ハーツラビュル寮一年のデュース・スペードはその日の放課後、半妖精の友人に呼び出されていた。セベク・ジグボルトに限ってまさかとは思うが、デュースは自身の経験から、メリケンサックを嵌めた利き手をポケットに入れてからその教室に入ることにした。
「ユニーク魔法を習得したと聞いたが」
入室したデュースに、セベクは開口一番そう聞いた。常の彼には珍しく、大教室の隅までは届かないくらいの声だった。
「ああ。……羨ましいか?」
ハートマークの親友に対するように、にやりと笑ってデュースがそう言うと、ディアソムニア寮服に身を包んだ友人は露骨に眉間に皺を寄せた。
「そういった話がしたいわけではない!!」
今度こそ、数十人が一度に攻撃魔法を練習できるこの教室の、端から端まで響き渡る声だった。
「……悪かったな」
雷鳴のような大声と、それ以上に思いの外この友人が怒ったことに身を竦ませて、デュースはそう言った。明確な材料があったわけではないが、これがミドルスクール時代の「呼び出し」とは異なることを確信する。ひっそりと右手を武器から外して、ポケットの外に出す。特技は体術だと言って憚らない彼が、一瞬呆れたような表情になったのは気のせいだと思いたい。
「構わん。お前はこの学校に入学するまで自己流で魔法を使ってきたと聞いたが」
「だったらなんだよ」
僅かに緑がかった古代金の瞳が意外なくらいに真剣さを帯びていた所為で、デュースは鼻白んでそう答えるしかなかった。薔薇の王国は魔法に関する法制限が厳しい。きちんとした魔法教育を行う
「責めているわけではない。……ただ、」
セベク・ジグボルトは珍しいことに、本当に珍しいことに、そこで少し言い淀んだ。警棒状に姿を変えた自身のマジカルペンをそっと盗み見て再び口を開いた彼の声音は、到底ふざけているようには聞こえなかった。
「世界を平伏させる術を持つこと、僕たちは自覚するべきだ、と。そう思う。お前が召喚を、情報の世界から物質を新規に喚び起こす術を得意とするのならなおのこと」
デュース・スペードは、本人さえ気がついていないことだが、降霊術の才があった。原始的な魔法を、近代魔法理論という枷を経ることなく感覚的なままに扱えるだけの、才能が。この世ならぬ不可思議に実体を持たせて、現世に引き下ろすことができた。それを自覚できるのかどうか、十全に扱えるだけの頭脳と魔力を持ち合わせているかどうかは、また別の問題だったが。
今はまだ、「重たいもの」という漠然とした概念に大釜の姿を与えることしかできない彼が何時か、この世界に降臨したがった何かもっと恐ろしいものに魔力と生命を吸い尽くされてしまうことを。あるいは彼が無自覚のままに、
「そういうものを、人間は降霊術と呼び慣わすのだろう」
そういうものを、才持たぬ人々は、信仰と関心に存在の源泉を握られる
それでも彼らが友人であることこそは、何より確かだった。
エース・トラッポラの驚嘆:高次魔法論概説にて、召喚術教師とハートのAと一山幾らの卵たち。
「は?あの先輩ナニモン?」「つーかじゃあオルトって……」
アズール・アーシェングロットの疑義:ボードゲーム部室にて、深海の商人と炎の工学者。
「イデアさんから見た人魚と人間の最大の違いって、何ですか?」
リリア・ヴァンルージュの回想:実践飛行術にて、ハイエナ少年とコウモリ妖精。
「あの世から戻ってきたゴーストをわしは知らん」
オルト・シュラウドの証言:図書室にて、梨と林檎とバッテリー。
「『広域スキャンの結果、嘆きの島地下に特筆すべき構造は発見されませんでした』」
セベク・ジグボルトの自戒:東3-5魔法実技教室にて、雷鳴と大釜。
「世界を平伏させる術を持つこと、僕たちは自覚するべきだ」
イデア・シュラウドの述解:イグニハイド寮長室にて、術者I.S.
「あの子は僕の弟だよ」「僕がそう決めたんだから」