「オエェ……あいつらいきなりこんな……いつか泣かしてやる……」
上に落ちるとかいう一生体験しねぇだろう出来事に見舞われて、俺はものすごく気分が悪くなっていた。内臓が全部上に引っ張り上げられる感覚だぞ? 気色わりぃんだよ。
なんの断りもなく俺をこんな目に遭わせたジジィと若造……北斗と南斗とか言ったか。アイツらいつかブン殴ってやる。神だとかなんだとか関係ねぇ。
「……んで、ここはどこだ」
俺が落ちてきたのは、どうやらどっかの政庁みてぇだ。アイツら転生だなんだと頭のおかしな事ばっか言ってたが、あン時と違って脚もしっかりあるし、戯言でもねぇみてぇだな……
とりあえず何もわからんじゃ話が進まねぇ。適当に歩いてみるか。
ここがどこだか調べるためにうろついてると、それなりにしっかりした兜鎧姿の男が歩いているのを見つけた。
後ろ姿だからハッキリとは分からんが、随分と鍛えているカラダをしてるみてぇだな。アイツも俺と同じで、あの2人組に放り込まれたどこぞの名のある将軍かもしれねぇ。
とりあえず声でもかけてみるか。
「ふぅむ。随分とまぁ懐かしいところに飛ばされたのぅ」
「おいそこの兄ちゃん。ちょっといいか」
「? なんじゃい、ワシ以外にも誰ぞおったか」
「ここがどこだかアンタ分かるか……って、ンンン?」
なんか見た目にそぐわねぇジジィみてぇな話し方する奴だと思ったが……なんかコイツの雰囲気に覚えあるぞ?
割と最近……死んでからどんだけ経ってるか分かんねぇから最近ってのもアレだが、ともかく俺が死ぬ少し前に感じた感覚。遥か昔に感じたモンじゃねぇのは確かだ。誰だコイツ。どっかで会ったことあンのか……?
「……オイ、アンタもしかして……どう見ても20~30にしか見えんが、漢升のジジイか……?」
「そうじゃよ。その品性を感じない言い草に、ワシをジジイなど呼べる人間となると、おぬし文長か?」
「うるせぇよ俺の話し方はどうでもいいだろうが! ていうかマジでジジイかよ……」
「北斗星君と南斗星君から聞いとるじゃろ? ワシらは最も能力を発揮できる状態で蘇ったと。老いても若い者には負けんと思っておったが、肉体が衰えていない方が良く動けるには違いないからの」
「オイオイ、信じらんねぇな……つーかアイツら、俺にはそんなこと言ってなかったぞ」
「聞いとらんだけだったんじゃないか? それに自分も若返っとるの、気づいとらんのか?」
「ハ……? ほ、本当だ、手のシワがねぇし、関節の痛みも感じ取れねぇ……」
いや若返りとかマジかよ。マジなんだろうな。言われてから改めて自分のカラダ見てみれば、年取ってから感じるようになったアレコレが消え失せてんのがわかる。
あいつら、俺に若返るなんて話してなかったじゃねぇか。漢升のジジイには伝えたっぽいのによ。やっぱり信用ならねぇ奴らだぜ……
まぁ、それはいい。いやよくはねぇが、そんなことより大事なことがある。
最初に発見した人間はまさかの人物。漢升のジジイ……大王から後将軍に任命されていた黄忠だったのがそれだ。知り合いと早々に合流できたのは助かる。
ジジイとは大王が入蜀を始めたころから武功を競い合っていた旧知の中だ。義理に篤く勇猛なジジイだったから、つまらねぇ儀礼を考えないでいい相手だった。
まぁ、俺が尊敬する雲長殿や益徳殿と同じ立場の後将軍に任命されていたのは、少し面白くなかったがな。
そんな感じでウマが合ったのに加えて、生まれが同じ荊州だっただけあって、ジジイとはそれなりにやりとりしていたが……いやなんで俺とジジイが同じところに飛ばされてんだ? そこまで仲が良いって言える間柄でもねぇぞ?
