転生者はお人形さんを作るようです 作:屋根裏の名無し
みんな、ありがとう。
そして、これからもよろしく。
今回これ書くのに疲れちゃったので、感想返信は後で二話分まとめてやります。
カリオストロはマスターの作った呪骸、及びマスター本人の安全を担保に、かいつまんだ推測を酒呑童子に説明した。
「……あんたはんも旦那はんも、それに
「本当にな。まだまだアイツには謎が多そうだ」
「なんか嬉しそうやね?」
「そうか?」
ひたと彼女が頬に触れると確かにその口角はくいと上を向いていた。
完全に無意識だったのか、存外驚いたような表情をするカリオストロ。
「……なんだかんだ、ここまで退屈とは無縁だったからだろうな。こんな不条理だらけの世界で生きるのも、まぁ悪かねぇ」
ニイと歯を見せて笑ったカリオストロにつられ、酒呑も外見相応にはんなりと微笑んだ。
好奇心の探求という点において、彼女たちは似通った立場なのかもしれない。
その果てに見るものは対極に座しているようであるが。
「ああ、せやせや」と酒呑がちょうど今思い起こしたように口にした。
「
「……そうさな、後四体くらいは」
「ふふ、ほうかほうかぁ」
さぞ愉快げに、しかし何か含みのありそうな顔だった。
盤面を前にした歴戦の棋士が浮かべる不敵な笑みが、全てを掌握したフィクサーのような訳知り顔が、綽々とした鬼の顔をまるっと包んでいる。
端的に換言するならば、『悪い顔』というやつである。
「なな、ちいっとうちに付きおうてや。なぁに、悪いことやないから安心しい?」
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「……近いな」
スウ、と酒臭い空気を吸い込んで東堂葵は気合を入れた。
山に接近するにつれ辺りに漂う酒気は一層濃くなり、意図せず身体が弛緩してしまいそうになる。
強ばっているくらいがこの状況下ではベストなコンディションだ。
山中に硬質な武器をぶつけ合うような音が響く。その先で二つの呪力が忙しなく動き回っている。
目標はもう目と鼻の先。退屈の終わりが目の前に迫っていると考えると、東堂は心地よかった。
大江山中腹、木々が開けた場所で呪力の主が戦いを繰り広げていた。
何故か山の斜面が真っ平らに変貌し、まるでポケモンジムのフィールドのようになった大地で幼い見た目の女子たちがしのぎを削る。
カリオストロが金髪をなびかせながらパンと一拍。
地面が波打ち、波涛のようにもう一方へと土の津波が押し寄せる。
「うちを呑みたいんならこの山全部使ってもたりひんなぁ」
迫る土塊に対してぶつけられたのは大量の酒。
酒は土波を呑みこみ、見事その威力をゼロにせしめた。
底知らずに酒呑童子の足元から吹き出す酒の間欠泉は彼女の周りを覆うようにざぷざぷと漂っている。
「ミミッキュ!」
その声に応えるように暗がりから不気味な人形が、存外可愛らしい声を出しながら姿を現す。
ミミッキュの下部から伸びた影のような手が錬金術師にテレビを差し出した。
こんな山奥である。電気を供給するコンセントプラグはもちろん繋がっていないし発電機がその辺りに転がっているわけでもない。それにも関わらずテレビの画面はスノーノイズをチラつかせていた。
砂嵐の中では薄い紫色がチラチラと忙しなく左右に揺れている。傍から見れば殊更不気味に感じられることだろう。
「まだ途切れてなかったみてぇだな。重畳だ」
ドスのかかった声と同時、テレビに華奢な指先を這わせて呪力を込める。
表面に電子基板のような青緑色の光帯が走ったかと思えば、瞬く間にテレビが分解された。
分解されたテレビだったものは発散と収束を繰り返し、新たな形へと再錬成されていく。
「なんや、それ」
カリオストロの背後に錬成されたのは白磁の石壁。それもサイズが映画館のスクリーンレベルの大きさの壁だ。
「……本物を錬成した方がいいのかもしれねぇけどあいつの術式はそこそこ許容範囲が広くてな。
錬金術師は小脇に抱えた機器のレンズを壁に向けた。
そう、彼女がテレビを素材に錬成したのは白い巨壁ではなかったのだ。
機器から壁に光が放たれる。光はただの光から徐々に灰色に変わり、ついにはテレビが映していたものと同様のスノーノイズが投映された。
「出番だぞ、準備はいいな?」
スノーノイズに映る薄紫がより鮮明に、より明確に、形を帯びていく。
砂嵐の中、覗き見るように外の世界を眺める巨大な少女。
包帯だらけの少女はゆっくりと手を伸ばす。自分を映すカメラを隠すように。
そして──
「Aaaaaaa、AAAAAAAAAA──」
巨腕が、顎が、次元を超えて現実世界へとその姿を露わにする。
