魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道   作:クラッチペダル

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ようやく折り返し地点あたりまで来たというところです。


18 僅かでも、肩を並べて

毎日の日課である洗濯物干しを行いながら、その合間にセナは苦々しい表情で自身の腕を見下ろす。

視界に映っている腕は、セナの思うとおりに拳を握り、開くことが出来る。

そんな当たり前の様子を確認しても、セナの表情は晴れなかった。

その原因は先日の自身の失態だった。

 

第三者から見れば、あれは果たして失態と呼べるのかは定かではない。

しかし、なのはが戦っている最中にセナが気絶し、しばらく目を覚まさなかったことは事実。

自身の主が必死に戦っていたというのに、自分は気絶し、あまつさえ主を泣かせてしまった事は、セナにとっては間違いなく失態、それも大失態であった。

 

「……あの時、いったい私に何が起こったでありますか……?」

 

気絶する直前に感じたものは、まるで身体の心まで染み込むように広がっていく何か。

そのなんと称すれば言いか分からない何かが身体に広がりきったとたん、まるでブレーカーが落ちたかのように彼女の意識も落ちたのだ。

いったい、あの時自分の身体に何が起こったというのか。

考えたところで、分かるはずも無い。

だからこそ、セナは気味悪く感じる。

自分の身体が、どこかおかしくなってしまったかのように今でも感じてしまう。

なぜそうなったのかと言う原因が不明なこともあり、不安なのだ。

 

故に、数分おきに自身の身体が思い通りに動くのかを確認して、何とか心の平静を保っている。

それは、一種の自己暗示に似た何か。

今セナは、間違いなく恐怖していた。

 

表情もいつもより固く、口数も少ない。

普段明るいセナがそこまで暗くなっているということで、必然的に高町家全体の空気が暗く淀んだ物となってしまっていることに、セナは気づいていなかった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「……と言うわけで、どうにもセナさんが落ち込んでるみたいで、なんだかお家の雰囲気が淀んでたりするのですよ」

「それをあんたは悩んでたわけね」

「なのはちゃん、セナさん大好きだから」

 

放課後。

どうにも上の空な対応しかしてこないなのはに業を煮やしたアリサが、帰宅の時を狙ってなのはを問い詰めると飛び出してきたのが先ほどのなのはの言葉だった。

 

それに対し、上の空な対応しかしてこないなのはにご立腹だったアリサも怒りの炎を鎮火させる。

なのはがことセナの事に関して異常に悩むのは今に始まったことではないからだ。

 

だが相談された内容は今までになかった内容。

なのはがどうこうという話ではなく、セナが落ち込んでいるという内容。

今まで、セナがそのような状況になったことが果たしてあっただろうか?

少なくとも、アリサもすずかも、たまに遊びに来る彼女が落ち込んでいる様子など見たことがないし、逆にアリサ達が遊びに行ったときにも見たときがない。

それに、恐らくなのはのことだ。

今までにセナが落ち込んだことがあればそのことで相談してくるか、今日みたいな露骨に分かりやすい態度をとるはずだが、そういった様子も今までにない。

つまり今までで始めての状況。

 

はてさてどうアドバイスしたものか、と頭を捻るアリサたち。

頭を捻り、悩みに悩んで……どうすればいいのか皆目思いつかなかった。

 

「ああもう! いっそ真正面からガツンと言って解決できたら楽でしょうに!」

「アリサちゃん、そんな思考停止な意見はさすがに……」

「それだ!!」

 

思わず身体を仰け反らせるアリサとすずか。

声が飛んできた方向を見ると、そこには瞳をきらめかせるなのはの姿が。

 

「な、なのは?」

「そっか、悩んじゃってたけど、そういうシンプルな解決方法もアリだね!!」

「自分で言っといてあれだけど、えぇ……」

「ま、まぁいいんじゃないかな? 本人はなんだか乗り気というかなんと言うかだし……」

 

結末がどうなるかはさておき、なのはの悩み事は、少なくとも現時点ではあっさり解決した。

 

「こうしちゃいられない! と言うわけで私はセナさんにガツンと言ってくるね!」

 

膳は急げとなのははアリサ達を置いてさっさと自宅へ走り去ってしまう。

あまりに急激な事態の進行にアリサ達も置いてけぼりを食らうしかない。

なのはが走り去り、やがて二人がようやく事態の進行に追いついたときには当然なのはの姿は何処にもない。

 

「……ふふ、ふふふふ……私の一言のせいだとは重々承知してるわよ? でも、でもね……一人で勝手に納得して勝手に去っていくなこのアホんだらがぁぁぁぁぁぁ!!」

「なのはちゃん、最近運動できるようになって来ちゃったから、バテてるところに追いつくって言うのも今回はできそうにないしねぇ」

 

