ローンとの日常   作:澱粉麺

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SPシナリオを膝に受けてしまいました。
読んでない人は全人類読みましょう。


ローンと犬のおはなし

 

 

 

 

この母港に新しい子が来ました。その子は重桜の駆逐艦の子で、唯一の型艦であるのだと聞いた。それに対し、少し興味を抱く。

 

同情だとか、そういうのではなく。ただ、少しだけ気になった。私の、私たち計画艦に少し似ているが、ある意味ではまるで違う。それぞれの艦の歴史が皆々違うのは当然ではあるけれど、唯一の一人の存在で、それがそのまま産まれているというのはどういう気分なのか。それを受け入れてる子はどういう子なのか。

 

 

今は執務室で指揮官と話しているらしい。

その様子を隠れて見ていました。

 

ふんふん、と頷きながら見る。

快活な子ども、というのが率直な感想。

 

 

 

「…ローン?

どうしてそんな所にいるんだ?」

 

 

あら、見つかってしまいました。

結局隠れて偵察するのはやめて、横から彼女の様子を見ることに。

 

 

…暫くの話の後に、彼女は退室する。

とても明るく、良い子だと言うことが伝わってきて、ついついにこりと微笑ましい気分になってしまいます。

 

横にいる指揮官も大体同じような気持ちだったみたいで、静かに微笑んでいました。

 

そんな彼に、島風ちゃんはどうか。

聞いてみた。それは人柄というよりは、その性能であったりを聞いた質問。

 

 

 

「うん、すごいね。最新鋭を名乗るだけはある。駆逐艦離れした…というよりも駆逐艦そのまのの性能を更に底上げしたような。そんな子だ」

 

 

「…正直、真面目すぎるというか、いい子すぎて猪突猛進気味なのが気になるけれど…それを踏まえてもあの子の実力は凄まじいものがあると思うよ」

 

 

 

ああ、そうして、楽しそうな顔をしてるのはとても喜ばしい事です。母港に新たな風も吹くでしょう。その性能は、多くの敵を斃すでしょう。そしてまた、貴方の負担を軽減してくれる。

 

私がどうしても手伝えない分野であったり、私では出来ない役割を彼女が果たしてくれるならば、それは私にとっても喜ばしいことだ。

 

 

そう思いながら、彼の横に近づく。

すすっと、横に寄る。

 

 

解っている。わたしにはどうしても軽減できない苦しみも、苦労もあるという事。その為に私たちは皆で助けあうのだ。

 

それでも、貴方の負担を一番背負ってあげられるのは私であって欲しいのに。

それが、ほんの少しでも揺らぐ様に感じると、ついこうして不安な気持ちになる。

彼は私を唯一の「ローン」として見てくれているのに、当の私にはいつか代わりに代わられてしまうのではないかという想いがある。そして、それを考えてしまうたびに内側から、黒いものが溢れて出てくるような感覚に囚われる。

 

 

指揮官の横に座って、彼の肩に頭を乗せる。少しだけ重みを預け、すりすりと擦り付ける。この距離を取れるのは私だけなのだと、誰にでもなく自分に知らしめる為に。

 

指揮官はそうした私を、最初にきょとんとした目でみつめて。そうしてからにっこりと笑ってから、為されるがままに力を抜いてしまいました。全く、本当は私がリードして欲しかったのに。

 

 

そう思っていると。

藪から棒に指揮官が呼びかけてきた。

 

 

「ローンはさ。

大型犬っぽいって言われた事ないか?」

 

 

「…犬、ですか?」

 

 

「気を悪くしたらすまない。ただ、侮辱とかの意図じゃなく、所作というか…」

 

「甘え方がな。ふと似てるように思った」

 

 

犬。犬ですか。

犬は私も好きだ。従順で、人懐こくて、強く、そして何よりも可愛らしい。嫌いになる方が難しいですね。ただそれでも、それに「似ている」と言われるのはあまりにも想定外で。

 

似ている、似ている?うーん、自覚はあまり無いですが…ただ少しでも思われるような所はあったのでしょう。恐らく。

 

 

「う〜ん…狂犬って言われる事はありますけど。そういう風な喩えはされないですね」

 

