ボッチになっちゃったけど頼れる先輩に誘われたので頑張ろうと思います 作:柿崎隊を勝たせたい
個人ランク戦の戦いの場となった市街地。
もちろんトリオンによって再現された街並みであるため本物ではない。しかしながらボーダーの高い技術によって作られた映像は作り物とは思えないほど精巧なものだった。
高低様々な建物がそびえたち、太陽の日差しが降り注ぐ平和な街並み。
この街に広がる道路の一角に弓場と黒崎、二人の戦闘員が転送された。
「いつも通り十本勝負だ。気ィ抜くんじゃねえぞ黒崎ィ!」
「気を抜く暇も与えてくれないでしょ」
仮想空間に降り立ち、他愛のない会話を交え、さっそく戦いの幕が切っておろされる。
「ランク戦10本勝負。開始!」
開始の合図と時を同じくして、両者は同時に動き出した。
まさに刹那の攻防。
目で追う事さえ困難なほどの早業。
弓場は始まるや否やメインとサブ両方のトリガーに設定した拳銃のアステロイドを手に取るや黒崎へ向け、そのまま速射する。射程と弾数を犠牲にし、威力と弾速に特化した6発×2丁、12個の弾丸が黒崎へ狙いを定めた。
対する黒崎はサブトリガーに入れている拳銃のアステロイドをつかむと同時に横っ飛び。師匠の弓場と全く同じ拳銃のアステロイド6発を打ち出した。
弓場の放った弾は最初の二発目までは黒崎が最初に立っていた場所を通過するにとどまり、
「チッ!」
そして5発目を打ち出したと同時に、弓場の両手を凄まじい衝撃が襲う。
攻撃の正体は黒崎のアステロイド。
黒崎の放った銃弾は1発は外れ、二発は弓場の弾と相殺し、さらに二発が弓場の拳銃を撃ち抜き、最後の一発が弓場の脇腹を貫いていた。
短い距離とはいえ、もう一人の師匠から教わった武器を的確に撃ち抜く技量。
それを回避行動にでながら、この短い時間の中で実行した。
武器を失ってしまった弓場。黒崎はリロードし、もう一度トリガーを起動するだけで勝利できる。
「——いやー、速すぎますって。ホント」
もっとも、それは黒崎が戦闘継続できればの話。
黒崎の体には弓場の攻撃によって4つの大きな風穴が形成されていた。
「ハッ。俺相手に早打ち勝負で勝つなんて甘ェんだよ」
「残念。でも、このままではいかないッス」
『戦闘隊活動限界。緊急脱出』
得意げに笑う弓場に、黒崎も強がりを言う。
こうして一本目の勝負は弓場に軍配があがった。
だがまだ二人の勝負は始まったばかり。再び一瞬を争う攻防が繰り広げられようとしていた。
☆★☆★
10本勝負が終了。
ランク戦が終わると二人はラウンジへと場所を移し、飲み物で乾いた喉を潤しつつ戦いを振り帰り始めた。
「いつも通りの調子で安心したぜ黒崎ィ。俺も良い肩慣らしになった」
「弓場さんもさすがの腕で。ですが、次は勝ち越せるように頑張ります!」
「やってみろや。やれるもんならなァ」
結果は黒崎の2勝8敗で負け越し。
師匠相手に大差で敗北を喫した。
とはいえ戦いなれた相手と会って終わった後も二人の声の調子は変わらず。
挑戦を続ける弟子に師匠はいつでも受け付けると余裕を崩さなかった。
「お前らの戦いはいつ見てもすごいよな。まるで西部劇みたいだ」
そんな二人の対戦を見ていた柿崎は冷や汗を頬に浮かべてつぶやく。
柿崎の意見も無理はなかった。
二人の勝負は極めて単純。お互いの銃手トリガーによる早打ち勝負だ。両者とも威力が高いトリガーでありシールドで防ぐ事も難しいため勝負が長引く事はなく、決着はあっという間でつく。
事実、この戦いも10本勝負でありながら4分もたたずにランク戦は終わりを迎えた。カップラーメンもビックリの速さである。