セナが課したトレーニングは着実に実を結んでいたようだ。

 

 

※ ※ ※

 

 

それを感じたとき、なのはは顔を顰めて思う。

 

「なんとまぁタイミングの悪い石ころなの」

 

要するに、せっかく帰ってセナにいろいろ物申そうと決意した矢先にジュエルシードが発動したということだ。

出足をくじかれる形になったため、いくらなのはであろうと思わず不機嫌になるのは仕方がない。

しかしそれを放って置くわけにも行かないということも事実。

さっそくジュエルシードの反応があるほうへと進行方向を転換しようとし……相棒(レイジングハート)が今手元にないことを思い出す。

 

昨夜のジュエルシードを賭けてのフェイトとの戦いの際、暴走しかけたジュエルシードの魔力をモロに浴びて破損してしまっていたのだ。

そして現在は家の自分の部屋で自己修復の真っ最中。

 

「つくづくいろんなタイミング悪い日だなぁもう!!」

 

出足をくじかれ、さらに二の足もくじかれたような気持ちになり、つい言葉尻もきついものとなる。

ここまでイラつくことは果たして9年と言う人生の中であっただろうか、いや無い。

 

「それもこれも……全部……」

 

再び方向転換し、家へ向かおうとするなのはの視界に、女性……いや、少女が一人映る。

その少女は頭にヘットドレス。

今日もいつものメイド服のセナだった。

肩にはユーノが乗っかっている。

それに気が付いたなのはは……

 

「お嬢様、お待たせしたであr……」

「全部セナさんのせいだばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぶふぉう!?!?」

「ちょ! なのはーーーーーーー!?」

 

ついに弾けた。

具体的にはセナの腹に不意打ち気味のドロップキックを打ち込んだ。

それだけにとどまらず、倒れこんだセナに飛びかかるとそのままセナに追撃をし始めた。

 

「なんだかタイミング悪いときにジュエルシードが見つかるのもあの子に勝てないのも家の空気が淀んでるのもユーノ君がフェレットなのもみんなみんなセナさんのせいだーーー! ばかーーーーー!!」

「おぶふ! おうふ! ま、マウントポジションからの連撃! これが噂の反抗期でありますかぁぁぁぁ!!?」

「二人ともそんな事してる場合じゃないから! ジュエルシードが発動しちゃってるから!!」

 

ユーノの必死の制止により、ようやくなのはも落ち着きを取り戻す。

未だに肩で息をしているが。

セナはと言うとあれほどなのはにボコボコにされたにもかかわらずケロリとした様子で立ち上がり、メイド服の埃を払っていた。

 

「いつつ、いったい何事でありますか、お嬢様」

「何事でありますか、じゃないですよ。朝からずっとくら~い空気を放出してたくせに」

「それは……」

 

なのはのいつになくキツイ口調の言葉に、思わずセナがどもる。

それを見たなにはは一気にまくし立て始めた。

 

「確かにセナさんはあの時気絶しちゃって、気づいたら私が泣いてて、それで自分を責めるのも分かるよ。でもずっとうじうじうじうじしてても何も変わらないよ? セナさんだったらいつもは『次は失敗しないであります』とか言って気持ちを切り替えるよね? なのに今のセナさん、はっきり言って情けないことこの上なし……」

「お、おおう……マウントとってボコボコにされたと思いきや言葉責めで止めを刺された気分……い、いつになく辛らつでありますな」

「いつになくセナさんが暗いせいです」

 

そこまで言ったなのはが、セナの服の裾をきゅっと掴む。

 

「……そんなに悩むくらいだったらいっそ私に相談してよ……いつも私にセナさんそう言ってるよね?」

「…………」

 

セナにとっては耳が痛い話だ。

なにせ、今しがたなのはが言った言葉はなのはの言うとおり、セナがなのはに向かって今まで何度もいったことがあった台詞だからだ。

 

「私、今までセナさんに一杯助けられた。だから、もしセナさんが悩んでるんなら、苦しんでるなら助けてあげたい。出来ること、そんなにないかもだけど……」

 

言葉が進むにつれ俯くなのはを、セナはしばらく見下ろす。

そして、軽くため息をつくとなのはの頭に手を載せた。

 

「あ……」

「これはこれは、まさか私が説教される立場になるとは予想外でありました。成長なさっておりますな、お嬢様は」

 

そこまで言うと、なのはの頭から手をどけ、セナは両手で自身の頬を張った。

肌を思い切りひっぱたいた、小気味のいい音が響く。

 