暗幕のように垂れ下がった長い髪が顔を遮り、彼女の表情を外から覆い隠す。
「LaAAAAAAAAAAAAAAAAAA──!」
母なる海の叫びが、自陣営最高戦力の咆哮が、大江の山全域に木霊する。
得意げに笑うカリオストロ。
呆気に取られる酒呑童子。
そして、もう一人。
その光景を目の当たりにした瞬間、東堂の脳内に溢れ出した────
・
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「──俺、高田ちゃんに告る」
穹は蒼く、葵く澄み渡り、トゲのない日差しが肌を撫ぜる。
柔らかで温かな風が桜を揺らし、落ちた花弁が校庭を自分色に染めていく。
グラウンドの隅に作られたこぢんまりとしたプランター。
殺風景な赤レンガと土に赤いアネモネと早咲きのプロテアが今春、華やかに色を添えた。
硝子の向こうに広がる今年で見納めの春景色を視界に収めながら、中学三年生の東堂葵は人が出払った放課後の教室で独り言ちた。
「私は……オススメしない、かな」
大気が震え、窓が薄紫で塞がれる。
ゆらゆらと髪のカーテンが揺れ、ズシンズシンと音を立てれば、髪色と同じカラーの巨大な瞳が窓の外からジト目で東堂を捉えた。
「なんで俺がフラれる前提なんだよキングプロテア」
静かに吐息を吐き、東堂は自分の席を立って窓の目に向かう。
彼に合わせるように瞳も奥へと下がっていき、東堂の視界に特注のセーラー服を着たキングプロテアが校庭のど真ん中で体育座りをしている様子がやっと確認できた。
「逆に聞きますけど、どうしてOKもらえると思ったんですか?」
「あとで慰めるの私嫌ですよ?東堂さんグズると面倒くさいし」と千里眼で見てきたかのように口にするプロテア。
東堂は意中の彼女に
「かの伝説のバスケットボールプレイヤーMJは自分の今までを振り返ってこう説いた。『諦めたらそこで試合終了ですよ?』と」
「それ言ったの安西先生じゃないですか。共通点バスケしかありませんよ!」
「ごめんなさい。私好きな人がいるの」
花弁と共に、愛の手紙は春空に舞った。
半ば確信に近い決意を胸に高田ちゃんを呼び出した東堂だったが、結果は惨敗だった。
やんわりどころか、意中の人が他にいると告げられる始末である。
声すら出せなくなった東堂を振り返ることすらなく、愛しの彼女は颯爽と桜吹雪の中へと消えて行った。
「好きな人が俺ってパターンは……」
「ないと思います」
放心状態で滲み霞んだ空を眺める東堂のうわ言にキングプロテアは容赦なくツッコミを入れた。
「だよなぁ」と力なく彼は口にする。
高田ちゃんのことを理解しているが故に、完璧に理解してしまったが故に、願望塗れの空言は風と共に去っていった。
花壇のレンガに腰掛け、涙で土を湿らせる彼の姿を不憫に思ったのか、キングプロテアは努めて頭を潰さないようにちょい、と東堂の後頭部を小指で小突いた。
「ほら、行きますよ」
未だ涙が止まらない東堂は顔を上げる。
ボヤけた視界だったが、プロテアは心配気な顔をしているのがわかった。
「私の行きつけのラーメン屋、奢ってあげますから」
「……食いきれなくても怒るなよ?」
ああ、俺は良い友を持った。
ラーメン屋への道を辿りながら悲しみで丸まった背中を押してくれたキングプロテアに東堂はそんなことを思ったのだった。
(ブックオブ)青春アミーゴ
ほら、お前らが望んだことだぞ(#6〜#7のアンケート参照)
疲れた。怪文書だよもうこれ。
かなり頑張った方なんだが東堂エミュが足りない気がする。
……ワイはどうしたらいいかな。
転生者くん
→次回バカ目隠しと遭遇して大立ち回りをする予定。
カリオストロ
→また戦ってる。一応和解したんじゃなかったんですか?
まだマヨナカテレビが残留しているテレビを使ってプロジェクターを作成。真っ白な巨壁にそれを照射してキングプロテアを呼び出した。
酒呑童子
→また戦ってる。
悪巧みというか、思惑があるらしいよ。
キングプロテア
→初バトル。
ちょっと中の女神の顔が出てませんか?
MJ
→ジャクソンじゃないよ。ジョーダンだよ。
赤いアネモネ
→花言葉『君を愛す』
プロテア
→花言葉『華やかな期待』『甘い恋』
東堂
→キングプロテアを見た瞬間、彼のIQ53万の脳内CPUがフル稼働して幻想と形容するにはあまりにも解像度の高すぎる記憶を弾き出した。
キッショ なんで(名前も口調も)分かるんだよ。
『キングプロテアは好み』という思いと『俺の一番は高田ちゃんなんだ』という確固たる信念が正面衝突した結果こうなった。どうして?(現場猫)
今後当SSの東堂が虎杖と接触すると今回の思い出の中に虎杖が追加されます。