「は?あの先輩ナニモン?」「つーかじゃあオルトって……」
アズール・アーシェングロットの疑義:ボードゲーム部室にて、深海の商人と炎の工学者。
「イデアさんから見た人魚と人間の最大の違いって、何ですか?」
リリア・ヴァンルージュの回想:実践飛行術にて、ハイエナ少年とコウモリ妖精。
「あの世から戻ってきたゴーストをわしは知らん」
オルト・シュラウドの証言:図書室にて、梨と林檎とバッテリー。
「『広域スキャンの結果、嘆きの島地下に特筆すべき構造は発見されませんでした』」
セベク・ジグボルトの自戒:東3-5魔法実技教室にて、雷鳴と大釜。
「世界を平伏させる術を持つこと、僕たちは自覚するべきだ」
イデア・シュラウドの述解:イグニハイド寮長室にて、術者I.S.
「あの子は僕の弟だよ」「僕がそう決めたんだから」
「物質転移術のうち最上のものは歴史の中に見つかる」
ナイトレイブンカレッジで召喚術と実践魔法を担当するその教師は、五月第三週の高次魔法論概説をそんな言葉で始めた。召喚にせよ、その主たる用途である魔獣との契約にせよ、向き不向きが極端な術式であるのに変わりはない。選別しても科目が閉鎖されない程度には広く生徒の興味を惹いておく必要が彼にはあった。
「安全性や再現性が重視される現代においては小型トラック程度の質量を送るのが精々だが、過去には城塞や湖を転移させた例が実在する」
一年後期に開設される高次魔法論概説の授業は、二年生以上で選択する専門科目の、言わばオリエンテーションだ。錬金術、召喚術、占術、魔法共鳴論、魔導工学、エトセトラ。毎回各分野の教員が入れ替わり立ち替わり自分の専門分野を解説するのを聞くだけの授業(評価は出席と形ばかりのレポートで行われる)。
「それに対し、非物質的なものを喚び出す術に関しては、直近において非常に偉大な事例が存在する」
魔法薬学や工学、魔導解析論に興味を示す生徒の中にはこの時点で既に私事に勤しんでいるものさえいたが、このオリエンテーションにおいて彼は生徒の関心を惹くことにこの数年困ったことがなかった。
「それは今から五年前、嘆きの島で行われた」
この現代に行われるにはあまりに異質で偉大な功績を口にする前に、彼は一呼吸置かなければならなかった。この世界に実在する存在の転送法を専門とする彼からすれば、挑もうと思ったことさえ不思議でならないほどの大業を、当時13の少年が成し遂げたのだと、信じられるものは多くない。たとえその成果物が、今この時にもこのナイトレイブンカレッジを彷徨っているのだとしてさえ。
「……死者の、蘇生だ。術者はイデア・シュラウド」
それなりに広いはずの教室は一瞬だけ全くの静寂に落ちて、それからすぐに興奮しきって囁くことさえ放棄した青少年の声で埋め尽くされた。
「は?あの先輩ナニモン?」
蜂の巣をつついたような教室の総意は、結局のところハートペイントの少年の言葉に収束する。嘆きの島出身の、イデア・シュラウド。この学園においてそれは一つの寮を預かる人物を指す。それから長い青焔の髪と、宙に浮かぶタブレットデバイスを。
「つーかじゃあオルトって……」
「そういうこと、だよな」
「話聞いてみてもいいと思うか?」
「いや止めとけよ
教室を埋め尽くす声への答えを、その混乱をもたらした当の男は持たない。他ならぬ嘆きの島のシュラウドの才児が「それ」を選んだのであれば、かの青炎の少年のような降霊の才を持たない自身の手には永劫届かないであろうことを察してしまったから。
嘆きの島のイデア・シュラウドの名が召喚術学会を駆け巡った時と同等に、教室の全員が最後列に浮かぶタブレット端末を見やった二年前と同様に、彼は何も、イグニハイドへ行けとさえ言わなかった。ただ死者蘇生は錬金術の不老不死と並ぶ召喚術の極致とされるのだと釘を刺して、もう少しばかり現実的な話に戻る。生徒の多くは聞いていないかもしれないが、男は構わなかった。
エース・トラッポラの驚嘆:高次魔法論概説にて、召喚術教師とハートのAと一山幾らの卵たち。
「は?あの先輩ナニモン?」「つーかじゃあオルトって……」
アズール・アーシェングロットの疑義:ボードゲーム部室にて、深海の商人と炎の工学者。
「イデアさんから見た人魚と人間の最大の違いって、何ですか?」
リリア・ヴァンルージュの回想:実践飛行術にて、ハイエナ少年とコウモリ妖精。
「あの世から戻ってきたゴーストをわしは知らん」
オルト・シュラウドの証言:図書室にて、梨と林檎とバッテリー。
「『広域スキャンの結果、嘆きの島地下に特筆すべき構造は発見されませんでした』」
セベク・ジグボルトの自戒:東3-5魔法実技教室にて、雷鳴と大釜。
「世界を平伏させる術を持つこと、僕たちは自覚するべきだ」
イデア・シュラウドの述解:イグニハイド寮長室にて、術者I.S.
「あの子は僕の弟だよ」「僕がそう決めたんだから」