「……っし! 心機一転であります。そうでありますな。うじうじうじうじと、自分らしくないことこの上なかったでありますよ」

 

しばらく痛みに俯いていたセナは、しかし顔を再び上げたときにはいつもどおりの表情に戻っていた。

いや、いつも異常に気合がみなぎっているかもしれない。

 

「いやはや、まだまだ学ぶべきことは多いでありますな。自分の未熟さを反省反省。……申し訳なかったであります、そしてもう大丈夫でありますよ、お嬢様」

「……うん、やっぱり今みたいなセナさんの方がいいな、私は」

 

その言葉に、互いに笑い合う。

セナの肩に乗っているユーノも、いつもの様子を取り戻したセナを見て安堵のため息をつく。

そして二人が笑い終わったタイミングを見計らってなのはに声をかける。

 

「そうだなのは、レイジングハート、自己修復が終わったよ」

「おお、ナイスタイミングなの」

 

ユーノの首にかかっているレイジングハートが、ひとりでに浮き上がり、なのはの掌に着地する。

そしていつもどおり点滅しながら音声を発した。

 

『Recovery complete』

「……また一緒に戦ってくれる?」

『All right, my master』

「ありがとう、レイジングハート……行こう、皆!」

 

なのはの言葉に、全員が肯定の言葉を返した。

 

 

※ ※ ※

 

 

一方発動したジュエルシードはと言うと、既に暴走体となってフェイトと戦っていた。

暴走体の姿は巨木。

しかし、意思を持ってその枝や根をまるで鞭のように振るうそれはただの樹木であるはずがない。

そんな暴走体と相対しているフェイトは、彼女にしては珍しく苦戦していた。

 

「フェイト! 行けそうかい!?」

「だめだ、あのバリア、結構固い……」

 

フェイトが忌々しげに暴走体を見やる。

よく見ると、暴走体を包み込むような球体が発生しており、その球体がフェイトやアルフの攻撃を防いでいるのだ。

 

「めんどくさい奴だね! 近づければあんなバリアちょちょいとぶっ壊してやるんだけどね!」

 

アルフも忌々しげに暴走体を睨みつける。

確かに彼女の言うとおり、近づきさえすればアルフはあの程度の障壁なら破壊可能だ。

しかし、鞭のように振るわれる樹木の枝や根がそれを阻む。

樹木と言うことで枝や根も多くあり、それらが縦横無尽に振るわれることによってアルフは暴走体の懐にもぐりこめないのだ。

不用意にもぐりこもうとすれば、手痛い反撃を食らうであろう。

 

「いったいどうしたら……っ!」

「フェイト?」

 

言葉を途切れさせ、様子を変えたフェイトに、アルフが疑問の声を投げかける。

しかしフェイトはアルフの言葉には答えず、ただ単にまっすぐ暴走体を見つめていた。

 

「……来た」

 

いや、フェイトの視線は暴走体のその先。

暴走体を挟んだ丁度向こうに向けられていた。

見つめる方向から飛んできたのは、桜色の光を放つ魔力スフィア。

そしてそのスフィアの後ろを離れずにこちらに向かって駆けてきている人影。

 

「今の私は気合十分! 切り込み、行っきまーす、でありますよ!」

 

桜色のスフィアは不規則な軌道を描きながら、しかしセナの少し前を進む。

そして、セナの進路上にある枝や根の鞭に体当たりし、その軌道をセナからそらす。

それでもいくらかはそらしきれずにセナへと向かうが、セナはそれらを避ける、避ける、避ける、真正面から受け止める。

 

「受け止めたぁ!?」

「ふんぬ!!」

 

ついでに受け止めたそれをへし折り、それの巨大さを生かして武器として振り回し始める。

あまりに非常識な光景に、おもわずフェイトもアルフも開いた口がふさがらない。

一方折った枝を振り回しているセナはと言うと。

 

「ノッてきたでありますよ! おら、どんどんかかってこいやぁ!!」

 

あまりのテンションの上昇具合ゆえか、キャラが崩壊していた。

今朝の様子が幻だったのではないかといいたくなるほど、生き生きとしている。

 

「あはは、セナさん、いつになく気合入ってるよね」

「君は……」

 

そんな様子を見ているフェイト達の近くに、バリアジャケットを展開したなのはが降り立つ。

すぐさま戦闘態勢をとる二人だが、それを見たなのはは慌てて口を開く。

 

「ちょっ、ストップストップ! 今はジュエルシードを封印するほうが先だよ!」

「…………」

 

なのはの言葉に、しばらく考え込むフェイト。

そんなフェイトに、なのはは言葉を続ける。

 

