ボッチになっちゃったけど頼れる先輩に誘われたので頑張ろうと思います   作:柿崎隊を勝たせたい

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俺の周りは怖い人が多すぎると狙撃手は思った

『それはね、他の人には見えない特殊なものなんだ』

 

 入隊を果たした数日後のある日のこと。

 初めてボーダー本部で検査を受けた際に受けた説明はなんとも信じがたいものだと思った。

 だが、今になってみれば研究者の発言はもっともなものだったと実感できる。

 

『今まで辛かっただろう。よく耐えてきたね。君ならきっと良い防衛隊員になれるよ』

 

 続けられた発言はきっと形式的なものだろう。

 それでも今まで理屈ではなかった事が明らかとなった事で、気持ちが軽くなったのは確かだった。

 自分にしかない、特別な力なのだという説明は幼い心を活気だたせる。

 余計に防衛任務に勤しもう、強くなろうという気概に満ち溢れていたというのに。

 

 

 

 ——照準器越しに目にしたのは、まさに地獄のような光景だった。

 一言で簡潔に表すならば悪鬼そのもの。

 たった一人の相手に攻撃を一発も当てる事さえ叶わず、こちらの攻撃は盾一枚で防がれ、反撃の砲弾で部隊もろとも緊急脱出へと追いやられた。これを鬼と呼ばずに何と言う。

 

『クハハハハ! どうした玄界(ミデン)の兵士、その程度か!』

 

 脱出の直前、最後に耳にしたのは敵の高らかな叫び。

 本部へと戻る最中、それをただ歯を食いしばって聞く事しか出来なかった。

 隊長として。エースとして。ボーダーの主力部隊として。

 やるべき事が、やらなければならない事は山ほどあったはずなのに。

 B級合同で2級戦功を授与されたものの、そんなものは何の意味もなさない。

 だってそれを共に分かち合うはずだった隊員たちは、すでにボーダーを去ってしまったのだから。

 

「……ヤベエ。俺もフリー(ボッチ)になっちまった。迅さんや当真先輩を笑えねえ。というかこのままだと絶対に真木理佐に怒られるじゃん。怖い」

 

 B級以上の隊員たちに与えられる作戦室の中、一人の少年が愚痴をこぼした。

 第二次大規模進行とよばれる大戦後、机の上に置かれた書類を前に、後悔の念と先行きが見えぬ不安が双肩に重くのしかかる。

 特に最後の一言には彼の強い気持ちが込められていた。少年の脳内には『働け』と強い眼光で容赦ない怒声をぶつける同級生とはとても思えない大人びた同級生の姿が浮かんでいる。これでは自称エリートや訓練時代にサボっていたと噂の先輩狙撃手を笑えない。

 

「はぁ。本当、笑えねえ」

 

 もう一度目の前の紙に視線を落としてため息をついた。

 置かれていたのは脱退届だ。彼の部隊のオペレーター、そして2名の戦闘員の脱退届。つい先日までチームメイトたちだったものたちが置いていったものである。

 彼らは大規模進行後、程なくしてボーダーを去る決断を下した。

 ネイバーを相手に何もできなかったという事実、無残に殺害された同僚の姿、そして破壊された街並みに気力を削がれてしまったのである。

 今まで四人で共に訓練に励み、ランク戦に挑み、B級中位グループの部隊として任務に勤しんできたというのに。

 その最後はなんとも呆気ないものだった。

 

「頑張ったんだけどなあ。というか東さんを逃しただけでも大戦果じゃないか? あの人いなきゃ絶対戦線崩壊してただろ。ベイルアウトしちゃったから知らんけど」

 

 作戦室で一人ふて腐る。

 実際あの伝説とも名高い先輩隊員を救うべく動き、戦ったのだ。結果、敵の攻撃から逃げ切った東は全体の指揮を取って敵を追い詰めたのだから彼のいうことは間違ってはいない。

 

「……頑張ってきたんだけどな」

 

 だが、それは何の慰めにはならなかった。

 首元のペンダントに入れられた写真へと視線を落とす。

 今よりも小さい自分と、大切な家族の姿が映し出されていた。

 その写真を見て、思わず少年の涙腺が僅かに緩む。

 

「また皆いなくなっちまった」

 

 喪失感を抱いたのはこれが3度目(・・・)だ。

 大切な人がまたいなくなってしまった。

 守りたくて、今度こそ大切な身近な人を守りたかったからボーダーに入ったはずなのに。

 また、いなくなってしまった。

 

「……寂しい」

 

 思わず本音が口から溢れ出す。

 部隊が解散となり、もう誰も使う事がない作戦室であるからこそ良かったものの。

 少年——黒崎にとって人には見せられない、あまりにも情けない姿だった。

 

 ボーダー本部所属、元B級12位

 黒崎隊隊長 狙撃手(スナイパー) 黒崎彰吾 17歳

 

 

☆★☆★

 

 

