転生者はお人形さんを作るようです 作:屋根裏の名無し
私はいま、ヤーナムにいます。この国を脅かす獣共と戦っています。
……本当は、あの頃が恋しいけれど、でも今はもう少しだけ、知らないふりをします。
私の作るこの屍山血河が、きっといつか誰かの未来を拓くから。
キングプロテアから今明かされる衝撃の真実ゥ!を知った俺は自室のベッドの上で一人、思慮に耽っていた。
魂の分割、と言われていの一番に頭に浮かぶのは分霊箱である。
そうそう、名前を言ってはいけないあの人。ヴォル何某卿が使う闇の魔術だ。
殺人によって自らの魂が引き裂かれることを利用して分割した魂を何かしらの媒体に収めることで擬似的な不死性を実現する、そんな魔術だったはずだ。俺の記憶が確かならば。
さて、今の今まで作った呪骸に魂を込めていたとなると……ミミッキュ、マガツイザナギ、キングプロテア、俺で魂を四分割してるってことになる。
ヴォル何某は最大八分割だから、それに倣えば……いや、同じと見做しちゃいけないな。例の人と俺とでは境遇も血統も力も、何一つ同じじゃない。個人としての実力じゃ俺の方が圧倒的に劣ってるのは明白だ。『悪霊の火』なんて食らってみろ。一瞬で灰になるぞ俺。
あくまでもほんのちょっとした参考程度に考えるのがいいだろう。
参考程度に考えるとしてだが……今のところ身体に異常は発生していない。人として逸脱した結果顔が蛇っぽくなるとか*1、魂を呪骸に込めすぎた結果肉体が抜け殻になるとか*2、そういうことはない。
現段階では今のところない、としか言いようがない。もっと呪骸を作った結果ばたんきゅ〜となっても何らおかしくはないのだ。或いはもっと惨い死に様を晒すことになるかもしれない。
例えそんなデメリットがあろうとも俺は人形作りをやめる気はさらさらない。むしろ命果てるまであの尊い記憶を形にできるのならば、それは本望だ。
俺の魂が人形たちに入っているなら死んでも文字通りに彼らの中で生き続けることはできるだろうし……ん?ひょっとして呪骸の反応とかって全部俺の一人芝居────いや、やめよう。その考えはいけない。違う、絶対に違うぞ。
うーん、ともかくわからん。わからんことが多すぎる。
そもそも俺は自分の術式について『己の魂を込めた呪骸を創り出す』以外のことを知らない。
術式についておばあさんに聞くことも考えたが……無駄な心労をかけるわけにもいくまい。
──となれば、やることは一つだな!
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△月■日
今まで自分は漠然とした目的すらなく興味とノリ、創作意欲の赴くままにあれこれと呪骸を作っていたが、今回からはしっかりとした戦略を練っていこう。
呪骸製作の果てに命尽きるのは本望ではあるが、いずれ訪れるだろう破滅をただ待ち受けるのは性にあわない。
終わりに納得するのは持てる全てを尽くしてからでも遅くはないはずだ。
△月▶︎日
今必要なことは大きく分けて二つ。
①術式についての理解
②呪術への対策と防備
①についてはおばあさんを頼ることはあまりしたくない(というか匙を投げられる気がする)ので、新たに拵える呪骸をその道に明るいキャラを創ることで対策するとしよう。
②は今後否応にも訪れるであろうVS呪術での戦闘だ。
今のところ、今のところは見つかっていないようだが俺と俺の呪骸を狙って呪術師呪詛師にヘッドハンティングされる可能性がある。
おばあさんに聞かれた時は「気が付かれる前に人形量産して王手かけるお」とか言った気がするけど、魂分割というデメリットが判明したのでそれは難しくなった。
恐らく人形たちが主体で戦ってもらうことになるが……そこら辺もこれから煮詰めていこう。
なんか命の危機を認知したことで急に聡明になったような……気の所為だろうか?
△月◁日
優先は①なのでネタ出しをしていこう。
デメリットがいきなり飛び出すのはあまり考えにくいから、まだ何体か人形作ってても大丈夫なはず。
そういえば術式は人形を作るにあたって必要な条件とかあるんだろうか。正直作って良さそうかそうでないかくらいしか考えてなかった。
△月◎日
審議の結果選ばれたのはカリオストロでした。まあ相談相手はプロテアしかいなかったんだが。
彼女は「
いや、作れるか作れないかで言えば
でも作ったが最後俺はどんな末路を迎えるかは想像に難くない。ムーンセルすら掌握した暴走AIやぞ!?先輩でもない俺が御せるわけないだろ!!
