ローンとの日常   作:澱粉麺

4 / 7
u兵装ローンちゃんの話です。


ローンとアイドルのおはなし

 

 

 

 

u兵装。それは、通常の艤装と異なり、音を使い、音楽を奏で…いわゆる『アイドル活動』をする事により戦う。そんな風変わりな装備だ。

 

…最初に聞いた時は正直、何の冗談かと思った。

 

 

が、1回目のu兵装実地テストは、想像を遥かに上回る高揚効果と戦果とファンを得た。

それに気を良くした我らは第二回のu兵装の作成を行い、再び一部の娘にアイドル活動を行わせる事となった。

 

 

二回目ともなれば困惑にも慣れる。

あまりにも手探りの状態だった前回と違い、結果について心配する必要も無い。

 

私が出来る事は彼女らを信じるのみ。

と、いう口実で、普通に思いっ切りライブを楽しんでしまった。

 

皆過酷な練習を重ねたのだろう、全てのグループも、それぞれ参加した娘たちも、全てが等しく魅力的で熱狂的だった。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

コンサート一日目が終わり。

祭りの後。

後夜祭も終わり、翌日以降の祭りに備えるべくの静かな夜が母港に広がる中で、執務室の明かりだけが明るくついていた。

 

ただ一人、私は椅子に座る。

扉の鍵は開けたままだ。

 

まるで遠足の前の小学生のように落ち着かなく、そわそわと待ち人が来るまでを耐える。

 

 

三回のノックが扉を鳴らす。

その音にびくりと震えながら、身だしなみと体裁を取り繕う。どうせすぐにバレてしまうだろうが、それでも。

 

入ってくれ、の声に喰い気味に扉が開いた。

 

そこにはほんの数時間前まで舞台の上に居た少女が居た。u兵装のみを外し、アイドルの服装だけをそのままに立つ彼女。

 

彼女の名前は、ローン。

開発艦の一人であり、今回のライブに、デュオグループ【Verheerender】の一人として参加したKANSENだ。

 

 

この空間は互いに示し合わした訳では無い。ただ、私は彼女に逢いたいと思い執務室を開け、ローンはそこに来たというだけだ。

 

 

 

「あまり夜更かしはしちゃダメですよ?指揮官」

 

 

そう妖艶に笑う姿から目を離せないままに、生返事を返す。君こそ、とかの、ひどく当たり障りの無い返答だったと思う。

 

呆けている私をどう思ったか、ローンが私の顔の前にずずいと顔を寄せた。その光景が私を正気付かせる。

 

 

 

「どうでしたか?今日のライブは」

 

 

顔をその位置のままにそう問いかけてくる。

きっと、適当な事を言えば怒らせてしまうだろう。嘘やお為ごかしはせずに、素直に思った事を言う。

 

最高だった。皆、最高にかっこよく、かわいかった。素晴らしかったと。

 

その返答を聞いて、彼女はほんの少し不服そうな顔をした。

 

 

 

「…ふふっ、指揮官ならそう言うだろうと思っていました。ですが、欲を言うなら『単推し』してほしかったですね」

 

 

思いもよらない言葉が出てきて、つい吹き出してしまう。随分とらしくない言葉だ。

 

どこでそんな言葉を覚えたんだ?聴くと、何処からでしょうとはぐらかされてしまう。恥ずかしがる事も無いだろうに。

 

 

「やはり、私だけを見る…

と言う事は難しいですか?」

 

 

閑話休題。

やはりと言うべきか、彼女自身は、彼女だけを見て欲しいと思っていたようだ。しかし私が皆全てを平等に素晴らしく思った事は事実だし、皆に目を奪われた事もまた事実。そこに嘘をつく事は、より一層の不義理になってしまう。

 

 

そういった意味の事を伝えてから。

許せない、か?と聞いてみる。

 

 

 

「いいえ。

今は案外そういう気持ちにはなりません」

 

 

 

すると、意外な答えが返ってくる。

嘘や冗談では無い事はその表情でわかる。

 

手を取り目配せをし、話すように促した。

次第に、ゆっくりと語りだす。

 

 

 

「思いの外…いいえ、とても楽しかったんです。アイドルとしてステージの上で歌って、酔わせて、熱狂させる。ステージで輝く事が」

 

 

「気持ちを昂らせたい時は『壊す』のが一番だと思っていました。でも…うふふ、こう云った事も、とても良いものですね」

 

 

 

そう語るローンの眼は、いつものように、爬虫類の眼孔のように細く爛々と光っている。だがいつもとはまた少し違うシンプルな喜びもまた、その眼に宿っている。

本当に、楽しかったのだと。その光が語る。

 

 

「それに。指揮官は私の為に時間を作ってくれていますから。練習の差し入れも、ライブを見に来てくれている時も、今も」

 

