夢への長い坂道 作:シス
って、事で初投稿です(投げやり
「あ、上杉さん。こんにちは」
「ん……ああ、相藤さんか。こんにちは」
午後の講義一発目。少しだけ早めに来ていた俺は、音楽を聴きながら講義開始まで本を読んでいた。その俺に声をかけてきたのは、巷で話題となっている歌姫、相藤さんだった。この講義取っていたんだ?そんな疑問を俺の隣にさりげなく座る相藤さんにぶつける。
「はい。この講義は文章構成について学べるせっかくの機会ですし、なによりも講義をしてくださる教授がその分野で有名な方なのですよ」
「そうなんだ?」
目を輝かせながら話す相藤さん。次の講義の教授がどれだけ文章について素晴らしい研究をしているかとか、全く知らない俺に説明してくれる相藤さん。全く興味もなく、文章構成について学んでおけば、社会に出た時に困らないだろうと軽く考えて履修したのだが、そこまで有名な教授の講義だったとは思わなんだ。その俺の様子に気付いたようで、相藤さんは小さく笑いながら
「まあ、興味が無ければ知らない情報ですよ」
「そう……か」
そんな相藤さんの言葉に、苦笑いを浮かべるしかできない俺。相藤さんにとって、文章は
どちらかというと、本当に文章構成に興味があるからこの講義を取った。というか、この大学に来たというべきか?それだけ文章構成が好きなのだろうな。まあ、きっとここで学んだ事は、後で生かしているのだと思えば、相藤さんは目的を持って大学に来ている。
なら、俺は――?
と、考えたところで答えなんて出る訳もなく、この四年間で進路を決めればいいかと、問題を先送りにするのだった。それ以降、相藤さんとは会話という会話もなく、お互い黙って講義が始まるのを待っていたのだった。
講義が終わり、二人並んで教室を出た瞬間だった。
「相藤さん!この後、少し時間ある?」
あー……いつものですか。大変ですね。と、思いながら相藤さんに声をかけてきた男の顔を見る。あれ?こいつ、この間……廊下で相藤さんの事を足止めしていた奴じゃね?
「すみません……この後も講義がありますので」
と、本当に申し訳なさそうに話す相藤さん。いや、そこはきつく断っとかないとダメだろ……。相手に主導権やっちまうぞ?と、心の中で呟いていると、予想通りに男が調子に乗って
「えー……一回ぐらい休んだって問題無いって。ちょっと、話ししたいんだよねー」
「いえ、大切な講義なので休めませんので……」
と、チラリと俺の方を見て助けを求める相藤さん。……そうなるよな。だよなぁ……。正直に言おう。関わりたくない。頼むから静かな大学生活送らせてくれ。小さく息を吐いてから、俺は調子に乗ってきた男を睨みつつ声をかける
「おい」
「な、なんだよ」
ビクッと驚きながら身構える男。いや、そこまでビビらんでもいいじゃねぇか……。これでも顔怖いのは自覚しているんだ。傷つくぞ?
「講義遅れるから行っていいか?ああ、一つだけ言っておく。同じ講義内容なんて一つもねぇんだわ。だから、一回休んだだけって思うだろうけどな、その内容がレポートで書かないといけない内容だったりする可能性だってある。そうなったら、てめ……お前は代わりにレポート書いてくれるんだよなぁ?なあ?」
男を威圧しながら俺はそう捲し立てる。実際問題、一回休んだだけでレポートが大変な事になる講義もあるのだから、このぐらい脅しておいたって構わないだろう。
「す、すみませんでしたぁー!!!!」
と、言いながら男は逃走していった。覚悟無いなら声かけんなよ……。右手を額に当てて盛大に溜息を吐く。それはそうと、これで良かったですかね、歌姫様?
