わってやるので、羽入はテレビでも見て落ち着くのです」
「あうあう。でも……」
今日は当番なのに、梨花に代わって貰うのは気が引けた。
しかし、梨花の意見に沙都子も賛成する。
「ですわね。今の羽入さんがお料理をして指を切ったり火傷したら目も当てられませんもの。今日はお休みになってくださいまし」
「はいなのです……」
二人から戦力外通知を受けて羽入はトボトボと引き下がった。
「あんた、いい加減にしなさいよ」
「あう?」
沙都子が寝静まった後に梨花が鬱陶しそうに羽入を見る。
自分の態度に気付いてない様子の羽入に梨花は苛立ちを募らせた。
「晩御飯の時も沙都子や私が話題を振っても反応もしないで黙々とご飯食べて。空気が悪いったら」
「あうあう……それは、ごめんなさいなのです」
「別に陸人だって、そういう下心あって詩音を誘った訳じゃなさそうだし、気を揉むことなんてないんじゃない?」
「……」
梨花の指摘に黙りこくる羽入。
羽入がボーッとしている原因は、陸人から詩音を誘った事が原因なのはさっしているが、それにしても、と思う。
それに言い訳するように羽入が発言する。
「だって、断られるとは思わなかったのですよ……」
淋しそうに俯く羽入。
彼女の頭にある角が犬の耳だったなら、今頃はしょぼんと垂れていたに違いない。
自分の苛立ちを発散させる為にと、梨花は羽入を挑発する。
「なに?あんたの昔の旦那……私の御先祖か。そいつって実は女癖が悪かったりしたの?」
羽入が陸人にかつての夫を重ねていると知りつつ発した言葉だった。
しかしそれは思った以上に効果があったらしい。
「ち、違うのです!!なにも知らないくせに、勝手なこと言わないで欲しいのですっ!!」
深夜に関わらず、声を張り上げた羽入はそのまま布団を仕舞う押し入れに逃げてしまった。
梨花と顔を合わせない為だろう。
その声に眠っていた沙都子が起きてしまった。
「なんですのぉ……今のこえ……」
眠そうに欠伸をする沙都子に梨花は仕方ないと苦笑する。
「まったく羽入は手のかかる奴なのですよー」
でも、羨ましいとも思った。
誰かの行動に一喜一憂する。
そこまで想える相手をいつか自分も巡り逢うのだろうか?と梨花は沙都子が寝ている布団に入った。
「は〜い沙都子。お楽しみのかぼちゃ克服時間ですよ〜?」
「ヒィ!?も、もうお弁当なら食べ終わりましたわ!お腹いっぱいですわよ!」
朝から雛見沢分校に居た詩音。
かぼちゃの話をされずに安堵していた矢先だったが、昼食を終えた頃にレナと陸人の3人でどこかへ行って戻ってきたところだ。
「まぁまぁ。これなら沙都子もきっと食べられるでしょう?」
そう言って手にしている小さな箱を開けた。
なかに入っていたのは――――。
「ケーキ?」
「かぼちゃのケーキです。これなら沙都子も食べられると思いますよ」
黄色いケーキに物珍しい目を向ける。
レナも箱を開けると、中にはやはりケーキが入っていた。
「レナからは圭一くんと魅ぃちゃん。それに梨花ちゃんの分ね。陸人くんから教えてもらったんだよ」
「へ〜。かぼちゃのケーキなんてよく知ってたね」
「うん。昔、僕の母さんがよく作ってくれてね。まぁ、レシピは残ってたけど、自分で作るのは初めてだったから、ちょっと3人で試行錯誤したかな」
「あはは。でも楽しかったよ?レシピがすごい細かったからそこまで苦労はなかったし。味見してみて美味しかったんだよ」
「あぁ。だから冷蔵庫のある職員室に行ってたのか」
「ですね。でもこれ、今度はエンジェルモートの新商品に出来ないか、おじさんにちょっと相談してみますかね」
「いいね!雛見沢で採れた野菜とかでやってくれたら、農家さん達も喜ぶよ」
そんな風に話が盛り上がっていると、陸人が羽入にケーキの入った箱を渡す。
「昨日はごめんね。沙都子ちゃんに話すかとしれないと思ったからつい。これはそのお詫びに」
「僕に?」
「うん。お詫び以外にもこの村に来てから羽入には特にお世話になってるしね。お礼を含めて」
実は圭一や他の部活メンバーにも作ろうとしたのたが、レナによってやんわりと止められた。
それで作ったのが羽入の分だけなのだ。
先ずは沙都子が恐る恐る一口食べる。
「ん?」
確かにかぼちゃの味はするが、嫌な感じはしない。
むしろ――――。
「美味しいですわ……」
自然とそう呟く。
圭一なども絶賛していた。
「へぇ。野菜のケーキなんて初めて食べたけど、美味いな」
「頑張って作ったんだよ。だよ」
そこで詩音が魅音に小声で話しかけた。
「ところでお姉。アレ……」
「あぁうん……気にしなくていいよ。たまにあるから」
羽入と陸人。
ケーキを食べる羽入をにこにこと見ている陸人。
ちょっと近づき難いというか、半分2人の世界みたいになっている。
「本当にあの2人、まだ付き合ってないんですか?」
「ないよ。あたしらが知る限りではね」
「は〜。羨ましい。私も早く悟史くんに」