「たりめェだ。一瞬で決まるからこそ集中力も増すってもんだ。ヤワな戦いしようもんなら即座に撃ち抜いてやる」
「でも普通に戦っても撃ち抜くような…」
「弓場についていけるんだから黒崎も大したもんだよ」
同級生の厳しい発言が飛び出すと柿崎は同情心を覚えて黒崎を見た。
弓場は個性豊かな19歳組の中でも一際戦闘に特化した隊員だ。
自他に厳しく半端な覚悟で勝負に臨む事はできない。
そんな相手にここまで平気でついてくるのは並大抵の事ではないだろう。
「そうでもないですよ。だって——面白いじゃないですか」
だが黒崎は柿崎の発言に『当然だ』と笑った。
「弓場さんじゃないですけど、一秒も気を抜けないですからね。こういう張り詰めた空気、って言うんですか? それがまた、面白いッス」
高校生という多感な時期。
しかも彼は特殊な事情で満足に環境を選べない時期があった。
そんな黒崎にとってはこういう緊迫した戦いは丁度良かったのかもしれない。
「それに……」
「ん?」
すると黒崎は一度言葉を区切ると、少し寂し気な表情を浮かべて話を続けた。
「余計な事を考える暇もなくなりますからね」
——余計な事。
その単語に弓場と柿崎もピクリと眉を動かす。
年長者だけあって二人ともこういった変化には機敏であった。
「……黒崎ィ。お前ェ、悩み事か?」
「俺達で良ければ相談に乗るぞ」
知らぬ仲でもない。すぐさま黒崎の心のうちを軽くできればと声をかける弓場と柿崎。
「大丈夫ですよ。それじゃ、これ以上個人ポイントを減らすわけにもいかないですし俺は戻ろうと思います。お二人ともお疲れ様でした! 先に失礼します!」
しかし黒崎は何も問題はないのだと二人の誘いを断り、大きく頭を下げてその場を後にした。
ゆっくりな足取りからは特に悩みや逃げる様子といった感情は感じられない。
とはいえ、遠ざかる背中からはどこか彼の迷いが浮かび上がっているように二人は感じた。
「——部隊の事か」
「だろうな」
弓場の発言に柿崎も頷く。
あの場では追及しなかったが二人とも考えている事は同じだった。
「チッ。あのバカ。そりゃ隊員が全員いなくなりゃァ色々考えるだろうが。俺にまで隠しやがって」
「仕方ない。次の部隊ランク戦も近い。そんな中で下手な発言は出来ないと思ったんだろう」
B級の部隊はシーズンごとに部隊ランク戦という各部隊が順位を競うランク戦に参加する。
次の部隊ランク戦はもうすぐそこまで迫っていた。
隊員は増やせばよいというわけではない。入ったばかりの隊員は連携も取りにくく落とされやすいと言われており、どのような戦力の隊員でも例外ではなかった。
「……まァ、確かにな。あいつは戦力としては申し分ねェが、弓場隊もようやく神田のいない状況に慣れつつある中、神田とタイプが違うあいつが入るってのは、支障が出かねねェ」
特に弓場隊は昨シーズンまで所属していた隊員が一人脱退し、ようやく残った隊員内での連携に見込みがついてきた時期だ。
そんな中で新しくスタイルが異なる隊員が加わるとなれば不協和音になりかねない。
タイミングが悪かった。新たに隊員を募ったとしても次の部隊ランク戦にはおそらく間に合わないだろう。
ならば次のランク戦、黒崎は参加することなく、シーズンを終えるのか。
部隊に所属しないソロの隊員として。
それは彼の実力を、環境を考慮しても。あまりにも惜しい話だった。
「——よしっ。明日、ちょっと話を聞いてみるか」
ここは年上として一肌脱ごう。
柿崎は自分のスマホを取り出すとメッセージアプリを起動し、一つのトークグループにメッセージを残すのだった。