「確かに私はジュエルシードを集めてて、あなたも集めてる。けどジュエルシードを手に入れるにはまず封印しなきゃ。どっちが手に入れるかを決めるのは、それからでも遅くないと思うんだ。それまでは協力しよう?」

「フェイト、聞き入れる必要はないよ」

「……分かった、封印するまでは協力」

「フェイト!?」

「あ、あなたってフェイトちゃんって言うんだ。私は高町なのは。よろしくね?」

 

場にそぐわない雰囲気で、なのははフェイトに自己紹介する。

それに対し、フェイトは特に何も反応を返さず、バルディッシュを握りなおし、暴走体へと向き直る。

まだセナが枝を振り回していた。

 

「二人でせーので、一緒にやろう?」

「あの人が巻き込まれるかもしれない」

「あ、大丈夫大丈夫。セナさんはこっちが言わなくても勝手に避けてくれるから」

 

それは、セナをぞんざいに扱っている故の言葉ではなく、心から信頼の信頼とほんの少々の呆れからでた言葉。

それを聞いたフェイトは、ぽつりと呟く。

 

「……信じてるんだね、あの人の事」

「当然! だってセナさんは私の自慢のメイドだもん!」

「……そっか」

 

フェイトの何か遠い場所を見つめるかのように目を細める。

しかしそれも一瞬の事。

すぐさま表情を戻すと、バルディッシュを変形させる。

丸い刃が普段ある場所からコアを軸とし180度回転し、コアの根元からは金色の魔力で構成だれた3枚の羽が現れた。

それを見たなのはもレイジングハートをカノンモードへと変形させ、その先端を暴走体へと向ける。

 

「本当にあの人はあのままでいいの?」

「大丈夫。それじゃ、いくよ! せーの! ディバイン……」

「スパーク……」

「バスター!!」「スマッシャー!!」

 

二人の声が響くと同時に、各々のデバイスからは各々の魔力光の色に輝く砲撃が放たれる。

砲撃が放たれる瞬間、なのはの言うとおりセナはその場から飛びのいており安全圏に着地している。

そして、二つの砲撃が暴走体を守る障壁にぶつかった。

砲撃と障壁は、互いに互いを押し切ろうとせめぎあうが、やがて砲撃に押され、ついにはガラスが割れたような音を発して崩れ去った。

そうなれば、暴走体の身を守る物は何もなく、それはつまり砲撃を遮るものは何もないと言うこと。

砲撃は障壁を砕いた後もその勢いを減退させることなく、暴走体を飲み込んだ。

 

やがて、光の奔流が消え去った後には、封印されたジュエルシードが残されただけだった。

その様子を見届けたなのはとフェイトは、向かい合い、そして互いに距離をとる。

 

「……協力してくれたことは感謝する。けど、ジュエルシードは渡さない」

「私も、譲れないんだ」

 

そして、レイジングハートとバルディッシュがそれぞれ

己がマスターの敵へと突きつけられる。

 

「どうして集めてるか、やっぱり教えてくれない?」

「教えたら、私に譲ってくれるの?」

「集める理由によるかな?」

「それじゃあ、話した所で意味はないから」

「そう言い切っちゃうの、良くないと思うけどなぁ……」

 

それきり、言葉はない。

セナとアルフは互いに主の邪魔はさせまいと互いを牽制しあっている。

それぞれ近くにいながら、主と主、従者と従者は一対一の状態となっている。

しばらく、両陣営の動きがなくなる。

そして……合図もなく動き出した。

真っ先に動いたのは、なのはとフェイト。

それに数拍遅れる形でセナとアルフが動き出す。

 

そして、振りかぶられたレイジングハートとバルディッシュがぶつかり合うかという瞬間。

 

「ストップだ!!」

 

レイジングハートが突如現れた人影の腕につかまれ、バルディッシュが人影の持つ杖によって受け止められた。

突如現れたその存在に、その場にいる全員の動きが止まり、視線が人影に集中する。

そして、なのはとフェイトの間に現れた人影は、周囲にいるなのは達を見回し、声高らかに宣言した。

 

「時空管理局本局執務官、クロノ・ハラオウンだ! 双方とも、直ちに戦闘行為を中断するんだ!!」




セナの立ち直りが早い?
それがセナだから仕方がないのです。

と言うわけで、クロノ君登場したところで区切り。
クロノ君、個人的には嫌いじゃないんですよね。
と言うわけで次はアースラでリンディさんと話す場面です。

……どうでもいいですがリンディ茶は飲まないほうがいいです、ありゃ飲めたものじゃない。
実際に作って飲んだ筆者の感想です。
おとなしく抹茶ラテを飲みましょう。
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