信頼水準100%世界   作:adbn

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アズール・アーシェングロットの疑義

 昨年と全く同じ混乱をもたらしたその情報を、アズール・アーシェングロットが再び手に入れるまで一時間は掛からなかった。その上で、オクタヴィネルの寮長にとってそれが部活動を休む理由には全くならないのも、やはり去年と同じだった。

 

「イデアさんから見た人魚と人間の最大の違いって、何ですか?」

 山札を一枚捲って、できるだけ何でもないように人魚は聞く。

 傲慢なるヒト種はかつて、人魚や獣人に魂がないと言った。その当時半魚半人の般種(マーメイド)・海棲種特徴を全身に持る原種(メロウ)の双方とも人類種認定前であった人魚を妬んだ人間種、そのうちでもヒトこそ霊長の最たるものだと言って憚らない過激派の流言にすぎない。そう言われてはいる。けれど慈悲の商人としては、真偽未確認のそれに思い悩む同胞が少なくないのなら無視できるものでもなかった。

 

「呼吸方法……なにその意外そうな顔」

 地下より出でる黄金の瞳を手中のカードから動かさないままに問われた男は答え、落ちた沈黙に恐る恐る視線を上げた。イデア・シュラウドとて海棲哺乳類ベースの人魚(メロウ)の存在を知らないわけでも、はたまた亜人の欠陥の噂の囁かれるを知らないわけでもない。彼の琥珀金に魂が映るのだと、そう謳われるのを知らないわけでも、ない。

 

 ただ、イデア・シュラウドにとって、魂の有無などは此岸で一等くだらない事象だというだけで。

 

 説明を求めるような視線に、銀糸の髪持つ青年は慈悲を以て応える。隠し立てしたところで寮に戻れば気が付く話だ。死者の国の王に倣う勤勉なる寮生たちは、オルト・シュラウドの目をかいくぐって青炎灯す彼らの長に問うことだろう。

「今日の魔法論概説が召喚術だったそうで」

 あの転送術者がきっと二年前にも同じことを言ったと確信して、八本の脚を隠す蛸人魚(オクトピット)はそう言った。目の前に座る死者を現世に(かえ)す奇跡の達成者に、去年の今頃に聞けなかった問いを向ける。冷えた金が、呆れを滲ませて瞬いた。

「あの語弊しかない説明まだやってんの?」

「どの辺りに語弊があるのかお伺いしても?無理にとは言いませんが」

 イデアは息を軽く吐いて、後輩の期待を切り捨てるように言った。誤解も誤解、いくら専門でないと言っても、幼気な一年生たちに積極的に過度な期待を抱かせるのはどうかと思う。わざわざイデアの名前を出して、詳しい説明を求める生徒の矛先を誘導するのも最悪だ。

 

「降霊術って単語がなんもかんも悪い」




エース・トラッポラの驚嘆:高次魔法論概説にて、召喚術教師とハートのAと一山幾らの卵たち。
「は?あの先輩ナニモン?」「つーかじゃあオルトって……」
アズール・アーシェングロットの疑義:ボードゲーム部室にて、深海の商人と炎の工学者。
「イデアさんから見た人魚と人間の最大の違いって、何ですか?」

リリア・ヴァンルージュの回想:実践飛行術にて、ハイエナ少年とコウモリ妖精。
「あの世から戻ってきたゴーストをわしは知らん」
オルト・シュラウドの証言:図書室にて、梨と林檎とバッテリー。
「『広域スキャンの結果、嘆きの島地下に特筆すべき構造は発見されませんでした』」
セベク・ジグボルトの自戒:東3-5魔法実技教室にて、雷鳴と大釜。
「世界を平伏させる術を持つこと、僕たちは自覚するべきだ」
イデア・シュラウドの述解:イグニハイド寮長室にて、術者I.S.
「あの子は僕の弟だよ」「僕がそう決めたんだから」
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