転生者はお人形さんを作るようです   作:屋根裏の名無し

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あいつは(趣味嗜好が人形一辺倒だから)付き合いが悪いんだ。



#24.5 やめとけ!やめとけ!

酒呑童子の受肉及びそれに伴う京都火災、特級呪詛師 夏油傑の出没。激動の一日からはや数週間、五条悟は高専上層部の会合に呼び出しを食らい、陰湿極まりない部屋で障子に囲まれることを余儀なくされていた。

 

酒呑童子と夏油傑が手を結んでいることを危惧し、一刻も早い対処をと急かす老害たちをどうどうどうと逆撫でしつつ、さてどう切り出したものかと顎に手をそえる。

わざわざ可愛い生徒たちの青春観測を中断して来てやった自分を半ばほっぽってくだらない責任の押し付けあいをし続ける会議に出席するより現場の残穢を辿ってみる方が余程建設的だ。

 

それでも五条悟がここに来たのはちょっとしたサプライズをいつもお世話になっている上層部の皆々様にお届けしたかったからなのだが────

 

『五条悟、一つ答えたまえ』

 

不安ばかりを募らせるのも疲れてきたのか、やいのやいのしていた障子の一枚が不意に語る。

 

「……できれば手短にお願いしますよ」

『東堂が酒呑童子に辿り着く前、既にヤツと戦っていた()()がいた。お前も見ているな?』

 

五条はほくそ笑んだ。なにせその言葉、彼にとっては渡りに船だったもので。

 

上層部は東堂葵が大江山で受肉した酒呑童子に黒閃をキメる以前、山の中に鬼を押しとどめた個人ないしは集団の存在を把握していた。

当日神便鬼毒の監視を受け持っていた呪術師の片割れを高専に搬送した『マガツイザナギ』なる存在とそれを使役していた少女。

同日に大江山に現れ、がしゃどくろのようなものと激戦を繰り広げた天を衝く巨大な人型。

 

一番間近でそれらを目視し、あるいは意思疎通を行ったと思われる東堂葵にはもちろん高専側から真っ先に聞き取り調査が行われたが……。

 

 

 

『失せろ。俺が愛しのハニーを売ると思うか?』

 

 

 

この期に及んでドルオタは一向に口を割らなかった。

高専も考えうる限りの手段は尽くしたが、心身共に鍛え抜かれた彼にとってその尽くは意味をなさない。やるだけ時間の無駄であることを悟った高専は勝ち誇った表情の東堂を尻目にある人物へ連絡をかける。

 

こうした経緯でお鉢が五条悟に回ってきたわけだ。

その()で何か見えなかったか、もしくはお前が知っていることを教えろ、と。

 

「えーと、マガツイザナギとその使役者、大江山の巨人、あと憲紀くんとメカ丸くんが会敵した霧を使う……仮に呪術使いとでも呼びますか」

 

一本二本三本四本、人差し指から小指までを順繰り広げる。最後の小指で障子の奥の人影は一様に首を傾げたが、「まあ最後まで聞いてくださいよ」と五条は続ける。

 

「実はさっき言ったやつね……全部一人でやってたんですよ」

『一人だと!?』

『そんな筈があるか!!』

 

そうでしょうそうでしょう。僕だって視て触れなかったらきっとあんたらと同じ感想だった。

五条は「それにさ、ホラ」と手の甲を薄明かりに晒して見せた。

そこには真一文字に小さな線。ほんの薄皮一枚程度の切り傷だった。

日常生活でも起こりうるかもしれない程度の、ほんの些細な傷跡。

 

────無下限術式を常時展開する特級呪術師 五条悟にそれが刻まれている、ということを除けば。

 

「ちょっと手違い勘違いあって図らずもそれと一戦交えることになっちゃいましてね。いやァ強かった強かった!何せ僕の身体に傷をつけた上、()()()()()()()()()()()()()()!」

 

老人たちは大いに動揺し、ニヤケ面のままの五条に詰問した。

五条は大江山事変の後、どうにか所在をつきとめてソレと意思疎通を図ったことを虚実織り交ぜて吹き込んでいく。

 

 

曰く、彼の術式は呪骸を創り、操るもの。生得術式一点特化型の模様であり、本人は呪骸に関連すること以外の一切ができず、術式以外は非術師同然である。

結界術や式神はおろか、単純な呪力の放出も彼単体ではできない。

しかしそれを引き換えにして文字通りに『魂』を込め、『命』を燃やして産み出された呪骸はいずれも強力無比な存在である。

術者の魂を使っているので当然と言えば当然だが、各々人間と遜色ない意志を持っている。その上、それぞれが別の術式を使用するのだ。

 

「しかも禪院──あ、今は『蘆屋』の姓を名乗ってましたっけ。あの婆さんと知り合いらしいんですよ、どうも」

 

「魂削ってるって言ってましたけど、どれだけ呪骸が創れるかは正直分からない。もしかするとコスパは中々良いのかも」

 

「恐らく呪骸だと思いますけど、結構な索敵範囲を持ってましたね、彼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あぁ、そうだ。最後に一つ。彼は呪術高専、ひいては呪術界のことをあまりよく思っていません。扱いを間違えれば途端に牙を剥くでしょう」

 

だから。

一拍置いて、頭を下げた。

 

「この件は私に一任してください。()()()()()()の日にはいい報せができるよう、全力を尽くします」

 

あの五条が自分たちに頭を垂れたのに気を良くしたのか、それとも度重なる危機で心労が限界を迎えていたのか、五条悟の提案はトントン拍子で受け入れられた。

 

 

……彼らが五条悟の表情の意味を知るのは、もう少し先の話だ。

 

 




短期間に出すとあんまり長いの書けないねぇ。

エルデンリングのラスボスに状態異常全然効かなくてちいかわ蝿腐敗ブレス神秘マンの私は涙がで、出ますよ……。


5J
→「してェ……サプライズしてェ~~~~~……」

ご老人にあることないこと吹き込んで、交渉役として転生者くんのところに度々出張()していることになっている。実際のところほとんど遊びに行ってるだけなので休暇みたいなもの。
大丈夫ですって!()()()の日には吉報お知らせできますって!だから私に任せてくださいよ!


転生者くん
→『#23 おじぎをするのだ』と『#25 FROM BEYOND THE COSMOS AND BLUE』の間に五条からお話を聞いた(主に二つの高専の内情と五条悟の野望(後進育成))。
敗者なので後進育成には協力しますよと改めて約束。

どうやらこの時点で呪骸に関すること以外の興味・関心が薄れつつある模様。
(自分の命の価値が)わ わかんないッピ……


上層部さん
→朱い腐敗にまみれた蜜柑といえどさすがに今回は堪えた。
京都は焼けるし夏油は出るし、挙句意図せず特級呪物が受肉してトンズラ。
やること(事後処理)が……やること(事後処理)が多い……!!
実際やるのは下っ端たちだが、金も労力も無限ではない。
頼むから想定外の動きを見せないで欲しい。


おばあさん
→最序盤でミミッキュの素材やら天沼矛をくれた人。やはりヤバい!(周知の事実)
旧姓芦屋、親姓禪院。だけど今は芦屋を名乗ってる。

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