転生者はお人形さんを作るようです 作:屋根裏の名無し
輝ける深淵は凶兆の証。
黒き火花は微笑む相手を選ばない。
寸分の狂いなく放たれた打撃は漲る呪力と息を合わせ、漆黒の閃光と化す。
そうして一条の闇がパッと瞬いたかと思うと、それ以上の思考を巡らす暇もなく気づけば彼女は山に埋没していた。
すぐにでも立ち上がってあのいけ好かない顔面に一発入れたいところだったが、それは叶わなかった。
めり込んだ山肌に腕をついて、土塊を押しのける。負荷に耐えきれなかった片腕が、肩口からぶちりとちぎれ落ちた。
ただの岩盤さえどうにかできない脆すぎる身体に酒呑童子は舌打ち一つ。
現在の彼女の脆弱性はほとんど無理やり受肉して数時間も経過していないことに起因する。
いつかの未来、虎杖悠仁は宿儺の器となり、死滅回遊の参加者は黒幕によって目覚めた。
今回酒呑童子の器となってしまった不幸な人間はただの呪術師だ。一般人より丈夫とはいえ、一つの調整もなしに劇毒たる特級呪物を受け入れる器であるはずもない。
よって酒呑童子は神便鬼毒の中から術師体内に侵入する過程で身体組成を無理やり書き換えた。
神便鬼毒によって術師の生命力にブーストがかかっている状態であったことが爆裂四散する前に身体を丸ごと組み替えることを可能とした。
しかし、あくまでも
そんな不安定な状態で意識外から攻撃を──それも黒閃を──くらえばどうなるかは推して知るべし。
錆び付いたブリキのおもちゃのように鈍重な動きでめり込んだ山肌から這い出ると、鳩尾に黒閃を叩き込んでくれた男が仁王立ちで待ち構えていた。
「────ふふ」
鬼が浮かべた微笑みに何の意味があるのか。東堂葵は知る由もないし、興味がない。後タイプじゃないからどうでもいい。
さっさとコレを処理して一秒でも早くプロテアの下へ馳せ参じたいのだ。
思わぬ収穫こそあったものの、そもそも東堂は目の前で虫の息で転がっている酒呑童子を祓うためここに来たのだった。
だが拍子抜けだ。黒閃一発で沈みかけてしまう受肉体など、己の乾きを癒すに値しない。
嘆息をつき、拳を構える。
とはいえ手負いの相手ほど恐ろしいのはいつの時代も変わらない。
注意を払い一歩、また一歩と接近する。
邪悪な微笑みを張り付けたまま酒呑童子は動かない。
ただ東堂をじっと眺めては薄く目を細めるだけで。
「なあ、東堂はん」
無言のまま東堂は足を止めた。
見開かれた眼がその驚愕をつぶさに物語っている。
(コイツ、俺の名前をどこで──!?)
カリオストロが聞いていれば「お前が言うな」と青筋を立て、キングプロテアのお腹はくうくうなりはじめるだろう。
二人の目はきっとハイライトが消えている。
「獲物を前に油断しいひんのは大変結構やけど、ちょいと遅すぎやね」
東堂は自分の索敵範囲に呪力が立ち顕れた瞬間、両手を打ち鳴らそうとしたが────
(仮想怨霊!?一体どこから──)
東堂の正面になんの前触れもなく現れた口裂け女の簡易領域に東堂葵は囚われる。
さてこの仮想怨霊の質問にどう答えればいいのか、「長身だからタイプです」とでも言うか、「高田ちゃん一筋なんで、と断るか」……どうでもいいことを考えていると東堂の横から僧衣を纏った男性が酒呑童子に近づいていく。
「どうやら危機一髪、間に合ったか」
「こない景気よくすればひょこっと来るかと思てなぁ」
かんらからからと笑う鬼に「確かに多少リスクを背負っても私はここに来るだろうね」と男は語る。
まさかそんな姿だったとは思わなかったけど、と続けて苦笑した。
「ダメじゃないか東堂くん。コレはまだ利用価値がある。祓うにしても少し後にしてもらえないかな?」
「嫌やわぁそないぞんざいな扱いされたら──うちも出るとこ出ますで?」