「いや、もういいや。若返ったのとかは生まれ変わったことに比べたら小せぇことだしな。それよりジジイ、ここがどこだかわかるか? 右も左も分からねぇんだ。このままじゃ話にならねぇ」
「ふぅむ。ワシも先ほどここに飛ばされたばかりだから分かることは少ないが……どうにもここは長沙の政庁のようじゃな」
「? 長沙ァ? 荊州の?」
「うむ。ワシが昔に劉表様に仕えていた時にな。同僚の劉碧と一緒に長沙に赴任していたことがあるんじゃよ。だから知っておるんじゃが、見たところここはその時の政庁の様子に瓜二つじゃ」
「マジかジジイ。そっちが縁のある長沙に飛ばされたってのは分かるが、なんで俺まで一緒に? 別に俺長沙に居たことなんてねぇぞ」
「神の考えることじゃ、ワシにもようわからんよ。これといった理由なんぞ無いのではないか? 気まぐれに中華全土の中からここに飛ばされたとか」
「なんか納得いかねぇなぁ……」
「考えても分からんことじゃ。そんなことより知り合いに会えたのは重畳、一緒に他の転生者がいないか調べるぞ。他の者が何か知っているかも分からんからの」
「チッ。それしかねぇか」
ジジイだった黄忠しか知らねぇから、髪も髭も黒いコイツと話してると調子狂うぜ。まぁ性格はほとんど変わってねぇから、話してて違和感みたいなのは無ぇが。
で、ジジイの言うことにゃ、他の生まれ変わりを探してみようって話。ここを知ってるジジイが先導してくれるってんなら断る話でもねぇわな。実際にいきなり放り出されたせいで、何していいのかよく分からねぇし。
・・・
……んで、政庁をぐるりと一回りしたわけよ。そしたら居た。何人か前の世界から来たっつー奴らが。しかしなぁ……
「何故私のような一介の役人が、神に転生させられることになったのだ……? 曹操殿や劉備、孫権ほどの傑物たちとどうして私が渡り合えるというのか……!?」
ひとり目が、曹操のヤローに長沙を任されたことがある韓玄。
荊州の支配権が劉表から曹操にうつり、曹操の命で長沙の太守を任された役人だとかなんだとか。元太守ってことならここに居るのも違和感ねぇな。
そんな韓玄は今、メチャクチャ嘆いてる。女々しい奴だないい歳した男のクセにと思うが、まぁ気持ちは分からんでもない。俺でさえ役者不足だと思ってるからな。ただの役人がそう思うのはしゃあねぇだろうよ。
そんで次。
「韓玄殿、そう嘆くこともありますまい。せっかく得た第2の生なのですから思う通りに生きてみればいいでしょう。……それにしても自分は何故荊州に……?」
ふたり目。河内群出身だとか言う韓浩。
こっちはマジでここに居る理由が分かんねぇ奴だ。中華の中でも北の方の生まれで、夏侯惇に見いだされて曹操のヤローに重用されてたとかいう叩き上げ武将だ。
あの曹操に重用されるとかよっぽどの傑物だぞ? 俺も夏侯淵や郭淮には散々ちょっかいかけられたからわかるわ。
本人曰く長沙には縁も所縁もないどころか、荊州の地すら足を踏んだことがない次元らしい。なんでそんな奴がここに居るんだよ。やっぱりあの若造とジジイ、転生先テキトーに選んでんじゃねぇのか?