「……その、歌姫様って言うの止めて頂けませんか?」
少し暗い表情を浮かべて、申し訳なさそうに言ってくる歌ひ……相藤さん。あー……気を悪くしたのなら悪い。そう言って謝る。
「いえ、気を悪くしたという訳じゃないのですが……友人にまでそう呼ばれるのは少々……」
友人……友人?誰が?相藤さんと伊本さんは友人だろうが、俺は違うんじゃないか?相藤さんの言葉に俺は首を傾げつつ
「俺、友人なの?」
「?違うんですか?」
今度は相藤さんが首を傾げる番だった。友人ってなんだっけ?俺、ただの同級生。友人はしっかりと選んだ方がいいぞと忠告しておく。
「これでもしっかりと、選んでます」
俺の言葉に不服そうな表情を浮かべながら答える相藤さん。うーむ。友人と言うには少し離れた関係だと思うのだが、本人が思っているのなら、そう思わせておけばいいか。深く関わらなければ良いだけの話しだ。
少し機嫌が悪くなったのか、歩く速度が先ほどより早くなった相藤さん。俺は気付かれないように溜息を吐いてから、その後を追うように歩く速度を調整する。横には並ばない。少し後ろを歩く。
「あれって、今話題の相藤さんだよね?」
「生で見るの初めてだよ」
「声かけていいかな?サイン欲しいんだけど」
「相藤さんならどこの大学でも行けたんじゃない?なんでうちの大学なんだろ?」
「なあ、さっき相藤さんと仲良く話してた目つきの悪い男って何者なん?」
「知らんがな」
「目つき悪いし、人殺してそう」
などなど、色々な声が聞こえてくる。最後の方は俺の悪口まで聞こえてきたけれど、俺人殺した事無いからな?それだけは否定しておきたかったが、相藤さんがいいペースで歩くもんだから、否定している暇もねぇ。
これ以上話題になりたくないから、俺は相藤さんとは関係ないと下を向いて、敢えて歩く速度を遅くした。一応見える位置に入るし、何かあったら対応できるようにはしておく。
結局、その後。相藤さんが他の学生連中に話しかけられるという事態は無く、無事に次の講義に間に合ったのだった。ただ、俺に対する相藤さんの態度は冷たいままだったが、気にしないでおく。実際問題、そんなに深い中になりたいわけじゃなく、逆に離れたいのだから――
「と、いう事があったのだけど……」
奈々美ちゃんと話しながら歩いている私と比呂。上杉君はアルバイトの為、この場にはいない。いないんだけれども、今度しっかりとお話ししなきゃいけないようね。と、思ったけれど、彼も去年というか、大学来るまで大変だったのは私も知っているから、そんな強く言えないのよね。
「そっかー……ただ、上杉君も、奈々美ちゃんの事を心配して言ってくれたんだと思うよ?ほら、井生さんの話しもあったでしょ?」
「そう……ね」
と、いつもの敬語口調ではなく、“素の相藤奈々美”で話している菜々美ちゃん。芸能界で、まだデビューしたてという事もあってか、敬語を使って人当たりの良い人間を演じているとの事らしい。
プロデューサーの方にも相談して、そうやっているらしいけれど、やっぱりストレスは溜まる。まあ、私と同い年の女の子だもんね。ただ芸能界って言う華々しい場所で活躍しているだけだからね。
「だから、そうカリカリしない方がいいよ。ほら、凛々しい顔がもったいない」
「わひゃ!?ちょ、ちょっと、佳代!?なにするの!?」
と、抗議の声を上げる奈々美ちゃんを無視して、私は奈々美ちゃんの頬を撫でたり引っ張ったりして、もちもち感をたんのうするのだった。
「おーい……一応言っておくけど、ここ衆人の目がある場所だからな……」
呆れた口調の比呂の言葉は無視して、私は奈々美ちゃんとじゃれつくのだった。あー、やっぱり芸能人なだけあっていい化粧品使ってるんだろうなぁ。いいなぁ。私も肌スベスベになってみたい。
そんなことを思いつつも、上杉君の事を考える。高校時代に
というか、私達三人揃って隠れて上杉君について行ったんだよね。女の子かもしれないからって。だから、彼が今抱えている心の傷が少しでも癒されれば――なんて、思ってない。その傷を癒すのは私の役目じゃないから。
でも、大学生活を楽しく過ごせるようにする事は出来るから。そう、比呂と話していつも通りに接している。いつか上杉君に相応しい人が現れる事を願いながら。
「でさ、奈々美ちゃんはなんでそこまで上杉君の事、気にしてるの?」
ふと、疑問に思っていた事を奈々美ちゃんに聞いてみる。そう。出会った時から奈々美ちゃんは上杉君の事を気にしている素振りを見せていた。あの時の上杉君は、愛想悪かったし、素っ気なかったし、初めて会った人にしていい態度じゃなかったのは確か。
というか、今も奈々美ちゃんとは距離を置いている。いや、理由は分かるんだけどね。でもね、もう少し歩み寄ってもいいと思うのよ。本当面倒くさい性格よね。やっぱりお話し必要かなぁ?
「……実は」
と、私が思考の海に入りかけていたら、おずおずと奈々美ちゃんが話し始めた。その話しは、私と比呂が驚くには十分なものだった――