 

 

誤解がある。わざわざ時間を作っているのではなく、私がただ、個人的に君に逢いたかっただけだ…そう言い繕う暇は無かった。

 

と、言うよりも。

私の口をその指で封をされたのだ。

人差し指で、ぴとりと。

 

「そういう事は、言わなくていいんです」と。

そしてまた、ローンが言う。

 

 

 

「きっと、そうですね。

ライブでも、今も。アイドルとしての私が指揮官の時間を…命を使い潰している。そういう気分だからでしょうか」

 

 

 

彼女は空を見つめるようにして、そう呟く。

その言葉を聞いてつい笑ってしまった。

 

 

敢えて物騒な言葉にする事もないだろう、と、その笑いのままに言う。

『私の為に時間を作ってくれて嬉しい』

『逢いに来てくれて嬉しい』などでもいいではないか、と。

 

 

 

すると、ローンは怪訝そうに眉根を顰める。

物騒な…?

と、キョトンときた顔をしている。

 

なるほど、敢えて怖い言葉にした…という事では無く、それが素であったのだろう。苦笑が首をもたげる。

 

 

ああ、いや。きっと違うのだ。

彼女は、開発艦たちはひどく無垢だ。

その肢体に、KANSENの実力に、あまりにも不釣り合いなくらいに。

 

だから彼女達のこの感情は、本心にとても近しく、そのままであるのに。私は無意識にそれを偽り、詭弁を弄する事を教えてしまった。

 

嗚呼。貴様に彼女の感情と言葉を否定する権利があるのか。何を笑っているのだ。

己を罰するようにそう思う。

 

 

だがそんな思いは、ローンのたった一言に払われた。

 

 

 

「でも、そうですね…

『逢いに来てくれて嬉しい』…

その言葉も、とっても素敵ですね」

 

 

 

ローンが、笑ってそう言ったのだ。その笑みはいつものような妖艶な笑みではなかった。慈しむような笑みでも。

 

子供のように、無邪気に笑っていた。

 

 

私はその姿に目を奪われる。

見た事の無い、新たな彼女。

殺戮の愉悦でも、慈悲の寛雅でもない。

無垢が前面に出たような姿。

 

 

その姿に、すっかり見惚れた。

 

 

好きだ。

そんな言葉が、漏れ出てしまったのだろう。

呆れた顔が此方を向いていた。

 

 

 

「…指揮官。今の私はアイドルですよ〜?そんな言葉を言ってしまってもいいんですか?」

 

 

構わない。

それでも、気持ちを抑えきれない。

 

 

 

「…あらあら」

 

 

そう、困惑する姿。顔を赤らめ、どうしようかと悩むような姿。照れる姿。

 

今まで、見た事の無いような姿。

また新たな君だ。

 

 

ある一つの側面をわかったと思えば、また別の君が姿を表す。

それがわかったと思えば、また別の君が。

 

 

ローンという存在が、わからない。

だからこそ、君を知る度に好きになっていく。君について知るにつれて、君がわからなくなる。わからなくなるにつれて、様々な君を、全ての君を好きになっていく。

 

君の事が理解できない。

私たちは同じ存在などでは到底無い。だからこそ、知り合い、触れ合う事をこうまで嬉しく思えるのだ。

 

今日もきっと、君を好きになる。

明日も、今日よりずっと。

 

 

 

「……ふふ」

 

 

ぎゅっと、抱擁をされる。ぎちぎちと音がしそうなくらい、強烈な抱擁。痛みすら感じるそれに抱きしめ返す。

 

 

「本当に、本当に…

指揮官は美しいですね…」

 

 

うっとりと此方を眺める眼は、昏い悦びに塗れている。力が増していく。骨格が軋むようだった。息が出来なくなる。

 

この抱擁こそ、先の返答だ。

 

 

アイドルが、ファンを裏切る訳にもいかないんじゃないのか?なけなしの理性が、そんな思っても無い言葉を発する。

 

 

するとローンはまた、にっこりと笑みを浮かべた。その笑みは、いつものように獰猛でありながら、いたずらっ子のようでもあった。

 

 

 

「…う〜ん。さっき、少し考え直して見たんですが。偶像(アイドル)は皆から見られているからこそ偶像(アイドル)なんです」

 

「だから、指揮官?

今、この夜に、貴方しか見ていない私は…」

 

 

 

ただの、ローンです。

 

 

 

 

その一言を最後に、理性は暗転した。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

「『美しいのに、壊すのが勿体ないもの』…

ライブがこんなに素晴らしいものだったなんて初めて知りました」

 

 

「…私、もっとステージの上で輝いて指揮官の時間を奪っちゃいたい……」

 

 

「尽きるまで、です♪フフフ…」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。