転生者はお人形さんを作るようです 作:屋根裏の名無し
ちなみに私のタイプはタッパもケツも小さい人形です。みんなもドシドシ性癖開示してってくれや。
性癖開示によって呪力上昇は……見込めませんかそうですか。
「じゅじゅ、つ?」
「そう、呪術だ。お前さんは人形作りをしている時、意図せず術式を使っていた」
快晴の空、休日の昼下がり。公園は人もまばらだが、離れた広場では子どもたちがサッカーをして遊んでいる。
次のフィギュアの相談をしようとおばあさんの下へ馳せ参じたところ、いつも商いしてる場所じゃなく付近にある公園のベンチへ連れていかれた。
作った人形二つとも持ってこいと言われたので一旦家に帰り、リュックにイザナギ、両手にミミッキュの状態で公園に走る。少年たちの視線は痛かった。
「今抱えてるミミッキュに『握手して』と命令してみな」
「おばあさん、今日は帰りましょうか?」
「まだお天道様は沈んじゃいないよ」
とうとうボケちゃったのかと心配したけどそうじゃないっぽい。至極真面目に話すおばあさんに気圧され、膝に置いていたミミッキュに小声で言ってみる。
「あ、握手して?」
「キュッキュッ」
するとミミッキュはズルりと影のような黒い腕を伸ばし、そっと俺の手を握った。
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」
「騒々しい」
「すみません」
握手の後も歩け!とか、ジャンプして!と指示してみるとミミッキュはその通りに動いた。よしよしと頭を撫でてやると嬉しそうにしている。
「で、呪術ってなんです?」
「噛み砕いて言うなら……そうさな、魔法みたいなものかね」
お前さんの想像とはかけ離れてると思うが、とおばあさんは付け加える。
『呪術』
負の感情が形を成した存在である呪霊を祓うための技法及び呪力を扱った異能の総称。
その方法は千差万別。呪術を扱う者の数だけ祓いの種類は存在する。
非術師は己の身体の内から染み出す悪意、恐怖、憤怒──総じて負のエネルギー、呪力を御することができない。
呪術師はそれを巧みに操り呪霊を祓う力へと転用することができる。
その起源は凡そ1200年前、魑魅魍魎が我が物顔で日影の下を闊歩する平安時代にまで遡る。
式神、結界術、呪骸、シン・陰流等、現在の呪術師たちが行使する普遍的な術式の多くはこの時代に生み出されたものが大半を占める。
誰かを救うために、自分を守るために、己が利益を得るために、貴族はこぞって呪術の軍拡競争を押し進めた。
そんな呪術全盛の平安の世が今の呪術界の礎を築いたことは言うまでもないだろう。
民明書房刊 『陰陽術起源異譚』より
つまり呪霊は自然発生アークゼロ*1みたいなもんで、それを悪霊退散ドーマンセーマンするのが呪術師と。
危ない危ない。次アークゼロ作ろうと思ってたなんて口が裂けても言えないぜ。
「えっ俺呪術師なの?」
「お前さんは高専が登録してる人間でないから『呪術使い』といったところかね。人を害するつもりはないだろう?」
「そんなつもりはサラサラないけどさ」
パンピーを殺害した呪術師は呪詛師としてカテゴライズされ処刑対象になるらしい。コワ〜。
で、俺の呪術(厳密には生得術式って言うらしいけど)は無生物に呪力を付与して自立させる────呪骸ってものを作成することに特化しているらしい。
ミミッキュは既に見た通りなので試しにバッグから出した(マガツ)イザナギに命令してみたらめっちゃ軽やかに動くし浮いた。球体関節なんて一つもつけてないし、重力反転装置なんて持ってないが。
「呪骸ってこれただ動くだけなんですか?」
「製作者によるとしか言えん。というか浮くだけでも結構異常な部類に入るんだけどねえ……」
製作者によって探知機能や膂力の上昇が付与されることがあるそうで、中には感情を持って人語を解する呪骸すら存在するらしい。
この子たちはどうなんだろうか。ミミッキュは感情ありそうだけど。
「気になるなら何か命令してみればいい。どんな呪骸にするかを考えていなくとも、お前さんの妄想の産物なんだからコンセプトくらいはあるんじゃないかい?」
……もしかしてミミッキュは俺が日記に書いたわざ使えるのでは?
「ミミッキュ、かげぶんしん」
「キュッ……」
ベンチの影に隠れていたミミッキュは億劫そうに日向に出ると予備動作ゼロで残像を作り出した。
さすがに質量を持った残像とはいかないようで、若干ブレているミミッキュに触れようとすると消えてしまった。
「ほお、残像を作れるのかい。そっちのは?色が禍々しくなってるけど」
「んー、どうでしょう。使えるんですかね?色は知らないうちにリペイントされてたんですが」
リペイントってもしかしてあれかな。呪術使ってイザナギ作ったからオルタ化しちゃったみたいな感じなのかな。
うーん対戦とかで使ってたミミッキュはともかくマガツイザナギはあんまり使ったことないし……。
「マガツイザナギ、マハジオダ──いや、待ってストップストップ」
近くの木に向けて電撃系の上位魔法であるマハジオダインを放とうとしたところ、夕暮れにも関わらずマガツイザナギがバチバチと放電しながら辺り一帯を雷光で照らし始めたので急いで中止命令を出す。
「えっと、呪骸ってみんなこんなもんなんですか」
「お前さんが異常なだけさね」
おばあさんの返しが少しだけ冷たかった。
人間の悪意をラーニングした結果『人類は地球上で最も滅ぶべき存在』であると判断してしまった人工知能。全部あの1000%の野郎が悪い。
感想欄は安価じゃないのでそこんところよろしく。
その代わりにアンケートが設けられてあるんやで。
今回のアンケートの期限も一日としますわよ。
転生者くん
→そろそろ名前を決めたい。5話目にして初めて呪術の概念を知る。遅くないかい?
おばあさん
→そろそろ名前を決めたい。呆れつつも転生者くんに呪術とそれを取り巻く呪術界について教えてくれた。
民明書房
→『魁!!男塾』のパロディ。今回一番考えるのに時間かかった。
ミミッキュ
→転生者くんが日記に書いたわざは一通り使用可能な模様。感情があるとかないとか。
マガツイザナギ
→特級呪物を使ったおかげか出力がヤバいのに超低燃費。
次回はアンケート通り
次の人形作った後は……
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まだ人形を作る
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バカ目隠しに捕捉される