夢への長い坂道 作:シス
読んでいる人いないし、別にいっか(てけとー
「なあ……聞いたか」
「ああ……プロ行きたいが為に、怪我していたのに無理して投げてたって話しだろ?」
「最低だよな。あと一勝で甲子園だったんだぜ?」
「だよねぇ。右肘が折れてたのに、無理してまで投げて……結局大量得点で、決勝じゃなければ五回コールドだろ?守ってたチームメイトに申し訳ないって思わないの?」
「サイテーだよねー。マスコミとか周りからちやほやされてたから、罰が当たったんだよ」
クラスメイト達がヒソヒソ声で話している声が聞こえてきた。ああ、
正直に言って、こうなる事は目に見えていたし、どうせ俺が反論したってどうにかなる訳がない。本当の事を知っているのは野球部の連中だけ。それでも、そいつらが声を上げるかと言えば答えはNOだった。
だから、俺は残りの高校生活は、ひたすら黙って耐えて耐えて――
「おー……上杉がダレてる」
「……黙れ」
茶化すような口調の茂木に、顔を上げずに、低い声でそう言い放つ俺。「怖っ!上杉、怖っ!怖すぎるっ!!」と、騒ぐ茂木は放置する。今日の俺は朝見た悪夢の影響で精神的に参っていた。まだ一年も経っていないのだから、精神的に参らない人間がいるのなら教えて欲しい。
いや、俺が弱すぎる人間だって言うのならそうなのだろうけれどな……。
「あ、あの……上杉君……本当に大丈夫なの?」
「上杉さん……大丈夫ですか?」
本当に心配して声をかけてくる伊本さんと、歌姫。あー……まあ、大丈夫だ。しばらくすりゃなんとかなる。だから、放っておいてくれ。そう伝えると、思ってもいなかった言葉が歌姫様から帰ってきたのだった。
「そうはいきません。
「……は?」
可笑しな言葉を聞いた俺は反射的に顔を上げた。上げた瞬間目に入ってきたのは、聞けば誰もが綺麗だ答えるであろう歌姫様の顔。って、近い近い近い!!額と額がぶつかりそうなぐらいの位置に顔があってビックリした。後ろに下がろうとしたら、歌姫様は自分の額を俺の額に当てて
「熱は……無さそうですね」
「ちょ、ちょっと何やってんですかね!?」
「?」
俺の熱を測っていたみたいだが、俺はすぐさま距離を開けながら抗議の声を上げる。それに対して首を傾げて、私何か可笑しなことしましたか?と、言いたげな表情の歌姫様。いやいやいやいや。そんな風に親しくもない人に、額を当ててはいけないって!というか、周りの目を考えろ!!
「周り?他の人もやりますよね?」
と、首を傾げたままの状態で、顎に右人差し指を当てて話す歌姫様。……これは、伊本さんにちょっとお話ししてもらった方が良さそうだな……。そう思い、視線を伊本さんに向けると、俺の視線の意図を理解してくれたようで頷いてくれた。
『お願いしても?』
『任せて。きちんと教育しておくわ』
『頼んだ』
と、いうやり取りを視線のみで行う。尚、茂木もその視線での会話に参加していたが、どんな感触だったとかふざけた事抜かしていたので無視。
「あ、あの?何か私しました?」
「うん、したね。だからちょっと、私と
「え、伊本さん?え、ええ?」
と、右手を掴まれてちょっと場所を移す伊本さん達。俺はその様子を見ながら、深々とため息を吐いた。なんで、あんなことをしたのか理解できん。おかげで周りの男からの嫉妬の視線が俺に突き刺さっていた。
「なんか……ドンマイ?」
「本当にな……」
机に突っ伏しながら俺は茂木に同意した。俺、目立ちたくない。茂木。おかしいな。どうしちゃったんだろうな。俺、そんなに間違ってる?
