転生者はお人形さんを作るようです   作:屋根裏の名無し

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生存報告を兼ねて投稿。



#31 チより人は出づる

ゆっくりと侵入者に近づく“人形だったもの”。

両手に得物を携え、厳かな足取りで敵対者へと歩を進めた。

 

コツ、コツ、コツ。石畳が乾いた音を響かせる。

戦場なれど、洗練された佇まいには気品が窺えた。

 

しかしそれは“狩人”が“獲物”へと向ける感謝の類である。

そのことを、この場の誰もが理解できた。

 

「来い」

「上等だ、後悔すんなよッ!」

 

挑発に真希の薙刀が火蓋を切る。

フィジカルギフテッドとしての膂力が遺憾なく発揮された突きが呪骸を襲った。

 

対する人形は半歩身を前へ。

そうして側頭部すれすれを通過した刀身の刃文に指を這わせた。

 

「速い。が、正確すぎる」

「んのっ──」

「どーーん!!」

 

そのまま武器を取り上げようとした人形は、真希の背後から飛び出したヒップアタックパンダを見て、全身に霞のようなものを纏い回避に移る。

古き狩人が用いた業──『加速』である。

 

「シィっ」

「──!」

 

『加速』の使用で生まれた硬直(スキ)に乙骨が切り込んだ。

特級過呪怨霊から引き出された紅黒い呪力が刃に沿って迸り、彼女の二刀と切り結ぶ。

 

衝突、衝突、衝突。およそ刀が持ち得ぬ威力がぶつかり合った。

人形のボディは軋み、踏みしめていた大地に足が沈む。

膂力だけで見れば圧倒的に乙骨が優勢だった。

 

「……呪いを祓うのが仕事だろうに」

 

乙骨の刀がいなされ、そのままの勢いで地面を大きく抉る。

巻き上がる土煙に紛れ、彼女は大きく距離を離した。

 

「何を躊躇っている」

 

納刀された刃から赤く滾る呪力。

そこから再び『加速』を使おうとした人形に、横合いから待ったがかかった。

 

『動くな』

「ほう」

 

背面(バックスタブ)ではないが、技出し後の硬直狙いは狩人としのぎを削る上では常道だ。

心中感心しつつ、状況の打開を模索する。

 

(『動くな』と言われればその通りになる。しかし範囲は恐らく……)

 

呪骸の思考が解に辿り着いたと同時、乙骨の刃が無防備な首へと滑り込み、呆気なく血が吹き出した。

 

「──え」

 

実の所、呪霊のそれ()を断つ感覚に、乙骨はまだ慣れていない。

呪霊であれば上手くいけばその痕跡ごとこの世から消え去ってくれる。

だから、まだ彼自身の中でその不快感を飲み込むことができた。

 

だが、これは違う。

刃を通して伝わる肉を切り裂く実感、スローモーションになった視界に留まる真っ赤な断面、鼻を突く鉄の臭い。

 

脳裏に祈本里香の最期を想起させるには十分であり、自分がこの手で人を殺すのだという自覚をまざまざと感じさせた。

 

刀は呪骸の首を半分と少し切ったところで停止した。

どう見ても致命傷である。

 

首からは絶えず血が溢れ出た。

ぶしゃ、ともぶちゃ、ともつかない音を立てて、()()()()()()()()()()()

 

「うわっきたねぇー!!血は洗うのめんどくせぇんだぞ!!!マジで!固まるし臭ぇし!」

「言ってる場合かパンダ!!憂太!棘!」

「ゴホっゲホ、ぺっぺっ……だぃ、じょうぶ!」

「じゃげ!」

 

血の放水が終わると首の傷は何事もなかったかのように消えていた。

変わったところはと言えば両手の刀が血を帯びているくらいしかない。

何故か刀身が伸びているという注釈が付属するが。

 

「……加茂か?」

「生憎だが、これは赤血操術ではない」

 

真希の問いに否を返し、狩人は石畳を蹴る。

ボッと押し出された空気と共に、彼女は禪院真希へと強襲する。

 

「チィっ!」

「血は、見慣れているんだろう?」

「…そこまで出てたら、あっちはとっくに!失血死だろうよっ!」

 

薙刀と血刀がぶつかり合う。

歯を食いしばって凌ぐ真希とは対象的に、あれだけの出血をして尚狩人の顔は涼やかなままだ。

 

「──後で俺のことしっかり洗ってもらうかんな!」

 

攻防の差中、パンダがいつもの五割増しで呪力を纏って飛び込んだ。

明らかに拳が届かない距離だが、目は死んでいない。嫌な予感がした。

バックステップしつつ刀を正面に交叉すると──()()()()()

 

パンダは基本のパンダモードから短期決戦ゴリラモードに移行すると体型が著しく変化する。

平たく言えばゴリゴリのマッチョになるのだが、この時腕の長さも移行に伴って延長されるのだ。

 

激震掌(ドラミングビート)を織り交ぜた変則ズームパンチ。

防御が間に合ったとはいえ内部の衝撃は誤魔化せない。狩人は確かなダメージを受けながら後方へ吹っ飛んだ。

 

「棘!憂太!畳み掛け………………憂太、何それ?」

 

 

 

 

「……ふむ」

 

大の字になった身体を起こしながら狩人は血の入ったシリンジを太ももに突き刺し、中身を空にする。

 

手をグー、パーと開いて閉じてから、おもむろに立ち上がった。

 

「あれは、避けるのが正しいか」

 

体力を回復する輸血液を使用しても内部に残留する違和感が拭えない。

恐らく中の本体(人形)にダメージを与えられたのだろう。

 

力を引き出すように立ち回れ、との用命を受けているが、今の時点でどこまでできるかは彼女にとっても未知数だった。

 

「マスター、同調(ユニゾン)の許可を──」

 

主に支援を要求しようとした、その時だった。

自分が吹き飛び切り開いた森の奥。ざざ、と駆ける音がした。

 

血を宿した双刀に焔を走らせ、狩人は敵対者の到着に身構えた。

 

 

そうして現れたのは────月の光を纏う聖剣。

狩人の勘が大警鐘を鳴らす。手を抜いては此方がやられる。

 

故に、後先を放棄した全力の一撃で真っ向から鍔迫り合った。

炎血と青ざめた光がぶつかり、周囲に風圧が巻き起こる。

 

「貴公、()()()()?」

「……報われない狩人がいた。それだけです」

 

乙骨憂太は沈痛な面持ちで、そう呟いた。

 




とりあえずひり出せたので一歩前進ですが、相変わらず次回更新は未定です。
無力な私を許してヒヤシンス……。
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