「忘れるなよ酒呑童子、君は大義のために生かされている。私の楽園に羅生門は必要ない」
「……ふふ、それじゃま、うっかり殺されないようにうちも頑張らへんとなぁ」
東堂は、眼前の人物に瞠目する。
来るか来ないか、で言えば確かに来る可能性は高かったかもしれないが。
五条袈裟をはためかせ、男は地を踏みしめた。
堕ちた特級、数多の非術師を呪殺した希代最悪の呪詛師。
「────夏油、傑」
⚫
水面に投げ込まれたのは石ではなかった。音に振り向くと蒼色の海面に赫い半球が浮き沈みしている。
そういえばクルーザーの中に釣竿立てかけられてたっけ、と思い返して魚を待つ大きな背中に声をかけた。
「五条さん、なんで釣りしてるんです?しかもアロハシャツ」
「気分。今日久々の休みだからさ、少年のサルベージが終わるまではのびのびしてようかなって。ま、そう上手くいくかはわかんないけどね」
引っ張られた釣り糸に合わせて五条はリールを巻き上げるも、既に逃げられてしまったのか捕まった魚の姿はない。
ルアーは再び綺麗な放物線を描いて海へ投げ込まれた。
ミミッキュが釣竿を引っ張り出してバカ目隠しの隣に歩いていく姿を尻目に「下手に手伝われて壊されても困るし」と人形師は思い直す。
最悪海上保安庁に追われながらキングプロテアに遠泳してもらうことが最終手段として検討されていたので、船を出してくれたのには素直に感謝するとしよう。
「じゃ、とりあえずさっき言った通りよろしく。後はまたその都度指示出すから」
ややあって頷いたマガツイザナギはクルーザーの側面に垂れ下がった銀幕にカリオストロ謹製の映写機でホワイトスノーのマヨナカテレビを投影する。
一方船の甲板に立ったカリオストロは面倒くさそうに口を開いた。
「闇より出て闇より黒く。その穢れをみそぎ祓え」
帳が下りる。暗幕のような夜が四方を閉じ、船が浮かぶ
「あれ、帳下ろしちゃったの?」
「え、さすがにキングプロテア出すのになんもなしはまずいでしょ?」
「ん〜……それはどうだろうね」
ルアーをピクピクさせていた悟が振り向いた。
クルーザーの中に備え付けられたテレビに胴体を突っ込みながら答えると、「別に僕は最強だからどうでもいいけど」みたいなニュアンスで言葉が返ってくる。
まだ夏でもないのにぶわっと溢れた汗を気のせいだと思いながら、悟の声がする方に歩く。
「ここの海域、夜だけ貨物船とか輸送船が間違っても通らないように封鎖していてね。どうしてだと思う?」
「……知名度の低い艦船ならともかく、
「ビンゴ!」悟は嬉しそうに指を弾いてから、キリキリとリールを巻き上げる
「海上で地上のように戦える術師はだいぶ少ないし、アレは手出ししなきゃご自慢の主砲が火を噴くこともない。だからどこもここについては放置することで決定してたんだよね。……夜になる前に素材の回収だけしてればこんなことにはならなかったんだけどなぁ」
海に船が浮かんでいた。
およそ200m強はあろうかという鋼鉄の塊が、海に浮かんでいた。
ギリギリと、波に打たれる巨大な
とても、悲しげな咆哮だった。
「──誰が言ったか、『呪霊戦艦ヤマト』。中々いいネーミングだよね!」
巨体の威容に口を噤む中、五条悟の笑い声だけが静寂の海に響き渡った。
この世界でヤツがいないわけがないのです(ダブルミーニング)
①酒呑童子祓おうとしたらに純正サマーオイルが助太刀しやがったんですけど!
②素材回収だけしようと思ったら戦艦大和の呪霊がいるんですけど!
の、二本でお送り致しました。
感想返信は後でやりますわよ。
今はちゃっちゃとキリのいいとこまで呪骸作りを進めてぇのですわ。
次回ッ!激突!呪霊戦艦ヤマトVSキングプロテア!!(大嘘)
映画かな?