就活に失敗した俺は、非常勤講師。   作:ジェスタ

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第1話

就職活動。

それは、人生において最大のターニングポイントだ。

生きていく上で必要な金。それを稼ぐためにも定職に就かなければならない。

俺が職に求めるものは、安心と安定だ。給料が安くてもそれがあるならいい。

何故なら親がかなり危険な仕事をしていたことが原因だ。唯一の家族である父親は、高給取りだが、仕事が忙しく授業参観なんか来たことなかった。夜遅くに帰ってきて、朝早く家を出る。一週間、顔を見なかったこともあった。

それでも、俺は父親が好きだった。悪い奴らを倒して、みんなを助けてくれるヒーローだったから、いつか俺も父親みたいになりたいと思っていた。

 

だがある時、その父が血まみれになって病院に運ばれた。本人は大丈夫だと笑って言っていたが、どう考えても大丈夫に見えなかった。

 

そんな日が何日も続いた。俺はこれ以上父さんが傷つくのを見たくなかった。何度も引き留めたが、俺の話なんて聞いてくれなかった。

 

『助けを求めている人がいるんだ。だから、パパは行かなきゃいけない』

 

そう言って、父さんは幼い俺一人で家に置いていった。泣いている俺の顔を見ず、振り向かないで玄関ドアを開けて出て行ったのだ。

 

 

 

 

なんだそれ?ふざけんな。

そんな死にに行くようなことをどうして出来る?他人のためなら家族はほったらかしか?

 

それから俺は父親に冷めた。この人と俺は違う人種だと気付いた。

俺は必ず安心で安全な、普通の生活を送ると決めた。

だから、俺は公務員を目指した。それも市役所や区役所といった行政職。安心で安定の職業だ。警察や消防なんてもっての他だ。今の時代じゃ、公務員の中で死亡率が一番高い。

大学2年から公務員試験のための勉強をし始めた。学校が終わったら、予備校にも通った。アルバイトでお金をためて、自力で学費も払った。インターンシップにも行って、受験予定の自治体や官公庁の情報を集めた。面接練習も学校の就職かで何度も練習した。

 

そして、その結果。

 

 

 

 

 

 

 

 

八木 ヒロ様

この度は、第二次保須市役所新規採⽤選考試験にご応募いただきましてありがとうございました。

 

当役所において、慎重に選考を重ねてまいりましたが、誠に残念ながら今回の最終選考試験の結果については、ご期待に添えない結果となりました。

 

末筆ではございますが、今後の貴殿のご活躍とご健勝を⼼よりお祈り申し上げます。

 

保須市役所総務部⼈事課

 

「落ちた・・・・・」

 

手に持つ三つ折りの跡が残る紙を見て金髪の男はそう呟いた。顔色は真っ蒼になり、碧眼の瞳には光が宿っていない。まさに絶望に満ちた顔をしている。

自分の部屋で男の立っている足元には他にもA4サイズの白い紙が何枚も落ちていた。

 

大学4年生の冬。すでに年は明け、卒業まで残り数ヵ月。卒業論文と残りの単位取得、さらに就職活動を同時に熟していた大学最高学年。

そのもう終わりの時期において、俺 八木ヒロは、未だに卒業後の就職先が決まっていなかった。

 

公務員だけじゃない。民間企業もすべて落とされた。地元の有名企業から、名前を書けば受けるようなところまで受けた。

 

にもかかわらず、すべて不採用。最終試験まで行って、「君に内定出すよ」なんて役員に言われたのに。

 

 

 

「無職確定じゃん、俺」

 

学校の就職課だけでなく、ハローワークで求人を探した。そして、全滅した。

 

今の世の中、好景気ではないが不景気ではない。学校の友達も夏休み前には内定をもらっていた。

 

どうして俺だけ?成績も悪くないし、ボランティアも積極的に参加した。サークルでは代表を務めた。エントリーシートと履歴書、事故PR、長所、短所、ガクチカ、すべて何度も書き直した。手書きの履歴書を何枚書いたか覚えていない。

 

そんな俺は、就職に失敗した。これから、また公務員試験の勉強をしながらアルバイトだ。ハローワークにも行かなきゃ。

 

そう思っていると机の上に置いてあるスマホが鳴った。手に取り、誰から来たのか確認する。液晶画面には『平和クソカス野郎』と出ていた。

 

俺は速攻で赤い拒否のアイコンをスワイプした。

数秒後。また電話が鳴った。またしても相手は『平和クソカス野郎』だ。

 

もう一度切った。

また電話が掛かる。

切る

掛かる

切る

掛かる

切る

掛かる

切る

掛かる

切る

掛かる

切る

「ああもうっ!めんどくせぇな、クソ親父がッ!」

 

観念した俺は遂に応答の緑のアイコンをスワイプしてスマホを耳に当てる。

「もしもし?」

『やっと出てくれたっ!もしもしヒロ?お父さんだよ!』

スピーカーから流れてきたのはウザイくらいに陽気なクソみたいなおっさんの声。

 

俺が一番嫌いな人間だ。

 

「・・・・どなたですか?あいにく、私には父親はいません。新手の詐欺ですか?次電話したら警察に訴えます。じゃあ。」

『ちょっ!?待って待って!流石にヒドくないかい?私、何十回も電話したんだけど!?』

「こちらはそのたびに。拒否のアイコンをスワイプするという無駄なことさせられました。ストーカーですか?迷惑行為です。訴えますよ?訴えます」

 

そうだ訴えよう。例え相手がクソったれの平和中毒野郎でも、ここで戦わなければいつ戦う?