そんであとひとり。
「父上……! またお会いすることができるとは思いませんでした……!」
「おお黄叙よ! お主も転生しておったんじゃのう!!」
漢升のジジイの息子で、20になる前に病で死んじまった黄叙。
前世でジジイと世間話する機会もあって、そん時に息子がいたって聞いたことがある。俺がジジイと面識持つ前には病死してたみてーだから、どんな奴だったかはよく知らねぇが。
まさか若ぇ内に死んだ奴まで転生してきてるとは思わなかったわ。あれか? ジジイと合わせてニコイチで送られたとかそんなんか? いやでも韓浩とかいう奴が出鱈目に放り出された疑惑があるからな。よく分かんねーわ。何してぇんだアイツらは。
これで全員よ。
……そう、これで全員だ。なんつーか……
「少ねぇなぁ」
政庁に居る転生者で長沙を治めろって言われてるんなら……どうなんだコレ。人員少ねぇんじゃねぇか?
街の方にも転生者がたくさん居てもっと戦力が増えるって可能性もあるが、どうにもそんな感じはしねぇんだよなぁ。
大王だけじゃねぇ。あの憎っくき曹操率いる魏の将軍どもに、雲長殿を裏切りやがったクソ孫呉の連中なんかも蘇ってんだろ? そいつらとここに居る奴らだけで渡り合おうっつーのは無謀もいいところだぜ。
そもそもここの連中と方針が擦り合わせられるかすら分からねぇから、そんなん心配する前にそっちをなんとかしろっつう話だが。
……イマイチ情報が少なすぎて、どうにもハッキリしねぇわ。なんとかなんねぇかな。
「……おっ。そう言えば」
あの自称神どもになんかスゲェ能力を渡されてたの忘れてたわ。確か『千里眼』っつったか?
アイツらと一緒に居たときに一度使ってみた感じ、中華全土の地図やら都市に居る名のある人間の情報やら、何でもかんでも視ることができたはずだ。
それなら話が早えぇ。さっさと知りたいこと実際に視て確認してやる。
「どうやって発動するんだ? あの時は確か念じるだけで……ッッッ!!!???」
な……ウグ、オオォォォッッッ!?!?!?
あ、頭が痛てぇっっ!! 割れる、どうにかなるっ!! 吐き気もするっ!!
こ、こんなの能力どうこう言ってる場合じゃねぇぞ!? 益徳殿の蛇矛で唐竹割りにされたって言われても納得するほどだぞこの頭痛!!!
「ウグ、オオオオッッッ!!??」
「な、なんじゃい文長! いきなり大声で呻きだしおって!!」
「あ、頭が割れるっ!!」
「ち、父上! 魏延将軍はどうされたのですか!?」
「ワシも分からん!」
ジジイ達がなんか言ってる気がするがそんなの気にしてる場合じゃねぇ!!
これはどういうことだクソ神共がああああ!!
『あー、スマンスマン』
この声、直接脳内に!? 北斗のジジイだな、どういうことか説明しやがれテメエェェ!!
『その千里眼なんじゃが、肉体を得た状態で使うと情報量がとんでもなさ過ぎて頭痛に変わるんじゃよ。とりあえず千里眼使うのやめてみぃ。頭痛もおさまるでの』
ウ、グ……ッ、ハァ、ハァ……クソがッ!
使うと頭が割れそうになる能力とか、なんてモン寄こしやがった!! クソの役にも立たねぇゴミ能力じゃねぇか!!
『血の気が多いのぅ。まぁ落ち着け。修練を重ねて新しいカラダが馴染んできたら、千里眼も多少は使えるようになる。それまでの辛抱じゃよ、ホッホッホ』
「なにがホッホッホだテメェ!!! それまで生き残るのが難しいんだろうがクソジジィがよォ!!!」
「うわビックリした!! なんじゃい本当に文長お前」
「ハァ、ハァ……なんでもねぇよジジィ! クソみてェな現実にイラつきまくってただけだ!!」
「肉体が若返ったせいか血の気まで多くなってしもうて……そんな調子じゃこの先生きのこれんぞ?」
「分かってるわそんな事! ……あァアホくせぇ、前途多難だぜクソがよ……」
人材は少数、所在地は僻地、後ろ盾は無し、寄こされた能力は役立たず。
こんなんで本当にやってけんのかよ……ため息しか出ねぇわ。ハァ……