と、言うわけで後ろで頬を膨らませるプロテアを尻目にこれを書いている。あれ、そういえば近くにいると思考が読め────(筆跡はここで途切れている)
△月♪日
マヨナカテレビが抑えられる限界ギリギリまでデカくなったプロテアに高い高いされて死にそうになった。珍しくマガツイザナギが刃を地面に突き立ててヘトヘトになってたので労わってあげた。
△月# 日
カリおっさんは完璧主義だ。突き抜けるとこまで突き抜けた究極的なナルシストと言ってもいい。
完璧に調律を施して錬成した寸分の狂いもない身体、そしてそれに見合うように数千年をかけて改良を積み重ね作り上げた
まあ、つまりはだ。その頑張りに敬意を表するのと、雑に創ったら殺されそうな予感がするので、こちらも誠心誠意最高傑作の御体を創ってやるということだ。
明日からやるぞ!頑張るぞ!ヨシ!
△月¥日
小遣いはキングプロテア作る時にほぼ底を突いたが、今回使うのはリボンとかマントとかミニスカとか作る時の布代くらいなので何とかおばあさんに値引き交渉をしよう。
とりあえずはプロテアを作った時の余りの土粘土でアタリをつける全体的な造形から。衣装は一番最初に実装された【開闢の錬金術師】スタイルで。
△月Σ日
材質で戦うことはできないのでカリおっさんには完成度の高い身体を作るしかない。多分生死かかってるし。
髪とかの細かい作業はサイズの小さいマガツイザナギ、俺と一緒に設計図を書いて造形のプランを練るのはキングプロテア、大雑把に粘土を捏ねてプロトタイプを創るのはミミッキュに任せた。
今までのノリがなんだったんだくらいに進まない。これが完璧を求めるということなのか……?
△月∀日
進まない。キングプロテアと一緒に頭を悩ませた。
△月∥日
アタリがつかない。先に服の図面起こすか?
△月@日
(文章の代わりに簡素なスケッチと服の図面が描かれている)
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◎月○日
ついにひと月が過ぎた。おばあさんがそろそろ心配してそうだから顔を見せに行こう。
一応、アタリはついた。図面の練りも固まったのでついでに服の素材を頼んでおこう。
◎月△日
終わらないにぃ
疲れたにぃ
◎月☆日
(ミミズがのたくったような文字が書かれている)
◎月□日
(非ユークリッド幾何学に酷似した冒涜的な図形が描かれている)
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■月☆日
危うく宇宙猫になったり、真理の一片を垣間見たり、啓蒙が高まって夢の中で雲海に峭立する墓石が並んだ箱庭でお人形さんとお話したりしたけどようやくだ。
ようやく【開闢の錬金術師】カリオストロが完成する。
時間にして2ヶ月半くらいか?熱中しすぎでは?息抜きなんて日中学校に行ってたくらいしかしてないぞ。
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造形よし、着色よし、服よし、歪みなし。
持てる全ての技巧を注ぎ込んで作り上げた究極の人形。錬金術の開祖、カリオストロ。
お気に召さなかったらどうしようかと製作者が気を揉んでいると、ピクリと人形だったはずのものが動き出す。
「……ん」
少女の瞳が生きた色を帯び、ぱちくりと瞬くアメジストの双眸が外界を認知する。
爪、指先、掌、腕……自分を構成するありとあらゆる要素を舐めるように見回した後、彼女は低い声で総評を口にした。
「……43点」
「────ウゾダドンドコドーン!!!」
それは 評価と言うには あまりにも辛辣すぎた
慈悲なく 容赦なく 手厳しく そして シビアすぎた
それは 正に 酷評だった
これまで寝る間すらも惜しんで途方もない研鑽と試行錯誤の末に大成させた我が子から浴びせられたのは、あまりにも、彼にとってあまりにも残酷な一言だった。
Q.えっ!?独力で自分の術式の解析を!?
A.出来らぁっ!(呪骸の手は借りるものとする)
転生者くん
→もうやだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!
やはり呪術の使い手は揃いも揃ってイカれた奴らが多いが、こいつも例に漏れず人形作って死ぬのは本望とか思っている。
しかしタダで死ぬのはちょっと……ということで対抗策を講じ始めた。
どうして狩人の夢なんか見てるんですか???
カリおっさん
→身体の出来はオーキスに迫るレベルで精巧に作られており賞賛に値するものだが、
彼女から見て指摘できるポイントなどいくらでもある。数千年を生きた錬金術師は伊達じゃない。
前書きにある通り最近Bloodborneを始めました。フロムゲーはこれがお初。
ガスコイン神父強すぎて最序盤から泣きそうになってました。ホントあれなんなんだ?ラスボスか?
6時間かけてなんとか倒しましたけど倒した時の達成感が疲れとなって襲ってきた。
退廃的な世界観に対して人形ちゃんの「おかえりなさい」があったけぇなぁ……。
今回は設定練り練りしてきたこともあってちょっと長め。ついでに気合いも入れた(今後も入れられるかは不明)
命の危機を認知したので一時的に転生者くんのINTが上昇してますがあんまり気にしないでください。