「上杉……少し……頭冷やそうか?」
「俺かよ!?」
ノリノリで低い声で言い放つ茂木に、体を起こしてツッコミを入れる。ってか、よくこんな古いネタについてこれたな!?
「いやぁ、褒めるなよ。照れるだろ」
「褒めてねぇよ!!呆れてんだよ!!」
大きな声を出しそうになるが、周りの目がさらに酷くなると判断したので、茂木にしか聞こえないように話す。本当、今朝の悪夢から今の状況だろ。本当に疲れた。もう嫌だ。ヒロシー、おうち帰る。
「うわっ……お前がそのセリフ言うと、まじ鳥肌立ってきた」
「うるせぇ……そのぐらいもう嫌なんだよ」
自分で体を抱きしめるような仕草をしながら、茂木が体を震わせて言ってきたけれども、三度、机に突っ伏した俺はもう、ツッコミを入れる気力すらなく、力なくそう言うのが限界だった。
そんな事をしていたら、耳まで真っ赤にした歌姫様が俯いた状態で、伊本さんと一緒に戻ってきた。戻ってきたのはいいけど、なんで伊本さんの服の袖掴んでるん?周りから小さな声で「可愛い」とか「ギャップ半端ないって!!」と言う声がかなり上がっているけれど、本人には届いてなさそうだな、これ。
「おい、佳代。やりすぎてね?」
あまりにも、可愛そうに思えたのか、茂木が顔を引きつらせながら注意しようとしていた。しかし俺はやりすぎなぐらいが今の相藤さんにとって必要な事だと思っていた。自分が湯名人だという事を理解していない節があったのは事実だし、これだけ大衆の目がある場で、あんな軽率な行動を取ればどうなるか……少しは理解してもらわないとな。
「あの、上杉さん……も、申し訳ございませんでした!」
と、勢いよく俺に頭を下げて謝罪する相藤さん。あまりにも綺麗な謝罪姿勢に俺は固まるしかなかった。お辞儀角度もそういう礼儀作法の教科書に載っている角度だし、背筋はピンと伸びている。いやぁ見事なまでのお辞儀だなぁ……なんて現実逃避にも似た感情でその光景を見ていた俺は
「あー……別に俺は怒っていないし、気にしてないからいいけれど……相藤さんも有名人なんだから、自分の行動はよく考えような?」
「は、はい……本当に申し訳ございません」
と、再び頭を下げる歌姫さん。いや、だから……もういいや。あ、茂木。そこらへんで、今動画撮っている連中のスマホ壊すのだけは許すからやってこい。
「ん?ああ……それなら、もう佳代のやつが
「便利だな……伊本さんの
ってか、いつの間にそんな行動をとっていたのか分からなかった。改めて、伊本さんを怒らせないようにしよう。そう心に決めた俺であった。
うう。今日は失敗した。マンションに帰ってきた私は、ベッドに倒れ込んだ。彼が調子悪そうだったから、よく母さんが私が調子悪い時にやってくれた、体温の測り方をしたら佳代に怒られた。なんで、怒られなくっちゃいけないのかと思ったけれど、まさかそう言うのが家族や……その……
それを聞いた瞬間。私は顔が赤くなったのが自分でも分かった。いや、まさか……そんな行為だっただなんて知りもしなかった。本当に恥ずかしい。その後、彼に謝ったけれど、彼は気にした素振りを見せる事は無かった。
それもそうだと思う。
そんな、他人に興味を持っていない彼。そんな彼と茂木さんや佳代が仲が良いのは正直に言って羨ましい。私だって、彼と仲良くなりたい。ううん。
「……彼は忘れて……いるよね」
体を起こして、そう小さく呟いた言葉は部屋の壁に吸い込まれるように消えていった。私は小さく息を吐いてから、明日以降のスケジュールを確認する。明日も大学はあるけれど、仕事の方は……入っていない。なら、今日はデモ音源の作詞をしておこう。次の収録日にはできるように。