 チームメイトの姿はすでになく。戦う目的もその意義が半ば失われた。

 だが、完全に意志がついえたわけではない。黒崎もかつての仲間に続いてボーダーを去るという事はせず、今日もいつも通りに行われる狙撃手合同訓練へと参加するのだった。

 ——補足&掩蔽訓練。

 参加する狙撃手たちがランダムな位置に転送され、視覚情報のみで90分という時間内に他の隊員を見つけて撃つという訓練。

 隠れながら敵を見つけ、狙撃をしなければならないため人によって向き不向きが分かれる訓練だ。

 その中で黒崎は飄々とした様子でビルの屋上で横になり、イーグレットの照準器をのぞき込んでいた。

 

(あと4秒くらいか)

 

 狙うのは移動中の狙撃手だ。

 黒木は本来ならば見えない、ビルの壁の内側に見える白いなにかを目にし、その移動速度から敵の経路と到着時間を予測する。

 そして目測通り4秒後に引き金を引いた。

 打ち出された一発の銃弾。

 およそ700メートルかそれに満たないくらいの位置から放たれた銃弾は、並び立つマンションの階段近くの窓へと一直線に突き進む。

 

「うおっ!?」

 

 そして命中。

 銃弾はちょうど階段を下り始めようとしていた鈴鳴の別役の頭部に当たり、命中を知らせるマークが表示される。

 

「ええっ! ビルの陰になってたのに、まさか黒崎先輩!?」

「悪いね、太一」

 

 噂の副作用(サイドエフェクト)の力を思い出し、別役の表情が驚愕に染まった。

 一方の黒崎は目的を達した以上、ここに長居は無用。

 新たな敵に補足される前に狙撃ポイントを移ろうと駆け出したのだった。

 この後当真に撃たれた。

 

 

☆★☆★

 

 

「うーむ。やはり5位の壁が厚いな」

 

 訓練を終え、黒崎はボーダー本部の廊下を歩きながら訓練の様子を振り返っていた。

 今日の訓練の結果は6位。これまでの訓練の中で最高記録と同位を記録したが、ベスト5に入るには至らない。

 

(これでもまだユズルとか手を抜いているって言うんだから底が知れねえな。我が弟弟子ながら、相変わらず頼もしいというかなんというか)

 

 決して悪い順位ではないものの上位の隊員、不参加の正規隊員、そして訓練では本気を出していない戦闘員を知っているからこそこの順位でも満足はできなかった。

 

「……ま、そっちは追々どうにかするとして。久々に個人戦でもやっていくかな。部隊はすぐに何とかできる事じゃない。そうしよう」

 

 いずれにせよ急激な成長が難しい以上は少しずつ努力していくしかない。

 とにかく隊員が去った事でソロになったしまった以上、とりあえず今は腕を磨いていくとしようと黒崎は狙撃手ならば普段は訪れないランク戦ブースへと向かうのだった。

 

「うん? ——おい黒崎ィ!」

 

 そしてその途中。

 空気が張り裂けんばかりの叫びで名前を呼ばれる。

 聞き覚えのある声、その口調。

 自然と黒崎の背筋がピンと伸びた。

 

「ッス! 弓場さん、お疲れ様です!」

「おう、久しぶりだな。元気そうじゃねえかぁ」

「はい。おかげさまで! 師匠も変わらぬ調子で何よりです!」

 

 体育会系のノリですぐさま頭を下げ、挨拶する黒崎。

 弟子のきびきびとした行動に弓場は満足そうに笑みを浮かべるのだった。

 ツーブロックリーゼントにエッジの効いた眼鏡とヤンキーを彷彿させる強面の男性は弓場拓磨。

 黒崎にとっては彼が狙撃手トリガーとは別に組み込んでいる銃手トリガーの師匠である。

 

「今日は狙撃手訓練じゃないのか? もう終わったのか?」

 

 さらにもう一人、弓場の隣で談笑していた男性隊員が人懐っこい笑顔で黒崎へ声をかけた。

 

「ッス! 柿崎先輩もお久しぶりッス! 先週のバスケ以来っスか? はい、先ほど終わったので今日は少し個人ランク戦でもやって行こうかと!」

 

 明るい髪色の短髪と柿色のジャージが特徴的な男性は柿崎国治。

 体育系である黒崎とはしばしば時間がある時にバスケをしたりとオフの日でも交流が深い先輩隊員だ。

 彼の説明に柿崎は「なるほどな」と頷く。

 狙撃手は合同訓練以外は基本的に自由の身だ。個人ランク戦は基本的に参加しないものの、彼や荒船のように少々特殊な隊員はしばしばブースでも目にする。

 

「やっぱりな。——良かった」

 

 だからこそ、柿崎は黒崎のいつもと変わらぬ様子に安堵した。

 

「……そうかァ。なら丁度良い。俺も少し肩慣らしをしようと考えていたところだ」

 

 彼の元気な発言に弓場も機嫌を良くしてパキパキと首を鳴らす。

 

「ブースに入れや黒崎ィ。久しぶりに手合わせしてやるぜ」

「ッス! 師匠も大規模侵攻では出番なかったッスからね! お願いします!」

「言うじゃねえかァ」

 

 無自覚なのだろうか、師匠を煽るような黒崎の発言に弓場も当てられ語気を強めた。

 明るくもどこか様子のおかしい師弟の対立に、柿崎は額に手を当てため息を吐く。

 

(始まった。この二人のランク戦は何というか。……世界観が壊れるんだよなあ)

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