今でしょッ!うん、古いな。

 

『じ、実の息子にここまで言われると、さすがに、お父さん悲しくなっちゃうんだけどなぁ・・・・・』

オッサンがそんなみっともない声出すなよ。キモいんだよ。

 

「で、なに?早くしてくんない?今忙しいんだけど」

いら立ちながらも俺はこの人の話を聞くことにした。忙しいと言っておけば少しは早く話を終わらせられるだろう。

『お、おうそうか。ごめんな‥‥』と言って平和中毒ヒョロガリ野郎は言葉を続けた。

 

『いや、その・・・・試験、どうだったかなぁって』

「落ちたよ。もういい?切るよ」

 

『ああ!ちょっ、ちょっと待って!』

なんだよ。まだなんかあんのかよ。

 

「で、何?」

『ああ、その・・・・ヒロって、教員免許、持ってたよね?』

教員免許?いきなりなんだよ?

 

「取れ取れ言われたから取ったよ。で何?」

一昨年くらいにしつこく言ってくるから、仕方なく必要な授業を取り、教育実習に行った。免許はとったものの、他の採用試験と日程がかぶっていたから教員採用試験は受けていない。

『いや、実はさ。お父さん、転職するんだ』

 

「・・・・・は?」

何言ってんだコイツ?

『今年の春から雄英の先生さッ!ハーッハッハッハッ!』

 

このニセ筋平和中毒野郎が?教師に?無理だろ。

 

「遂に自分を見失ったの?やめといたほうがいいよ。マジで。毛根に負担がかかる髪型を止める為だったら違う職見つけた方がいいよ。一緒にハローワーク行く?俺の担当に紹介するよ」

『ヒ、ヒドい。後、ハゲないからッ!ウチはその家系じゃないの知っているよねッ!?』

なんだ、そんなにハゲたくないのか。なら無理矢理前髪を立たせる髪型はやめといたほうがいいのに。

親父は興奮していたものの咳払いをして落ち着きを取り戻した。

 

『とにかく、私は先生なるんだけど、実は校長から頼まれたことがあってね』

「根津校長が?なんだよ、それ?」

いい加減要件を言えよ。もったいぶるな、切るぞ。あと、電話よりもメールかL〇neでやれ。

 

『実は英語の講師を探しているらしくね。ちょうどヒロが英語の教員免許持っているから、来週の非常勤講師採用試験を受けてみ「わかった。ありがとう」・・・・えっ?ちょ、もしもsh』

 

もう要件が分かったから聞く必要はないと思い電話を切る。

教師とか柄じゃないない。加えて、非常勤。常勤の講師と違ってアルバイトとかに近い。一回の授業に対して給料が出る。安定とは程遠い。

 

だが、このままフリーターになるのはごめんだ。あのクソ親父の脛をかじるのなら死んだほうがましだ。

 

俺は再びスマホを弄り、とある人間に電話する。俺なんかよりも教職に詳しい人だ。

 

『あ、ヒロくん?どうかしたの?』

「もしもし、轟?明日、空いているか?ちょっと相談したいことあってさ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、相変わらず私に対しては厳しいな」

「ハハッ!ヒロ君は昔と変わらないみたいだね」

雄英高校の校長室。そこにはソファに座る二人、一人と一匹がいた。スマホを持った金髪の骸骨のような容姿のスーツ男。そして、二足歩行の白いネズミが向かい合った茶をすすっていた。

 

「でもほんとにいいのかい?ワンフォーオールを彼に渡さなくて?」

白いネズミこと雄英高校校長の根津は、来客用のソファに座る貧相な男 八木俊典ことオールマイトにそう言った。

平和の象徴 オールマイト。最強のヒーローと言われた彼がここまで憔悴してしまったのはとあるヴィランとの戦いが原因だった。勝利したものの、体は衰弱し、限られた時間内でしか戦えなくなった。

 

彼が雄英に来た理由は一つ。次代に個性 ワンフォーオールを渡すためだ。新たな平和の象徴になれる生徒を探し、継承してもらう。そのために教職に就いた。

 

「いえ、あの子はそれを望まないでしょう。例え力があっても、ヒーローを嫌うあの子に平和の象徴を押し付けるわけにはいきません。それに、次代の器はもう見つけました」

オールマイトはそう言って湯呑の茶をすする。

去年の春、オールマイトはとある少年に出会った。人々が立ち尽くす中でクラスメート助けるために飛び出した、無個性の少年。ヒーローに必要な自己犠牲の精神をすでに持ち合わせていた。

故に、ワンフォーオールを継承させるために厳しい特訓を行った。先日行った入試でも少女を救うために一人で巨大な0ポイントヴィランに立ち向かい、行動不能になった。

その救助ポイントで合格が決まっている。

 

「しかし、公安委員会はそうは思っていないみたいだよ。なんせ、彼の内定を全て潰してウチの講師にしようとしたんだから」

「・・・・・・」

そう、本来なら八木ヒロは全ての採用試験に文句なしで受かっていた。しかし、出されるはずだった内定を消したのはヒーロー公安委員会だった。受験した地方自治体や官公庁、企業に圧力をかけたのだ。

 

「まぁ、そのおかげで彼を守ることが出来る。ここの警備システムは完璧サ!」

「校長・・・・」

オールマイトには使命がある。

ヴィランから市民を守ること、ワンフォーオールを次代に受け継がせること。

そして、実の息子である八木ヒロを守ることだ。

同じ職場にいればさらに守りやすくなる。例え相手があの諸悪の根源たる魔王でも、雄英までに手を出すのは難しいだろう。

 

「まぁ、彼がウチの採用試験を受けてくれるかどうかだけど」

「来ますよ。何せ、私に似て責任感は強い子ですから」

 

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