 

ひとまず、私はそういった比喩はされた事が無いという事を伝えました。指揮官は困った様に眉根を顰めて苦笑いをする。

 

 

「狂犬なんて酷いな。誰が言ったんだい?」

 

 

「海の塵が、そう言っていました」

 

 

答えると、ああ、成る程と得心のいったようなリアクション。何より、母港にそう言った者が居ないということに安心している様だった。

 

 

「なるほど、セイレーン達か…

ふふ、確かに彼女らにとってみれば、君は狂った犬よりも余程恐ろしい存在だろうな」

 

 

「ねえ、指揮官?」

 

 

「うん?」

 

 

「指揮官も、私が狂っていると思いますか?」

 

 

「うん」

 

 

答えは、迅速だった。

てっきり、指揮官は否定をしてくれるお思っていたので、あらと意外な気持ちになった。答えはそこで終わりでは無く、まだ続く。

 

 

「…何か狂う、ということは、多かれ少なかれあるものだ。キミのように戦いに狂う人も居れば、国に狂う者もいる。中にはそれを信仰と呼ぶものもあるだろうけど」

 

 

じいと、私の瞳を見ながら彼はそう語る。

彼の温厚そうな瞳の、その奥にある光は私の眼が反射した光か、それとも。

 

 

 

「へえ…

…指揮官が、私に狂ってるように、ですか?」

 

 

彼の瞳に、口が歪んだ私自身が映る。

微笑むつもりは無かったのに、自然と身体が笑ってしまう。この後に来る悦楽を予測して。

 

 

「そんな事は…

いや、否定はできない」

 

 

「うふふ、冗談ですよ。

…でも、否定しないでくれるんですね?

 

 

ああ、やはり否定しない。私に狂ってくれているのだ。私を信じていてくれている。

予想していた悦楽は、それ以上の喜びとなって私を襲う。逃れ得ないほどに。元から逃れる意味も意思もないけれど。

 

 

「…なんだか、安心します。

私は、指揮官の助けになれているんですね」

 

 

「?何を当たり前の事を」

 

 

「ふふっ」

 

 

 

彼自身が先程言っていた事だ。狂うとは、信仰の一形態であるのだと。

それが間違っているかもしれない。彼の歪んだ頭が作った歪んだ思想であるかもしれない。

 

でも、其れが世界の真実である必要はない。彼がそう思っているのならば、これが彼の思考ならば、私にとっての真実もそれになるのだから。

 

彼が言っていた通り狂奔が一種の信仰であるというのならば、彼はきっと、私を信仰してくれているのだ。

 

そして信仰の対象になっているということは、彼が戦い続ける心の支えであり、理由になっているという事だ。神を信じ、神を讃え、神に認められるべく生きている人のように、信仰の犬と成るように。

信仰は生きる意味となり得るのだから。

 

 

あくまでそれは例え話であって、信仰なんてただの出まかせであるかもしれない。犬みたいだという喩えが彼の認識であるかもしれない。それなら、それでいい。

 

犬、ペットのように思われるでも。

狂源、信仰されるでも。

私は、彼の両肩に負われているものの助けになる事が出来るなら、どちらでもいい。

彼は私の全てを受け入れてくれるのだから。

 

 

 

でもね、指揮官。

 

 

 

 

「ねえ、指揮官。

今日のご飯は何が良いですか?」

 

 

「おお、それなら重桜式の物でいいかな。

島風と話している内に食べたくなってね。

…えっと、作れるかな?」

 

 

「ええ。ちゃあんと、教えてもらってますよ。

貴方の助けになるために」

 

 

 

 

 

犬の中には。

夫婦の間に生まれた赤ん坊を嫉妬のあまり噛み殺すような子もいるらしいですよ。

 

 

 

「指揮官。私、貴方を愛していますよ。

その、骨の髄に至るまでです」

 

 

 

貴方が私を犬のようだと思うならば、そうならないようにしっかりと『躾け』ておいてくださいね。しっかりとリードを持っていてくださいね。

 

絶対に、この薬指に付いた鈍色の首輪を。

裏切らないで下さいね。

 

ねえ、指揮官?

約束ですよ。

 

 

 

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